ダンジョン・ザ・チョイス
282.一夜明け
「ルイーサ……さっさと起きなさいよ」
リリルの……声?
「……ぅ」
「あ……き、気が付いたみたいね」
「ここ……は」
「ボス部屋一本手前の、安全地帯だよ」
説明しながら近付いてきたのは……マリサ。
「悪いね。なにが起きるか分からないから、すぐに報酬を選んで移動させて貰ったよ」
アムシェルが、新たな魔剣を私に見せ付けてきた。
「”古代王の魔剣”……」
「ルイーサの分もあるぞ」
フェルナンダが私の前に持ってきてくれたのは、アムシェルが持つ魔剣の白いバージョン。
「これが……”古代王の聖剣”」
私達が手に入れる予定だった、古代属性付きのSランク武器。
古生代ガーディアンキングのみを倒した場合は、Aランクの”古代の魔剣”か”古代の聖剣”、あとは”古代の大剣”だったか。
「外だと、もうすぐ夜が明ける頃合いだ。朝食を軽く済ませたらボスに挑もうと思うんだけれど、体調は問題ない?」
「ああ……なんとか」
少し怠さが残っているが、身体を動かしているうちに本調子に戻るだろう。
「マリサも、もう少し休んだら? 昨日は何度も十八文字使ってるんだから」
「だったら、二十ステージの街のベッドで休みたいかな。野宿なんて久し振りだったから、背中が痛いよ。ハァ~ァ!」
「フェルナンダ、アヤナ達は?」
「三人とも、まだ寝ているぞ。だから、お前ももう少し休んでいろ」
「今から寝るのはな……コーヒーかなにか」
「ほら、飲みなさいよ」
リリルが、温かい飲み物を持ってきてくれた?
目を覚ましてすぐに居なくなったと思ったら、わざわざ淹れて来てくれたのか。
「ありがとう、リリル」
「べ、別に……アンタのためじゃないんだからね! わ、私がたまたま飲みたいと思ってたから……だから」
「うん、美味しい。ちょうど飲み頃の温かさだ」
一気に飲み干せそうなくらいの適温。
「そ、そっか……♡」
「まさか、リリルがあんなベッタベタなツンデレを疲労するとは」
「アテル以外に対しても、あんな雌顔晒すんだな」
「ま、マリサとアムシェル! ちょっとウッサいわよ!!」
まだ、頭がボーッとする……やっぱり、もう少し寝た方が良いのかな。
●●●
「ウンま! おい! もっと持ってきてくれ、カナ!」
早朝、アレからずっと眠ったままだったザッカルは、起きるなり昨日の残りの食材で作った料理を凄い勢いで食べている。
「ちょ、ちょっと、そんなに食べて大丈夫なの?」
「大丈夫、大丈夫! ムシャクシャ、カナの料理は美味ーし、今はとにかく腹になにか入れたくて仕方ねーんだよ! ガツガツ! 昨日はアイツらがやって来たから、あまり食わないようにしたしよ!」
いつ襲われるか判らないし、気分的にもそれどころじゃなくなったから、動きが鈍らない程度に食事を終えて家の中に入った。表向きには、警戒なんて全然していない風を装って。
「身体……もう大丈夫なの?」
「血が足りないのかちょっとダリーけれど、痛みとかはねーよ。あ、飲み物もくれ」
本当に元気そう……。
「ハー……良かった」
傷が塞がっても全然起きないから、気が気じゃ無かったよ。
「……昨日はごめんなさい、ザッカル」
ザッカルが怪我をしたのは、完全に私のせい。
「……気にすんな。俺だって、もっと上手く庇えてりゃ、お前らに迷惑掛けずに済んだんだしよ」
「そんなこと……」
「だからまあ……お互い様って奴さ」
「ザッカル……」
粗雑な部分が目立つけれど、一本芯が通ってて……格好いいなあ。
「そろそろ寝た方が良いですよ、カナさん」
ノーザンちゃんが、私を労ってくれる。
「うん? もう朝だぞ?」
「カナさん、寝ずにずっと看病してたんですよ。僕とユイさんは四時間くらいは寝ましたけれど」
「そうだったのか……あんがとな、カナ」
「べ、別に良いよ……これくらい」
……私、今普通に話せてた?
