ダンジョン・ザ・チョイス
307.空遊滑脱の戦士エリューナ
「機嫌が悪そうだな、ルフィル」
“森の戸建て”の窓辺から外を窺う、絶世のグリーンセミロング美女に、一人掛けのソファーに座った状態で声を掛ける。
「そんなことはありません。貴女の気のせいです、リューナ」
私が買ったエルフの女、ルフィル。
この世に絶望し、憎しみをぶちまける事を決めた者特有の目が気に入った。
私やツェツァと、同じ目だから。
「で、どうすんの、リーダー。このアップデートとやらが終わったらさ」
声を掛けてきたのは、山猫の獣人であるサンヤ。
当たり前のように私の傍に来て、太股に頭を乗せてくる。
思えば、コイツとも長い付き合いだな。
「バウンティーハンターシステムとやらには、興味があるな」
どのようなメリット、デメリットがあるかはまだまだ判らないが。
「それより、先日戦った奴等はどうするのよ」
ツェツァが聞いてきた。
「どうやら奴等、二つのレギオンが同盟を組んだ集団らしい。一つは《日高見のケンシ》で、ツェツァが戦った黒人はそっちの所属。オレンジ色の翼を使用していたハーフは、《龍意のケンシ》とやらに身を置いている」
「どちらも二十人前後。隠れNPCが多数。勘だけれど、一人一人の装備が高ランクで固められていて、神代文字の使い手も多数居るみたいだったよ。ニャ~ぁ」
私とサンヤで調べたことを、三人に話す。
「私が戦った兎の獣人、武具やスキルを組み合わせた戦い方が上手かったです。多少の神代文字の差を覆されかねない程に」
「古参のオリジナルプレイヤーが、仲間に居るとか?」
「ツェツァの言うとおりだとしても、あの集団は異質すぎる。私が知るどのプレーヤー達とも違う」
女ばかりの集団が、それぞれ一人の男を中心に一種の軍隊のように行動していた。
「奴等にはなにか、具体的な目的があって共に行動しているのだろう。異なる国の人間が、どちらにも多く居たしな」
レギオンが二つに別れている以上、目的がどこまでも一緒とは限らないが。
「それで――殺すの? 殺さないの?」
ツェツァが聞きたいのは、結局はそこか。
「無論、殺すさ」
人間は皆、生きているだけで私達の敵だ。
「どうして……そこまでするの、貴女達は」
始まりの村で買ったオリジナルプレイヤーの女が、怯えながら尋ねてきた。
「黙れ、日本人。アンタには関係ない事よ」
ツェツァが、この世界のシステムについて知っているから生かしておいているだけの女に突っ掛かる。
「ていうか、普段から私達の会話を聞いてるのに、未だに理解できないの?」
「日本人とやらには、まともなコミュニケーション能力が無いのですか?」
サンヤやルフィルまで、女に突っ掛かってしまう。
「仕方がない。元々温厚だった日本人だが、特にDSによって平和ボケした家畜にされているからな。自分達が、搾取されるだけの奴隷になっているのも知らずに」
それでも――目覚める事が出来ない事そのものは罪だ。
「どれだけ証拠を提示し、理路整然と言葉を並べようとも、コイツのような人間の洗脳が解けることは無い。現実に立ち向かう勇気が無いんだからな」
絶対的不利な状況においても大国に挑み続けた日本人の気概など、現代の日本人には残って居ないのだろう。
いや、それはさすがに美化しすぎか。
当時の日本は、聡明な者がある程度権力の座に着ける下地があったに過ぎないのだろう。
どの国の人間であろうと、大多数がゴミであることに代わりはないのだから。
●●●
「――“颶風孔線”」
ユイちゃんが先日のクエスト中に手に入れたという、“ストームチョーラ”。
翠の柄の片刃の短剣、その切っ先から放たれた風と水が、庭に出現させた的を貫く。
「風を纏うウォーターカッターってところかしら?」
「風属性と水属性だから、サトミにピッタリだと思って」
使い方を教えてくれていたメルシュちゃんが、解説の続きを始めるみたい。
「見た目はナイフだけれど、あまり武器としての性能は期待しないでね。ちなみに、その他装備蘭に装備する事も可能なタイプだから」
「軽いし、運動オンチな私にピッタリね」
これなら、この前のあの男に対抗出来るかも。
空を縦横無尽に高速で駆け回る、風の大槍の使い手に。
「サトミの攻撃手段には刺突系が無かったから、これから助かる部分も増えると思う。ちなみにTP・MPを同時に消費するけれど、燃費はかなり良いよ。放ち続けている間は、徐々に威力も上がっていくし」
「仲間の誰かに当てないように、しっかりと練習しないとね~」
「サトミ……しっかり練習してくれよ」
「もうー、そんな不安そうな顔しないでよ、メグミちゃん」
ちょっとした冗談なんだから。
「それにしても……不気味ね」
いつもは大体青空が広がっているのに、黒いのがずっと蠢いている。
「行くぞ、コセ!」
「来い!」
遠くで、鎧を着込んだ黒馬を駆りながら弓を構えるシレイアちゃん。
「ハッ!!」
竜の頭みたいな大剣で、シレイアちゃんの太い矢を切り上げ弾いた!
