ダンジョン・ザ・チョイス

魔神スピリット

279.人形殺しの魔女

 ――壊れた子供達が再び動き出し、僕達に襲い掛かってくる。

 数は、残り十二人。

 大したスキルは使ってこないけれど、ザッカルさんから離れすぎるわけにもいかないし、カナさんはまともに戦えそうにない……僕が、さっさと数を減らさないと。

「「”火魔法”――フレイムバレット!」」
「――”破邪忍耐”!」

 青白い気を斧と身体から噴き上げ、ザッカルさんとカナさんを守る!

「”瞬足”――――”極寒断ち”」

 武器ごと、”極寒忍耐の破邪魂”の力で男の子を両断し、凍結――光になって消えていく。

 ……初めて人を殺したときは、その瞬間は感覚が麻痺してて……次の日から、殺した相手の眼差しや感触がフラッシュバックし続け……暫く、身体に気力が入らず、頭もその事にばかり囚われていた。

 その時にずっと考えていたのは、自分が正しいと証明するための理屈探し。

 叔父さんに改めて道理を説かれ、それを時間を掛けて僕の中で昇華していき、なんとか乗り越えた。

 僕には教え導く人が居たから乗り越えることが出来たけれど、コセ様や他の皆は自力で乗り越えた人達が多そう。

 必要に迫られてって感じだけれど、皆、誰かを殺したことに言い訳しないというか……ちゃんと、そこから逃げずに向き合っている人達が多い気がする。

 僕はこのゲームに参加させられる前に覚悟を決めていたけれど、もしコセ様達みたいに突然この世界に放り込まれていた場合……僕は、今みたいにちゃんと戦えたのだろうか。

「”雪玉発射”!」

 左手から雪玉を連射し続け、子供達を牽制!

 正直、今のうちにカナさんに片付けて貰いたい所だけれど……あの様子じゃ無理――


「もう――――ウンザリなのよ」


 目にも止まらぬ早さで振られたカナさんの鎌が――男の子の首を刎ねた。

「こ、この人達……酷い」
「全然、僕達に大人しく倒されてくれない!」
「仲間を殺してんじゃねーぞ、クソババア!!」


「あーー、ウザ」


「ゴブッ!!?」

 下から大鎌を振り上げ、胸を貫くカナさん……この感じ、ナイトモンキーの群れと戦っていた時に似ている。

 ううん。むしろ、もっと深くて暗い……。

「ガッ!!」
「ヤメ――」

 ”宵闇の暗闘を制せよ”の、刃が付いていない方で頭を横殴りにし、その反動で後ろに回り込もうとしていた子供の頭を刎ね、別の男の子のお腹を思いっ切り蹴り上げた!

 その容赦のなさと無駄のない流麗な動きは、達人のそれを思わせる。

「なんで……友達を殺すなよーーーッ!!」
「友達? ――くだらな」

 鎌でお腹を刺し、そのまま空中に持ち上げる……カナさん。

「お前達は私達になにをしようとしたの? その事を考えれば、当然の報いだとは思わない?」

「痛……い……痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いイダイぃぃぃッッ!!!」

「誰かに洗脳されて、狂ってしまったのは解るわ。自分達じゃどうしようもなかったのも理解できる。でも――女をオモチャにして殺してでも生き続けることを選んだのは――――お前らだよなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッッ!!!!」

