ダンジョン・ザ・チョイス

魔神スピリット

352.魔神・突撃猪

「お二人は、積極的に攻略に参加されているのですねえ。偉いと思います」

 チトセさんの人当たりの良さに、ついつい身の上話をしてしまう俺達。

 ちなみに、彼女は十八歳になったばかりらしい。

「チトセさんは、一人でここに?」
「ええ、前居たレギオンは上昇思考が強く……友達が死んだのを機に、心が折れてしまって……」
「すみません」

 マリナが謝る。

「私の方こそごめんなさい。それにしても、隠れNPCが居るとはいえ、お二人のレギオンの攻略ペースは異常です。私がこの三十ステージに来るまでに、二年くらい掛かったのに」

 むしろ、掛かり過ぎなのではと思ってしまう。

「もう、この世界に来てから三年……この場所は、本当に変わり映えしない」

 チトセさんが黄昏れている。

「チトセさんは、これからもこのステージで生きていくんですか?」

 ちょっと、嫌な聞き方だっただろうか?

「大樹村で約一年……本当にここは代わり映えしなさすぎて、退屈ではありますが……知り合いが目の前で死ぬのは、もうたくさんなので」

 重い言葉……だな。

「そっか。なら、今日でお別れになってしまうんですね」
「へ? どういうことです?」

 なぜか、とても驚いた様子のチトセさん。

「俺達は、明日の朝には次のダンジョン攻略に進むつもりなので」

「で、でも……村中を一通り回って、集めた情報を精査して……なんてやってたら、一、二週間くらい時間は潰す物ですよ! モンスターとのレベリングやドロップアイテムによる新装備の制作依頼、その新装備の習熟……たった一日で次のダンジョンに挑むだなんて、自殺行為にも程があります!!」

 なんの情報も無い人間なら、そんな風に対策を立てて進んでいくのか。

 そう考えると、ここまでに二年掛かったと言うのも納得出来る。

「詳しくは言えませんけれど、俺達には正確な情報源がありますから」

 メルシュの情報は、他の隠れNPCと比べても規格外だし、ジュリーは開発者の娘であり重度のオリジナルプレーヤー。

 それに加え、隠れNPCの入手法という切り札もある。

 今更ながら、自分達がどれだけ恵まれた攻略環境に居るのか気付かされた。

「で、でも、今は他のレギオンメンバーと別行動なのでしょう? たった三人で、しかもコセ君は、謎の痛みがいつ起きるのかも分からない……自殺行為です!」

 今までそれで上手くいってるんだけれど……まあ、腕の痛みに関しては、まったくもって言い返せない。

「確かに、その腕だけは気懸かりよね」

 マリナまで、チトセさんの肩を持ち始めてしまった!

「暫くは療養すべきです」
「三十六ステージに居る俺の仲間は、いつ突発クエストに巻き込まれてもおかしくないんです。いつ治るかも分からない病気に、足を止めるわけにはいかない!」

