ダンジョン・ザ・チョイス

魔神スピリット

340.不穏な予兆

「結構集まったな」

 エリューナさんと俺、マリナで集めたスキルカ-ドとサブ職業のメダルの束。

 それらを、一先ず安全エリアでざっと確認していた。

「やっぱり、ほとんど魔法のカードですね」

 “氷砕魔法”に“砂鉄魔法”……初めて聞く名前が少なくない。

「全部が全部じゃないんだ」

「こっちは“法修練の指輪”だってさ」

 マリナに渡す。

「どういうアイテム?」
「MP消費を九割にして尚かつ、魔法の威力を一割上げてくれる“法修練”の効果があるみたいだ」

 魔法使い専用ってわけじゃないみたいだけれど、地味に有り難い効果だな。

「じゃ、じゃあ貰うね」

 さり気なく、左手の薬指に嵌めるマリナ。

「こっちは”吹雪王の指輪”ですね。どうぞ、エリューナさん」

「え? ああ……ありがとう」

 なんだか遠慮がちだな。

「あとは……“好摩の杖”、Sランク……Sランク!?」

 つい変な声を出してしまった!

「見た目は、しょぼい杖にしか見えないがな」

 エリューナさんが、身も蓋もない事を言ってしまう。

「どうやら、回復系の魔法の効能を上げてくれるみたいです。ただ……」
「おい、どうした?」
「いやぁ……」

 内容が言い辛いんだが。

「どうやら、結婚している相手に対してならMP消費無しになるみたいです。特に、婚姻の指輪のランクが高い方が回復効果を上げてくれるみたいで」

 結婚していない俺達には、イマイチ恩恵が無い。

「……へー。女が使った場合は、男の他の結婚相手に対してもMP消費がゼロになるんだ。その逆も然りと。フーン」

 痺れを切らしたのか、マリナが自分でライブラリを開いて確認してしまった。

「まあ、取り敢えずマリナに渡しておいた方が良いだろう」

「ですね……」

 なんだかこれじゃあ、俺が二人に対して結婚した方が得だよって喧伝したみたいじゃないか!

「もうすぐ16時……こっからどうする?」

「私としては、出来れば今夜はベッドで眠りたいな」
「私とは違う部屋でだろう?」
「そ、そういうわけじゃ!」

 もう一生、マリナはこの手のことでエリューナさんにからかわれそうだな。

「ここは時間帯で明るさが変わるわけじゃないし、よければもう少し先に進みたいんですけれど……」

 エリューナさんを窺う。

「良いさ。私も、次の村か町でゆっくり休みたいと言ったばかりだしな」

「決まりね」

 俺達は三人で、魔女の山内部を更に下っていく事にした。


◇◇◇


『バグは修正、沈静化しつつあるが、見落としているカ所は否めんか。手の施し用が無い物もあるが』

 今回の乱れようは、前回の比ではないな。

『面倒な……ほう?』

 私に連絡を寄越してきたのは、派手好きで有名なブルーノ君か。

 彼の企画は、視聴者達からの受けが良い。

『どうかしたかね、ブルーノ君』

『おお、オッペンハイマー様。実は、良いイベントを思い付きましてなー。かなり大掛かりなため、わしの一存では決められんのですよ』

『ほう』

 彼が大掛かりなどと口にするとは。

『まだまだ調整が必要ですが、一応はシステムの審査を通過しましてね。例の奴等のアドバンテージを削りつつ、上手くいけば戦力を削ぎ落とせるようなねー』

『自信があるようだね、ブルーノ君。良いだろう、詳しく聞こうじゃないか』

『Lv54で得られるアレに、少々手を加える許可を頂きたい。他のステージ担当にも話を通す必要もありましてねー。こちらが企画内容となります』

 送られてきたデータに、少々困惑してしまう。

『良く、システムの審査を通った物だ』

 だが、悪くない。

『これは不平等が生まれかねない内容だ。ほぼ、全ステージで似たような事をする必要が出て来るだろう』

『やはりそうなりますか』

『良いだろう。私が指揮を取り、君の企画を元にした一大イベントを実現させてあげようじゃないか』

 私の個人的な計画も、順調そうだしね。

『ありがとうございます、オッペンハイマー様』

『ククククク!』

 ダンジョン・ザ・チョイスが不安定な状態でこんな企画を推し進めればどうなるか解らないが……だからこそ面白い!

『せっかくだ。なんらかの形で、レプティリアンの方々も巻き込んで差し上げよう』

 少々調子に乗りすぎているようだしね。


●●●


「第三十六ステージ、“獣の聖域”ですか」

 ノーザンが、街の中央にある噴水の前で呟く。

「厄介ですね、レギオン、《獣人解放軍》」
「ええ」


 このステージで手に入れられる獣人専用の強化手段、その術を得るための場所を奴等に完全に押さえられている。

「このままご主人様達がここまで来た場合、問答無用の殺し合いが起きかねない」

 獣人以外に対しては、極端な差別意識を持っている事がこの数日でよく分かったから。

「……ノーザン」
「はい、お姉様」

 武器に意識を巡らせながら、近付いてくる一団を警戒する。

「トゥスカさんにノーザンさんでしたね」

 完全武装した獣人六人に、やんわりと囲まれてしまう。

 万が一にも、こっちの反撃を警戒しているって感じですね。

「祭壇の警備をしている者達に確認したところ、貴女方が祭壇を通ったという記録がありません」

 祭壇上部に常に人が居ると思えば……入国管理でもしているつもり?

「どういう事か、説明して頂けますか?」

 ここで逃げれば、立場が悪くなる。

 この半端な融和的状態……気持ち悪い。

「先日のアップデート中、事故で靄に落ちてしまいました。気付けばここに。信じては貰えないかもしれませんが」

「一応、筋は通って居ますね。確かめようがないので、信じるわけには参りませんが」

 欠片も信じて無さそう。

「ところで、ご結婚されてるのですね」
「……ええ」
「”最高級の婚姻の指輪”。当然、ご主人は立派な獣人なのでしょう」

 ジワジワと全身に針を挿れられているような感じ……憎悪すら込み上げてくる。

「今日中に、ご主人に会わせて頂く事は可能でしょうか?」

「いえ、今必死にこのステージを目指している最中でして」
「そうですか……では――お二人に奴隷の印があるかどうかだけ確認させて頂けませんか? もちろん、こちらの女性に確認させますので」

 これは――マズい!


「――動くな」
 

 一瞬で、私とノーザンの首元に武器が!

 六人とも、かなりの凄腕。

「イスカ、確認を」
「ええ」

 女の獣人に胸元をはだけさせられ、私の奴隷紋を見られてしまう。

「これでほぼ確定ね。コイツらは、他種族の女よ」

「貴女方を連行します。抵抗は無意味です。大人しく付いてきてください」

 ごめんなさい、ご主人様。

 こうなったら……隙を見て一矢報いてやる。

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