ダンジョン・ザ・チョイス

魔神スピリット

333.バグ現象

 NPCと融合した化け物プレーヤーとの戦いから一夜明け、私達は皆で朝食を取り終える。

「タマ、本当に大丈夫?」

 昨日失神したタマを気遣うスゥーシャ。

「はい、元気が有り余っているくらいです!」

 笑顔を皆に向けるタマは、憑き物が落ちたかのようだった。

 昨日は、このステージに来てから怯えっぱなしだったのに。

「お、お待たせしました」

 カナが、スヴェトラーナ達を連れて来てくれた。

「……本当に女性しか居ないのですね。それも、こんなに人数が……驚きました」

 モモカとバニラの存在には、さすがに面食らった様子のヒビキ。

「役者も揃ったところで、昨日起きたことを一通り説明し直すね」

 タマが気を失ったのもあって、皆には一通り話してある。

「その前に私から。京極 響、二十歳です。よろしくお願いします」

「よろしく~」
「Lvが高くて年も上みたいだけれど、ここでは新人だからね!」

 サトミとナオが、さっそく話し掛ける。

「五十三ステージに居た割に、随分若いな」

 フェルナンダが尋ねる。

「同じタイミングでこの世界に連れて来られた人間の中では、積極的に攻略に参加していましたから。それでも、五年近く掛けてようやく五十ステージを超えたのです……ここから巻き返すには、二年近く掛かるかもしれません」

 まあ、隠れNPCの助けが無ければ、それくらい時間が掛かって当然か。

 特に、ワイズマンである私の攻略情報が無ければ。

「私達の攻略ペースなら、半年も掛からないと思うよ?」

「……貴女は、この先に待ち受けている危険をなにも分かっていない」

「私はオリジナルプレーヤー。そっちの隠れNPCであるメルシュには、到達したステージの情報をほぼ全て得る能力があるけれど?」

 ジュリーが色々話しちゃう……もしかして、私と同じ事を考えてる?

「それならば……確かに」
「というわけで、三十六ステージでスヴェトラーナ達と縁が切れたら、私達の所に来ない?」

 ユニークスキルに、Sランク武具を複数持つ彼女を勧誘してみる。

「……考えて置きましょう」

 今はまだ、デルタの事とか話せないか。

「それで、昨夜の事とはなんですか?」

 クマムが、私を見ながら尋ねてきた。

「奴隷ショーのNPCと人間が融合して化け物になっていたこと、神代文字の力を使わないとダメージを与えられなかった事は話したけれど……タマに起きた異変について、説明して置きたいことがあるの。お願い、タマ」

