ダンジョン・ザ・チョイス

魔神スピリット

297.空遊滑脱

「くッ!!」

 まだ左腕が治りきっていないのに、別の黒尽くめが襲って来た!

『よく避ける』

 泰然としながらも、柔らかな動きで攻撃、回避をし続ける女。

 それも空中で。

 たぶん、”空遊滑脱”のユニークスキルによるもの。

 地味だけれど、敵に回すと厄介な能力。

「なにが目的だ!」

『お前の命だ』

「理由なんて無いってことか。ハイヒール」

 早く、折れた左腕の痛みを消さないと。

『貴様が生きているから殺す。それが我々だ。ところで、そろそろ待つのは止めても良いか?』

「なにを……」


『神代文字を使う人間を殺すには、同種の力を使うしかあるまい』


 悠々とチョイスプレートを操作し、短剣から湾曲した剣に持ち替える黒尽くめ。

「あれって……シャシュカ?」

 でも、あの意匠には見覚えが無い……デルタ側が用意した新武器か。

『女のくせに、武器を見ただけで元になった物の名称が判るのだな』

 自分でも作品を作ってみたくて、色々調べたからね。

『私なりの礼儀はここまでだ――白人の女』

 女の剣に、神代文字が六つ刻まれる!!

「わざわざ、回復するのを待ってくれてたってわけ」

『抵抗しなければ、楽に殺してやる』

 ――高速で空を動き回り、あっという間に背後に回り込まれた!

『硬い翼だ』

 右翼に三文字刻み、なんとか剣を防ぐ。

 痛みのせいか、これ以上文字を刻めない!

『”暴風魔法”――ダウンバースト!!』

「ああッッ!!」

 空中戦では、こっちが圧倒的に不利。

 かと言って、向こうは地上戦に応じてはくれないだろう。

「仲間が来てくれるまで……ひたすら耐えるしかない」


●●●


「城近くの戦い、少し静かになったみたいだな」

 風は荒れ狂っているが、炎による衝撃波は止んだようだ。

「り、リリル、一緒に行きましょうよ」
「そっちは三人で、私は一人なのよ? しかも、隠れNPCの召喚士までいるし! 一緒になんて行くわけないでしょうが!」

 運良く、敵と遭遇せずにアヤナとアオイと合流できた私だったが、リリルと出くわした事でこの場を動けずにいた。

「敵じゃないって……姉ちゃんはともかく」
「ちょ、アオイ!?」

 アヤナはリリルが心配で、リリルは私達を警戒している。

 ……面倒な。

「おい、さっさと行くぞ! こんなところで時間を――アヤナ!!」

「へ?」

 巨大な金色の爪の一撃を、リリルとアオイが同時に受け止める!

「”精霊魔法”――シルフ!!」

 風の精霊を呼び出し、風の弾を放って後退させた!

「なんだよ、”精霊魔法”って。聞いたことねぇよ」

 真っ青な鎧に、右腕だけが巨大な……巻き角のような金の爪の手を持つ男。

 あの鎧は”深海王の真青鎧”で、巨爪の方は”深海竜の金巻手”……厄介な。

「あ、あっぶな」
「コイツ、一人で私達に喧嘩を売るつもり?」
「でも……たぶん強いよ、この人」

 勘の良いアオイがそう言うなら、腹を括った方が良いかもな。

「大した物は持ってなさそうだが、レアアイテムとレアスキルを貰おうか。クエスト中なら、殺し合っても早々咎められねーからよ」

「私は、アンタみたいな男が――一番嫌いなのよ!!」

 リリルが両手の短剣に、神代文字を六文字ずつ刻んだ。

「気をつけろ! その男の爪も鎧も、Sランクアイテムだ!」

 果たして、全員無事に切り抜けられるかどうか。


●●●


「もう一発! ”颶風魔法”――ストームダウンバースト!!」

 もう何度目か、橋に嵐の重圧を叩きつける!!

「もしかして、王国兵士って無限湧きなの?」


「――”暴風砲”!!」


「へ? ――キャアアアあああああああッッッ!!!」

 咄嗟に文字を刻んだ杖でガードしたけれど……身体の前側に、痛みと圧迫感がこびり付く。

「だ、誰?」

「せっかくの突発クエストを、盛り下げるような真似はしないでくれよ。お嬢ちゃん」

 緑の鎧と槍を持った男が、私を攻撃してきた人間?

 ――私の攻撃の手が緩んだから、ユウコが激しく鞭を振るい始めている。

「君も、そのチート能力を使うのか。赦しがたいね!」

 脚と背から風を発して、高速で突っ込んで来た!

「”暴風槍術”――ハリケーンストライク!!」
「”颶風盾術”――ストームバニッシュ!!」

 男の槍が”紺碧の空は憂いて”に接触する直前、盾部分から嵐を発して弾き飛ばす!!

「このダメージ……”風化の指輪”持ちか」
「ご明察」

 今のは正面からだからなんとかなったけれど、撹乱しながら攻められたら……運動オンチの私には対処しきれないと思う。どうしようかしら。

 色仕掛け的な……なんか嫌ね。前は、そこまで抵抗なかったはずだけれど。

「”光嵐の穿孔刃”!」

 黄金の穂先の部分に風が集まり、四メートル程もありそうな巨大な刃を形成したですって!?

「この槍は、”天空の神風槍”。風特化の私にもっとも相応しい武具。この力で、君のチートを穿ち抜いてあげようじゃないか!!」

「チートチートって、ちょっと煩いわよ?」

 この能力を引き出そうとすればするほど、精神が擦り切れそうな……魂が摩耗していくような感覚があるって言うのに。

 コセさん達、よくこんな力を当たり前のように使えたわね。

 私なんて、気を抜いたら一瞬で消えてしまいそうなのに。

「Sランク装備の力、見せてあげよう!」

 鎧の各所から器用に風を放ち、高速で撹乱してきた!

「もっとも恐れていた事を!」

 初撃は、確実に防がないと。

 頭上から――来る!!

「――金剛の鞭!!」

 右腕に連動する、指輪から呼び出したダイヤモンドの巨大鞭を盾に!!

「ハハハハハハ!! やるじゃないか! ――へ?」

 ダイヤモンドの鞭が砕かれた瞬間、私から彼の懐へと飛び込んだ!!


「――暴虐の風ッ!!」


 ”ルドラの装身具”の力で、全方位に圧殺の風を放ち――男の左腕が潰れ消える!

「ぁぁぁああああああッッッ!!!」

 これでトドメ!!

「”暴風弾”!!」
「”超高速”ぅぅッッ!!!」

 途轍もないスピードで避けられ、あっという間に遠くへと逃げていく男。

「そうだ、さっきの槍!」

 ”盗術”のスティールを使えば、奪え……。

「そう上手くは行かないか」

 湖に落ちたのか橋に落ちたのかは判らないけれど、あの強力そうな槍はどこにも見当たらなかった。

「身体……痛いわね」

 MPも半分を切ったはずだし、どこかで休まないと。

『と、突発クエスト終了だ~!! しょ、勝者は奴隷側だ~!!』

 絶えることなく現れていた兵士達が消え、城からの矢も飛んでこなくなる。

 なんとか、生き残る事が出来たみたいね。

「フー……皆は無事なのかしら?」

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