ダンジョン・ザ・チョイス

魔神スピリット

313.魔神・射手妖精

「この先に進みたい? だったら、許可証を買うが良い。一パーティーにつき300000三十万Gだ。一時間を過ぎると期限切れで無効になるから、気を付けるが良い」

 ”腐敗の王都”の王城に続く橋の反対側、北にあるボス部屋の扉前にある、王国兵の詰め所を尋ねる私達。

「パーティーリーダーは全員、許可証を購入して」

 早朝に王都を回って、必要な物は既に購入済み。

 その間にユイ達がモンスター狩りをして素材も集めたし、短い時間ながらできる限りの準備は終えた。

 ここって、強力なモンスターが多いのとエルフの奴隷を購入出来る以外、大して旨味が無いステージなんだよね。

 売り物のアイテムは種類が揃っているけれど、他の場所に比べると物価が高く、ほぼ倍の値段がするし。

「メルシュ、この許可証があればボス戦が出来るのか?」

 ルイーサに尋ねられる。

「うん。購入した人から、さっそくボス戦を開始して」
「分かった」

 現在、ルイーサのパーティーにはフェルナンダ、アヤナ、アオイ、ナオ、クマムの六人。

 サトミのパーティーはクリスティーナ、リンピョン、メグミ。

 ジュリーのパーティーはサキ、モモカ、バニラ、私。

 ユリカのパーティーはヨシノ、レリーフェ、タマ、スゥーシャ。

 ユイのパーティーはシレイアにカナ……黒尽くめの殺し屋集団と思われる三人。

 カナの話しではもう一人居るらしいけれど、彼女は十二ステージからずっと魔法の家に軟禁状態らしい。

 本人も、ゲームを怖がって攻略に参加する気は無いそうだ。

 オリジナルプレイヤーの知識だけを利用する……このレギオンには、ユニークスキルの入手方法を知っているのがジュリーしかいないし、彼女達を懐柔するメリットは大きい。

 事実、今マスターと一緒に居る女は、ユニークスキルを持っているみたいだし。

「パーティーを五つより減らせないのに、人数が二十三人になってしまった時はどうなるかと思ったけれど」

 一時的にとはいえ、神代文字を扱える人間三人が組んでくれた。

 アップデート中に男が現れ、レギオンメンバーが別ステージへと移動……なるべくしてなったという気がしてしまうのは、私だけかな?

「ルフィル……なんだよな?」
「……」

 レリーフェが、フードで半ば顔を隠したエルフに話し掛ける。

「良かった、無事で。出来ればお前には、私の代わりにエルフのレギオンを率いて欲しかったが……」
「知らないわ、そんな名前の女も……貴女も」
「……そうか……すまない、人違いだったようだ」

 これまでの情報で、ある程度あの二人の関係には察しが付いているけれど。

「アンタ、私の顔を忘れたとは言わせないわよ」

 そこに、リンピョンが乱入してしまう。

「あの時の死に損ないですか。まあ、暫くは生かしておいて差し上げますよ」
「ルフィル……お前」
「次は、絶対に私が勝つから!」
「その時は今度こそ、完膚なきまでに叩きのめして差し上げますよ。代償は死ですが」

 ……前途多難だよ、マスター。


●●●


○許可証を使用しますか?

 YESを選択すると、粘土を焼いて固めたような札、許可証が目の前に出現し――砕けると同時にボス部屋前の扉が開いていく。

「第三ステージを思い出すわね」

 アヤナが呟く。

「だな」

 あの頃は少し、リリルの件で私達三人はギスギスしていたっけ。

「コイツが二十ステージのボス、魔神・射手妖精か」

 ボス部屋の奥で黄緑色のラインが灯り、緑と白の石のボディーが現に。

「綺麗ですね」
「どことなく女っぽいわ」

 クマムとナオが、暢気な雰囲気で話している。

 あの二人、初めの頃はどことなく頼りなかったが、なんだかんだでどちらも大物になりそうだな。

「そいじゃ、いっちょやったるか」
「ルイーサ、守りはよろしく」

 アオイとアヤナが、新装備を試すために前に出る。

 コセのお下がりである“武器隠しのマント”を靡かせるアオイ……そこはかとなく羨ましい!

