ダンジョン・ザ・チョイス
351.調合師のチトセ
「……ようやく、痺れもなくなってきた」
満身創痍になるほどの激痛により、二人の女の子に担がれて調合場付きの長屋に運ばれた俺は……痛みが和らいだ事で眠ってしまっていたようだ。
「あれ……なんだったんだろう」
尋常じゃない痛みだった……腕が裂けて、骨や血管までグチャグチャになってしまったんじゃないかって……錯覚してしまうくらい。
まだ幻痛がするくらいだし。
「お目覚めになられたみたいですね」
部屋に入ってきたのは、先程の女性。
アイヌ民族のような青と白の服に、藍色のハチマキを付けた黒髪セミロングの女性……随分小柄だな。
でも、俺達よりも先にこのステージまで来ているって事は、十中八九年上のはず。
「ありがとうございます。助けて貰っただけじゃなく、寝床まで貸して頂いて」
もし敵だったら、今頃どうなっていた事か。
「いえ、痛み止めの薬を差し上げただけですから」
マリナの回復魔法は逆効果だったけれど、痛みを紛らわすだけの薬だからなんとかなったのか。
再生させるのが本当に逆効果だとしたら……俺の左腕は、なにかに変化しようとしている?
「……参ったな」
いつ爆発するか分からない爆弾を抱えながら、攻略に挑まなければならないのか……。
「痛みは、もうありませんか?」
「ええ、もう問題ないみたいです」
今の所は。
「自己紹介がまだでしたね。私は水無月・千歳。チトセと呼んでください」
「巨勢・雄大です。コセと呼んでください」
「下の名前は、彼女さんだけの特別ですか? 良いですね~」
無邪気な笑顔でそんなこと言われると……罪悪感が。
「いえ……ユウダイって名前が、あまり好きじゃなくて」
名前負けしてる感が半端ないし。
「素敵な名前だと思いますよ?」
「あ、ありがとうございます……」
良い人オーラが凄くて、なんだか眩しいよ、この人!
――グギュルルルルルルグギューー~!!
派手に、それはもう派手に……お腹の音が鳴り響いてしまった。
「ふ、フフフフフフ!! ご、ごめんなさい、人のお腹の音を聞いたのなんて、凄く久しぶりだったから……フフフフフフフフフ!! ハハハハハハハハハ!!」
どれだけ面白かったんだよ!
「し、下に朝食の用意をしているので、フフ、よ、良かったらどうぞ……ブフ!」
箸の件でトゥスカの事を笑った過去の自分を、今更ながら殴りたくなってきたよ。
一緒に下に降りると、マリナがテーブルにご飯を運んでくれている所だった。
「なんか凄い笑い声が聞こえたけれど、なにかあったの?」
「い、いえ、なんでも……フフフ!」
まだ笑ってるよ、この人。
「美味しそうだな」
焼き魚に味噌汁、漬物、玄米と、和の朝食という感じの品々がズラリ!
「マリナさん、お料理がとってもお上手ですね~」
「チトセさんこそ。この漬物、とっても美味しいですよ!」
俺が気を失っている間に、すっかり仲良くなったらしい。
「ユウダイ、腕はもう平気?」
「ああ、もうなんともない」
原因が分からないって言うのは、なんとも不気味だが。
「それじゃあ、冷めないうちに頂きましょう!」
チトセさんの和やかな空気に当てられたのか、妙な気分で手を合わせる俺達。
「「「頂きます」」」
◇◇◇
『というわけで、全ステージを巻き込んだ大規模突発クエストを行うことにした。バグの修正で忙しいとは思うが、各々協力するように』
オルフェの一件ぶりに、会議を開いた我々。
低次元存在である彼等に、協力などという言葉を贈るのは滑稽な話ではあるね。
『ブルーノめ~、面倒な事を~』
