ダンジョン・ザ・チョイス

魔神スピリット

319.砦からの逃避行

「なるほど。勝てば、色々メリットがあったのか」

 無人の砦内で、アイテムやお金を回収して回っている俺。

 ほとんど大した物はなく、王国兵士の装備なんかは武器庫で大量に手に入れた。

 まあ、全部売ればそれなりの額にはなるだろうけれど。

 時間が無いから、砦内で手に入れた物のランクなどはまだ確認していない。

「お」

 兵士の部屋と思われる部屋の宝箱の中から、ランクアップジュエルを二つ手に入れた。

 どれに対応するジュエルなのかは見た目では判らないため、これも後で確認して置かないと。

「このゲームって、宝箱から出るアイテムはランダム要素が強いんだよな?」

 特に第一ステージなんて、ルートが同じでも手に入るアイテムはかなりバラバラだったみたいだし。

「そっちは終わったか?」

 手分けしていたエリューナさんが合流する。

「ええ。後は出口側を調べるだけですね」

「時間が無い。急ぐぞ」

 既に、二十分以上が経過していた。

「山か」

 砦出口に近付くと、正面に緑生い茂る山が広がっている。

 数時間前に会った女性NPCは、ここを通って連れて来られた……ていう設定なんだろうな。

 あの時のことを思い出したら、変な気分になってきた。

「もう時間が無い」

 砦周りを包んでいた光が、消え始めている。

「――待った!」

 通路横に、カウンターのような場所が。

「……やっぱり」

 カウンターの下に、大きな宝箱があった。

 素早く中身を回収し、砦の外へと向かう。

「間に合ったか」
「取り敢えず、安全エリアを探しましょう」
「だな。さすがに、私も少し休みたい」

 二人で山を登り初めて暫く経つと、砦の方から王国兵士がワラワラと飛び出てきた。

「私達を捜しているのか?」
「どんどん山に入ってくる」

 二、三十人が、結構なスピードで進んでくる。

「空を行こう。安全エリアまで行けば、奴等も追ってこられないはず」

 リアルなら、発見される危険が大きい悪手と言えるけれど。

「そうしましょう」

 エリューナさんの提案に乗り、二人で同時に宙を踏んで空へと駆け上がっていく。

「“空衝”」
「“瞬足”」

 スキルで距離を稼ぐも、山は標高を上げるばかりで山頂は遠い。

 しかも、今のところ安全エリアらしき物も見られない。

 このままだと、体力を消耗し続ける一方。

「夜鷹」

 “夜鷹の指輪”で黒の鷹を呼び出し、左腕を掴んで貰う。

「エリューナさん!」

 右腕を彼女に向かって伸ばす。

「……仕方ない」

 俺の意図を悟ったのか、腕を掴んでくれるエリューナさん。

 夜鷹に運んで貰う事で、体力と精神力の回復に努める。

「こうして見ると、獣型モンスターがウジャウジャ居るようだな」
「モンスターの動き……もしかして、兵士達に一斉に襲い掛かっている?」
「……微かに、悲鳴や戦闘音らしき物が聞こえる」

 あのまま徒歩で山を登ってたら、モンスターと兵士の挟み打ちにあっていたかもしれないのか。

「エリューナさん、安全エリアです」

 川岸の一角が、淡く発光していた。

「ようやく休めそうだ」

 警戒しながら降り立つ。

「誰も居なさそうだな」
「……ええ」

 川の流れる音に、この冷たくも青々とした空気……。

「どうした?」
「いえ、懐かしいと思って」

 お爺ちゃんに連れられて入った山、その奥深くに広がっていた心地の良い雰囲気に……よく似ている。

「そう言えば、この辺は日本の森の雰囲気に似ているな」
「日本の?」
「私は、幼い頃に日本に来たからな。気候もそうだが、生えている植物が違うと異国に来たという感じがする物だ。たとえ、そこが同じ国と定義されていようと」
「分かる気がします」

 父親の実家を訪れると、いつも帰って来たって感じがしていた。

 俺の生まれは、全然違う場所なのに。

「……変な奴」
「へ?」
「私がお前と同じ年くらいの時、私の周りにこういう話に付き合ってくれる奴は居なかった。だからな」

 俺と同じだ……俺も、トゥスカに出会うまで、まともな会話が出来る人間に会ったことがない。

「そう言えば、エリューナさんはどうして日本に?」
「…………平和だから、かな。母が日本人だから、伝手を頼って移住してきたんだ。皮肉な話、あの出来事が切っ掛けで外国人の移住を正式に認めだしたからな、日本政府は」

 平和じゃない所から来たって事か……まあ、ここまでの情報でどこかは察しが付くけれど。

「……気配を殺すのが上手い奴が居たようだ――“氷柱針”!!」

 エリューナさんが突然、苔が生えた岩が並ぶ場所に攻撃した?

「出て来い。でなければ、敵と見做すぞ」
「――上等」

 誰かの声が微かに聞こえてきたと思った瞬間、岩陰から一人飛び出してきた!

「“硝子剣術”――グラススラッシュ」

 只の武術スキルとは思えないほど強力な圧を秘めた、透明な剣を振り下ろしてきた!?

「“空遊滑脱”」

 狙われたエリューナさんは紙一重で回避し、上空へと逃れる。

 今の攻撃……他の武術スキルと比べても、切れ味に特化しているかのようだった。

「上に!? ――だったら!」

 襲い掛かってきた女性が、狙いを俺に……て。

「マリナ?」
「……ユウダイ? どうしてここに……」

 心底驚いたという感じで俺を見詰めている、青白い長髪を持つ女子。

 ――今一瞬……サンカシギギの女性とマリナがダブって見えた?

「……良かった」

 石柄から伸びていた透明な刀身から、青白い光……神代文字が消えていく。

「なんだ、知り合いか?」
「一応、同じレギオンのメンバーです」

 今のところ、魔法の家の領域は繋いでは居ないけれど。

 まだ、信用できるかどうかまでは判らないからな。

「俺達と同じような理由で、行方不明になってたんです」

「本当に良かった……知り合いに会えて」

 その場にへたり込むマリナ。

 俺、彼女のことをほとんど……というか、何も知らないんだよな。

「なら、とっととソイツに事情を説明してくれ。このままじゃ、ろくに休むことも出来ん」

「そう言えば貴女……誰?」

 エリューナさんを改めて睨みだすマリナ。

「一通り、情報交換をしようか」

 彼女と合流できたのは、俺達にとって都合が良いのか悪いのか。

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