ダンジョン・ザ・チョイス

魔神スピリット

315.橋の砦町

「変わった町だな」

 諸々の準備を終え、エリューナさんと共に街に繰り出す。

 煉瓦で出来た、巨大な直線上の橋。

 その上に建てられたホテルから出ると、商人らしきNPCと兵士らしきNPCが談笑しているのが聞こえてきた。

「まず私達は、砦を抜けてダンジョン部分を目指さなきゃならないらしいが」

「ボーナスイベントだけはこなしていくけれど」

 ここで購入するのは、必要最低限の物だけで良い。

 最速でトゥスカ達を助けに行くのが目的なのもあるけれど、今の俺達は仲間とアイテムの融通が出来ない。

 つまり、俺がここでなにかを手に入れても、俺とエリューナさんでしか使用できないのだ。

「まずはイベントをこなそう」

 メルシュの情報にあった場所を探す。

「よってらっしゃい、見てらっしゃい! 美人が多いと名高い山間民族、サンカシギギの女とヤれるのはここだけだよ!」

「聞いてはいたが、不愉快な言葉が聞こえてくるな」
「あくまでゲーム的な演出の一部らしいから、気にしないでいきましょう」
「このゲームのオリジナルを作ったという人間達は、いったいなにを考えてこんな設定を作ったのやら」

 それ、ジュリーの両親なんだよな。

 ただ、オリジナルにもこの要素があったのかまでは俺にも分からない。

「すみません」
「お、逞しいお兄さんだね。一時間、50000Gになるよ」

○幾ら払いますか?

★50000G  ★100000G ★150000G
★200000G ★250000G ★この場を去る


「妙にリアルじゃね?」

 値段が。

「おい、さっさとしろよ。ドスケベクズ野郎」
「目的を知ってるくせに、そんな風に言わないでくださいよ!」

 エリューナさんの蔑む目が痛い。

「……ハァー」

 俺は250000Gを払い、五時間コースを選択。

「まいど! アンタも好きねー」
「うるせーよ!」

 思わず、店員のNPCにキレてしまった。


            ★


「こちらになります」

 赤やピンク、橙色などの暖色が使われた通路を初老の女性に案内されて着いたのは、一つの部屋の前。

「中で、既に清めを終えた者が待っております。ごゆっくりお楽しみください」

「……ハァー」

 このイベントを考えた奴を、ぶん殴ってやりたい。ジュリーの両親のどっちかかもしれないけれど。

「よ、ようこそ、お客様」

 スラリと背の高い美人が綺麗な濃い青のドレスを着ており、腰掛けていたベッドから立ち上がって慇懃な礼をする。

○最初の一時間はどうされますか?

●ベッドイン ●お話 ●耳掻き ●マッサージ
●チェンジ ●やっぱり止める 


「最初にベッドインを持ってくるなよ」

 俺は、当初の予定通りに●お話を選択。

「私は……山で暮らすサンカシギギの一族でした。なのに、ノスバーク王国の兵士に捕らわれて……ここで身体を売らされています……すみません、お客様にする話ではありませんでしたね」

○話の続きを聞きますか?

 YESを選択。

「そ、そうですか? へと……私には、実は夫がおりました。王国の兵士と勇敢に戦い……散ってしまいましたが」

 ……人妻……未亡人だったんだ。

「私は十九番目の妾でしたので、まだあの人の子を身籠もる前に……」

 十九番目って……。

「なんか、重いのか重くないのか分からなくなってきたな……いや、普通に重いか」

○話の続きを聞きますか?

 もう一度YESを選択。

「私より後に妾になった者は、若いためにノスバークの首都に連れて行かれたそうです。彼等から見て、私達は見目麗しく見えるそうで……高値で売れるだろうと」

 ……こんな話を、以前にもどこかで聞いたような……小さい頃だったっけ?

「……すみません。私も、そろそろ前を向いて生きていかなければなりませんね」

「前って……」

 俺からしたら、とっくに八方塞がり。

「私の話は、これで終わりですね」

○次の一時間をどうしますか?

●ベッドイン ●耳掻き ●マッサージ
●チェンジ ●止める

 まだ一時間経ってなくね?

「……フー」

 正直、目の前の美女とベッドインしたいという感情はある。

 世間一般的な美女に対してでも、見ず知らずの相手を抱きたいなんて普段は思わないのに。

 ……トゥスカ達を追わないといけないのに、なにを考えているのやら。

 俺は、予定通りに止めるを選択。

「あ、あの……今止めても、戻ってくるお金は残り時間の半分だけですよ?」

 嫌々抱かれるのに、こっちを気遣うような事を言うのか。

○お金を払い戻して貰いますか?

●残り半分を払い戻して貰う。
●払い戻して貰わず、全額店の取り分にして貰う。
●払い戻して貰わず、残り半分を彼女の取り分にして貰う。

 上から二番目にすると、一生使える優待券という物が手に入るらしい……なんて仕組みだよ、このゲーム!

 俺は、上から三番目を選択。

「ありがとうございます……ありがとうございます! ありがとうございます!」

 深々と頭を下げたのち……一つの青いメダルを差し出される。

「夫の形見です。どうぞ、お受け取りください……せめてもの感謝の印に」

「あ、ありがとうございます」

 目的の物は手に入れたけれど……色んな意味でキツいよ、このイベント。

「あの……」

 あれ、まだなにかあったっけ?


「次に来るときは……お相手させてくださいね。精一杯……尽くさせて頂きますので♡」


「…………ハイ」

 ハイって言っちまった……誰か、俺を殺してくれ。


             ★


「遅かったな」

 店を出ると、エリューナさんがとても不機嫌そうだった。

「これでも、必要最低限の時間しか使ってませんよ」

 二十分も掛かって居ないはず。

「で、例の男限定のサブ職業は手に入れたのか?」
「ええ」

 早速、さっき貰った特殊なサブ職業を装備する。

「“世間師ショケンシ”……か」
「パーティー、レギオンメンバーに女が多いほど、TP・MP総量が増えるんだったか? 気持ちの悪い能力だ」
「使える物は使う主義だ」

 ハッキリ言って、俺やアテルに都合が良すぎるサブ職業な気はするけれど。

「それで、必要な物を買い揃えたら次は砦か。で、で抜けるつもりだ?」

「……最初は、大金で“王国兵士”のサブ職業を手に入れてやり過ごすつもりだったけれど」

 さっきの美女の話を聞いてたらムラムラ……王国兵士に対してイライラしてきた。

 ぶっちゃけ、所持金もそこまで多くないし。

「エリューナさんさえ良ければだけれど、強行突破しようと思う」
「良いね。私も、そっちの方が好みだ。良さげな特典もあるみたいだしな」

 メルシュには、二人だけじゃ無謀だからと、旨味のない安全なルートを勧められていたけれど。

「あの砦ごと、ノスバーク王国軍をぶっ飛ばす」

 向こうの山へと続く橋の最奥にして、王国兵士が詰めている砦に狙いを定めた。

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