「た、助け――」
「”大鎌術”――ハイパワーサイズ!!」

 浮かせていた子供を放り投げ……派手に引き裂くカナさん。

 その手の鎌には……紫色に濁りかけた神代文字が三つ……。

 コセ様の時のように暴走しているわけじゃないけれど……あの色は。

 でも、文字を刻めたって事は強い神性に目覚めたと言うことのはず。


●●●


「あ……ぁあ」

「その顔、自分が殺される側になった時の覚悟なんてしてなかったみたいね」

 この子達がもし、私の世界の一般的な家庭に産まれ、義務教育を受けて育ったとしても――


「――――世界の負け犬が」


 最後の一人の脳天に”宵闇の暗闘を制せよ”を振り下ろし、終わらせてあげる。


「”爆裂魔法”――エクスプロージョン!!」


 小さな火球が目の前に突如生まれ――瞬時に膨張していく。

「――”魔斬り”」

 炸裂するよりも早く、火球を切り裂いた。

「チ! ダメか」
「あーあ。全滅させてくれやがったかよ、コイツら。ガキ共に幾ら使ってやったと思っていやがる!」
「まあ、良いじゃないか。そろそろウザったくなってきていた所だし」
「稼がせて貰ったし、女も出来るだけ傷付けずに捕まえてくれてたんだ。ちょっとは感謝しようぜ、お前ら」

 四人の男達が、私達の前に現れる。

「あの子達に、どんな教育をしたのかしら」

「お、聞いてくれる?」
「十六ステージにガキが売られている商館があってさ、試しに一人買って、他のパーティーの女を誘導させたわけよ」
「そうしたら、思いのほか上手くいってな!」
「ガキだってだけでどいつもこいつも油断してくれるから、攫うのも殺すのも楽だったぜ」

 意匠の凝り具合から、高ランクと思われる武具を手にする男達。

「見ろよ! この装備のほとんどが、あのガキ共のおかげで手に入った物だ!」
「最初の奴は、人を殺すのはもう嫌だ!! とか言ってウルセーから、つい殴り殺しちまったんだよな」
「アイツ、顔ブッ潰れてたよな。あれ、マジでグロすに。次の日、たった三食しか喉を通らなかったよ!」
「普通に食ってんじゃねぇか!」

「「「「ハハハハハハハハハハハハハ!!」」」」

「気持ち悪い!」
「ここまで胸糞悪い人間が……本当に存在するなんてね」

 いや、潜在的には、誰だってこういう側面を持っている。

 ただ、現実が己に干渉してきたときの自分に自分が勝つか、耐えるか、負けるか。

 人間は、ただそれだけの差でしかないんだ。

 ――鎌に文字が……いつの間に。

 それに……文字が紫から青になっていく?

「まあ、その時の反省を踏まえて、俺達はアイツらにご褒美をやることにしたわけだ」
「まずセックスを見せ付けるだろう? 自慰を覚えた所で、俺達でも難易度がたけー醜女とヤらせてやるわけよ」
「そしたらさ、またヤりたさにビックリするくらい従順になってくれんだよなー! いや、ほんとビックリ」
「セックスは麻薬みたいな物って言葉の意味が、なんとなく分かった気がするぜ!」
「なに格好つけて、頭良さそうなフリしてんだよ、お前! 気持ちわりーんだよ!」
「うるせー、たまには良いだろうが!」

「「「「ハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!」」」」

 本当に……頭がどうにかなってしまいそうだ!!

「んじゃ、大人しく捕まってくれよ、お嬢ちゃん達」
「腕とか脚が無かったりするとさ、さすがに萎えちゃうからさ」
「屍姦はあんま気持ち良くないしよ」
「四対二だ。そこの寝てる女を守りながらじゃ、俺達に勝てっこねーぜ」

 どうやら、私達に声を掛けてきたチャラ男がコイツらのリーダーだったみたい。

「アンタは、私が殺してやる」


「だったら、我々も加勢してやろう」
「話は聞かせて貰ったからな!」


「貴女たちは……《日高見のケンシ》の……」

 確か、フランス人のアデールに水牛獣人のバッファ。

「ゲ! コイツらは……」
「前に、問答無用でガキをぶった切った女の仲間!!」

「ああ、やっぱりお前らだったのかよ、あれ」
「ならば、遠慮は要らないな」

 バッファが大きな鎚を。アデールが細剣を抜いた!

 でもこれで――一対一で、あの男をぶちのめせる!

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