ダンジョン・ザ・チョイス

魔神スピリット

345.狸獣人のカプア

「――おりゃリャリャリャリャリャリャ!!」
「あの……」

 魔法使いであるはずのナオさんが、杖を捨てて青と赤の鮮やかなガントレットと“ドラゴンナックルバスター”で、ディザストスビッグフットと正面からの殴り合いを始めてしまう。

 どうして物理が有効な相手を魔法使いであるナオさんが担当して、魔法が有効なミストオーブを戦士である私が対処する流れに?

「仕方ありませんね」

 霧による触手のような攻撃を転がるように避け、覚悟を決める。

「良いですよ、来てください」

 ”一輪の華花への誓い”に三文字刻み、霧の触手を切り払っていく!

「“天使法術”――ヘブンランサー!!」

 複数の光の槍を操り、本体の霧を大きく散らす!

 核を持つ敵……船の上で最後に戦った、巨大スライムみたいなモンスターを思い出しますね。

「行きます」

 ザッカルさんが二十ステージの突発クエストの最後に殺した人間の名前は……私にとっての因縁の相手と同じ名前だった。

 お礼代わりにと、私を抱こうとした恥知らず。

 只の同名という線もあり得るけれど、あのような志も無い薄っぺらい人間達が、この先に進んで居るとは思えない。

 だから――今の私は、とても清々しい気分なんです!

「ハァッ!!」

 霧を払いながら、接近していく!

 人の死を望むなんて、不謹慎だと思って居ました。

 でも、コセさんと一つになれたことで、そんなお為ごかしで生きていたってなんの意味も無いんだって――心で気付けたから!!

「”尖衝武装”」

 誓いの剣に、万物を貫くための赤い光を纏わせる!

「“瞬足”――“跳弾”!」

 背後に回ったのち、一気に距離を詰める!


「ハイパワープリック!!」


 霧の守りを突破し、核となっている部分に切っ先を届かせ――霧に邪魔されて、貫通出来ずに半ばで止められてしまっている!

 私はもう――――こんな所で止まらない!


 ――自分の意思で進むって、誓いを立てたのだから!!


「――ハァァァァァァァァァッッッ!!!」

 “一輪の華花への誓い”に六文字刻まれ――一回り大きい“大輪の花華への誓い”へ!!

「……ハアハア、ハアハア」

 意識が持っていかれそうな感覚と引き換えに発揮した力で、ミストオーブの中枢を完全に貫き……砕く事が出来ました。

「や、やれました」

 私も、ナオさん達みたいに限界を超えられた。

「――“深海重圧”!!」

 文字の力を流しこんだ水の掌底を左手で見舞い、ディザストスビッグフットにトドメを刺したナオさん。

 そのガントレットには、神代文字が九文字。

「ハアハア……追っ掛け甲斐がありますね」

 アイドルとしての高見を目指すより、ずっとやり甲斐を感じている私が居ます。

○“ミストオーブのスキルカード”を手に入れました。

○“ディザストスビッグフットのスキルカード”を手に入れました。

○”災禍の霧の宝珠”を手に入れました。


●●●


「ガルルルガァァァァッッ!!」

 霧の中から現れた黒衣の人型モンスター、“ウィクショナリー”とバニラが激しい剣戟を繰り広げる。

 ウィクショナリーの得物は、“処刑人のカタール”Aランク。

 アオイが使う“ドラゴンジャマダハル”と同種の、紫の刃持つ黒い剣。

『コォォ』

 “処刑人のカタール”の刃が発光し、二メートル程の長さへ。

『コォォォ!!』

「――ガルルルルルルルッッ!!」

 四つん這い状態からの凄まじい瞬発力により、“愚劣な無我の境剣”が“処刑人のカタール”を力尽くで押し込み――ウィクショナリーの頭から肋骨の当たりまで切り裂いた!

「……凄い」

 バニラのスキルや装備の構成上、当然かもしれないけれど……上位のモンスターの身体能力を、正面から凌駕してしまうなんて。

「アオーーーーーーン!!」

 勝利の遠吠えを上げる赤髪の少女、バニラ。

 ……まるで狼だ。

 バニラが言葉を発せるなら、“半ベルセルク”とカムイ系のサブ職業を使わせてあげたかった。

「ジュリー、霧が!」

 六度目の戦闘が終わり、周りの霧が晴れていく。

「もう、モンスターは出ないね」

 枯れていた木の葉が地面を覆っている中、安全エリアがこの辺り一帯に発生。

 その向こう側には黒い巨石の壁と、真っ暗な洞窟の入り口。

「今日はここまでだよ、モモカ、バニラ」

 日が傾き始めた頃、私達は“神秘の館”に帰還した。

○“処刑人のカタール”を手に入れました。
○“処刑人”のサブ職業を手に入れました。


●●●


「では、そこで大人しくしていてください」
「さっさと全部喋っちゃえば良いのに。フン!」

 私とノーザンを連行した獣人の男女が、牢屋の前から去って行く。

 私達が連れて来られたのは、獣の聖域内にある石の城の一角。

「……心配、掛けてしまいますね、お姉様」

 ノーザンは……思ったよりは落ち着いている。

「隙を見て魔法の家の鍵は破棄したけれど……これで、仲間と連絡を取る手段は無くなってしまった」

 向こうに攻め込ませるわけにはいかなかったし、たとえ連絡が出来ても……不安にさせてしまうだけだったでしょう。

 今は、出来る限りご主人様に余計な負担を掛けたくない。

「彼等は、今の所は私達に危害を加えるつもりはありません。同族を異様に特別視しているみたいでした」

「とはいえ、黙秘を続けていたらどうなるか」

 周りは格上ばかり……ご主人様のおかげで私達のLvは上がっているけれど、二人だけじゃどうにもならない。

「ノーザン、敵の数はどれくらいか分かる?」

「最低でも百人以上。ここに居る獣人の大半は戦い慣れしているでしょうから、ほぼ全員が襲ってくるかと」

「ぅぅ……ぅぅぅぅ……」

 隣の牢から、女の苦しむような呻き声?

「……――誰か来る!」
「シ、静かに」

 音もなく現れたのは、黒フードを被った獣人。

 牢の前の天井は崩れており、そこから入ってきた様子。

「……誰?」

「タヌキ獣人のカプアと言えば、貴女方でも分かるのでは?」

「……反攻勢力の幹部という噂は」

 レギオン、《獣人解放軍》に敵対している寄せ集めの勢力。

「幹部というのは誤解なのですが……この数日、貴女方の同行を窺っていました。今なら信用できると判断したのです」

 そう言いながら、鍵を開けてくれるカプア。

「一先ずは安全な場所へ」
「あの、隣の人は助けないんですか?」

 ノーザンが尋ねる。

「彼女は情緒が不安定で、貴女方と同じように突然牢屋の中に現れたそうです」

「突然?」

 私達以外にも、そんな人間が。

「解放軍の人間達は、獣人以外は問答無用で殺します。なにより、戦えない者を助けている余裕はこちらにはありません」

「分かりました」

「では、さっそく行きましょう」

 鍵を使い、空間を魔法の家に繋げるカプア。

「……選択肢は無いか」

 カプアの招きに従い、私達は彼女の敷地内に足を踏み入れる。

「ぅぅぅ……jf4pん4」

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