ダンジョン・ザ・チョイス

魔神スピリット

327.夜の王城地下

「次、良いぞ」

 三人で数階建てのホテルの一室に泊まることになった私達は、順番にシャワーを浴びていた。

 私が最初で、次がエリューナさん。最後はユウダイの順で。

「それじゃ」

 ユウダイが、部屋から居なくなる。

 調理場が隣接しているワンルームに、私とエリューナさんの二人だけになった。

「そう緊張するな。ここは安全だ。現実のように家が壊れる事なんて無いしな。まあ、私も気付いていないような落とし穴がある可能性も否めないが」
「いえ……」

 エリューナさんは……良い人だとは思う。

「もしかして、コセに襲われるとか思っているのか? まあ、今日くらいは多目に見てやるよ。いつ何が起きるか分からないんだしな」
「な、なに言ってるんですか!」

 エリューナさんのデリカシーの無い発言に、思わずベットから立ち上がってしまう!

「なにを恥ずかしがっている? 好き同士なら、やることヤっても問題ないだろう。向こうのようにしがらみがあるわけじゃ無い。全て自己責任で済むのだから」

「や、やっぱり貴女も、ユウダイと……そ、そういう関係なんですか?」
「……まさか、ずっとそれを気にしてたのか? お可愛い事だ」
「ば、バカにすんなよ!」

 つい、口調が昔のに。

「私は、訳あって一緒に行動しているだけだ。ぼかしたが、昨夜のうちに一通り話したはずだが?」
「そ、それは……そうだけれど」

「そもそも、私には恋人が居る」
「……へ? こ、恋人が居るのに、男と二人っきりで行動してたんですか!?」

 し、信じられない。

「成り行き上、仕方ないだろう。それに、私の恋人は女だ」
「…………うん?」

 なにそれ……ど、同性愛者ってこと?

「別に同性愛者ではなかったんだが……この世界で一緒に行動していたら、自然とパーティーメンバーとそういう関係になっていてな」

 軍人とかは、男だけで長期間共に行動するから、ゲイになる人が多いらしいけれど……そう言えば、戦国武将とかもそうなんだっけ。ドラマとかでは全然描かれないけれど。

「パーティーメンバーと……もしかして、複数人居る?」
「ああ、付き合いの長い二人とな」

 さ、さすが外国人。

「それより、お前はどうするんだ? コセとの関係を」
「どうするって……だって、アイツにはもう……」
「私も浮気や不倫は嫌いだが、この世界で生きて行くために男女の関係になるのは必然だと思うぞ。巡り合わせもあるだろうが、アイツは良い男だとは思う」

「なんだか、自分に対する言い訳に聞こえてくるんだけれど」

 まるで、エリューナさんの方がユウダイに抱かれたがっているみたい。

「そ、そんなわけないだろう! 確かにアイツには……」
「アイツには?」
「いや、なんでもない。なんでもないぞ」

 ユウダイ……エリューナさんと何があったの!


●●●


「雰囲気、随分違うな」

 夕食後、暫くしてから繰り出した“名も無き王国の廃墟”には、昼間以上の人だかりが。

 ほとんどがNPCのようだけれど、プレーヤーと思われる輩もかなり居る。

「想定よりも警戒しておいた方が良さそうですね、ジュリー様」

 メルシュが夜にしか現れないNPCからある物を買い付けたりしている後ろで、怯えた様子のタマが話し掛けてきた。

「そんなに怖いなら、館に居ても良いのに」
「な、なんだか、そ、それも怖くて」
「タマ、なんでそんなに怯えてるの?」
「わ、私にも……よく分からないです」

 スゥーシャや私には感じ取れない何かを、タマは感じているらしい……霊感があるとか?

