ダンジョン・ザ・チョイス
335.蚕の繭地帯とセメタリーコンドル
ヒビキの話が終わること、およそ一時間後。
「ようやく……森を抜けたと思ったら」
今度は、蚕の繭一色のエリアだと!?
そこかしこに蚕の巨大幼虫が居て、真っ白な糸を吐き出しているし!
「蚕の森に続いて、この蚕の繭でも絶対に攻撃しないでね」
「メルシュ、このステージって本当に別れ道は無いの?」
ユリカが尋ねる。
「無いよ。事前に説明した通り、この蚕の繭を抜ければボス部屋前の安全エリアだから」
「なんだか、随分簡単なんですね。攻撃しなければ、ただ歩いて抜ければ良いだなんて」
クマムが、一堂が思っていたであろう事を代弁してくれる。
「攻撃しちゃうと、難易度が劇的に向上しちゃうけれどね。だから、ステージの距離も短めなんだよ。ただ、このステージはこっちから戦いを誘発しない方が得る物が多いから」
戦わない方が得る物が多い……か。何故か耳が痛いな。
「森の倍くらいの距離があるけれど、繭エリアを進む前に休憩する?」
「「「「「このまま進もう!」むぞ!」みましょう!」むべきです!」みたいです!」
全員、さっさとこの光景から抜け出したいらしい。私もだけれど。
パパとママの作った大好きなゲームだけれど、このステージは生理的に無理。
「バニラ、あの芋虫さん達、美味しそうだよね!」
「…………ァゥ」
モモカ、バニラが引いてるぞ!
●●●
「ぅぅ……暑い」
マリナの歩く速度が、少しずつ遅くなってきている。
『お尻が痛くならなきゃ、もっと楽に行けたのに……』
最初は嫌がっていたエリューナさんが、馬に乗って楽をしたがるとは。
もっとも暑い時刻に三人で空を歩いているため、気持ちは良く分かってしまう。
「大分山が近付いてきていますから、頑張りましょう」
馬の走る際の衝撃に、俺達はすっかりお尻や股を痛めてしまったのだ。
地面を歩くよりは暑さがマシということで、俺達は昨日に引き続き空中散歩を楽しんでいる。
「ハアハア……魔法の家の有り難みが、良く分かるな」
ここまでに安全エリアは二カ所あったけれど、厳しい暑さかつ荒野の真っ只中だったため、あまり休めては居ない。
魔法の家に戻れれば、涼みながらゆったりと休むことも出来ただろうに……とんだ縛りプレイだ。
「もしどこかで家を買えるなら、誰か契約してみます?」
『私は契約済みだから、一度売却しないと無理だ』
魔法の家って……売却出来るんだ。
「マリナは?」
「私も。今コトリ達が使っているのは、私の家だから」
「ここに居る三人とも、持ち家があるのか」
靄に落ちたのに家に戻れるトゥスカとノーザン、ザッカルも、持ち家を持っていない。
もしかして……俺達が魔法の家の領域に入れないのは、魔法の家と契約している人間だから?
契約している人間が靄に落ちたからこそ、俺達だけが魔法の家を利用できないというバグに見舞われているとしたら……筋は通ってる。
『クソ、何か来るぞ』
「あれは……鷹か?」
「セメタリーコンドルだって。かなり大型のモンスターみたい!」
マリナがチョイスプレート……ライブラリを見て確認したのか。
「弱点属性とかは?」
モンスターについては、ほとんどライブラリで確認していなかったな。
「倒してみないと、表示されないんだと思う」
『戦闘前だからとか、まだ距離があるからという線もあるな』
二人の意見は、どっちもあり得る物だった。
さすがに、ライブラリシステムはメルシュ程便利ではないか。
『私が仕掛ける! “吹雪魔法”――ブリザード!!』
とにかく広範囲に攻撃して、様子を見ようって腹か。
「動きが鈍った!」
「“熱光線”!!」
マリナが放った白熱の閃光が、セメタリーコンドルの一羽を貫いて落下させる。
『見た目ほど強くは無いようだな――“飛剣・靈光”!』
「“飛王剣”!!」
反応も遅く、俺とエリューナさんの斬撃で二羽ずつ切り裂いた。
「灰色のオーラを?」
一定以上接近してきたからか、オーラを纏い――獰猛さと共に速度も増した!?
「“閃光魔法”――フラッシュレイ!!」
光の針が扇状に広がり、セメタリーコンドルの身体に僅かなダメージを与えるも――まったく動きが衰えない!
全部に対処しようとしたら、後手に回ってしまう!
「武器交換――”ケラウノスの神剣”」
サトミから貰った剣に、久し振りに持ち替える!
「”雷霆魔法”――ケラウノススプランター!!」
広範囲に轟雷を放ち、掠っただけでもセメタリーコンドルを焦がし尽くす!
