ダンジョン・ザ・チョイス
330.十文字槍の戦姫ヒビキ
「ほ、本気かよ……」
廃墟と化した王城にて、男が剣と尖った盾を構え、ボリュームのあるポニーテールにしたヒビキと相対する。
二人とも、本来のフル装備状態。
向こうは重厚な騎士と言った感じで、ヒビキはピンクや赤、橙で固めた和のお姫様のような格好。
ヒビキの着物の背には、真っ赤な流麗の鳳の刺繍が。
「そちらが私に勝てれば、奴隷から解放して貰えるのです。もう少しやる気を出しても良いのでは?」
「お、俺よりもLvが高いくせに、偉そうな事を言うな!」
「確かに、このままでは対等とは言い難いですね……ならば、私はスキルを使いません。サブ職業も全て外しましょう」
チョイスプレートを操作し、本当にサブ職業を外している様子のヒビキ。
「ば、バカにしやがって!」
「そちらとの戦力差を考えれば、これでもまだ不十分かもしれませんが」
どちらも私の奴隷だから、互いに互いの装備やLvは確認できる。
「それじゃあ二人とも、このコインが落ちたら開始だよ」
「勝敗は、互いの死を持って決します。生き残れるのは、どちらか一人だけ」
サンヤとルフィルが説明を終えると、空気が殺伐としていく。
――コインがサンヤの親指に弾き上げられ――床に金属音を響かせた。
「“強化骰子”!」
男がいきなりスキルを使用し、虚空から頭くらいの大きなサイコロが出現……転がっていく。
「よし、ついてる!」
出目は六。数字が大きければ大きい方が良いってわけね。
「俺は“ギャンブラー”のサブ職業持ち。良い出目が出やすいのさ!」
男が薄らと青緑のオーラを纏い、ヒビキに斬り掛かる。
対しヒビキは、黒と見紛うようなダークブラウンの柄の十文字槍を振るって応戦。全て去なしていく。
「見た目以上に重いですね、その剣。よく片手で振るえる物です」
「“万力の腕輪”のおかげで、どんな物も俺には振るう事が出来る!」
確かに、凄まじい迫力。
さすがに、文字の力無しでここまで来るだけはあると。
「悪いが死んでくれよ! “泥土剣術”――ベリアルスラッシュ!!」
「“熱砲線”」
背から片手で扱えるくらいの単発式銃を左手で抜き、横合いから迫る剣の腹に熱線を浴びせ――剣の軌道を下げながら跳躍。
これは迎撃ではなく、次の行動を制限するための攻撃。
だけれど、頭を狙ったヒビキの蹴りが盾で防がれてしまう。
「“破邪十字”!!」
地面から植物が生えるみたいに、光で出来た十字架が生えてきた!
しかも、その十字架が周りにエネルギー波を放っている。
「“魔力砲”!!」
十字架を目眩ましに、巨大な光を放った!?
「あの男、思っていた以上に戦い慣れてる」
「――――“熱砲線”」
“馬上で振るうは十字の煌めき”に神代文字を六文字刻み、銃から発射された熱線を強化!?