「良かった、起きてるようだね」
「ハァ~ァ。おはよう……ザッカルさん」
「おう! で、お前らはどこ行ってたんだ?」
シレイアさんとユイちゃんは、ノーザンちゃん達が起きるなり外に出ていた。
「昨日の突発クエストで遭遇した、古巣を探しにね。まあ、見付けられなかったけれど」
「古巣?」
その辺のこと、まだザッカルには話してなかった。
「代わりに……別の人達を連れて来たよ」
「おはようございます~」
「フン、おはよう」
「ダハハハ! ようやく起きたのかよ、ザッカル。ダッセーな~」
ユイちゃんのお姉さんのパーティーメンバー!
「なんだと、コノヤロー!! 喧嘩売ってんのか、バッファ!!」
本当に元気なったみたいで安心するけれど……なったらなったでうるさい。
「あ、あの、昨日はありがとうございました!」
三人の前に出て、深々と頭を下げる。
「「「……」」」
「へと……」
あれ……なに、この沈黙?
「「「……いや、誰?」」」
「……へ?」
「アハハハハハハ!! カナ、いつものエロい格好じゃねーから、気付かれないでやんの!」
「ああ! 昨日のおっかない鎌使いか! て、なんでそんな地味な格好してんだよ?」
私……獣人を嫌いになりそう。
「所で、そちらはなんの用で?」
ノーザンさん、昨日助けて貰ったのに警戒しているみたい。
「取り敢えず休戦協定を結んで、次の二十ステージでそれぞれの仲間と合流するまでは、一緒に行動しない?」
「また、突発クエストを仕掛けられる可能性もありますもんね」
カオリさんの提案は、正直ありがたい。
「まあ、この魔女の避暑地では暫くクエストは起きないわよ。デボラの話では、突発クエストには冷却期間があって、およそ一ヶ月は同じステージで突発クエストを仕掛けられないみたい」
「それなら、僕達が突発クエストに見舞われたり見舞われなかったりした理由に説明が付きますね」
ノーザンちゃんの言うことはよく分からないけれど、もしかして……もっと頻繁に突発クエストに巻き込まれてもおかしくなかったってこと?
「とはいえ、デボラの情報はかなり前の物。今も同じとは限らないようよ」
「むしろ、アテル様やそちらのコセとかいうのを警戒して、頻度を上げている可能性もある」
アデールさんの言うとおりかもしれない。
「なら、さっさと準備を済ませて仲間と合流――おわ!!」
勢いよく立ち上がったザッカルが蹌踉めいて、ベッドに倒れてしまう!?
「さすがに、今日はやめて置いた方が良さそうだな。ちゃっちゃと治せよ、ザッカル~」
「ウッセー、水牛女!」
ハァー……この二人が揃うと、うるさくて仕方ない。
●●●
『良いのか、レイナ? 昨日の奴等を探さなくて』
キクルさんが、心配して声を掛けてくださる。
「良いんです。今のリリララ……シレイアは、敵になってしまうかもしれないですから」
彼女と争うことになるくらいなら、接触しない方が良い。
「それよりも、昨日の報酬のユニークスキル……私が頂いて本当に宜しいんですか?」
『お前の弱点を補うのにちょうど良いんだ、良いに決まってる』
一度も素顔を見せてくれないキクルさんだけれど……優しい。
「キクル~、なにレイナと良い雰囲気出してるのかな~?」
「ぐ、グダラさん! 私達、別に良い雰囲気なんて!」
ちょ、ちょっと……心地良いなぁ……とは思ってましたけれど。
『なんで怒っているんだ、お前は?』
キクルさん……朴念仁過ぎる。
グダラさん、日に日に女性っぽくなってきているのに。
十五ステージでキクルさん達と出会った時は、グダラさんはもっと男勝りな口調だった。
「そろそろ参りましょう、マスター」
シノビのサザンカさんが、私を迎えに来る。
「うん」
リリララと出会わせてくれたメモ用紙をチョイスプレートにしまい、私達は遺跡島に向かうべく、魔女の避暑地のボスが居る森へと足を踏み入れる。
また会えて嬉しかったよ……リリララ。
リリルの……声?