『担当ステージでの突発クエストを失敗したばかりのお前は、今は暇だろう? サロモン』
『貴様~、ブルーノ~ッ!!』
『下らぬ争いは止めたまえ、二人とも』
まったく、自分達が権力を持つ側と勘違いしている人間と言うのは、面倒な物だ。
ここに居る観測者全員、私に隷属させられているも同然だというのに。
『レプティリアンの方々は、今回の件に大層乗り気である。遅くとも、一週間程で準備を終えたい。まあ、ブルーノ君を中心に、私が総括を担当する。君達は、与えられた役目をキッチリとこなしてくれればそれで良い』
構造体としての一つの役目のみを愚直にこなす……それこそが、隷属者達のあるべき姿なのだから。
●●●
「ようやく戻って来られたな、二十ステージ、腐敗の王都」
ボス戦を終え、祭壇の上から見下ろす景色に懐かしさすら憶えるぜ。
「お前ら、もう一踏ん張りだぞ」
コトリとリョウ率いるパーティーメンバーを、激励してやる。
「今日中に、隠れNPCと契約は済ませたいですね。早くレギオンに復帰したいですし」
リョウ達のパーティーには、隠れNPCのヴァルキリー入手のために一時的にレギオンから抜けて貰っている状態。
「よし、さっさと行くぞ!」
「さすがザッカルさん、まだまだ元気だね!」
コトリに褒められる。
まあ、さすがの俺も、ここ数日の強行軍に疲れちまってるけれどな。
とはいえ、早くコセ達に追い付きたいし、アイツらの顔も見たかったからな。
「さ、さすがに休みたい」
「アヤ、隠れNPCとの契約が済んだら休めますよ」
「そうなったら、またパーティーを別けるんですね……トホホ」
エレジーの言葉にショックを受けているのは、赤と白の人魚、ニシィー。
リョウ達が、第九ステージで買った人魚。
スゥーシャを買ったとき、浴槽内で喚いていた奴等の中に居た気がする。
あの時のトゥスカの剣幕に呑まれて、ビビってた人魚共の顔は傑作だったな!
「オラ、さっさと終わらせて、ゆっくり休もうや!」
十人で祭壇を降り、そのまま例の小山に向かって進む。
俺が、抱かれたい男ナンバー4とか抜かしてた男の首を切り飛ばしてやったあの丘に。
「ハー、ハー、ハー、さすがに……シンドイ」
氷河の魔法使いであるシホ、さすがにキツそうだな。
ぶっちゃけ、コセの女達に比べて、リョウの女達は軟弱な奴が多い。肉体的にも、精神的にも。
「あれですよね、ザッカルさん」
「おう」
リョウが石の槍を出現させて、丘の上のアーチ状の構造物、その中の石像の前へ。
○以下から一つを選択出来ます。
★ヴァルキリーをパーティーに加える。
★天空騎士のサブ職業を手に入れる。
★戦乙女のスキルカード・戦乙女の天馬のスキルカードを手に入れる。
「じゃ、じゃあ……行きます」
リョウが選択をした瞬間、石像が罅割れ――派手な光と共に、羽の付いた額宛と鎧を身に付けたユルユル長金髪の女が現れた!
「大義である、人の子よ」
リョウの持っていた石の槍が飛び出し、ヴァルキリーの手に収まった瞬間――同じように、黄金の穂先持つ青の槍へと変化。
「……綺麗だ」
リョウの奴、見蕩れちまってるみたいだな……リョウの女達から、若干の怨嗟が!
「汝を我がマスターと認め、今生限りの御名を授ける事を許可する」
「じゃ、じゃあ……初恋の相手だった人の名前で、キャロラインで!」
お前、また女達が騒ぎそうな事を。
「フム、悪くない」
「キャロラインが初恋ってどういうこと?」
「外人が初恋の相手だったって事じゃ……一番の強敵は、実はジュリー!?」
いや、確かにキャロラインとジュリーはちょっと似てはいるけれど!