「嘘だろう!!? “颶風盾術”――ストームバニッシュ!!」
ピンクの光線を弾き飛ばすも、盾で防がれたか。
六文字……私と同程度には文字の力を引き出せるってわけ。
「鋼鉄の鎚!!」
男が鋼の巨鎚を、右腕に連動する形で生み出す。
「女に負けるかぁぁぁッ!! “攻撃骰子”!!」
再び虚空から現れるサイコロの出目は――五。
するとサイコロが炎に変わり、ヒビキに襲い掛かる。
「――ハッ!!」
文字を刻んだ十文字槍を振るい、炎を切り裂いた。
「死ねぇぇぇぇ!!」
炎の向こうから現れた巨鎚を、銃と槍で受けきるヒビキ。
「もう、全力は尽くしましたか?」
「は?」
――ヒビキの動きがいきなり鋭くなり――銀の甲冑の胸を、十文字槍が貫いた。
「グぅ……クカッ!!」
「スキルが使えないので、無駄に苦しめることになってしまいましたね」
銃から魔力の弾丸を撃ち、眉間を貫いてユタカにトドメを刺すヒビキ。
「思っていたよりも強かったですね、あの男」
「ええ」
本当に、縛り状態のまま勝利してしまうなんてね。
これが、この先に待ち受けている奴らの実力だとしたら……。
「フー……私は合格ですか?」
「ええ、充分すぎるくらいに」
良心の呵責も無さそうだし、本当に慣れているみたい。
「ところで、貴女方のリーダーは女ですか?」
「そうよ?」
「安心しました。男女間のイザコザは、もうウンザリなので」
「もしかして、恋人でもいた?」
「私ではありません。パーティーメンバーに、そういう方が居ましたので」
そう言えば、彼女のレギオンは無くなったんだっけ。
「んじゃ、そろそろ帰ろっか」
「私は、夜は人攫いに狙われてしまいます。城から出たら、すぐに来るかと」
「ソイツらって、そんなに強いの?」
私達よりも格上かもしれない彼女が、一人では太刀打ちできないほどに。
「強くはありません。ただ、時間と共に増えていきます。しかも、数日前の私は消耗していたため、ろくに抵抗も出来ませんでした」
てことは、以前ここに来たときに三日以上滞在していたのが、そのまま適用されたってわけか。
「ところで、貴方はなんのようですか――アルカナ」
ヒビキが十文字槍を向けた先、壊れた柱の影から、ショーの司会をしていた仮面の男が出て来る。
――即座に戦闘態勢に移行する私達。
『いえー、少々アフターサービスをと思いましてねー――ぁぁぁぁぁああああッッ!!!』
仮面はそのままに、男の身体が巨大なゴリラのように膨れ上がっていく!!
「アイツの身体……まるで」
「アップデートとやらの間に見た……靄で出来ている?」
「ええ、この感じはまさしく」
「コイツも、靄に落ちた人間!?」
『落ちたのは、最初のアップデートのときだけれどな~!』
奴が言葉を発すると、軽い衝撃波のような物が!
「どうして、そんな奴が奴隷ショーの司会なんて!」
『どうやら、その司会担当のNPCと混じっちまったみたいでなー。気付いたらこんなになっちまってた。普段はともかく、さっきの奴隷ショーになると強制的に司会をさせられちまうがなー』
「それで、いったいなんのために私達の前に? アフターサービスとおっしゃって居たようですが」
ヒビキが、バカ丁寧な口調で尋ねる。
『なに――そこの女がムカついたからー、お礼しに来てやっただけのことさぁぁsj4vk!!』
「チ、面倒な!」
“栄華の裏の真実”を握り締め、文字を六つ刻む!!
廃墟と化した王城にて、男が剣と尖った盾を構え、ボリュームのあるポニーテールにしたヒビキと相対する。
二人とも、本来のフル装備状態。
向こうは重厚な騎士と言った感じで、ヒビキはピンクや赤、橙で固めた和のお姫様のような格好。
ヒビキの着物の背には、真っ赤な流麗の鳳の刺繍が。
「そちらが私に勝てれば、奴隷から解放して貰えるのです。もう少しやる気を出しても良いのでは?」
「お、俺よりもLvが高いくせに、偉そうな事を言うな!」
「確かに、このままでは対等とは言い難いですね……ならば、私はスキルを使いません。サブ職業も全て外しましょう」
チョイスプレートを操作し、本当にサブ職業を外している様子のヒビキ。
「ば、バカにしやがって!」
「そちらとの戦力差を考えれば、これでもまだ不十分かもしれませんが」
どちらも私の奴隷だから、互いに互いの装備やLvは確認できる。
「それじゃあ二人とも、このコインが落ちたら開始だよ」
「勝敗は、互いの死を持って決します。生き残れるのは、どちらか一人だけ」
サンヤとルフィルが説明を終えると、空気が殺伐としていく。
――コインがサンヤの親指に弾き上げられ――床に金属音を響かせた。
「“強化骰子”!」
男がいきなりスキルを使用し、虚空から頭くらいの大きなサイコロが出現……転がっていく。
「よし、ついてる!」
出目は六。数字が大きければ大きい方が良いってわけね。
「俺は“ギャンブラー”のサブ職業持ち。良い出目が出やすいのさ!」
男が薄らと青緑のオーラを纏い、ヒビキに斬り掛かる。
対しヒビキは、黒と見紛うようなダークブラウンの柄の十文字槍を振るって応戦。全て去なしていく。
「見た目以上に重いですね、その剣。よく片手で振るえる物です」
「“万力の腕輪”のおかげで、どんな物も俺には振るう事が出来る!」
確かに、凄まじい迫力。
さすがに、文字の力無しでここまで来るだけはあると。
「悪いが死んでくれよ! “泥土剣術”――ベリアルスラッシュ!!」
「“熱砲線”」
背から片手で扱えるくらいの単発式銃を左手で抜き、横合いから迫る剣の腹に熱線を浴びせ――剣の軌道を下げながら跳躍。
これは迎撃ではなく、次の行動を制限するための攻撃。
だけれど、頭を狙ったヒビキの蹴りが盾で防がれてしまう。
「“破邪十字”!!」
地面から植物が生えるみたいに、光で出来た十字架が生えてきた!
