ダンジョン・ザ・チョイス

魔神スピリット

287.拘泥りの魔法使いサキ

「ジュリーちゃん達を待たせるのも悪いし、さっさと片付けて来るから」

 《龍意のケンシ》には見せないようにしていた私の愛用武器――”職人のこだわり庖丁”を手に、魔神・強壮守宮へと近付いていく。

「いつでも、援護に入れるようにはしておきます」

 シャドーの隠れNPC、シェーレちゃんが気を遣ってくれる。

「ありがとう」

 大量のヤモリが飛びだしてきた所で、右手の大庖丁に――十二文字刻む!!

「ようやく、私もアテルと同じ領域に踏み入れたみたいね」

 同時に、”職人のこだわり庖丁”の形状がより鋭利に変化し――”匠の拘泥こだわり庖丁”へと進化。

「これも、ジュリーちゃんと話せたからかな」

 アテルが彼との出会いで新たな境地へと達したように、私にとって、ジュリーちゃんがそういう対象だったということなのでしょう。

「”二重魔法”、”冥雷魔法”――ヘルスプランター」

 左右のヤモリを減らし、数秒の時間を稼ぐ。

『グォォォォォォ!!』

「”瞬足”――”跳躍”」

 一気に距離を詰め――直後の尻尾の横振りを、頭上へと跳んで回避。


「――――”断罪斬り”」


 神代文字の力を集約したスキルの一撃で真っ二つにし、”強壮再生”を使わせることなく戦闘不能に。

 やがて、魔神もヤモリも光となって消えていく。

「これが今の私よ、ジュリーちゃん」

 聞こえるはずもないのに、そう呟く自分が居た。


●●●


「この味付け卵……美味しいな」

 昼頃、明日のダンジョン攻略の打ち合わせをすべく、俺達とアテル組は、全員でホテルのビュッフェ会場へとやって来た。

 既に打ち合わせは終わり、皆で好き好きにご飯を食べている真っ最中。

 和、洋、中、それ以外と思われる料理もあり、優に二百種類はありそうだ。

 昨日と一昨日の夜もここで食べたけれど、全種類食べきれるだろうか?

「コセ、ちょっと良いかな?」

 アテルが、畏まった様子で声を掛けてきた。

「なんだ、あらたまって?」
「ちょっとその……聞きたい事があって……向こうで話さないかい?」

 モモカを中心とした人だかりから、最も離れた位置にあるテーブルを指差すアテル。

 そちらの方には、NPCと思われる人間以外誰も居ない……どうやら、他の人間には聞かれたくないらしい。

「わかった」

 どんな話をするのかと僅かながら緊張した状態で、俺は料理の入った皿と共に移動。例のテーブルの椅子に座る。

「プライベートな事を尋ねてしまうんだが……君は、何人の女性と関係を持った?」

「……は?」

 自分でもビックリするくらい冷たい声が出た。

「すまない。別におもしろ半分で聞いているわけじゃないんだ。その……僕は、割と求められたら断らないから……レギオンの大半と……そういう関係なんだ」

 なんだこれ、遠回しな自慢?

「それがどうした」
「いや……その辺、君はどうしてるのかと……僕が、本当にこのままで良いのかってね……」
「……」

 今の状況を考えると、俺も滅多な事は言えないんだけれど……。

「まあ……責任を取る気があるなら……良いんじゃないか?」

 本当にそれで良いのかと面と向かって言われると……ちょっと自信は無い。

「責任……」
「おい、まさか責任を取るつもりが無いわけじゃ無いよな?」

 だとしたら、俺は目の前の男を軽蔑せざる負えない。

「知っての通り、僕等は世界を終わらせるのが目的だ。そういう意味では、自分達の将来を見据えてはいない」
「おい」
「だが、決して半端な気持ちでそういう関係になったつもりは無い。死が訪れるその時まで、大切に出来ると思った相手としか寝ては居ない」

 寝ては居ないとか言うな。

「だったら、わざわざ俺に尋ねて来なくても良いだろうが」
「まあ、確かにその通りなんだけれど……罪悪感が湧かないわけじゃないし……君はどうなのかと」
「それは……まあ」
「それに……結構オープンに求められるから……ちょっと頻度を減らしたいし……」

 本当に聞きたかったのはそっちか。

「俺の方は、向こうが勝手に順番を決めたりしているし、その時の精神状態とかで譲り合ったりしているようだけれど……」

 いったいなんの話をしているんだ、俺達は。

「それは羨ましいな。こっちは自分がってタイプが何人か居るから……さすがに、毎日はね……」
「へ、そっちは毎日なのか?」
「ん? そっちは違うのかい?」
「ああ……うちには、モモカが居るから」

 モモカが俺と一緒に寝たいと言うと、皆はさすがに遠慮するし。

「そっか。小さい子が居ると、さすがに……」

 なにかを熟考しているな、アテルの奴。

「まさかとは思うが、ホテルの裏で子供を買おうとか思っていないよな?」
「さすがにそれは……戦えない子を庇いながらのボス戦は、さすがに危険すぎるし」

 そこは同じ考えか。

「あ、でも……あとでデボラさんに確認……いや、子供が加わったら加わったで攻略の妨げになるし…………変な事を考えるのはやめよう」

 いったいなにを考えていたんだ、コイツ?

「ちなみに……精力の付く食べ物とかって、なにか知ってるかい? 色々教えて欲しい」

 コイツはコイツで、苦労しているらしい。

 トゥスカと出会う前にこんな相談されてたら、なにをしていたか分からないが。

「ああ……はい」

 なんかムカつくけれど、知っている食材の情報はあげた。


            ★


「……ちょっと、食べ過ぎたかも」

 クセの強いチーズとか、初めての香辛料を使った料理とか、馴染みのない味はついつい試したくなってしまう。

「コセさん、モモカちゃん達はお散歩に行ったみたいよ」
「他の皆も、温泉やプールに入ってくるって」

 サトミさんとリンピョンが、二階側の俺の寝室に入ってきた。

 音は下からの方が聞こえやすいため、俺はこっちの部屋を使っていたのだが……。

「というわけだから……今しかチャンスが無いの」
「……なんの?」
「もう、分かってるくせに♡」
「それでは、私は見張りを」
「リンピョンちゃんも一緒よ。メグミちゃんやトゥスカちゃんだって、そのつもりで私達に時間をくれたんでしょうし」
「……へ?」

 それってつまり……。

「よ、よろしいのですか、サトミ様?」
「リンピョンちゃんなら、良いに決まってるわ♡」

「いや、ちょっと……」

 チョイスプレートを操作し、装備を消してしまう二人。

「昨日から、もう我慢の限界だったの……だから、今だけ……私の我が儘を聞いてちょうだい♡」

 不安と期待が昂ぶり過ぎて……今にも泣き出しそうな二人の顔。

 お腹いっぱいだからなのかな……頭が全然回らない。

「……良いよ」

 俺に、アテルのことをとやかく言う権利なんて全然無いや。

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