「ああ、とあるハリウッド映画の役名ですよ。子供ながらに、憧れちゃったんですよねえ」
よくわからんが、俺はリョウの奴をあんまり好きになれそうにないな。
「いたいた、やっぱ見間違いじゃなかったようだな」
丘を登ってきた相手は、水牛獣人のバッファ? と、可愛らしい……乙女って感じの大人しそうなエルフの女。
バッファの後ろに、寄り添うように隠れてやがる。
「おう、久し振りだな、お前。まだこのステージに居たのかよ」
「お前な、アップデート後に連絡が取れなくなってたから、こっちは何日も探し回ってたんだぞ?」
そういやメルシュが、同名相手とコンソールで連絡が取れないとか言ってたっけか。
「つうわけでザッカル、情報交換しようや」
満身創痍になるほどの激痛により、二人の女の子に担がれて調合場付きの長屋に運ばれた俺は……痛みが和らいだ事で眠ってしまっていたようだ。
「あれ……なんだったんだろう」
尋常じゃない痛みだった……腕が裂けて、骨や血管までグチャグチャになってしまったんじゃないかって……錯覚してしまうくらい。
まだ幻痛がするくらいだし。
「お目覚めになられたみたいですね」
部屋に入ってきたのは、先程の女性。
アイヌ民族のような青と白の服に、藍色のハチマキを付けた黒髪セミロングの女性……随分小柄だな。
でも、俺達よりも先にこのステージまで来ているって事は、十中八九年上のはず。
「ありがとうございます。助けて貰っただけじゃなく、寝床まで貸して頂いて」
もし敵だったら、今頃どうなっていた事か。
「いえ、痛み止めの薬を差し上げただけですから」
マリナの回復魔法は逆効果だったけれど、痛みを紛らわすだけの薬だからなんとかなったのか。
再生させるのが本当に逆効果だとしたら……俺の左腕は、なにかに変化しようとしている?
「……参ったな」
いつ爆発するか分からない爆弾を抱えながら、攻略に挑まなければならないのか……。
「痛みは、もうありませんか?」
「ええ、もう問題ないみたいです」
今の所は。
「自己紹介がまだでしたね。私は水無月・千歳。チトセと呼んでください」
「巨勢・雄大です。コセと呼んでください」
「下の名前は、彼女さんだけの特別ですか? 良いですね~」
無邪気な笑顔でそんなこと言われると……罪悪感が。
「いえ……ユウダイって名前が、あまり好きじゃなくて」
名前負けしてる感が半端ないし。
「素敵な名前だと思いますよ?」
「あ、ありがとうございます……」
良い人オーラが凄くて、なんだか眩しいよ、この人!
――グギュルルルルルルグギューー~!!
派手に、それはもう派手に……お腹の音が鳴り響いてしまった。
「ふ、フフフフフフ!! ご、ごめんなさい、人のお腹の音を聞いたのなんて、凄く久しぶりだったから……フフフフフフフフフ!! ハハハハハハハハハ!!」
どれだけ面白かったんだよ!
「し、下に朝食の用意をしているので、フフ、よ、良かったらどうぞ……ブフ!」
箸の件でトゥスカの事を笑った過去の自分を、今更ながら殴りたくなってきたよ。
一緒に下に降りると、マリナがテーブルにご飯を運んでくれている所だった。
「なんか凄い笑い声が聞こえたけれど、なにかあったの?」
「い、いえ、なんでも……フフフ!」
まだ笑ってるよ、この人。
「美味しそうだな」
焼き魚に味噌汁、漬物、玄米と、和の朝食という感じの品々がズラリ!
「マリナさん、お料理がとってもお上手ですね~」
「チトセさんこそ。この漬物、とっても美味しいですよ!」
俺が気を失っている間に、すっかり仲良くなったらしい。
「ユウダイ、腕はもう平気?」
「ああ、もうなんともない」
原因が分からないって言うのは、なんとも不気味だが。
「それじゃあ、冷めないうちに頂きましょう!」
チトセさんの和やかな空気に当てられたのか、妙な気分で手を合わせる俺達。
「「「頂きます」」」
◇◇◇
『というわけで、全ステージを巻き込んだ大規模突発クエストを行うことにした。バグの修正で忙しいとは思うが、各々協力するように』
オルフェの一件ぶりに、会議を開いた我々。
低次元存在である彼等に、協力などという言葉を贈るのは滑稽な話ではあるね。
『ブルーノめ~、面倒な事を~』
『担当ステージでの突発クエストを失敗したばかりのお前は、今は暇だろう? サロモン』
『貴様~、ブルーノ~ッ!!』