「魔法使いじゃない俺が放っても、この威力か」
さすがSランク武器というか。
“滅剣ハルマゲドン”程尖ってはいない分、汎用性が高くて助かる。
『まさか、そんな物まで持っていたとはな』
セメタリーコンドルの全滅を確認したのち、エリューナさんが強い警戒心を顕わに。
……その仮面の下で、いったいどんな顔を浮かべているのやら。
「またさっきのが出て来たら厄介です。先を急ぎましょう」
その後暫く空を進んだのち、再び馬による移動を開始した俺達。
心持ち、後ろから腕を回すエリューナさんの密着具合が……軽くなっている気がした。
●●●
「ハイ、お疲れー!!」
蚕の繭を抜け、全員で無事にポータルのある安全エリアへと到達したことを告げちゃう!
○蚕達からの感謝の意です。
○蚕達から、“上等なシルク”×6を受け取りました。
ここに居る全員が、同じ物を貰ったはず。
「これって、服の素材か何か?」
ユリカに尋ねられる。
「主に、魔法使い用の服を作るのに用いるね」
「この方法でしか手に入らない特別な物とか?」
今度はナオが。
「蚕の幼虫を倒すと、超低確率でドロップはするけれどね。その場合、この面子でも誰かは死んでたかも」
それくらい、このステージはかなり鬼畜な設定なんだよね。
「ちなみに、火属性による攻撃を加えた個体からは絶対にドロップしないよ。火属性以外の攻撃にはめっぽう強いのに」
火による強力な攻撃手段がない場合、古生代モンスターの群れを相手にするような状態になると言っても過言じゃない。
「じゃあ、凄く貴重な物なんですね」
クマムの言葉。
「この先のステージで買えちゃうけれどね。一つ1000000Gで」
ランクの高い服を作ろうとすると、物によっては六個でも足りない。
「なら、私達の分は私達で使わせてもらうよ」
スヴェトラーナがそう口にする。
「要らないなら買うよ。一つ600000Gで」
「なに?」
「ちなみに、店で売ったら500000Gだよ」
二割アップの手段でもない限り、こっちと取り引きした方が得が出来る提案。
「足元を見てますね。ですが、悪くない取り引きかと」
ルフィルは乗り気らしい。
「それよりボス戦はどうする、メルシュ?」
レリーフェが尋ねてくる。
時刻は、まだ夕方前。
「うーん、皆はどうしたい?」
「やろう!」
「やりましょう!」
「構わないわ」
「良いと思います」
「早くコセに会いたい!」
「アウアウアウ!」
全員、一秒でも早く先に進みたいらしい。
「じゃあ、ボス部屋前で説明するね」
未だかつてないくらいのハイペースで進む攻略。
あのタイミングでマスターが居なくなったことに、やっぱり運命を感じちゃうな。
「ようやく……森を抜けたと思ったら」
今度は、蚕の繭一色のエリアだと!?
そこかしこに蚕の巨大幼虫が居て、真っ白な糸を吐き出しているし!
「蚕の森に続いて、この蚕の繭でも絶対に攻撃しないでね」
「メルシュ、このステージって本当に別れ道は無いの?」
ユリカが尋ねる。
「無いよ。事前に説明した通り、この蚕の繭を抜ければボス部屋前の安全エリアだから」
「なんだか、随分簡単なんですね。攻撃しなければ、ただ歩いて抜ければ良いだなんて」
クマムが、一堂が思っていたであろう事を代弁してくれる。
「攻撃しちゃうと、難易度が劇的に向上しちゃうけれどね。だから、ステージの距離も短めなんだよ。ただ、このステージはこっちから戦いを誘発しない方が得る物が多いから」
戦わない方が得る物が多い……か。何故か耳が痛いな。
「森の倍くらいの距離があるけれど、繭エリアを進む前に休憩する?」
「「「「「このまま進もう!」むぞ!」みましょう!」むべきです!」みたいです!」
全員、さっさとこの光景から抜け出したいらしい。私もだけれど。
パパとママの作った大好きなゲームだけれど、このステージは生理的に無理。
「バニラ、あの芋虫さん達、美味しそうだよね!」
「…………ァゥ」
モモカ、バニラが引いてるぞ!
●●●
「ぅぅ……暑い」
マリナの歩く速度が、少しずつ遅くなってきている。
『お尻が痛くならなきゃ、もっと楽に行けたのに……』
最初は嫌がっていたエリューナさんが、馬に乗って楽をしたがるとは。
もっとも暑い時刻に三人で空を歩いているため、気持ちは良く分かってしまう。
「大分山が近付いてきていますから、頑張りましょう」
馬の走る際の衝撃に、俺達はすっかりお尻や股を痛めてしまったのだ。
地面を歩くよりは暑さがマシということで、俺達は昨日に引き続き空中散歩を楽しんでいる。
「ハアハア……魔法の家の有り難みが、良く分かるな」
ここまでに安全エリアは二カ所あったけれど、厳しい暑さかつ荒野の真っ只中だったため、あまり休めては居ない。
魔法の家に戻れれば、涼みながらゆったりと休むことも出来ただろうに……とんだ縛りプレイだ。
「もしどこかで家を買えるなら、誰か契約してみます?」
『私は契約済みだから、一度売却しないと無理だ』
魔法の家って……売却出来るんだ。
「マリナは?」
「私も。今コトリ達が使っているのは、私の家だから」
「ここに居る三人とも、持ち家があるのか」
靄に落ちたのに家に戻れるトゥスカとノーザン、ザッカルも、持ち家を持っていない。
もしかして……俺達が魔法の家の領域に入れないのは、魔法の家と契約している人間だから?
