ダンジョン・ザ・チョイス
346.魔神・毒針蠍
「魔神・毒針蠍の弱点属性は水。有効武器は槍で、猛毒の液体を飛ばしてくるのが危険攻撃だ」
妖艶な氷の魔女を倒したのち、俺達三人はボス部屋前まで辿り着いていた。
「ステージギミックは、徐々に床に砂が溜まっていくこと。時間が経つと、砂の中に隠れたりもするらしい」
「よし、さっさと終わらせて、今日はゆっくり休むぞ!」
エリューナさん、眠すぎてハイになってないか?
「マリナは、準備オーケーか?」
「ええ、任せて!」
意気込むマリナの手には、先程手に入れた“氷河の魔槍杖”が。
「よし、行くぞ!」
いつものボス部屋に入ると、奥に赤紫色のライン光が走り、赤黒い巨石のボスが動き出す。
見た目は巨大な蠍だけれど、頭の辺りに、蠍の意匠の甲冑を着たような人間の上半身がくっ付いている。
すぐに魔神の左右上部の天井から大量の砂が落ちてきて、床を……結構多いな、砂。
「“空遊滑脱”!」
空を駆けるエリューナさんを追い、俺も前へ!
「“吹雪魔法”――ブリザードトルネード!!」
「“大地讃頌”!!」
上と下からの同時攻撃により、動きを止める魔神!
「“飛王剣”!」
「“神代の剣影”――ハイパワースラッシュ!!」
俺の斬撃とエリューナさんの青白い鞭剣が、魔神の身体を削っていく!
手脚を狙い、とにかく機動力を削ぐことに重点を置く攻めを繰り返す。
「“氷河魔法”――グレイシャーランス!!」
氷と水の二種属性である魔法で、マリナに弱点を突いてもらう!
氷水の巨槍は左胸に突き刺さるも、魔神の動きが激しくなるだけ。
『ギジュギジュジュウ!!』
魔法陣を展開して――毒液を放ち始めた!
しかも、マリナを狙っている!
「“硝子魔法”――グラスシェルター!!」
半球状の透明な障壁で、毒液を防ぐマリナ。
「私を無視するとは良い度胸だ! ――“業王脚”!!」
エリューナさんが魔神の頭を蹴り上げ、僅かに浮いた蠍の――腹部分に潜り込む!
「――“拒絶領域”!!」
下から円柱状の衝撃波を食らわせ、その巨体を僅かに弾き上げる!
「”氷河騎槍”――“氷河槍術”、グレイシャーストライク!!」
大きな衝撃と冷気――マリナの一撃が、魔神の正面に炸裂したらしい!
「“神代の剣”――ハイパワーブレイド!!」
刀身を伸ばし、蠍の腹を幾重にも切り裂く!
「砂が!」
もうこんな所にまで。
あっという間に足を包まれそうになったため、急いで空へと逃れる。
「“氷河魔法”――グレイシャーバレット!!」
神代文字の力を流しこんだマリナの魔法が炸裂……魔神・毒針蠍は、光へと変わっていく。
「魔神のタフさ、明らかに上がっているな」
Sランク武具で弱点を突きでもしない限り、楽に倒せそうにない。
○おめでとうございます。魔神・毒針蠍の討伐に成功しました。
「やったな、マリナ」
「初めて使う武器って緊張するけれど、上手くいって良かった」
エリューナさんとハイタッチをするマリナ。
○ボス撃破特典。以下から一つをお選びください。
★毒針蠍の針 ★猛毒魔法のスキルカード
★砂隠れのスキルカード ★毒針蠍の尻尾
「イマイチ、パッとしたのが無いな」
何かと利用率が高い、魔法のスキルカードを選んでおくか。
「“砂隠れ”と言うのは、砂が無ければ意味が無いんだったな……これにするか」
エリューナさんはなにを選んだのだろう?
「私は、無難に魔法かな」
マリナは、俺と同じらしい……まあ、魔法使いだしな。
○これより、第三十ステージの大樹村に転移します。
●●●
「楽にしてください」
タヌキ獣人のカプアに案内されたのは……崖?
崖のような丘の上には建物が見えているけれど……崖には複数の滝が流れており、玄関扉と思われる物は正面の滝の裏……崖下にあった。
「どうぞ」
「狭いですね。というか、凄く入り組んでます」
ノーザンが、正直すぎる意見を!