「さすが私の旦那様。格好いいわ~♡」
思わず惚気ちゃう♡
「まあ、そうだな」
メグミちゃんも興味津々みたいね。必死に取り繕おうとしているみたいだけれど。
「……やはり、アルファ・ドラコニアンとの戦いから動きが変わったな。どんどん動きが洗練されていく気がする」
「そう?」
確かに、前までは無かった、堂に入った感じはするかもだけれど。
運動が得意じゃない私には、ちょっと判んないわね~。
「これならどうだ!」
シレイアちゃんが、連続で矢を射る!
「――“可変”」
竜の剣が顎を開き、矢を連続で噛み砕いちゃった!
「なるほど。剣で切り払おうとすると隙が大きくなるから、方向だけ調整し、顎に全て食わせたのか」
「連続で放たれた矢に、上手く対処して見せたね」
「簡易アセンションの影響か、今生の自分に無かった経験を引き出しているのかもな」
「戦士の記憶って奴なのかな」
メグミちゃんとメルシュちゃん、当たり前のようになにか難しい話をしているわね。
SF的な話は、ちょっと苦手なのだけれど。
「ちょ、ちょっとクマムちゃん……きょ、今日は別に良いんじゃない?」
「ナオさんは拳でも戦うんですから、近接戦の経験は非常に宜しいのでは?」
クマムちゃん、ナオちゃんを訓練に誘ったみたいね。
「なんだか立場が逆転したみたいで、面白いわね~」
私にベッタリだったリンピョンちゃんは、ジュリーちゃん達と一緒に道場で文字の訓練をしているみたいだし……皆、少しずつ変わっていっている。
「私も……少しくらい変わっても良いのかもね」
母の呪縛にいつまでも囚われているなんて……私らしくないしね。
“森の戸建て”の窓辺から外を窺う、絶世のグリーンセミロング美女に、一人掛けのソファーに座った状態で声を掛ける。
「そんなことはありません。貴女の気のせいです、リューナ」
私が買ったエルフの女、ルフィル。
この世に絶望し、憎しみをぶちまける事を決めた者特有の目が気に入った。
私やツェツァと、同じ目だから。
「で、どうすんの、リーダー。このアップデートとやらが終わったらさ」
声を掛けてきたのは、山猫の獣人であるサンヤ。
当たり前のように私の傍に来て、太股に頭を乗せてくる。
思えば、コイツとも長い付き合いだな。
「バウンティーハンターシステムとやらには、興味があるな」
どのようなメリット、デメリットがあるかはまだまだ判らないが。
「それより、先日戦った奴等はどうするのよ」
ツェツァが聞いてきた。
「どうやら奴等、二つのレギオンが同盟を組んだ集団らしい。一つは《日高見のケンシ》で、ツェツァが戦った黒人はそっちの所属。オレンジ色の翼を使用していたハーフは、《龍意のケンシ》とやらに身を置いている」
「どちらも二十人前後。隠れNPCが多数。勘だけれど、一人一人の装備が高ランクで固められていて、神代文字の使い手も多数居るみたいだったよ。ニャ~ぁ」
私とサンヤで調べたことを、三人に話す。
「私が戦った兎の獣人、武具やスキルを組み合わせた戦い方が上手かったです。多少の神代文字の差を覆されかねない程に」
「古参のオリジナルプレイヤーが、仲間に居るとか?」
「ツェツァの言うとおりだとしても、あの集団は異質すぎる。私が知るどのプレーヤー達とも違う」
女ばかりの集団が、それぞれ一人の男を中心に一種の軍隊のように行動していた。
「奴等にはなにか、具体的な目的があって共に行動しているのだろう。異なる国の人間が、どちらにも多く居たしな」
レギオンが二つに別れている以上、目的がどこまでも一緒とは限らないが。
「それで――殺すの? 殺さないの?」
ツェツァが聞きたいのは、結局はそこか。
「無論、殺すさ」
人間は皆、生きているだけで私達の敵だ。
「どうして……そこまでするの、貴女達は」
始まりの村で買ったオリジナルプレイヤーの女が、怯えながら尋ねてきた。
「黙れ、日本人。アンタには関係ない事よ」
ツェツァが、この世界のシステムについて知っているから生かしておいているだけの女に突っ掛かる。
「ていうか、普段から私達の会話を聞いてるのに、未だに理解できないの?」
