ダンジョン・ザ・チョイス
363.魔神・逆さ蝙蝠
「フ! フ、フ!」
例の調合師の墓所を抜けた先、ボス部屋前の安全エリアで休憩がてら、エリューナさんが剣を振っている。
マリナは、皆のお茶を少しずつ淹れてくれたあとはエリューナさんの動きを見て勉強しているらしい。
「チトセさん、さっきのバックを使うつもりなんですか?」
俺が見付けた、二つの筒付きの巨大バックを背負っているチトセさんを見てしまった。
チョイスプレートに物をしまえるこのゲームで、バックなんて意味無さそうなのに。
「このバックなんですけれど、中が二つに別けられていて、そこに薬液入りのボトルを入れておくと、自動で両隣の筒に充填してくれるようなんです」
右側の筒の上部からチューブを引っ張り伸ばし、ボトルを装着する部分に繋いだ?
「つまり、二種類だけなら補充無しで大量に使用できると」
「そうみたいです。ちょっと重いのがネックですけれど、まあ、これくらいなら私は慣れてるので」
以前の戦闘スタイルは、重い物を使って戦っていたらしい。
「薬液って、二種類だけで事足りますか?」
「うーん、相手や状況にもよりますけれど、ボス戦で使うのは回復薬と溶解液くらいですかね。植物モンスターなら除草液、金属系なら腐食液、アンデッド系なら聖水、他にも色々ありますけれど」
「ボスは石で出来ているから、溶解液くらいしか有効打にならないというわけですか」
「もしもの時は、コレもありますけれど」
左腰側に寄った四つのボトルが備えられた、薬液ボトル用のホルスターを指差すチトセさん。
バックには使用頻度の高い物を仕込んで、腰には使用所が限られる物をってわけか。
「なので、私は基本的にサポートに回らせて頂きます。溶解液は仲間を巻き込みかねませんから」
怖いですよ、その言い方。
「……なんで、俺達に付いてきてくれたんですか?」
なんとなくだけれど、本当は攻略に参加したくなかったように思えてならない。
「……一年間、一人で過ごしていました。あそこの人達は子持ちが多くて、警戒心が強いからろくに話せなかったので……寂しかったんです」
「じゃあ、俺達と別れたくないがために?」
「まあ……そうなりますかね……元々ボッチだったし」
最後の言葉は、よく聞こえなかった。
「マリナさんとコセさんと話しているの、とっても楽しかったから」
「なんか……嬉しいです」
家族も友人も、俺の話しなんてまともに聞いてくれなかったから。
どいつもこいつも相手のことなんて理解する気がなく、ただ自分の話をしたいだけ。
口を開けばマウント取りか、同情の押し付けばかり。
まともなコミュニケーション能力を持っていないくせに、人とは積極的に関わろうとする迷惑極まりない壊れた人形共。
この世界に来るまでは、こんな風に考える自分の方ばかり否定し続けていた。
でも、今ならハッキリ分かる。
異常だったのは、大多数の人類の方だったんだって。
だから、アテル達の気持ちは……よく分かる。
俺は希望を見出し、アテルは絶望を選んだ。
俺達の違いなんて、きっとその程度なんだ。
ハッキリ言って、希望を見出している俺の方が異常なんだろうな……あんな人類を存続させてようとしている俺の方が。
「コセさん?」
「なんでもないです」
俺がこんな考えの持ち主だってチトセさんが……皆が知ったら、どう思うのだろうか。
「よく考えたら俺……大して自分のこと、他の人間に教えてないんだな」
★
マリナが淹れてくれたお茶を堪能したのち、俺達はボス部屋の前へ。
「第三十ステージのボスは、魔神・逆さ蝙蝠。弱点属性は光、有効武器は槍、危険攻撃は玉を投げ付けてくる”果物爆弾”。ステージギミックは、天井に生える大量の果物。落として爆発させてくるらしい」
“果物爆弾”は、触れた果物を爆弾に変えて起爆させる能力であって、果物その物を生み出す能力ではない。
「生えた果物は、ボスが触れなければ只の果物。だから、触れられる前に燃やしてしまえば良い。もしくは、直接触れられないように氷付けにしてくれ」
俺達には、両方の手段を取ることが可能。
「じゃあ、私は植物の対処に集中した方が良さそうね」
「なら、アタッカーは私とコセだな」
人数が四人になったことで手分けもしやすいし、戦術に幅も出せる……仲間のありがたみを感じるな。
「俺達は、ある程度自在に空中で戦えますしね」
マリナには、“夜鷹の指輪”を渡しておく。
「地上に居るのが私だけなら、溶解液による援護も出来そうですね」
「「「……そうですね」」」
いや、怖いんだよな……溶けるっていう所が。
「じゃ、じゃあ、暗くなる前に始めよう」
ボス部屋を開け、中へ。
――奥でピンクのラインが灯り、上空へと高速で移動するボスの影!