契約している人間が靄に落ちたからこそ、俺達だけが魔法の家を利用できないというバグに見舞われているとしたら……筋は通ってる。
『クソ、何か来るぞ』
「あれは……鷹か?」
「セメタリーコンドルだって。かなり大型のモンスターみたい!」
マリナがチョイスプレート……ライブラリを見て確認したのか。
「弱点属性とかは?」
モンスターについては、ほとんどライブラリで確認していなかったな。
「倒してみないと、表示されないんだと思う」
『戦闘前だからとか、まだ距離があるからという線もあるな』
二人の意見は、どっちもあり得る物だった。
さすがに、ライブラリシステムはメルシュ程便利ではないか。
『私が仕掛ける! “吹雪魔法”――ブリザード!!』
とにかく広範囲に攻撃して、様子を見ようって腹か。
「動きが鈍った!」
「“熱光線”!!」
マリナが放った白熱の閃光が、セメタリーコンドルの一羽を貫いて落下させる。
『見た目ほど強くは無いようだな――“飛剣・靈光”!』
「“飛王剣”!!」
反応も遅く、俺とエリューナさんの斬撃で二羽ずつ切り裂いた。
「灰色のオーラを?」
一定以上接近してきたからか、オーラを纏い――獰猛さと共に速度も増した!?
「“閃光魔法”――フラッシュレイ!!」
光の針が扇状に広がり、セメタリーコンドルの身体に僅かなダメージを与えるも――まったく動きが衰えない!
全部に対処しようとしたら、後手に回ってしまう!
「武器交換――”ケラウノスの神剣”」
サトミから貰った剣に、久し振りに持ち替える!
「”雷霆魔法”――ケラウノススプランター!!」
広範囲に轟雷を放ち、掠っただけでもセメタリーコンドルを焦がし尽くす!
「魔法使いじゃない俺が放っても、この威力か」
さすがSランク武器というか。
“滅剣ハルマゲドン”程尖ってはいない分、汎用性が高くて助かる。
『まさか、そんな物まで持っていたとはな』
セメタリーコンドルの全滅を確認したのち、エリューナさんが強い警戒心を顕わに。
……その仮面の下で、いったいどんな顔を浮かべているのやら。
「またさっきのが出て来たら厄介です。先を急ぎましょう」
その後暫く空を進んだのち、再び馬による移動を開始した俺達。
心持ち、後ろから腕を回すエリューナさんの密着具合が……軽くなっている気がした。
●●●
「ハイ、お疲れー!!」
蚕の繭を抜け、全員で無事にポータルのある安全エリアへと到達したことを告げちゃう!
○蚕達からの感謝の意です。
○蚕達から、“上等なシルク”×6を受け取りました。
ここに居る全員が、同じ物を貰ったはず。
「これって、服の素材か何か?」
ユリカに尋ねられる。
「主に、魔法使い用の服を作るのに用いるね」
「この方法でしか手に入らない特別な物とか?」
今度はナオが。
「蚕の幼虫を倒すと、超低確率でドロップはするけれどね。その場合、この面子でも誰かは死んでたかも」
それくらい、このステージはかなり鬼畜な設定なんだよね。
「ちなみに、火属性による攻撃を加えた個体からは絶対にドロップしないよ。火属性以外の攻撃にはめっぽう強いのに」
火による強力な攻撃手段がない場合、古生代モンスターの群れを相手にするような状態になると言っても過言じゃない。
「じゃあ、凄く貴重な物なんですね」
クマムの言葉。
「この先のステージで買えちゃうけれどね。一つ1000000Gで」
ランクの高い服を作ろうとすると、物によっては六個でも足りない。
「なら、私達の分は私達で使わせてもらうよ」
スヴェトラーナがそう口にする。
「要らないなら買うよ。一つ600000Gで」
「なに?」
「ちなみに、店で売ったら500000Gだよ」
二割アップの手段でもない限り、こっちと取り引きした方が得が出来る提案。
「足元を見てますね。ですが、悪くない取り引きかと」
ルフィルは乗り気らしい。
「それよりボス戦はどうする、メルシュ?」
レリーフェが尋ねてくる。
時刻は、まだ夕方前。
「うーん、皆はどうしたい?」
「やろう!」
「やりましょう!」
「構わないわ」
「良いと思います」
「早くコセに会いたい!」
「アウアウアウ!」
全員、一秒でも早く先に進みたいらしい。
「じゃあ、ボス部屋前で説明するね」
未だかつてないくらいのハイペースで進む攻略。
あのタイミングでマスターが居なくなったことに、やっぱり運命を感じちゃうな。
「ファンタジー」の人気作品
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