「ハハ、レギオン戦を意識して購入しましたから。まあ、購入者の趣味でもあるんですけれど」
ということは、他に家の持ち主が居るということ。
「“崖の中の隠れ家”と言います。一階は好きに使って構いません。寝室は三階からになります。ただ、すみませんが四階から上には立ち入らないでください」
「分かりました」
「匿って貰えるだけでも有り難いですから」
私だって、ご主人様との居住空間に部外者が入ってくるのは耐え難い。
「カプア、そちらの方達って……」
やたら幼そうな、淑やかそうな女の子が現れる……異世界人か。
「昨日話した人達です。奴等に捕まってしまったため、勝手に連れて来てしまいました。申し訳ありません、ウララ様」
彼女が傍に寄ってくると、恭しく傅くカプア。
この二人の関係は……まさしく主従のよう。
「私はウララ。カプアのパーティーリーダーよ」
「私はトゥスカです」
「ノーザンと言います」
こうして見ると、ノーザンよりも小さい……バニラと同じくらいの背丈。
「今日はもう暗いですし、ゆっくりしていってね~」
天真爛漫な笑顔に、こちらの心が洗われるよう……サトミとは違うタイプの魔性の女かも。
「三階までの設備を、一通り案内します」
「その前に……只で助けたわけではありませんよね? そちらが私達に望んでいるのはなんなのです?」
戦力として期待されているのは分かるけれど、この辺りをハッキリさせないと安心して眠れる気がしない。
「我々レジスタンスの目的は、《獣人解放軍》の壊滅です。あのように、奴等は獣人以外の人間の命をなんとも思っていません」
「レジスタンスには色んな考えの人達が集まっているけれど、レジスタンスの中枢メンバーは過激派なの」
「半数は、自分達の身を守るために参加しているという感じですね」
じゃあ、本当に寄せ集めの集団なんだ。
「それで、貴女方の目的は?」
さっきのは、あくまでレジスタンスとしての意見。彼女達じゃない。
「それは……」
「私から話すわ、カプア」
ウララが、悲しそうな顔を浮かべる。
「私達は、このゲームをクリアしてある願いを叶えたいの」
「ある願い?」
「そのためには、“獣の聖域”を封鎖している《獣人解放軍》をどうにかしなければならない」
「つまり、私達に戦力になって欲しいと?」
「私とカプアだけじゃ、仮にここを突破できてもいずれ詰んでしまう。だから、滞在ペナルティーの軽いこの場所で、信用できそうな人たちを探して貰っていたの。同時に、ゲーム攻略に積極的な人達を」
ブラフなのか、アッサリと二人だけのパーティーであることを打ち明けましたね。
「……確かに私達には、ゲーム攻略への強い意思はあります。その点では協力出来るかと。ですが……」
「ウララ様、彼女達は先日のアップデートの影響で、突然このステージにやって来たそうです」
カプアが説明してくれる。
「そうだったの……それは、さぞ不安だったでしょう」
「ええ、まあ」
「僕達のリーダーは、今このステージにはいません。なので、僕達だけでは決めかねます」
ノーザンの言うとおりだった。
「そう……ですか」
「今日はもう遅いわ、カプア。続きは明日にしましょう」
「そうですね、ウララ様」
この二人、果たしてどこまで信用して良いのか。
妖艶な氷の魔女を倒したのち、俺達三人はボス部屋前まで辿り着いていた。
「ステージギミックは、徐々に床に砂が溜まっていくこと。時間が経つと、砂の中に隠れたりもするらしい」
「よし、さっさと終わらせて、今日はゆっくり休むぞ!」
エリューナさん、眠すぎてハイになってないか?
「マリナは、準備オーケーか?」
「ええ、任せて!」
意気込むマリナの手には、先程手に入れた“氷河の魔槍杖”が。
「よし、行くぞ!」
いつものボス部屋に入ると、奥に赤紫色のライン光が走り、赤黒い巨石のボスが動き出す。
見た目は巨大な蠍だけれど、頭の辺りに、蠍の意匠の甲冑を着たような人間の上半身がくっ付いている。
すぐに魔神の左右上部の天井から大量の砂が落ちてきて、床を……結構多いな、砂。
「“空遊滑脱”!」
空を駆けるエリューナさんを追い、俺も前へ!
「“吹雪魔法”――ブリザードトルネード!!」
「“大地讃頌”!!」
上と下からの同時攻撃により、動きを止める魔神!
「“飛王剣”!」
「“神代の剣影”――ハイパワースラッシュ!!」
俺の斬撃とエリューナさんの青白い鞭剣が、魔神の身体を削っていく!
手脚を狙い、とにかく機動力を削ぐことに重点を置く攻めを繰り返す。
「“氷河魔法”――グレイシャーランス!!」
氷と水の二種属性である魔法で、マリナに弱点を突いてもらう!
氷水の巨槍は左胸に突き刺さるも、魔神の動きが激しくなるだけ。
『ギジュギジュジュウ!!』
魔法陣を展開して――毒液を放ち始めた!
しかも、マリナを狙っている!
「“硝子魔法”――グラスシェルター!!」
半球状の透明な障壁で、毒液を防ぐマリナ。
「私を無視するとは良い度胸だ! ――“業王脚”!!」
エリューナさんが魔神の頭を蹴り上げ、僅かに浮いた蠍の――腹部分に潜り込む!
「――“拒絶領域”!!」
下から円柱状の衝撃波を食らわせ、その巨体を僅かに弾き上げる!
「”氷河騎槍”――“氷河槍術”、グレイシャーストライク!!」
大きな衝撃と冷気――マリナの一撃が、魔神の正面に炸裂したらしい!