『キシェー!!』
逆さの状態で、天井に引っ付く人型の魔神、逆さ蝙蝠。
「行くぞ! ――“空遊滑脱”」
「はい!」
エリューナさんが右から、俺が左から、空を駆けて回り込む!
「スナイプモード!」
チトセさんの援護により、攻撃を受ける魔神。
生物系モンスターに比べると、溶解液の効果は薄そうだ。
「“飛王剣”!!」
「“飛剣・靈光”!!」
俺とエリューナさんの斬撃が同時に決まると、魔神が地面に向かって飛び立ち――翼手を叩き付けようとしてくる!
「――”剛力竜衝”!!」
左翼を”剛力竜王の甲手”力で吹き飛ばし、動きを鈍らせた。
「“業王脚”!!」
エリューナさんの攻撃が魔神のお腹に決まる頃、天井からはサワサワという音と共に植物が生い茂り、巨大な果物が実っていく!
「“氷河魔法”――グレイシャーバーン!!」
広範囲の果物を凍らせてくれるマリナ。
「“大地剣術”――グランドスラッシュ!!」
果物を手にした左翼を切り裂き、魔神を落下させ――果物の爆発に巻き込まれてますますダメージを蓄積する魔神。
「“水蒸気魔法”――イヴァポレイションボム!!」
「“吹雪魔法”――ブリザードトルネード!!」
「“古代竜魔法”――エンシェントドラゴキャノン!!」
チトセさんとエリューナさん、俺の魔法が魔神に同時に炸裂……跡形もないほどに魔神の身体を吹き飛ばした。
○おめでとうございます。魔神・逆さ蝙蝠の討伐に成功しました。
「文字無しでも、余裕で倒せたな」
「ですね」
三十ステージのボスだから身構えて居たけれど、問題なく討伐出来て良かった。
○ボス撃破特典。以下から一つをお選びください。
★逆さ蝙蝠の翼手 ★逆さ立ちのスキルカード
★果物爆弾のスキルカード ★果物栽培のグローブ
「面白そうだけれど、使いづらそうな物ばかりだな」
○これより、第三十一ステージの鳥葬の廃都に転移します。
例の調合師の墓所を抜けた先、ボス部屋前の安全エリアで休憩がてら、エリューナさんが剣を振っている。
マリナは、皆のお茶を少しずつ淹れてくれたあとはエリューナさんの動きを見て勉強しているらしい。
「チトセさん、さっきのバックを使うつもりなんですか?」
俺が見付けた、二つの筒付きの巨大バックを背負っているチトセさんを見てしまった。
チョイスプレートに物をしまえるこのゲームで、バックなんて意味無さそうなのに。
「このバックなんですけれど、中が二つに別けられていて、そこに薬液入りのボトルを入れておくと、自動で両隣の筒に充填してくれるようなんです」
右側の筒の上部からチューブを引っ張り伸ばし、ボトルを装着する部分に繋いだ?
「つまり、二種類だけなら補充無しで大量に使用できると」
「そうみたいです。ちょっと重いのがネックですけれど、まあ、これくらいなら私は慣れてるので」
以前の戦闘スタイルは、重い物を使って戦っていたらしい。
「薬液って、二種類だけで事足りますか?」
「うーん、相手や状況にもよりますけれど、ボス戦で使うのは回復薬と溶解液くらいですかね。植物モンスターなら除草液、金属系なら腐食液、アンデッド系なら聖水、他にも色々ありますけれど」
「ボスは石で出来ているから、溶解液くらいしか有効打にならないというわけですか」
「もしもの時は、コレもありますけれど」
左腰側に寄った四つのボトルが備えられた、薬液ボトル用のホルスターを指差すチトセさん。
バックには使用頻度の高い物を仕込んで、腰には使用所が限られる物をってわけか。
「なので、私は基本的にサポートに回らせて頂きます。溶解液は仲間を巻き込みかねませんから」
怖いですよ、その言い方。
「……なんで、俺達に付いてきてくれたんですか?」
なんとなくだけれど、本当は攻略に参加したくなかったように思えてならない。
「……一年間、一人で過ごしていました。あそこの人達は子持ちが多くて、警戒心が強いからろくに話せなかったので……寂しかったんです」
「じゃあ、俺達と別れたくないがために?」
「まあ……そうなりますかね……元々ボッチだったし」
最後の言葉は、よく聞こえなかった。
「マリナさんとコセさんと話しているの、とっても楽しかったから」
「なんか……嬉しいです」
家族も友人も、俺の話しなんてまともに聞いてくれなかったから。