「……ぅ」
「あ……き、気が付いたみたいね」
「ここ……は」
「ボス部屋一本手前の、安全地帯だよ」
説明しながら近付いてきたのは……マリサ。
「悪いね。なにが起きるか分からないから、すぐに報酬を選んで移動させて貰ったよ」
アムシェルが、新たな魔剣を私に見せ付けてきた。
「”古代王の魔剣”……」
「ルイーサの分もあるぞ」
フェルナンダが私の前に持ってきてくれたのは、アムシェルが持つ魔剣の白いバージョン。
「これが……”古代王の聖剣”」
私達が手に入れる予定だった、古代属性付きのSランク武器。
古生代ガーディアンキングのみを倒した場合は、Aランクの”古代の魔剣”か”古代の聖剣”、あとは”古代の大剣”だったか。
「外だと、もうすぐ夜が明ける頃合いだ。朝食を軽く済ませたらボスに挑もうと思うんだけれど、体調は問題ない?」
「ああ……なんとか」
少し怠さが残っているが、身体を動かしているうちに本調子に戻るだろう。
「マリサも、もう少し休んだら? 昨日は何度も十八文字使ってるんだから」
「だったら、二十ステージの街のベッドで休みたいかな。野宿なんて久し振りだったから、背中が痛いよ。ハァ~ァ!」
「フェルナンダ、アヤナ達は?」
「三人とも、まだ寝ているぞ。だから、お前ももう少し休んでいろ」
「今から寝るのはな……コーヒーかなにか」
「ほら、飲みなさいよ」
リリルが、温かい飲み物を持ってきてくれた?
目を覚ましてすぐに居なくなったと思ったら、わざわざ淹れて来てくれたのか。
「ありがとう、リリル」
「べ、別に……アンタのためじゃないんだからね! わ、私がたまたま飲みたいと思ってたから……だから」
「うん、美味しい。ちょうど飲み頃の温かさだ」
一気に飲み干せそうなくらいの適温。
「そ、そっか……♡」
「まさか、リリルがあんなベッタベタなツンデレを疲労するとは」
「アテル以外に対しても、あんな雌顔晒すんだな」
「ま、マリサとアムシェル! ちょっとウッサいわよ!!」
まだ、頭がボーッとする……やっぱり、もう少し寝た方が良いのかな。
●●●
「ウンま! おい! もっと持ってきてくれ、カナ!」
早朝、アレからずっと眠ったままだったザッカルは、起きるなり昨日の残りの食材で作った料理を凄い勢いで食べている。
「ちょ、ちょっと、そんなに食べて大丈夫なの?」
「大丈夫、大丈夫! ムシャクシャ、カナの料理は美味ーし、今はとにかく腹になにか入れたくて仕方ねーんだよ! ガツガツ! 昨日はアイツらがやって来たから、あまり食わないようにしたしよ!」
いつ襲われるか判らないし、気分的にもそれどころじゃなくなったから、動きが鈍らない程度に食事を終えて家の中に入った。表向きには、警戒なんて全然していない風を装って。
「身体……もう大丈夫なの?」
「血が足りないのかちょっとダリーけれど、痛みとかはねーよ。あ、飲み物もくれ」
本当に元気そう……。
「ハー……良かった」
傷が塞がっても全然起きないから、気が気じゃ無かったよ。
「……昨日はごめんなさい、ザッカル」
ザッカルが怪我をしたのは、完全に私のせい。
「……気にすんな。俺だって、もっと上手く庇えてりゃ、お前らに迷惑掛けずに済んだんだしよ」
「そんなこと……」
「だからまあ……お互い様って奴さ」
「ザッカル……」
粗雑な部分が目立つけれど、一本芯が通ってて……格好いいなあ。
「そろそろ寝た方が良いですよ、カナさん」
ノーザンちゃんが、私を労ってくれる。
「うん? もう朝だぞ?」
「カナさん、寝ずにずっと看病してたんですよ。僕とユイさんは四時間くらいは寝ましたけれど」
「そうだったのか……あんがとな、カナ」
「べ、別に良いよ……これくらい」
……私、今普通に話せてた?
