ダンジョン・ザ・チョイス

魔神スピリット

323.魔神・土人形

「第二十一ステージのボスは、魔神・土人形だよ」

 いつもの、メルシュの講義が始まる。

「弱点属性は風。ただし、水を食らうと打撃に強くなって、火を食らうと斬撃に強くなる。しかも、雷は効かないから」

「今までと比べて、随分特殊なのね」

 サトミさんが指摘する。

「その分、特殊な攻撃手段とかは無いんだよね。有効武器も無い代わりに、魔法全般に弱いから。ステージギミックは、土の人形を無限に召喚し続ける事かな」

「前のボスの時も思ったけれど、情報がバカ丁寧じゃん。羨ましい~」

「これで負けたら、良い笑い物ね」

 サンヤとスヴェトラーナが話している。

 仲間と合流するまでは、こちらを裏切る可能性は低いけれど……少し焦っているように見えるのは気のせいかな?

「魔神・土人形か……」

 このボス戦、一番手こずるのはおそらく私のパーティー。

 モモカとバニラは戦士だし、私は雷属性特化。

 まあ、こういう時のための金星球を使った戦術だ。

「じゃ、お先に行くわよ~」

 サトミさん率いるパーティーが、ボス部屋の中へ。

「さてとー、軽くウォーミングアップしとくかー。ツェツァ、ルフィル、どっちか付き合ってよ」

「私は遠慮しておくわ」
「では、私が」

 エルフの女と山猫の獣人が、戦意を募らせていく。

「ねー」
「ん? なんだ?」

 モモカが、サンヤに話し掛けた?

「お耳、触らせて」
「……嫌だ」

「……触らせて」
「嫌だ」

「触らせて」
「やだ」

「触りたい……」
「嫌だっつってんだろうが!」


「――ウワァぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


「お、おい……な、泣く事は無いだろう!」

「ガルルルルルルルルルルル!!」

 まずい、バニラが戦闘態勢に!

「サンヤ、ちょっとくらい触らせてあげなさいよ」
「……ちょっとまずいですよ、コレ」

 モモカが泣いてしまった事で、バニラがサンヤ達を敵と見なし始めている!

「……こ、こうなったら」

 私は、急いで“半ベルセルク”のサブ職業を装備!

「も、モモカ……け、獣耳だよ~」

 身を屈めて、頭を差し出す。

 今の私は獣人扱いのため、獣耳が生えている。

 私は獅子の獣人に設定したから、ライオンの耳と尻尾が生えている状態。

 ……なんで、私がこんなこと……しかも、私を殺そうとしたスヴェトラーナの仲間を守るためだなんて。

「ぅう……気持ちいい」

 モモカが、私の獅子耳をモニュモニュしている……なにこれ、気持ち良い。

 獣耳を触られるのって、こんなに良い物だったのか。

 あのザッカルが、モモカに触られるのを嫌がらなかった理由が分かった。

「……幸せな子ね、その子は」

 スヴェトラーナのやけに沈んだような……冷たいような声が耳にこびり付く。

「サトミ達、クリアしたみたいだよ」

 ボス部屋の扉から、光が消えていっている。

「行くよ! 次はアタシらの番だ!」

 シレイアが、上手く三人をこの場から連れ出してくれた。

「グス……」

 モモカ、まだ泣いているのか。

「ぅぅ……私はテイマーだから、“半ベルセルク”を装備出来ないのに……そこ代わってくださいよ、マスター!」

 サキが暴走している。

 隠れNPCは、種族を変更できないルールがあるらしい。

 私のパーティーのボス戦、もうメルシュに丸投げしちゃうか。


●●●


「“宝石魔法”――ダイヤモンドバレット」

 ジュリー達を下がらせたまま、私だけが前に出てステージギミックの土人形達を潰していく。

 守護戦士のモンスターに酷似した土人形達は次々と地面から這いだしてくるため、倒しても倒してもきりがない。

 代わりに、“土魔法のスキルカード”をドロップしてくれるけれど。

「さすがの威力だね、“宝石魔法”」

 ユニークスキルと考えると威力は微妙だけれど、これをMPの消費無しで発動出来るんだから、魔法特化の私には有り難い。

「ダイヤモンド系なら、実質消費無しで放てるし」

 “エターナルダイヤモンドリング”……マスターに強請るような形になっちゃったけれど、心置きなくダイヤモンド系の魔法を放てるよ。

「“宝石魔法”――ダイヤモンドソード!!」

 金剛石の大剣を飛ばし、魔神・土人形の土の剣を破壊!

 土の鎧纏う、薄茶色のライン流れる白っぽい石の巨人、魔神・土人形。

 見た目は、隠れNPCであるガーディアンを巨大化させたような感じ。

 土で出来た部分は時間が経つと復活してしまうけれど、その分脆い。

「生憎、風属性の”宝石魔法”は、触媒が無いからまだ使えないんだよね」

 そこが、“宝石魔法”の唯一の欠点かな。

『ォォォォォォ!!』

 “土魔法”で、散弾を放ってきた。

「“宝石魔法”――ダイヤモンドシェルター」

 パーティーメンバー全員を、半透明な六角形を連ねたドームで守る。

 ダイヤモンドの魔法は、防御に優れた物の方が多い。


「“二重魔法”、“混沌魔法”――カオスレイ!!」


 黒白の光線を二つ放ち、その土の鎧ごと石の身体を貫き消した。

○おめでとうございます。魔神・土人形の討伐に成功しました。


○ボス撃破特典。以下から一つをお選びください。

★土人形の石鎧 ★土属性強化のスキルカード
★サブ職業:初級武術使い ★土爆弾の指輪


「じゃあ、モモカ。バニラに、“土属性強化のスキルカード”を選んで貰って」

「分かった!」

 予定通り、大抵の人には“土属性強化のスキルカード”か“初級武術使い”のサブ職業を選んで貰った。

 今後、土属性関係の要素が増えてくるから、只でさえ貴重な“土属性強化”は一つでも多く手に入れておきたい所。

 まあ、この先のプレーヤーを殺せば、幾らでも手に入るとは思うけれど。

「早く、あのバカマスターに追い付かないと」

 砦を穏便に進ませるつもりだったから、敢えて戦う場合の情報を教えなかったのに……勝手なことして。

 まあ、その状況でも生き残っているのが、さすが私のマスターって感じだけれど。

 簡易アセンションを成功させられる人間なら、これくらい当然だろうけれど。

 おかげで二十九ステージの隠れNPCの入手条件を満たせたわけだし、結果お-らいなんだよねー。

○これより、第二十二ステージの名も無き王国の廃墟に転移します。

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