ダンジョン・ザ・チョイス

魔神スピリット

357.突発クエスト・戦士の洗礼

『それでは突発クエスト、戦士の洗礼のルール説明を始めますわ』

 突発クエストかー、遺跡村で巻き込まれて以来かなー。

 あの時の突発クエストは、凶暴化した古生代モンスター十体を全員で倒せっていうしょぼい物だったけれど。

『今から、強化された守護戦士見習いが千七百体登場するわ。ソイツらを、魔法使いは五十体、戦士は百体倒した者から、この突発クエストを抜け出す権利を得るというわけ』

「見習いって付いてるからか、そこまで面倒じゃなさそうだねー」
「油断は禁物ですよ、コトリ」
「ハーイ」

 心配性だなー、ケルフェは。

 まあ、私が適当な分、それでバランスが取れるって物だけれどねー。

『他に、大守護戦士が二体おり、一体で守護戦士見習い九十体分にカウントされる。ちなみに、プレーヤーを殺した場合、そのプレーヤーのLv分の数が加算され、カウントが百を超えたらチョイスプレートを操作して集落の外に転移できるわ』

「チ! やっぱり同士討ち要素を入れてきやがったな。だが、だったらなんで俺達全員を巻き込まなかったんだ?」

「同盟を組んでいる同士では、殺せないからかと。私達が同士討ちをしなければ、大して意味の無い仕組みですし」

「てことは、十中八九居るな。俺ら以外の人間が、この突発クエスト内に」

 ザッカルさんとケルフェが、なーんか難しい話をしているよー。

 苦手なんだよなー、頭使う系って。

『ただし、この突発クエストには制限時間があり、一時間以内にクリアしなければならない。出来なければ、二十ステージに奴隷として送られるわよ』

 ナーホーへー。時間が迫ったら、焦ってプレーヤーの同士討ちを誘発出来るかもって感じか。

 しかも、前のステージに戻された場合、仲間内で助け出すことはほぼ不可能ってわけかー。よく考えてんなー。

『ただし、現在ここに居るプレーヤーの数は魔法使いが六人、戦士が十四人。つまり、全員がクリアするためのギリギリの数しか用意されていないの』

 大守護戦士とかいうのを除外した場合は、そうなっちゃうか。

 そこを言わないようにして、まともに自分で考える能力が無い人間には余裕が無いように見せかけるとか、マスメディアの手口じゃ~ん。

『ゲームはどちらかが全滅するか、時間か、規定数を倒した者はチョイスプレートを操作して抜けるかでしか終われない。守護戦士全滅時に討伐数が足りなかった場合も、ゲームオーバーとなるわ』

「てことは、他のパーティー同士で潰し合わせるのが目的ってわけっすね」

 キヨミ、見た目は頭悪そうなのに、ちゃんと理解できてるんだ。

「……なんすか、その目は」
「な、なんでもないよ~」

 おまけに、勘も鋭いし。

『そうそう、クリア報酬について話していなかったわねぇ』

 女の声に、愉悦じみたイヤラシさが増す。

『クリアした人間には、Aランクランダム袋を一つ差し上げるわ』

「へー、悪くはないじゃん」

 ランダムだと役に立つかは分からないけれど、レギオンの誰かに合った高ランクが手に入るかもしれないし。

『ただし、もっとも討伐数が多かったプレーヤーにだけ、代わりにSランクの武器をプレゼントするわ。しかも、自分が使う得物に近い物を選べるという特典付きよ!』

「Sランクをチラつかせて来やがったか……これが本当の狙いかよ」

 ザッカルさんの想像通りなんだろうなー。

 Sランクが手に入るのは一人だけで、しかも自分に合った武器をほぼ確実に手に入れられる。

 アイテムのランクが簡単に分かるようになったことで、Sランクが欲しいって思ってる人間は多そうだし……本当にヤラシイなー、この突発クエストを考えた奴。

『開始は十分後。それまでに準備を整えておくが良いわ! オホホホホホホ!!』

「その笑い方、ババアキャラじゃん」

 リアルで聞いたことないよ、そんな笑い方するやつ。

「どうしますか、ザッカルさん?」

 ケルフェが尋ねた。

「……お前らは、百体超えたら退場しな。俺は、Sランクを狙いに行く」

「百体を超えたらってなると、終盤孤立しちゃうっすよ、ザッカル」

 キヨミが声を掛ける。

「覚悟の上だ。チーム戦ってわけじゃねぇしな」

 罪を背負うなら、自分だけで良いって感じなのかー。

「やっぱり、ギルマスの仲間は格好いいや!」

 大金を湯水のようにばら撒いて奴隷を買わせ、効率的なレベリングや多種多様な人間の運用法を即座に考え、他にも複数の策を巡らせ、見事私達に勝利をもたらしてくれたギルマス……あの日のことは、今思い出しても興奮しちゃうよ!

「てことで構わないか、キヨミ?」

「しゃーないっすね。ただ、ウチとパーティーを組んでくださいっす。経験値を無駄にしたくないんで」

 このゲームは経験値分散タイプじゃないから、パーティー人数が多い方が全体的に効率が良いんだよねー。

「ああ、良いぜ」

 そんなこんなで、私達は金髪ギャルと四人パーティーを組むことになっちった。

「……なんだ、コトリ?」

 キャロは……リョウの隠れNPCだから、自分の意思で私達とパーティーを組めないんだよねー。

「ううん、別にー」

 ボッチにしちゃってゴメンね、キャロ。


●●●


「ハイパワースラッシュ」

 白い巨大な幼虫らしき虫を、両断する。

「まだ動くのか!」

 虫系モンスターは、動物系モンスターに比べて生命力というか……構造が単純な分、簡単には死んでくれない。

「“氷河魔法”――グレイシャーバレット!!」

 他の幼虫モンスターも、纏めて葬ってくれるマリナ。

「助かった」
「どう致しまして」

 ハイタッチする俺達。

「虫か……あんなリアルな見た目でデカいと、さすがに精神的にキツい」
「ですね。私は、虫は割と平気な方だったんですけれど……」

 エリューナさんもチトセさんも、虫モンスターの見た目に精神的ダメージを負っているようだ。

 二人は、例のゴキブリルートを通らなかったのだろうか?

「安全エリアはすぐそこです。そこで一旦休憩にしましょう」

「だな」

 チトセさんの提案により、すぐに安全エリアへと向かう俺達。

 特に何事もなく、安全エリアへと到達した。

「……」
「どうかしましたか、チトセさん?」

 背後を振り返り、上の方へと視線を向けるチトセさん。

「いえ……もう、あの場所には戻れないんだなって」

 安全エリアに入ったということは、もう大樹村には引き返せないことを意味する。

「……怖いですか?」

「先に進むのは一年ぶりですし、あの場所はそれなりに思い入れもありましたから……まあ、すぐに慣れますよ。人間には適応力がありますから!」

 適応しようとしちゃいけない環境なんて、幾らでもありますけれどね。

「あんまり、無理しないでくださいね」

 俺を心配して付いてきてくれているような物だし……まあ、それだけじゃないんだろうけれど。

「フフ、心配してくれてありがとう。でもそれより、この先は私にとっても未知の領域だから、ここまでよりも遥かに大変なはずだよ」
「それこそ、いつものことです」

 むしろ、メルシュとジュリーの情報があるぶん、俺達は恵まれている方だ。

「フフ、確かにその通りですね」

 チトセさんの誠実そうな笑みに、癒されている自分が居た。

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