「日本人とやらには、まともなコミュニケーション能力が無いのですか?」
サンヤやルフィルまで、女に突っ掛かってしまう。
「仕方がない。元々温厚だった日本人だが、特にDSによって平和ボケした家畜にされているからな。自分達が、搾取されるだけの奴隷になっているのも知らずに」
それでも――目覚める事が出来ない事そのものは罪だ。
「どれだけ証拠を提示し、理路整然と言葉を並べようとも、コイツのような人間の洗脳が解けることは無い。現実に立ち向かう勇気が無いんだからな」
絶対的不利な状況においても大国に挑み続けた日本人の気概など、現代の日本人には残って居ないのだろう。
いや、それはさすがに美化しすぎか。
当時の日本は、聡明な者がある程度権力の座に着ける下地があったに過ぎないのだろう。
どの国の人間であろうと、大多数がゴミであることに代わりはないのだから。
●●●
「――“颶風孔線”」
ユイちゃんが先日のクエスト中に手に入れたという、“ストームチョーラ”。
翠の柄の片刃の短剣、その切っ先から放たれた風と水が、庭に出現させた的を貫く。
「風を纏うウォーターカッターってところかしら?」
「風属性と水属性だから、サトミにピッタリだと思って」
使い方を教えてくれていたメルシュちゃんが、解説の続きを始めるみたい。
「見た目はナイフだけれど、あまり武器としての性能は期待しないでね。ちなみに、その他装備蘭に装備する事も可能なタイプだから」
「軽いし、運動オンチな私にピッタリね」
これなら、この前のあの男に対抗出来るかも。
空を縦横無尽に高速で駆け回る、風の大槍の使い手に。
「サトミの攻撃手段には刺突系が無かったから、これから助かる部分も増えると思う。ちなみにTP・MPを同時に消費するけれど、燃費はかなり良いよ。放ち続けている間は、徐々に威力も上がっていくし」
「仲間の誰かに当てないように、しっかりと練習しないとね~」
「サトミ……しっかり練習してくれよ」
「もうー、そんな不安そうな顔しないでよ、メグミちゃん」
ちょっとした冗談なんだから。
「それにしても……不気味ね」
いつもは大体青空が広がっているのに、黒いのがずっと蠢いている。
「行くぞ、コセ!」
「来い!」
遠くで、鎧を着込んだ黒馬を駆りながら弓を構えるシレイアちゃん。
「ハッ!!」
竜の頭みたいな大剣で、シレイアちゃんの太い矢を切り上げ弾いた!
「さすが私の旦那様。格好いいわ~♡」
思わず惚気ちゃう♡
「まあ、そうだな」
メグミちゃんも興味津々みたいね。必死に取り繕おうとしているみたいだけれど。
「……やはり、アルファ・ドラコニアンとの戦いから動きが変わったな。どんどん動きが洗練されていく気がする」
「そう?」
確かに、前までは無かった、堂に入った感じはするかもだけれど。
運動が得意じゃない私には、ちょっと判んないわね~。
「これならどうだ!」
シレイアちゃんが、連続で矢を射る!
「――“可変”」
竜の剣が顎を開き、矢を連続で噛み砕いちゃった!
「なるほど。剣で切り払おうとすると隙が大きくなるから、方向だけ調整し、顎に全て食わせたのか」
「連続で放たれた矢に、上手く対処して見せたね」
「簡易アセンションの影響か、今生の自分に無かった経験を引き出しているのかもな」
「戦士の記憶って奴なのかな」
メグミちゃんとメルシュちゃん、当たり前のようになにか難しい話をしているわね。
SF的な話は、ちょっと苦手なのだけれど。
「ちょ、ちょっとクマムちゃん……きょ、今日は別に良いんじゃない?」
「ナオさんは拳でも戦うんですから、近接戦の経験は非常に宜しいのでは?」
クマムちゃん、ナオちゃんを訓練に誘ったみたいね。
「なんだか立場が逆転したみたいで、面白いわね~」
私にベッタリだったリンピョンちゃんは、ジュリーちゃん達と一緒に道場で文字の訓練をしているみたいだし……皆、少しずつ変わっていっている。
「私も……少しくらい変わっても良いのかもね」
母の呪縛にいつまでも囚われているなんて……私らしくないしね。
コメント