「ああ、任せろ」

 もうずっと”凝血のマント”のままだし、そろそろ新しいのにしたいな。

 このマントが、低ランクの割に便利なのは知っているが。

「来るよ、姉ちゃん!」
「任せて! “二重魔法”」

 アヤナが”双銀鳥の仕込み杖”を翳し、二つの魔法陣を展開する。


「“冥雷魔法”――ヘルスプランター!!」


 紫爪の黒雷が二筋、動き始めた直後の射手妖精を襲う!

 奴の弱点属性は雷。有効武器は斧。

「ステージギミックが来るぞ!」

 フェルナンダの言葉が響いた瞬間、緑色が滲んだ突風が――前方から吹き荒れてくる!!

「“抜剣”」

 凄まじい横風が消えた瞬間――跳躍した魔神が大弓を構えた。


「“聖水剣術”――セイントブレイク!!」


 “ヴリルの聖骸盾”から抜き、“聖剣万象”を纏わせた”ザ・ディープシー・カリバーン”を横合いから斬り付け――風を纏う矢の迎撃に成功!!

「“斧化”」

 アオイが、”双銀鳥の仕込み杖”の頭の方を片刃の斧に変える。

「“竜脚”」

 脚を肉食恐竜のように変え、着地した魔神に高速で駆けるアオイ。

「“万雷斧術”――サンダラススラッシュ!!」

 すれ違いざまに右脚首を切断し、魔神の体勢を崩した!

「あとよろしく」


「“二重魔法”、”冥雷魔法“――ヘルサンダラスレイン!!」


 黒い雷の雨が降り注ぎ、魔神・射手妖精の巨体を穿ち続ける。

「また来るぞ!!」

 フェルナンダの叫びの直後、再び風が吹き荒れる!

『ァァァーーーーッ!!』

 暴風の中で、弓を構えた!?

「“鞭化”――“暴風鞭術”、サイクロンヒット!!」

 風が止んだ直後に弓が銀の鞭に打たれ、矢が大きく逸れる!

「ナイスだ、アオイ」

 さすが、私達のチームのタイトエンド。


「“光線魔法”――アトミックレイ!!」


 アヤナの魔法が射手妖精の頭を吹き飛ばし……沈黙させた。

「フー! 久し振りに、ボスにトドメを刺せたわ」
「ナイス、姉ちゃん」
「アンタもナイス、アオイ」

 手を叩き合う二人。

「双子か……」

 もし私に双子が居たら、どういう感覚だったのだろう。

○おめでとうございます。魔神・射手妖精の討伐に成功しました。


○ボス撃破特典。以下から一つをお選びください。

★射手妖精の大弓 ★暴風魔法のスキルカード
★大弓使いのスキルカード ★妖精の矢筒
★暴風矢のスキルカード


「エルフのために用意されていたボスって感じね」
「そう言えば、人魚みたいな魔神も居たっけ」

「後がつかえている。さっさと選ぶぞ、二人とも」

 正直、私達には今更過ぎる物ばかりだな。

○これより、第二十一ステージの戦士の集落に転移します。

「すぐに追い付くからな、コセ」

 お前がトゥスカ達を追い掛けて先に進もうとも、それ以上の早さで追い付いてやるさ!


●●●


「“颶風槍術”――ストームストライク!!」
「“爆裂棒術”――バーストブレイク!!」
「“泥土斧術”――ベリアルスラッシュ!!」

 エルフのルフィル、異世界人のスヴェトラーナ、山猫獣人のサンヤが六文字ずつ刻んだ武具を振るって、あっという間に魔神・射手妖精を破壊した。

「やるね~、アイツら」
「……うん」

 神代文字で強化した魔法を三人で連続して放ったあと、即座に武術スキルを叩き込んで終わらせる。

 まるで訓練を受けた軍隊のような、無駄と容赦の無さ。

「もし、今ここで裏切られたら勝てるかい、マスター?」

 シレイアさんが聞いてくる。

「個人ならまだしも、連携を取られたら難しいかな」

 カナさんも強くなってるけれど、私達の連携能力はイマイチだし。

「……マスターに良い刺激になるかもね、あの三人は」
「うん?」

 どういう意味だろう?

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