「“神代の剣”――ハイパワーブレイド!!」
刀身を伸ばし、蠍の腹を幾重にも切り裂く!
「砂が!」
もうこんな所にまで。
あっという間に足を包まれそうになったため、急いで空へと逃れる。
「“氷河魔法”――グレイシャーバレット!!」
神代文字の力を流しこんだマリナの魔法が炸裂……魔神・毒針蠍は、光へと変わっていく。
「魔神のタフさ、明らかに上がっているな」
Sランク武具で弱点を突きでもしない限り、楽に倒せそうにない。
○おめでとうございます。魔神・毒針蠍の討伐に成功しました。
「やったな、マリナ」
「初めて使う武器って緊張するけれど、上手くいって良かった」
エリューナさんとハイタッチをするマリナ。
○ボス撃破特典。以下から一つをお選びください。
★毒針蠍の針 ★猛毒魔法のスキルカード
★砂隠れのスキルカード ★毒針蠍の尻尾
「イマイチ、パッとしたのが無いな」
何かと利用率が高い、魔法のスキルカードを選んでおくか。
「“砂隠れ”と言うのは、砂が無ければ意味が無いんだったな……これにするか」
エリューナさんはなにを選んだのだろう?
「私は、無難に魔法かな」
マリナは、俺と同じらしい……まあ、魔法使いだしな。
○これより、第三十ステージの大樹村に転移します。
●●●
「楽にしてください」
タヌキ獣人のカプアに案内されたのは……崖?
崖のような丘の上には建物が見えているけれど……崖には複数の滝が流れており、玄関扉と思われる物は正面の滝の裏……崖下にあった。
「どうぞ」
「狭いですね。というか、凄く入り組んでます」
ノーザンが、正直すぎる意見を!
「ハハ、レギオン戦を意識して購入しましたから。まあ、購入者の趣味でもあるんですけれど」
ということは、他に家の持ち主が居るということ。
「“崖の中の隠れ家”と言います。一階は好きに使って構いません。寝室は三階からになります。ただ、すみませんが四階から上には立ち入らないでください」
「分かりました」
「匿って貰えるだけでも有り難いですから」
私だって、ご主人様との居住空間に部外者が入ってくるのは耐え難い。
「カプア、そちらの方達って……」
やたら幼そうな、淑やかそうな女の子が現れる……異世界人か。
「昨日話した人達です。奴等に捕まってしまったため、勝手に連れて来てしまいました。申し訳ありません、ウララ様」
彼女が傍に寄ってくると、恭しく傅くカプア。
この二人の関係は……まさしく主従のよう。
「私はウララ。カプアのパーティーリーダーよ」
「私はトゥスカです」
「ノーザンと言います」
こうして見ると、ノーザンよりも小さい……バニラと同じくらいの背丈。
「今日はもう暗いですし、ゆっくりしていってね~」
天真爛漫な笑顔に、こちらの心が洗われるよう……サトミとは違うタイプの魔性の女かも。
「三階までの設備を、一通り案内します」
「その前に……只で助けたわけではありませんよね? そちらが私達に望んでいるのはなんなのです?」
戦力として期待されているのは分かるけれど、この辺りをハッキリさせないと安心して眠れる気がしない。
「我々レジスタンスの目的は、《獣人解放軍》の壊滅です。あのように、奴等は獣人以外の人間の命をなんとも思っていません」
「レジスタンスには色んな考えの人達が集まっているけれど、レジスタンスの中枢メンバーは過激派なの」
「半数は、自分達の身を守るために参加しているという感じですね」
じゃあ、本当に寄せ集めの集団なんだ。
「それで、貴女方の目的は?」
さっきのは、あくまでレジスタンスとしての意見。彼女達じゃない。
「それは……」
「私から話すわ、カプア」
ウララが、悲しそうな顔を浮かべる。
「私達は、このゲームをクリアしてある願いを叶えたいの」
「ある願い?」
「そのためには、“獣の聖域”を封鎖している《獣人解放軍》をどうにかしなければならない」
「つまり、私達に戦力になって欲しいと?」
「私とカプアだけじゃ、仮にここを突破できてもいずれ詰んでしまう。だから、滞在ペナルティーの軽いこの場所で、信用できそうな人たちを探して貰っていたの。同時に、ゲーム攻略に積極的な人達を」
ブラフなのか、アッサリと二人だけのパーティーであることを打ち明けましたね。
「……確かに私達には、ゲーム攻略への強い意思はあります。その点では協力出来るかと。ですが……」
「ウララ様、彼女達は先日のアップデートの影響で、突然このステージにやって来たそうです」
カプアが説明してくれる。
「そうだったの……それは、さぞ不安だったでしょう」
「ええ、まあ」
「僕達のリーダーは、今このステージにはいません。なので、僕達だけでは決めかねます」
ノーザンの言うとおりだった。
「そう……ですか」
「今日はもう遅いわ、カプア。続きは明日にしましょう」
「そうですね、ウララ様」
この二人、果たしてどこまで信用して良いのか。
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