 ……少し感情的になってしまった……バカか、俺は。

「……分かりました」
「へ?」


「私も、二人と一緒に行きます!」


「へと……」

 嬉しいような……困ったような。

「そうと決まれば、今日中に準備を整えないと行けませんね! 手伝ってください、お二人とも!」

「「へ?」」

 そんなこんなで、俺とマリナはチトセさんに一日中振り回されることとなった。

 ……この人、意外と強引だ。


●●●


「ようやくだね、マスター、カナ」

 ”黄泉フロッグのスキルカード”を七枚手に入れたのち、湖の向こうの安全エリア、ボス部屋前のポータルに辿り着く私達。

「三人だけだからか、結構キツかったわね」

 センシティブ・カナさんが、両腕を頭の上で組んで背伸びする……脇とか見えてエロい。

「ステージの仕様的に、そろそろ少人数がキツくなってきてるんだろう」

「あんまし……休憩も取ってないしね」

 シレイアさんも私も……ううん、皆、トゥスカさん達との連絡が途絶えたことに焦ってしまっている。

「私達が一番遅れているはずよ。急ぎましょう」

 カナさんに急かされるまま、ポータルの向こうへ。

「……あれ、三人だけ?」

 いつものボス部屋の前、暗くて広大な空間には、メルシュさんとクマムさん、カナさんしか居ない。

「お疲れ、三人とも。他の皆は、もうボス戦を終えて先に進んじゃったよ」

 メルシュさんがそう言うと、クマムさんからパーティーの申請が書かれたチョイスプレートが届く。

「時間節約のためか……」

 ボス戦は、わざわざパーティーの数を割るメリットはないもんね。

「第二十三ステージのボスは、魔神・突撃猪。弱点は闇属性、有効武器は鎌。危険攻撃は、エネルギーを纏いながら超速で迫る直進の体当たり、“猪突猛進”」

 メルシュさんが口早に説明していく……この人も焦ってるんだ。

「なんて言うか……カナさんに殺されるために生まれてきた魔神って感じだね」
「「「確かに」」」

 私の言葉に、クマムさんとナオさん、シレイアさんも納得してくれる。

「……あれ、これって私が前に出て戦う感じ?」

「ステージギミックは、浮遊不能。どんな方法でも空に浮くことは出来ないよ」

「私の脚甲のように、力技で飛ぶなら大丈夫みたいです」

 クマムさんの”白百合の竜巻脚甲”は、足裏から緑の竜巻を発射して飛ぶんだっけ。

「ただし、五分経つと両端から足場が消えていくから、クマムも気を付けてね」

 あの竜巻って、地面に反発させて身体を浮かせている感じだったしね。

「まあ、カナさんが五分以内にボスを倒せば良いだけの話しさね」

「ちょ、シレイア! 変なフラグを立てないでよ!」

 センシティブ・カナ、縮めてティブカナさんが焦ってる。

「オーイ、もう開けちゃうからねー」

 ナオさん、いつの間にかボス部屋の前へ。

 急いで中へ入る私達。

 部屋の奥に、白いライン光が走る。


●●●


 チョイスプレートを操作して、“殲滅のノクターン”を手にする。

「来るよ、カナ」

 茶色い石で出来た巨大猪に、白いラインが幾本も刻まれ――突っ込んできた!

「“暗黒魔法”――ダークレイ!!」

 暗黒の光線を浴びせるも、勢いは止まらない!


「――“闇隠れ”」


 “死神”の能力で影に溶け込み、突っ込んできた巨猪の背後へ!

「オールセット1」

 “宵闇の暗闘を制せよ”と、“ワイルドデスサイズ”の両方を手に!

「“禍鎌切”――“暗黒鎌術”、ダークネススラッシュ!!」

 タゲを取っていたのか、消えた私を追って振り返ろうとしていた猪の横っ腹を――伸ばした暗黒の刃で大きく切り裂く!

「“暗黒砲”!!」

 サトミ達が宝石島で襲われた際に手に入れたスキルカードを使用して憶えた、“魔力砲”の闇属性版をぶつける!

『――グゥオオオオオオオオオッッ!!』

 前面にエネルギーを纏いながら、突っ込んできた!

 これが、危険攻撃の“猪突猛進”ね!!


「――“飛剣・暗閃”!!」


 “ワイルドデスサイズ”で放った事で、暗黒の斬撃にはオーラや障壁を切り裂く能力が付与されている!

 “猪突猛進”が解除されても、突っ込んでくる魔神・突撃猪。

 その愚かしいくらいのしつこさに――光と虹の城での出来事を思い出す。

「――“闇隠れ”」

 再び影に隠れて突撃を回避すると同時に――“”に全精力を注ぎ込む!


「“神代の大鎌”――“開闢斬り”」


 青白い刃を生成、巨大化させ――魔神・突撃猪を……上下に両断した。

「――……ハアー、ハアー、ハアー、ハアー!!」

 頭がおかしくなりそうな衝動にsj3h、刻んでいた十二文字を消すと――一気に疲労が!!

 数字を逆に数えながら、フルマラソンを走らされたあとみたいに――身体も精神も疲労困憊にッッ!!

 言葉を発することさえ……億劫な気が。

「ワーオ。まさか十二文字刻んだ上、マスターと同じく神代の効果を備えた武具にまで昇華させちゃうなんてね」

 メルシュちゃんの声……なに言ってるのか、よく分かんない。


○おめでとうございます。魔神・突撃猪の討伐に成功しました。

○ボス撃破特典。以下から一つをお選びください。

★猪突の兜 ★猪突猛進のスキルカード
★浮遊落としの指輪 ★突撃猪の石盾

○これより、第二十四ステージの腐葉土村に転移します。

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