ダンジョン・ザ・チョイス

魔神スピリット

310.異常事態

「ハアハア、ハアハア」

 三人の女性と共闘し、あのヘンテコな化け物魚達をなんとか滅ぼせた。

 私も彼女達も、文字を使って戦っていたのにかなり消耗してしまったわね。

「なんとか……倒せました」
「それより……どうするよ、リューナが」
「リューナ……――オイッ!!」

 エルフと獣人の人に見られたと思ったら、濃い茶髪の人に胸ぐらを掴まれた!!

「リューナはどこだ! 早く言えッ!!」
「落ち着いてください、ツェツァ」
「アンタ、《龍意のケンシ》のカナだろ。そして、さっきの男はレギオンのリーダー、コセ」

 猫っぽい濃いめの灰色獣人が、私の首に大刀のような斧を添える。

 この人達は、多分一人一人が私よりも強い。

「そもそも、どうやってこの場所に来た!」

「話さなければ、貴女を生かしておく理由が無くなるだけですよ」

 ――この人達、殺し慣れてる。

 虹の城で人を殺した今の私には……分かる。

 カオリさん達のように、敵には容赦しない者の目。


「――やめなさい!!」


 女の人の声が響いたと思ったら、誰かがツェツァと呼ばれた人を突き飛ばした?

「ノゾミ……アンタッ!!」
「本当にエリューナさんを助けたいなら、頭を冷やすべきでしょう!!」

 オットリとした、長い黒髪の眼鏡……この人、ユリカちゃんよりもアレの存在感が凄い!

 ブカッとした服で分かりづらいけれど、スタイルも絶対良い。

「喧嘩腰で聞き出そうなんて、会話が出来る人間のすることではありません」

 凄い……ママって感じがする。年はほとんど変わらなそうだけれど。

「ツェツァ、ノゾミの言うとおりです」
「ッ!!」
「しゃーないね」

 首に当てられていた斧が……降ろされる。

 この人達、仲間想いなんだ……。

「私も、二人の行方までは判らないわ。でも、これまでの経緯は教える」

 私がこうして無事だったから、コセくんも大丈夫だと思うけれど……ザッカルはどこへ行ってしまったのかしら。

 というか私……皆の所に帰れるの?


◇◇◇


『おかしい……予定よりも早過ぎる』

 ルッキンググラスの乱れようから、むしろ日を跨ぐとばかり考えていたのだが。

『世界を構築するというのは、なかなか難儀な物だ。取り敢えず、アップデート終了の知らせを出しておくか』


●●●


「水深が浅くて助かったぜ」

 随分長い間靄の中を彷徨っていたと思ったら、いきなり水の中に落とされちまった。

「……どこだよ、ここ」

 夜でよく見えないが、どこかの村か?

「あん? ここってもしかして……世界の港って場所じゃ……おいおい、マジかよ」

 十五ステージまで戻されちまったってのかよ。

「そうだ、このステージからでも魔法の家には戻れるはず」

 湖から出た俺は、渡されていた鍵を使用する。

「……ザッカル?」

「よう、お前ら」

 向こうに戻ると……お通夜ムードって感じだな。

「良かった、無事だったのね!」

 アヤナの奴が、本当に心配そうに駆け寄ってきてくれた。

「で、他の奴等は?」
「コセもカナも……トゥスカとノーザンも戻って来ないのよ! て、ザッカルは一緒じゃなかったの?」

「あ? あの二人も靄の中に落ちたのかよ」
「アンタ達を追って……迷わずにね」

 あの二人なら、コセを追うためになんだろうが。

「私達なら無事です」
「少々、困った事になっちゃいましたけれど」

 噂のトゥスカとノーザンが、俺の後ろから入ってきた?
 
「もしかして、お前らも第十五ステージに?」
「ああ、ザッカルさんは
「いいえ。それと……ご主人様も近くには居ないようです」
「あの変な男のせいで、面倒な事になっちまったようだな」

 たく、まじで先行きが判らなくなっちまったぜ。


●●●


「ここ……は」

 身体が……なにかに締め付けられて――

「は、離れろ!!」

 私を強く抱き締めていた男を突き飛ばし、急いで立ち上がる!

「イッ!! ……ハァー、ハァー」

 そうだ……お腹に穴が。

「……塞がっている? まだ痛みはあるが……」
「ぅぅ……」

 突き飛ばした男は……コセは立ち上がらない。

 まるで死んだように、グッタリとして動かないまま。

「……今なら」

 私以上に文字を使いこなす人間を殺せる、数少ないチャンス。

「…………チ!」

 手にしていた剣を、腰の鞘に戻す。

「まずは、状況確認が先決か」

 辺りを見渡すも、見覚えのある場所は目の前に聳える祭壇くらい。

 他に見えるのは、バカでかい煉瓦の橋。

「橋の上に、建物が並んでいるのか」

 暗くてよく見えないが、数キロくらいはありそうだな。

「知らない町……というわけか」

 橋の手前に、NPCと思われる中腰の老人が。

「おい」

「おお、冒険者の方。ここは”橋の砦町“。ノスバーク王国の国境に位置する場所じゃ」

「第なんステージか教えて欲しい」

「おお、冒険者の方。ここは”橋の砦町“。ノスバーク王国の国境に位置する場所じゃ」

「ダメか」

 これまでは、転移直前に第なんステージなのか教えて貰えたから問題は無かったが……。

「ノスバーク。腐敗の王都は、その国の首都だったな……せめて、二十ステージから離れていなければ良いが」

 あまり離れていなければ、仲間達と直接合流できる。

「長らく腐敗の王都を拠点にしていたが……これも導きか」

 最低限の情報は収集出来た。仲間に無事を知らせよう。

「なに?」

 鍵を使用し、魔法の家へと繋がる穴を開けたのに……入れない!

「クソ……いったいなにがどうなっている!」

 これまでの常識が、通用しない事ばかりだ!

「おい、誰か居ないのか!!」

 向こう側は見えている……なんとか声だけでも!

「リューナ!!」

 サンヤが急いで駆け付け、ツェツァが後を追ってきた。

「無事なの、リューナ!!」
「ああ、大丈夫だ」

 単純に心配している感じ……向こうは全員無事のようだな。

「だが、今自分が居る場所がよく分からない。橋の砦町というステージらしいんだが」

 繋いだ空間越しに、二人に話す。

「良いから、早くこっちに戻ってきなさいよ」

「それが……どうやら戻れないらしい。身体が弾かれるんだ」
「……うそ」

 ツェツァが、絶望したような声を上げ始める。

 私が言うのもなんだが、この子は私に依存しているからな。

「ノゾミに、この場所がどのステージか尋ねて欲しい。明日の朝、こんな風にもう一度聞きに来る」

 さっさと宿を探さねば、野宿することになってしまう。

「取り敢えず、無事で良かったわ」
「ところで、例のコセって男は?」

 サンヤに尋ねられる。

「すぐそこで、死んだように眠っているよ」
「こっちに、その男の仲間の女が居るんだけれど――殺す?」
「……いや、状況があまりにも不透明だ。向こうには隠れNPCが居る。情報を集めてくれ」
「分かったわ、気を付けてね」
「ああ」

 それを最後に、空間を閉じる。

「さて……この男はどうした物か」

 私の唇を奪った、命の恩人でもあるハーレム野郎を。

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