ダンジョン・ザ・チョイス

魔神スピリット

312.不幸中の幸い

「お前……本気か?」

 トゥスカ達とのやり取りを終えた直後、パールグレイの髪の美人が尋ねてきた。

「最愛の妻が危険かもしれないんだ。行くに決まってるだろう」

 単純に、このまま何十日もトゥスカと会えないなんて耐えられそうにないし。

 それに、俺もトゥスカ達も、いつ突発クエストをぶつけられてもおかしくないんだ。

 だったら、時間を無駄にせずに一秒でも早く強くなった方が良いだろう。

「仲間と合流した方が賢明だろう?」
「俺達は、このゲームの観測者に色々目を付けられてる。この前の突発クエストも、俺達を狙い撃ちにした可能性が高いんだ」

 軽く身体を動かし、調子を確認。

 左腕は……よし、まったく痛くない。

「というわけで、俺が居ない方がそっちも危険に巻き込まれづらいだろう。もしかしたら、あの異形の男が現れたのも奴等の仕業かもしれないし」

 とはいえ、アレはあまりにも異質な出来事過ぎた気もするけれど。

 なんというか……デルタらしさを感じないというか。知らんけど。

「……どうして、お前達は奴等に狙われている?」
「色々さ。神代文字を引き出せるとか、隠れNPCを多く仲間にしているとか。あまり詳しいことは知らない方が良い。そっちを巻き込んでしまいかねない」

 見られているであろうこの状況では、説明できない事も多いし。

「今更だな。私の仲間達は、お前の仲間と組んで動くことになったんだ。しかも五人中、一人を除いて全員が神代文字を扱える」

「それは……」

 確かに、俺達ほどじゃないにしても、彼女達は狙われてもおかしくないくらい神代文字の扱いに長けているようだった。

「一つだけ答えろ。私達をこのゲームに巻き込んだのは……DS、もしくはレプティリアンか?」

「……へ?」

 DSというのは初めて聞いたけれど、レプティリアンは……。

「いや、それは」
「その反応…………良いだろう。この私が、お前に協力してやる」
「へ、なんで?」
「ただしその代わり、私達をこのクソッタレなゲームに巻き込んだ奴等について教えるんだ」

 ――濃密な殺気に、背筋が刺されるような痛みが!!

「今すぐにとは言わないさ。三十六ステージに辿り着いてからで構わない」
「随分な大盤振る舞いだな」

 彼女の強さを考えると、ありがたいくらいだけれど。

「……本当に、良いのか?」
「それは、契約成立と取って構わないのだろうな?」

 打てば響くこの感じ……悪くない。

「名前」
「うん?」
「名前を教えて欲しい」

 俺はまだ、彼女の名前も知らない。

「エリューナだ。志満 エリューナ。親しい者には、リューナと呼ばせている」

「俺はコセ。巨勢 雄大。名前は恥ずかしいから、名字で呼んでくれ」

 俺達は握手を交わす。

「さっそくパーティーを組もう。お前がリーダーで構わない」
「ああ」

 メルシュがパーティーから外れており、今組んでいるのはトゥスカとノーザンのみ。

 この状態でもメルシュは俺と契約していることになっており、俺がステージを上がれば、今でも新たな情報を取得出来るらしい。

○戦士.Lv47になりました。武術・魔法の威力をアップ出来ます。どちらを選択しますか?

「Lvアップしてたのか」

 武術の方を選択。

○戦士.Lv48になりました。遺言機能が解禁されます。

「遺言機能? いや、それよりも……」

 あの異形の男にトドメを刺したのは俺だけれど、アイツ一人だけで2も上がるとは。

○戦士.Lv49になりました。空白のスキルカードを手に入れました。

「まだ上がる……うん? “空白のスキルカード”?」

 ”無名のスキルカード”とは違うのか……名前からして似ていそうだけれど。

○戦士.Lv50になりました。TPブースト機能が解禁されました。

 うん、分からん。

○戦士.Lv51になりました。予備スキル欄の最大数が10から15に増えました。

「どれだけLvが高かったんだよ、あの男」

 これもバグの一種かと思ったけれど、当時パーティーメンバーだったトゥスカのLvもちゃんと上がっている。

 メルシュは当然として、クマムとナオもLvが上がったのだろうか?

「おい」
「すみません」

 パーティー申請のチョイスプレートを、エリューナさんに送る。

「まずは朝食だ。少し待ってろ」

 パーティーを組んだ直後、部屋の入り口側に向かうエリューナさん。

「わざわざ作って貰わなくても……」
「温め直すだけだから気にするな。昨日の礼も兼ねて、食わせてやる」

 すぐに良い匂いが漂ってくる……サトミの料理とは大分違う香りだ。

「じゃあ、遠慮なく」

 その間に、あの斧使いから手に入れた物を見ておくか。

○”隆起のグランドアックス”を手に入れました。
○“大地の精の鎧”を手に入れました。
○“怪力の指輪”を手に入れました。
○“大地の剣の指輪”を手に入れました。
○“剛力竜王の甲手”を手に入れました。
○“大地斧の宝飾剣”を手に入れました。
○“指輪+2の腕輪”を手に入れました。
○“リングリング”を手に入れました。
○“大地斧使い”のサブ職業を手に入れました。
○“大地魔法使い”のサブ職業を手に入れました。
○“大地剣使い”のサブ職業を手に入れました。
○“風光斧使い”のサブ職業を手に入れました。
○“金剛力士”のサブ職業を手に入れました。
○“頑健のお守り”を手に入れました。
○“大地讃頌のスキルカード”を手に入れました。
○“闘気斧のスキルカード”を手に入れました。
○“超再生のスキルカード”を手に入れました。
○“超頑強のスキルカード”を手に入れました。
○“大地剣使いのスキルカード”を手に入れました。
○“大斧使いのスキルカード”を手に入れました。
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「……知らないスキルやサブ職業が多いな」

 大地と名の付く物を中心にパワー重視の構成だったみたいだけれど……使用していなかったであろうアイテムの中に、レア度が高そうなのが多い。

「そういえば、ライブラリシステムだったか」

 新機能をチョイスプレートから探し、詳細を調べてみる。

「メルシュの言っていた通り、Sランクばかりか。スキルも、ランクが高い物で構成されている」

 俺達よりもかなり上のステージに居たプレーヤーだと言うことが、容易に想像出来るな。

「運ぶぞ」

 エリューナさんが赤いスープ、肉とジャガイモの炒め物、マヨネーズで角切り野菜を和えた物、十字のクープが入った黒いパンが運ばれてくる。

「ボルシチとスコブリャンカ、オリヴィエにライ麦パンだ。感想は受け付けないぞ」

 なんだか、悪い笑みを浮かべているような?

「普通に美味しそうです」

 サラダを食べてから、スライスされているライ麦パンを食べる。

「う!!」

「クククク! 日本人には酸っぱいだろう。私の母国の料理だ……ぁ」

「母国って……」

 もしかして、十年くらい前に国土を大きく失ってしまった……。

「忘れてくれ。これでも日本暮らしは長い。母は日本人だしな」

「だから、日本語が上手いんですか」

「日本語に関しては、両親の意向で幼い頃から練習していた。古くさい喋り方なのは母の影響だな……おかげで、虐めは小学校の時くらいしかなかったが」

 よく分からないけれど、この人にも色々あったらしい。

「クセはありますけど、臭みとかは無くて美味しいですよ?」

「……そうか」

 食べ慣れない味に舌鼓を打ちつつ、これからの行動計画を練り上げていく。

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