ダンジョン・ザ・チョイス

魔神スピリット

328.真夜中の襲撃

「“解錠”」

 ……来たか。

 深夜十時過ぎ、静謐な空間にカチャリという音が微かに響く。

 すぐにガンガンガンというけたたましい音が響き、寝ていた二人が飛び起きる。

「なんだよ、これ!」

 焦った男の声。

 万が一に備えて、内開きのドアの前に部屋の棚を移動させて置いて良かった。

「行くぞ、マリナ」
「はい」

 外を確認したのち、二階の窓から出ていく二人。

「“風魔法”――ウィンドカノン!!」

 僅かに開いたドアに風を叩きつけて、無理矢理ドアを開けたか。

 しかも、すぐに四人の男が侵入してくる。

「なんのようだ」

 自然と、いつもより数段低い声が出た。

「……女共はどこだ?」
「発情魔共かよ」

 目の前の奴等は、俺と同等かそれ以上のLvである可能性がある……文字の力があっても、油断は出来ない。

「なに、俺達はお前達を試したんだ。この先を生き抜ける実力があるのかってな。いやいや、大したもんだ」

 四人の中で一番ガタイがよく、年長と思われる男が喋り出した。

 少しでもこっちを惑わせようって腹か。

 冷静に考えれば矛盾だらけだと誰でも思うだろうが、冷静さを欠いていたり、穏便に済ませたいとか考えていると……コロッと騙されるだろうな。

「ちゃんと狙いくらい言えよ。女が目当てか?」


「まさか――全部だよ。金も経験値も、アイテムも食糧もな!」


 騙せないと踏んで、戦闘態勢へ。

「お前の得物は分かってる。屋内じゃろくに振り回せねーぞ?」

 だから、四人とも軽装備な上に短剣や片手斧が得物なのか。

「お前、自分は頭が良いと思い込みやすいタイプだな」

「ガキが、調子に乗るな! “吹雪魔法”――ブリザードトルネード!!」

 エリューナさんと同じ魔法か。


「“神代の光剣”――“魔斬り”」


 “偉大なる英雄の光剣”から生やした青白い光の刃で、吹雪の竜巻を切り裂く。


「――“飛王剣”!!」


 リーダーと思われる男とその背後の男を両断し――残りの二人へと、一気に“瞬足”で距離を詰めた。

「“拒絶領域”」

 二人を壁に叩きつけ、圧死させる。

「手慣れているみたいだったけれど、戦闘はあまり想定していなかったみたいだな」

 まったく、死体や血が消える仕様じゃなかったら、今晩は寝られなくなる所だったぞ。

「……戦ってるな」

 マリナとエリューナさんの援護に行かないと。


●●●


「フム、どうやら返り討ちにあったらしいわね」

 エリューナさんと共に外に出て出くわした相手は、暗闇でも分かるくらい派手なドレスを着て、玉座らしき物に座る紫紺の髪の女。

 その女が、チョイスプレートで何かを確認していた?

 その周りにいるのは、バラバラな格好の女達。

「く!!」

 振るわれた曲刀に、私のガラスの剣が弾かれてしまう!

「パワーが違いすぎる!」

 口元を隠した、カーニバルに出ていそうな如何わしい格好の女性に圧倒されていた。

 エリューナさんですら、二対一になった途端手こずっている様子。

 たぶん、私とはかなりのLv差がある。

「ここに辿り着いたばかりの者が、まさか私の親衛隊と張り合うとは」

「親衛隊?」

 玉座の女が喋り出す。

「私のお気に入りで構成されたレギオン、《ザ・フェミニスターズ》の事よ、お嬢ちゃん。フフフ! 二人とも、私の物になるに相応しい容姿だわ」

「私は、貴女の玩具じゃない!」

 “キヤイウメアイ”に六文字を刻んで、私に攻撃してきた女の剣を弾き飛ばす!