どいつもこいつも相手のことなんて理解する気がなく、ただ自分の話をしたいだけ。
口を開けばマウント取りか、同情の押し付けばかり。
まともなコミュニケーション能力を持っていないくせに、人とは積極的に関わろうとする迷惑極まりない壊れた人形共。
この世界に来るまでは、こんな風に考える自分の方ばかり否定し続けていた。
でも、今ならハッキリ分かる。
異常だったのは、大多数の人類の方だったんだって。
だから、アテル達の気持ちは……よく分かる。
俺は希望を見出し、アテルは絶望を選んだ。
俺達の違いなんて、きっとその程度なんだ。
ハッキリ言って、希望を見出している俺の方が異常なんだろうな……あんな人類を存続させてようとしている俺の方が。
「コセさん?」
「なんでもないです」
俺がこんな考えの持ち主だってチトセさんが……皆が知ったら、どう思うのだろうか。
「よく考えたら俺……大して自分のこと、他の人間に教えてないんだな」
★
マリナが淹れてくれたお茶を堪能したのち、俺達はボス部屋の前へ。
「第三十ステージのボスは、魔神・逆さ蝙蝠。弱点属性は光、有効武器は槍、危険攻撃は玉を投げ付けてくる”果物爆弾”。ステージギミックは、天井に生える大量の果物。落として爆発させてくるらしい」
“果物爆弾”は、触れた果物を爆弾に変えて起爆させる能力であって、果物その物を生み出す能力ではない。
「生えた果物は、ボスが触れなければ只の果物。だから、触れられる前に燃やしてしまえば良い。もしくは、直接触れられないように氷付けにしてくれ」
俺達には、両方の手段を取ることが可能。
「じゃあ、私は植物の対処に集中した方が良さそうね」
「なら、アタッカーは私とコセだな」
人数が四人になったことで手分けもしやすいし、戦術に幅も出せる……仲間のありがたみを感じるな。
「俺達は、ある程度自在に空中で戦えますしね」
マリナには、“夜鷹の指輪”を渡しておく。
「地上に居るのが私だけなら、溶解液による援護も出来そうですね」
「「「……そうですね」」」
いや、怖いんだよな……溶けるっていう所が。
「じゃ、じゃあ、暗くなる前に始めよう」
ボス部屋を開け、中へ。
――奥でピンクのラインが灯り、上空へと高速で移動するボスの影!
『キシェー!!』
逆さの状態で、天井に引っ付く人型の魔神、逆さ蝙蝠。
「行くぞ! ――“空遊滑脱”」
「はい!」
エリューナさんが右から、俺が左から、空を駆けて回り込む!
「スナイプモード!」
チトセさんの援護により、攻撃を受ける魔神。
生物系モンスターに比べると、溶解液の効果は薄そうだ。
「“飛王剣”!!」
「“飛剣・靈光”!!」
俺とエリューナさんの斬撃が同時に決まると、魔神が地面に向かって飛び立ち――翼手を叩き付けようとしてくる!
「――”剛力竜衝”!!」
左翼を”剛力竜王の甲手”力で吹き飛ばし、動きを鈍らせた。
「“業王脚”!!」
エリューナさんの攻撃が魔神のお腹に決まる頃、天井からはサワサワという音と共に植物が生い茂り、巨大な果物が実っていく!
「“氷河魔法”――グレイシャーバーン!!」
広範囲の果物を凍らせてくれるマリナ。
「“大地剣術”――グランドスラッシュ!!」
果物を手にした左翼を切り裂き、魔神を落下させ――果物の爆発に巻き込まれてますますダメージを蓄積する魔神。
「“水蒸気魔法”――イヴァポレイションボム!!」
「“吹雪魔法”――ブリザードトルネード!!」
「“古代竜魔法”――エンシェントドラゴキャノン!!」
チトセさんとエリューナさん、俺の魔法が魔神に同時に炸裂……跡形もないほどに魔神の身体を吹き飛ばした。
○おめでとうございます。魔神・逆さ蝙蝠の討伐に成功しました。
「文字無しでも、余裕で倒せたな」
「ですね」
三十ステージのボスだから身構えて居たけれど、問題なく討伐出来て良かった。
○ボス撃破特典。以下から一つをお選びください。
★逆さ蝙蝠の翼手 ★逆さ立ちのスキルカード
★果物爆弾のスキルカード ★果物栽培のグローブ
「面白そうだけれど、使いづらそうな物ばかりだな」
○これより、第三十一ステージの鳥葬の廃都に転移します。
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