ダンジョン・ザ・チョイス

魔神スピリット

355.もたらされる情報

「トゥスカ達から、コンソールに連絡が来たよ!」

「本当か!?」

 早朝、薄緑のネグリジェ姿のままコセと話していたはずのメルシュが、慌てた様子で俺達の前にやって来た!

 久し振りに戻ったら、トゥスカとノーザンが居なくてなにかあったのかと思ってたが……連絡が取れなくなってたのかよ。

「それで、二人は無事なの?」

 アヤナが尋ねる。

「うん、一回《獣人解放軍》に捕まったらしいけれど、助けてくれた人達が居て、今はその人達の魔法の家に居るみたい」

「どうして、わざわざコンソールの方に連絡して来たんだよ?」

「捕まった時に、隙を見て家の鍵を破棄したんだって」
「《獣人解放軍》が、こっちに攻め込んで来ないようにか」

 メルシュの言葉に、リンピョンが補足するような形に。

「とにかく、トゥスカさん達が無事で良かったです」

 タマを始め、大半が安堵しているように見える。

「つうかよ、なんでソイツらはその”獣の聖域”ってのを根城にしてるんだ?」

 獣人の数が多いらしいが、それだけなら待ち伏せなりなんなりで、レジスタンスにもやりようは幾らでもあんだろう。

 こっちには、いつでも逃げ込める魔法の家なんて便利な物があんだからよ。

「”獣の聖域”には、獣人を大幅に強化する、スキルが手に入る場所があるからだろうね」

 そう言ったのは、ダンジョン・ザ・チョイスをよく知っているジュリー。

「トゥスカ達の情報では、その場所を《獣人解放軍》が占拠しちゃってるから、ソイツらに与している輩じゃないと、その強力なスキルが手に入らないってわけ。余程Lvと装備に差が無ければ、一対一でもトゥスカとノーザンは勝てないだろうね。神代文字を使えばなんとかなるかもしれないけれど、んだよね」

「へー」

 メルシュの言葉に、ワクワクしてきている自分が居る!

 そこに行けば、俺はもっと強くなれるって事だろう?

「三十六ステージか」

 まだ十六ステージ分もあるが、楽しみで仕方ねーぜ!!

「でも、もしかしたらその状況が一変するかもしれない」

 メルシュの声が、一段低くなる。

「……良い方に転ぶってわけじゃなさそうだな」

 メグミが話を促す。

「SSランク武具、“エンバーミング・クライシス”の使い手が現れて、解放軍メンバーを多数殺したみたい。それで、向こうはピリピリしてるって。トゥスカ達は、その杖の能力を知りたくて連絡してきたんだって」