 昼間のメンバーのまま、不気味な王城跡地……その地下へと降りていく。

 すると辿り着いたのは、牢が並ぶ地下。

「会場はこの先になります」

 不気味な銅色の仮面を付けた黒尽くめのNPCの案内の元、奥へと足を踏み入れる。

 ほぼ真っ暗な空間に、大勢の人間。

 この喧騒と暗がりじゃ、誰がプレーヤーでNPCなのか……見分けるのは難しそうだね。

「ここ、魔女オークションの会場に似てる……雰囲気は大分違うけれど」

 カナの指摘。

 まあ、作った人が同じだからかな。

『レディース・エーン・ジェントルメン!! 今宵の奴隷ショーに来て頂き、誠にありがとうございまーす!』

 案内人と同じ仮面を付けた黒い燕尾服のような物を着た男が、マイクのような杖を使って声を響かせている。

『司会進行は私、アルカナが務めさせていただきまーす!』

「妙な奴」
「アレ、NPCじゃないね」
「NPCじゃない?」

 メルシュの言葉に、動揺してしまう。
 
 この奴隷ショーはオリジナルには無い物だけれど、滞在ペナルティーと連動しているのなら、プレーヤーが取り仕切る立場に居るのはおかしい。

『では、まずは一人目のご紹介と参りましょーう。戦士の男、ナカジマ・ユターカーー!!』

 会場の中心に檻が出現し、中に奴隷用の簡素な服を着た男が現れる。

『本日で十度目の登場になります。本日買い手が付かなかった場合、殺処分となる予定でーす!』

「た、助けてくれぇぇぇぇ!! なんでもする! なんでもするからぁぁ!!」

『ちなみに彼は、ボス戦で仲間を見捨てた過去がございまーす。それも二度』

「違う! 違うんだ!!」

『仲間ごと魔神を攻撃し、一人だけ生き残っては別のパーティーに何食わぬ顔で接触。それを二度も繰り返したのです』

『違う! 違う違う違う違う違う違う違う!! 仕方無かったんだよ!』

 私達は……いったいなにを見せられている。

『その男、ナカジマ・ユタカの詳しいデータはこちら!』


○ユタカ 21歳〔異世界人〕

職業 戦士.Lv34

サブ職業1 爆裂魔法使い サブ職業2 盾使い
サブ職業3 颶風盾使い サブ職業4 泥土剣使い 
サブ職業5 ギャンブラー

メイン武器:ヘビーバスターソード 

 サブ武器:スティングレアシールド

 サブ武器:爆炎球のプルワー

 サブ武器:プロミネンスシールド

 サブ武器:

    鎧:シルバーアイアン

   衣服:フレキシブルサポートインナー

  指輪右:鋼鉄の鎚の指輪
  指輪左:土魔の指輪

  お守り:再生のお守り

 その他1:聖王のマント
 その他2:紫雲猿の靴
 その他3:万力の腕輪

スキル ●生活魔法 ●剣術 ●壁歩き ●殴打撃
    ●大剣術 ●片手持ち ●火属性付与
    ●連盾障壁 ●大盾術 ●踏ん張り
    ●魔斬り ●雷属性付与 ●二重武術
    ●回復骰子 ●強化骰子 ●攻撃骰子
    ●闘気盾 ●光属性付与 ●跳弾 ●跳躍
    ●激情の一撃 ●魔力砲 ●武術強化
    ●破邪十字 ●土属性強化 
  
予備スキル欄



 チョイスプレートが表示され、男の所持アイテムなどの情報が。

『そちらのアイテム以外にも、彼の持ち物全てが付属してきます! それら含めて、彼のお値段は――24560500二千五百六十万五百G! これはお買い得です! それでは、五分間の検討タイムに入りまーす!』

「頼む!! 頼む頼む頼む頼む頼むぅッッ!! 俺を買ってくれぇぇぇ!!」

「あまり、人数を連れて来なくて良かった」

 目の前の光景は、あまりにも醜悪。

「まあまあ強力な装備やスキルを持っているけれど、値段が値段だからなー」

 メルシュが、男その物以外の部分で購入を検討している。

「そもそも、いったいなんのためにここに来たのかしら?」

 カナの質問。

「掘り出し者が居るかと思って。あとは、良いアイテムだけ貰ってポイとか?」

「さ、さすがに酷いのでは?」
「まあ、このまま殺処分になるよりはマシかと」

 タマの同情的な意見を、やんわりと窘めるスゥーシャ。

「最初に紹介される方が安いって決まりがあるから、今回はパスで良いかな」

「……そうだね」

 見捨てたみたいで、心苦しくはあるけれど。

『お時間でーす! ナカジマ・ユタカを購入希望のお客様は――こちらの方だ!!』

 暗がりの一角に、スポットが当たる。

「へ?」
「あれって……」
「スヴェトラーナ……」

『ナカジマ・ユタカを購入希望なのは、あちらのスヴェトラーナ様のみ! よって、この時点でスヴェトラーナ様によるご購入が決定いたしましたー!!』

「アリガとぉぉぉ!! ありがとうぅぅぅ!! この恩は、一生忘れないからなぁぁぁ!!」

 あの人……絶対に死んだな。

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