『下らぬ争いは止めたまえ、二人とも』
まったく、自分達が権力を持つ側と勘違いしている人間と言うのは、面倒な物だ。
ここに居る観測者全員、私に隷属させられているも同然だというのに。
『レプティリアンの方々は、今回の件に大層乗り気である。遅くとも、一週間程で準備を終えたい。まあ、ブルーノ君を中心に、私が総括を担当する。君達は、与えられた役目をキッチリとこなしてくれればそれで良い』
構造体としての一つの役目のみを愚直にこなす……それこそが、隷属者達のあるべき姿なのだから。
●●●
「ようやく戻って来られたな、二十ステージ、腐敗の王都」
ボス戦を終え、祭壇の上から見下ろす景色に懐かしさすら憶えるぜ。
「お前ら、もう一踏ん張りだぞ」
コトリとリョウ率いるパーティーメンバーを、激励してやる。
「今日中に、隠れNPCと契約は済ませたいですね。早くレギオンに復帰したいですし」
リョウ達のパーティーには、隠れNPCのヴァルキリー入手のために一時的にレギオンから抜けて貰っている状態。
「よし、さっさと行くぞ!」
「さすがザッカルさん、まだまだ元気だね!」
コトリに褒められる。
まあ、さすがの俺も、ここ数日の強行軍に疲れちまってるけれどな。
とはいえ、早くコセ達に追い付きたいし、アイツらの顔も見たかったからな。
「さ、さすがに休みたい」
「アヤ、隠れNPCとの契約が済んだら休めますよ」
「そうなったら、またパーティーを別けるんですね……トホホ」
エレジーの言葉にショックを受けているのは、赤と白の人魚、ニシィー。
リョウ達が、第九ステージで買った人魚。
スゥーシャを買ったとき、浴槽内で喚いていた奴等の中に居た気がする。
あの時のトゥスカの剣幕に呑まれて、ビビってた人魚共の顔は傑作だったな!
「オラ、さっさと終わらせて、ゆっくり休もうや!」
十人で祭壇を降り、そのまま例の小山に向かって進む。
俺が、抱かれたい男ナンバー4とか抜かしてた男の首を切り飛ばしてやったあの丘に。
「ハー、ハー、ハー、さすがに……シンドイ」
氷河の魔法使いであるシホ、さすがにキツそうだな。
ぶっちゃけ、コセの女達に比べて、リョウの女達は軟弱な奴が多い。肉体的にも、精神的にも。
「あれですよね、ザッカルさん」
「おう」
リョウが石の槍を出現させて、丘の上のアーチ状の構造物、その中の石像の前へ。
○以下から一つを選択出来ます。
★ヴァルキリーをパーティーに加える。
★天空騎士のサブ職業を手に入れる。
★戦乙女のスキルカード・戦乙女の天馬のスキルカードを手に入れる。
「じゃ、じゃあ……行きます」
リョウが選択をした瞬間、石像が罅割れ――派手な光と共に、羽の付いた額宛と鎧を身に付けたユルユル長金髪の女が現れた!
「大義である、人の子よ」
リョウの持っていた石の槍が飛び出し、ヴァルキリーの手に収まった瞬間――同じように、黄金の穂先持つ青の槍へと変化。
「……綺麗だ」
リョウの奴、見蕩れちまってるみたいだな……リョウの女達から、若干の怨嗟が!
「汝を我がマスターと認め、今生限りの御名を授ける事を許可する」
「じゃ、じゃあ……初恋の相手だった人の名前で、キャロラインで!」
お前、また女達が騒ぎそうな事を。
「フム、悪くない」
「キャロラインが初恋ってどういうこと?」
「外人が初恋の相手だったって事じゃ……一番の強敵は、実はジュリー!?」
いや、確かにキャロラインとジュリーはちょっと似てはいるけれど!
「ああ、とあるハリウッド映画の役名ですよ。子供ながらに、憧れちゃったんですよねえ」
よくわからんが、俺はリョウの奴をあんまり好きになれそうにないな。
「いたいた、やっぱ見間違いじゃなかったようだな」
丘を登ってきた相手は、水牛獣人のバッファ? と、可愛らしい……乙女って感じの大人しそうなエルフの女。
バッファの後ろに、寄り添うように隠れてやがる。
「おう、久し振りだな、お前。まだこのステージに居たのかよ」
「お前な、アップデート後に連絡が取れなくなってたから、こっちは何日も探し回ってたんだぞ?」
そういやメルシュが、同名相手とコンソールで連絡が取れないとか言ってたっけか。
「つうわけでザッカル、情報交換しようや」
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