「はい。えと……戦っている時にたくさんの人の意識が流れ込んできて、私の身体が操られてしまったんです」
「へ!? それって大丈夫なの!?」

 アヤナが驚愕している。

 昨日の時点では伏せていた情報。

「はい。あの人達は、もう私の中に居ません。たぶん、昨夜戦った男性に恨みを持っていた死者達の念が、私を使って恨みを晴らしたからだと思います」

 サラッと凄いこと言ってるな、タマ。

「そ、それって……ゆ、幽霊?」
「う、嘘でしょう?」

 ナオとアヤナが震えている。

「ねー、あの男の事も含めてだけれど……そんなことが本当にあり得る物なの?」

 スヴェトラーナが尋ねてきた。

「今までにも、ゲームオーバーになった人間の意識をモンスターに移して、突発クエストに出すっていう悪趣味な真似をされた事はあるよ」

「……下郎ですね。その観測者とやらは」

 ヒビキが、静な怒りを滾らせる。

「おそらくだけれど、アップデートが原因のバグのような物が、今のダンジョン・ザ・チョイスには多く発生してるせいだと思う」

 たぶんタマのあれは、色々な物が不安定になっているからこそ起きた奇蹟的な現象。

「タマ、あの現象で変わった事を言ってみて」

「は、はい……へと、まず私の“ホロケウカムイ”のサブ職業ですが、“チャランケカムイ”という物に変化していました」

「「へ?」」

 獣人にしか使えないサブ職業の話だからか、リンピョンとサンヤが分かりやすく反応。

「他にも知らないスキルとか、まったく新しい武器が」

 チョイスプレートを操作し、例の禍々しい槍――”亡者の怨嗟が還る場所”を見せてくれるタマ。

「なんか……生きているみたいだな」
「ヤバそう」

 ルイーサやアオイを始め、皆がそれぞれ何かを感じ取っているみたい。

「タマの新スキルはともかく、その槍と”チャランケカムイ”は、存在しないはずのアイテムだよ」

 どちらも、すぐには“英知の引き出し”で情報を引き出すことが出来なくて、明け方くらいに参照が可能になっていた。

「……幾らなんでも、前代未聞過ぎるな」
「タマ、本当に身体は問題ないの?」

 ジュリーとユリカが心配している。

「はい! むしろ、身体に力が漲っている気さえします!」

「ところでぇ、その槍のランクはぁ、なんでぇすかぁ?」

 クリスティーナが、ついに聞いてくれちゃう!

「それがなんとね――SSランクなんだよね!」

 つい明かしてしまった!

「「「へ!?」」」

「SSランクって、全部で十三しか存在しないんでしょう? 凄いじゃなーい!」

「それどころじゃないよ、サトミ」
「どういうこと?」


「その槍、”亡者の怨嗟が還る場所”は――状況的に、十四番目のSSランク武具である可能性が高いんだよ!」


 ライブラリシステムには全てのアイテムの表示枠が設けられており、所属レギオンメンバーが持っても居なければ見ても居ない物は表示されない。

 けれど、SSランク武具には何故か十四の欄が用意されており、タマの亡者の槍は最後に表示されていた。

 皆が神代文字を切っ掛けに武具を変化させる場合もそうだけれど、今回の現象は似て非なる物。

 しかも、無から有を作り出したといっても良い。

「つまり、偶発的に観測者の意図しない最高位武具を手に入れられたわけだ。やったな、タマ」

 サムズアップするメグミ……なんか珍しい。

「はい、操られた甲斐がありました!」

 タマって、割と天然だよね。

「一人一つしか装備できない、途轍もない性能を秘めているという槍か……どれくらい凄いんだ?」

 メグミに聞かれる。

「それがさ、まだ私にも判らないんだよね。偶発的に生まれた物だからだと思うんだけれど、マスターが魔法の家に戻って来られないのと同様、いずれは解決するとは思う」

 そういう意味では、タマが実戦で使うのはちょっと控えて貰った方が良いかも。

「ところで、そのコセ殿は今どこに?」

 レリーフェが尋ねてくる。

「モモカも知りたい!」
「ガウガウ!!」
「モモカもバニラも、コセの事にしか興味が無いんだから。まったく、一人前のレディーには程遠いわね!」
「まるで、自分は一人前のレディーであるかのような言い方だな」
「なによ」
「なにが?」

 バトルパペットのローザとマリアが喧嘩を始めてしまう……隠れNPCと違って、本物の人形なのに。

「教えてください、メルシュ」
「ご主人様は、今どこに?」

 ノーザンとトゥスカは、特に心配そうだな。

 自分達のせいで危険な目に遭わせているかもっていう、負い目を感じているのかも。

「それがね、今朝の予定していた時間に連絡が取れなかったんだよね。むしろ、スヴェトラーナ達の方に連絡は来てないの?」

 ザッカル達は島を巡っている最中だから、マリナ経由の情報は入って来ないし。

「ノゾミの話だと、昨夜に”荒廃の大地の村”で襲撃を受けたらしいです。かなり手短に説明されたらしくて要領を得ませんが、隙を見て村を出ると」

 ルフィルが説明してくれる。

 てことは、三人だけじゃ太刀打ちするのが難しかったってことに。

「村の外じゃ、安全エリアに居ない限り鍵は使えないか」

 それだと、もう二十九ステージの攻略を始めてるかもしれないんだ。

「よし! 考えても仕方ないし、切り替えていこう!」

「メルシュ、次の攻略の説明を頼む」
「うん!」

 レリーフェに促され、私は二十二ステージについての説明を始めた。

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