しかも、その十字架が周りにエネルギー波を放っている。
「“魔力砲”!!」
十字架を目眩ましに、巨大な光を放った!?
「あの男、思っていた以上に戦い慣れてる」
「――――“熱砲線”」
“馬上で振るうは十字の煌めき”に神代文字を六文字刻み、銃から発射された熱線を強化!?
「嘘だろう!!? “颶風盾術”――ストームバニッシュ!!」
ピンクの光線を弾き飛ばすも、盾で防がれたか。
六文字……私と同程度には文字の力を引き出せるってわけ。
「鋼鉄の鎚!!」
男が鋼の巨鎚を、右腕に連動する形で生み出す。
「女に負けるかぁぁぁッ!! “攻撃骰子”!!」
再び虚空から現れるサイコロの出目は――五。
するとサイコロが炎に変わり、ヒビキに襲い掛かる。
「――ハッ!!」
文字を刻んだ十文字槍を振るい、炎を切り裂いた。
「死ねぇぇぇぇ!!」
炎の向こうから現れた巨鎚を、銃と槍で受けきるヒビキ。
「もう、全力は尽くしましたか?」
「は?」
――ヒビキの動きがいきなり鋭くなり――銀の甲冑の胸を、十文字槍が貫いた。
「グぅ……クカッ!!」
「スキルが使えないので、無駄に苦しめることになってしまいましたね」
銃から魔力の弾丸を撃ち、眉間を貫いてユタカにトドメを刺すヒビキ。
「思っていたよりも強かったですね、あの男」
「ええ」
本当に、縛り状態のまま勝利してしまうなんてね。
これが、この先に待ち受けている奴らの実力だとしたら……。
「フー……私は合格ですか?」
「ええ、充分すぎるくらいに」
良心の呵責も無さそうだし、本当に慣れているみたい。
「ところで、貴女方のリーダーは女ですか?」
「そうよ?」
「安心しました。男女間のイザコザは、もうウンザリなので」
「もしかして、恋人でもいた?」
「私ではありません。パーティーメンバーに、そういう方が居ましたので」
そう言えば、彼女のレギオンは無くなったんだっけ。
「んじゃ、そろそろ帰ろっか」
「私は、夜は人攫いに狙われてしまいます。城から出たら、すぐに来るかと」
「ソイツらって、そんなに強いの?」
私達よりも格上かもしれない彼女が、一人では太刀打ちできないほどに。
「強くはありません。ただ、時間と共に増えていきます。しかも、数日前の私は消耗していたため、ろくに抵抗も出来ませんでした」
てことは、以前ここに来たときに三日以上滞在していたのが、そのまま適用されたってわけか。
「ところで、貴方はなんのようですか――アルカナ」
ヒビキが十文字槍を向けた先、壊れた柱の影から、ショーの司会をしていた仮面の男が出て来る。
――即座に戦闘態勢に移行する私達。
『いえー、少々アフターサービスをと思いましてねー――ぁぁぁぁぁああああッッ!!!』
仮面はそのままに、男の身体が巨大なゴリラのように膨れ上がっていく!!
「アイツの身体……まるで」
「アップデートとやらの間に見た……靄で出来ている?」
「ええ、この感じはまさしく」
「コイツも、靄に落ちた人間!?」
『落ちたのは、最初のアップデートのときだけれどな~!』
奴が言葉を発すると、軽い衝撃波のような物が!
「どうして、そんな奴が奴隷ショーの司会なんて!」
『どうやら、その司会担当のNPCと混じっちまったみたいでなー。気付いたらこんなになっちまってた。普段はともかく、さっきの奴隷ショーになると強制的に司会をさせられちまうがなー』
「それで、いったいなんのために私達の前に? アフターサービスとおっしゃって居たようですが」
ヒビキが、バカ丁寧な口調で尋ねる。
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