「良かった、起きてるようだね」
「ハァ~ァ。おはよう……ザッカルさん」
「おう! で、お前らはどこ行ってたんだ?」
シレイアさんとユイちゃんは、ノーザンちゃん達が起きるなり外に出ていた。
「昨日の突発クエストで遭遇した、古巣を探しにね。まあ、見付けられなかったけれど」
「古巣?」
その辺のこと、まだザッカルには話してなかった。
「代わりに……別の人達を連れて来たよ」
「おはようございます~」
「フン、おはよう」
「ダハハハ! ようやく起きたのかよ、ザッカル。ダッセーな~」
ユイちゃんのお姉さんのパーティーメンバー!
「なんだと、コノヤロー!! 喧嘩売ってんのか、バッファ!!」
本当に元気なったみたいで安心するけれど……なったらなったでうるさい。
「あ、あの、昨日はありがとうございました!」
三人の前に出て、深々と頭を下げる。
「「「……」」」
「へと……」
あれ……なに、この沈黙?
「「「……いや、誰?」」」
「……へ?」
「アハハハハハハ!! カナ、いつものエロい格好じゃねーから、気付かれないでやんの!」
「ああ! 昨日のおっかない鎌使いか! て、なんでそんな地味な格好してんだよ?」
私……獣人を嫌いになりそう。
「所で、そちらはなんの用で?」
ノーザンさん、昨日助けて貰ったのに警戒しているみたい。
「取り敢えず休戦協定を結んで、次の二十ステージでそれぞれの仲間と合流するまでは、一緒に行動しない?」
「また、突発クエストを仕掛けられる可能性もありますもんね」
カオリさんの提案は、正直ありがたい。
「まあ、この魔女の避暑地では暫くクエストは起きないわよ。デボラの話では、突発クエストには冷却期間があって、およそ一ヶ月は同じステージで突発クエストを仕掛けられないみたい」
「それなら、僕達が突発クエストに見舞われたり見舞われなかったりした理由に説明が付きますね」
ノーザンちゃんの言うことはよく分からないけれど、もしかして……もっと頻繁に突発クエストに巻き込まれてもおかしくなかったってこと?
「とはいえ、デボラの情報はかなり前の物。今も同じとは限らないようよ」
「むしろ、アテル様やそちらのコセとかいうのを警戒して、頻度を上げている可能性もある」
アデールさんの言うとおりかもしれない。
「なら、さっさと準備を済ませて仲間と合流――おわ!!」
勢いよく立ち上がったザッカルが蹌踉めいて、ベッドに倒れてしまう!?
「さすがに、今日はやめて置いた方が良さそうだな。ちゃっちゃと治せよ、ザッカル~」
「ウッセー、水牛女!」
ハァー……この二人が揃うと、うるさくて仕方ない。
●●●
『良いのか、レイナ? 昨日の奴等を探さなくて』
キクルさんが、心配して声を掛けてくださる。
「良いんです。今のリリララ……シレイアは、敵になってしまうかもしれないですから」
彼女と争うことになるくらいなら、接触しない方が良い。
「それよりも、昨日の報酬のユニークスキル……私が頂いて本当に宜しいんですか?」
『お前の弱点を補うのにちょうど良いんだ、良いに決まってる』
一度も素顔を見せてくれないキクルさんだけれど……優しい。
「キクル~、なにレイナと良い雰囲気出してるのかな~?」
「ぐ、グダラさん! 私達、別に良い雰囲気なんて!」
ちょ、ちょっと……心地良いなぁ……とは思ってましたけれど。
『なんで怒っているんだ、お前は?』
キクルさん……朴念仁過ぎる。
グダラさん、日に日に女性っぽくなってきているのに。
十五ステージでキクルさん達と出会った時は、グダラさんはもっと男勝りな口調だった。
「そろそろ参りましょう、マスター」
シノビのサザンカさんが、私を迎えに来る。
「うん」
リリララと出会わせてくれたメモ用紙をチョイスプレートにしまい、私達は遺跡島に向かうべく、魔女の避暑地のボスが居る森へと足を踏み入れる。
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