ダンジョン・ザ・チョイス

魔神スピリット

361.それぞれの事情

「腐っている範囲が増してきてるな」

 大樹の下へと降りれば降りるほど、臭いと共に腐っているカ所が増えていく。

「キャ!!」

 腐っているカ所から毒液が水鉄砲のように飛んできたため、驚くマリナ……可愛い。

「三十ステージに入ってから、ステージの難易度が跳ね上がったのを実感させられるな」

 エリューナさんの言葉は、俺も感じていた事。

「大きな穴……別れ道ですか」

 チトセさんの視線の先には、急な角度の斜面が二つの穴状に続いている。

 その穴の手前には、大樹から不自然に生えた平たい安全エリアが。

「右が魔術の真髄、左が調合師の墓所だそうです」

「……縁起が悪いです」

 調合師であるチトセさんからしたらな。

「で、どっちに進む?」
「魔術の真髄の目玉は、魔法使いの“二重魔法”を“三重魔法”に進化してくれる場所があること。調合師の墓所は、死んだ調合師が残した物という設定で、調合師用のアイテムがランダムで手に入るそうです」

 全部、ワイズマンであるメルシュから聞いた情報。

「なら、調合師の墓所で決まりか」
「“三重魔法”……勿体ないね」

 魔法使いであるマリナからすればな。

「ある人の話では、もっと上のステージに同じような場所があるらしい」

 “二重魔法”を“三重魔法”と言ったが、実際は同時発動可能な魔法の数を一つ増やせる場所で、この先のステージにはあと二カ所、そういう場所があるらしい。

「でもお前には、”魔女精霊”のサブ職業があるだろう」

「あ、そっか。アレで六重魔法が使えるんだ!」 

 もしこの先、魔法の同時使用回数を増やす機会を全て逃さなかったとしても、最大で“五重魔法”にしかならない。

「て、あれって“六重詠唱”って名前じゃ無かったっけ?」

「ああ、“六重詠唱”には消費魔力を10%減らしてくれる効果もあるんだ」

 そういう意味では、“六重魔法”というスキルがあったとしても、こちらの方が優秀と言える。

 ちなみに、“魔女精霊”のサブ職業には“修練の法則”というスキルも含まれ、魔法系統に分類される攻撃、防御、効能を引き上げてくれるそうだ。

「じゃあ、尚のこと右側に用は無いな」
「時間も時間ですし、昼食にします?」

 チトセさんが遠慮がちに提案してくる。

「「「いや、進もう」」」

 こんな腐った臭いが充満している場所で、ご飯なんて食べたくない……魔法の家が恋しいな。

 安全エリアで水分を補給し、クッキーを少しだけ食べ、簡易用トイレで用を足したのち、左側の穴へと向かおうとする俺達。

「あの……抱えられるのはさすがに恥ずかしいので……一応、“紫雲猿の靴”もありますので……」

 ――顔を赤らめながら言われたため、破壊力抜群だった!

「す、すみません」

「い、いえ、鈍くさい私が悪いんです! それに、さっきまでは履いてませんでしたし!」

 そう言いながら、紫の靴を装備するチトセさん。

「イチャイチャしていないで、さっさと行くぞ」

「「イチャイチャなんてしてません!」」

 なんか、前にも同じような事があったような……。

「……」
「どうした?」
「ベッツにー」

 面白くなさそうなマリナ。

「おい、さっさと行くぞ」
「……はい」

 エリューナさんの言葉により、左側の奥へと向かう俺達。

「ごめんなさい、マリナさん。彼氏さんに焼き餅焼かせるような事をしてしまって」

「い、いえ……今に始まったことじゃないし……ていうかアイツ、複数の女と結婚してるし……」

「……へ?」

 一応その辺、ぼかしてたのに。

「あ、ああ! アレですよね! 婚姻の指輪のためですよね! 私のかつての仲間の中にも居ましたよ。生き残るためにって、打算で結婚した人達が」

「う!!」

 チトセさん……無自覚に心を抉ってきた。

「そう言えばお前、七歳の女の子とも結婚しているらしいな。ククク!」

 ――エリューナさんが爆弾をぶっ込みやがった!

「て、なんで知ってるんですか!」

「へ……本当に、七歳の子と?」

「それどころかチトセ、コイツは複数の女と肉体関係があるそうだぞ?」

「…………は?」

 この状況で、仲間割れを誘発するような事を言うなよ!

「結婚人数は二十人くらい。そのうち何人と実際に寝たのかは知らんが」

「エリューナさん……」

 ニヤニヤしてる……確信犯かよ。

 なに、溜まってたの? 日頃の恨みの方が。

「もしかして、エリューナさんも……」
「私は違うぞ、チトセ。そもそも私には、ガールフレンドが二人居る」

「エリューナさん……いや、エリューナ」

 チトセさんの脳を破壊する気かよ。


「……で、何人とシたんですか?」


 怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い!

「結婚したのは……二十一人です」

 そのうちのメルシュ以外の隠れNPCとは、完全に打算だったけれど。

 モモカについては、頼むからなにも聞かないで。

「私、何人と寝たのかって聞いてるんですけれど?」

「……十六人です」

「お前、本当にそんなに手を出してたのかよ。引くわー」

 ガールフレンドが二人居るアンタに言われるのかよ! いや、言われるかそりゃ。

「コセさんは十五歳でしたよね? なにを考えてるんですか?」

「ああ……こっちの世界では、十五歳で成人なので」
「そういう問題ですか?」
「も、元の世界に……帰る気がないですし」
「デキちゃったらどうするんです?」
「魔法による避妊は百パーセントらしいので……」
「だったら、レギオンメンバーの大半に手を出して良いと?」
「あの……浮ついた、一時の感情とかじゃないので。責任取るつもりもありますし」

 全部が全部、状況に流されてなかったとは言い切れないけれど。

「まあ、それくらいで許してやれよ、チトセ。私の両親だって、半分くらいデキちゃった婚だったらしいし」

 いきなり、自分の暴露を始めるエリューナさん!

「まあ私のご先祖様も、戸籍が無い頃はそういう相手が複数居たらしいし……許してやるか」

 マリナ、元々はお前のせいだからな?

「……私の父親はバツ2なので、あまり責められません」

「いや、関係ないと思いますよ、チトセさん」

 チトセさんがバツ2だったら、まだ分かるけれど。

「私の両親、どっちも浮気癖があったんですよね。どっちも不倫して別れて……別居間際にこの世界に転移させられたんですけれど……アイツら、本当に許せない」

 とても優しそうなチトセさんだけれど、ああ見えて色々あったらしい。

 浮気とかしてなかった分、自分の両親がまだマシに思えてきた。

 ……あれ、これだと俺、あのクズ親以下って事にならないか?

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