 なるほど。解放軍一強だったパワーバランスが、崩れかけてるってわけだ。

「で、どんな武器なんだ、それは?」

 ネグリジェ姿のレリーフェが、メルシュに尋ねる。


「……分かんない」


 気まずそうなメルシュ。

「マスターか私が視認した物や、パーティーメンバー、レギオンメンバーの持ち物じゃないと詳しい情報は引き出せないから、どうしようもないんだよね」

 まったくの未知数の、強力な武器ってわけか。

「俺のSランク、“滅剣ハルマゲドン”であの威力だ。それ以上の力を秘めてると思った方が良いんだろうな」

「「「いや、お前のではないだろう」」」

 ほぼ全員からの総突っ込みを受ける俺。

 まあ、コセから借りてそのままになっちまってるだけだけれどよ。もう俺のみてーなもんだろう。

 コセがあのアルファ・ドラコニアンにトドメを刺した武器って考えると、マジでウットリしちまうし。

 あの時の俺とコセの連携、今思い出しても神懸かってたよな~。

「まあでも、名前から多少は想像出来るわよね。クライシスって、確か世界恐慌とかって意味じゃなかったかしら?」

 サトミが面白い事を言い出す。

「で、エンバーミングってどういう意味?」

 ナオが何気なく尋ねた言葉に、知っていそうな奴等の顔が曇る。

「おいおい、世界恐慌よりもヤベー意味なのか?」
「う、ううん、そうじゃないけど……」

 カナが、言っても良いのかと逡巡しているようだ。


「エンバーミング言うのはぁ、遺体に防腐処理や修復を施したぁ、物でぇす」


 答えたのはクリス。

「なんのために、遺体にそんなことをするのですか?」

 クマムが尋ねる。

「欧米では土葬が主流なためぇ、死体が疫病の原因になる事などをぉ、防ぐ目的がありまぁす」

「そういや、俺の故郷は地中深くに埋めるのが習わしだったな」

 当時はなんでこんなにわざわざ深く掘るのか疑問だったが、ある程度土を被せたら、動物が掘り返さないように重くて大きい石を置く風習はあった。

「防腐処理された遺体の世界恐慌……? どんな能力なのか、全然想像できませんね」

 スゥーシャと同じく、俺にも全然イメージ出来ねー。

「考えられるのは、ゾンビの集団を操るとか?」

 ユリカが口を開く。

「それだけだと……イマイチ強い感じがしないね。向こうの世界でならともかく、スキルやアイテムの効果を使えばどうにでもなりそう」

 アオイの言っている事はよく分からないが、集団って聞くと、俺はスタンピードラットを思い出しちまうな。

 今思い出しても、あの頃の記憶は忌々しい。

「今のような話は、一応トゥスカ達には伝えて置いたから……あとは、遭遇しない事を祈るしかないかな」

 SSランク……遭遇するにしても、もっと後だとばかり思っていたが……俺も、もっと気を引き締めねーといけねーか。


●●●


「”エンバーミング・クライシス”……言葉の意味が分かると、随分不気味に思えてきちゃった」

 メルシュと連絡を取り、一応の成果をウララとカプアに伝えた。

「ありそうなのは、アンデッドの類いを大量に操る能力でしょうか。決め付けるのは危険でしょうが、一応レジスタンスメンバーに伝えて置きましょう」

 カプアが情報を流してくれるらしい。

「……トゥスカちゃん、良かったらコレを使って」

 ウララがチョイスプレートを操作して出現させたのは……変わった形の白い……ブーメラン?

「ウララ様、それは!!」

「”多目的ガンブーメラン”、Aランク。私の弟が使っていた武器よ」

「弟さんが……おられたのですか?」

 いつも飄々としているウララが、今にも泣きそうな顔を……。

「来て。二人に見せたい物があるの」

 ウララに連れられ、私達は立ち入りが禁止されていた三階を超え……四階へと足を踏み入れる。

「……これは」

 とある部屋に通されて目に入ったのは、ベッドに横たわるウララそっくりの人物。

「私の双子の弟、ラキよ。このステージに来るまで、とっても元気だった子」

「それじゃあ、あのブーメランは彼の? 貰って良かったのですか?」

「ええ。たぶん、このゲームをクリアするまで、ラキが目を覚ますことは無いでしょうから」

「へ?」

「ラキ様は、祭壇に転移直後に命を狙われ……脳天に、斧を振り下ろされてしまったのです」
「幸い一命は取り留めたけれど……あれからずっと、眠ったままなの。植物状態という奴かしら」

 このダンジョン・ザ・チョイスでは、死ねば死体は光になって消える。

 消えていないって事は、生きてはいるはず……。

「もしかして、二人の叶えたい願いって……」

 ウララがベッドに片膝を乗せ、弟の頬を撫でる。

「ラキを……弟を目覚めさせること。昔のように、笑ってくれるように」

 双子の絆が、そうさせるのでしょうか。

「これからなにが起きるか分かりませんが、お二人の力を、どうか私達に借してください……どうか」

 深々と、頭を下げるカプア。

「……いずれにせよ、例のスキルを手に入れないと、僕等は役不足でしょう」

 ノーザンの言葉は、冷静に判断している証拠。

 それ程までに、この”獣の聖域”で手に入れられる獣人専用のスキル、“獣化”は桁外れなのだから。

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