「年若いのに、力で私の子を圧倒するなんて。この子達は、私の“軍団の女王”のおかげで効率的に強くなっているのに」

「”軍団の女王”?」

「女のレギオンリーダー、専用のサブ職業よ。レギオンメンバーの取得経験値が一点五倍になるというね」

 ユウダイがレギオンリーダーである以上、私達には関係のないサブ職業か。

「なんとしても捕らえなさい、貴女達」
「「「ハイ、タマコ様!!」」」

「ふざけんな! 装備セット2!!」

 左腕に、ユウダイが手に入れてくれた“鏡の中の鑑み”という、槍のように先端が尖った細長い鏡の盾を装備。

「ユウダイから貰った力で、抗い勝ってみせる!」

「勇ましいこと」

「死んでも、恨み言は受け付けないから!」

 槍盾にも六文字刻んで――曲刀の女を正面から圧倒する!

「コイツ!!」

 このまま、畳み掛けて――

「本気を出しなさい、チエリ!」
「オールセット1」

 本気を出せと女王に命じられた瞬間、女の頭に――獣耳が生えた?

「“ホロケウカムイ”」

「それって、獣人専用なんじゃ!?」

 青いオーラを纏って、こっちに突っ込んできた!!

「く!!」

 身体能力の差で、また防戦一方に!!


●●●


「この女、崩せない!」
「もう少しなのに!」

「……もう少しね」

 スキルのおかげで動きは様になっているようだが、私の柔軟な動きが武道のそれと見抜けない時点で、素人も同然か。

 チョイスプレートを素早く操作し、剣をしまう。

「どういうつもりだ!」
「大人しく捕まるつもりになったのかしら?」

「私を敵に回したんだ――恨み言をほざくなよ?」

 片手斧持ちの女の懐に踏み込み、腹に掌底を叩き込む。

 痛みよりも、衝撃で動きを止めるための掌底を。

 ――即座に斧持ちの手首を取って、片手で投げる!
 
「あああああッッ!!」

 頭から落としたからな。頭蓋が割れているどころか、脳挫傷になっていてもおかしくはない。

「よくもユリナを! “瞬突”!!」

 槍の一突きを回避すると同時に柄を握り――女の左眼を指で抉る!!

「ぐぁぁぁあああああああああッッッ!!」

「ホノカ!? ――“女王の威光”!!」

 リーダーの女が座る玉座が発光し、私に向かって複数の光弾が放たれた!?

「“空遊滑脱”!!」


「総員――撤退!!」


 全力で回避している間に後退させられつづけ――いつの間にか、女の集団が消えていた。

「……厄介な奴等を、一人も片付けられなかったか」

 ステージが飛んだだけあって、たびたび力不足を痛感させられるようになったな。


○○○


「あの役立たず共、失敗したようね。清々するわ」

 部屋を出た直後、両手に十手を持った女性が立っていた。

 どうやら、右手の方の十手には刃が付いているようだ。

「大剣使いかと思いきや、そのような武具も所持していたか」
「やっぱり、到着早々から嗅ぎ回られていたのか」

 エリューナさんが睨んだ通りだったな。

「目的は?」

「女は、タマコ様に献上する。男は死ね」

「だったら、さっきの男達はなんなんだ?」

「命乞いをしてきたから、タマコ様の恩情で使いっ走りにしてあげていただけよ。遺言機能を、タマコ様に設定しておくなどの条件付けでね」

「遺言機能? ……ああ。殺されても、所持アイテムや所持金が設定しておいた相手に行くっていう」

 昨日、メルシュから聞いておいた。

 ということは、アイツらのLvは48以上だったって事か。

「とっとと終わらせてやろう――ハアッ!!」

 俊敏な動きで両手の十手を素早く振ってくる、青いメッシュが二つ入った黒髪の女性。

「“衝脚”!」
「“拒絶領域”!!」

 蹴りの体勢の時に弾き飛ばし、ホテルの通路を転がす。

「ッ!! ……やるじゃない」
「軸に使った左脚が痛むんだろう? 無理しない方が良いんじゃないのか?」

「私を憐れむな!!」

 憐れんだつもりなんて無いんだけれど。

 再び攻め立てられるも、先程よりも難なく“偉大なる英雄の光剣”で対処しきれる!


「総員――撤退!!」


「な!?」

 外から微かに聞こえてきた女の声に、目の前の女の攻撃の手が緩んだ!

「――大地の盾!!」

 左腕に連動する盾を通路を塞ぐように翳し――“瞬足”の勢いで激突!!

「ガフッ!!!」

 女を壁に叩きつけると……気を失ったようだった。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品