ダンジョン・ザ・チョイス

魔神スピリット

277.突発クエスト・光と虹の城

「……来た」

 灯りを消して三十分程した頃、ユイちゃんが知らせてくれる。

 まさか……本当に来るなんてね。

「数は……二十人近く居そう」
「一つのレギオンが襲ってきたと考えた方が良さそうだね」

 シレイアさんの言葉を合図に、武器を手にして二カ所ある家の隙間を警戒する。

 この家は破壊不能なため、二つの出入り口さえ警戒していれば良い。

 ちなみに、この家に玄関はない。二つの隙間が入り口なのだ。ちなみに土足。

 私とノーザンちゃん、ザッカルが担当する方から気配がすると、ゴツイ赤い鉤爪のアーマーを着たザッカルが前へ。

 屋内で戦うならそちらの方が良いと判断したのでしょうけれど……前に出たのは、汚れ仕事を引き受けようとしとぃるから……かもしれない。

 少しだけ、ホッとしている自分が居る。

 ――気配が複数!

「フッ!!」
「がッ!!?」

 ザッカルが暗闇で刺し殺した相手が、”暗殺者の仮面”の”暗視”効果で……見えてしまった。

「…………子供?」

 十歳を超えたくらいの……中学生くらいになっているかも怪しいくらいの……少年。

「どうして……」

「カナ、ボサッとすんな!」

 ――ザッカルに突き飛ばされた!?

「ザッカルさん!!」

 ノーザンちゃんが、別の誰かに斧を振り下ろす……。


『これより、突発クエストを発令します!』


 女性の声が突然聞こえてきた瞬間――私達の身体は光に変わっていった。


◇◇◇


『勝手に潰し合ってるんじゃないわよ』

 せっかく十七ステージ用に用意していた突発クエストを、わざわざ十八ステージ用に調整し直したんだからさー!!

『おあつらえ向きに、複数のパーティーが居るみたいだし――成人前のガキも多い!』

 たとえこの突発クエストをクリアされようと――奴等の周波数を下げるには打って付け!

『さあ、突発クエスト・光と虹の城を始めましょう!』


●●●


『さあ、突発クエスト・光と虹の城を始めましょう!』

 突然光に包まれて辿り着いた場所は、虹色に淡く輝く円形のお盆の上のような場所。

 中心地には、同じように発光している城のような物が。

 すぐ近くには、同じパーティーのメンバーが揃っている。

 他の人間は、近場には居ないみたい。

「ザッカルさん、大丈夫ですか!?」
「ぅッッ!!」

 ザッカルが、お腹を抑えるようにうずくまった!?

「血…………もしかして……私を庇った時に!?」
「お、思ったより深いな、これ…………」

 ザッカルがうつ伏せに倒れる!!

「ザッカル!!」
「カナさん、早く回復魔法を!」

 そうだ……ここに回復魔法を使える魔法使いは私だけ!

「ハイヒール!」

 倒れたザッカルに光を浴びせる。

『ルールを説明します。この突発クエストに参加しているのは、魔女の避暑地に居た十一パーティー』

 あのステージに、それ程の数のパーティーが居たの?

『真ん中の城の上層には、ゲーム内に一つしか存在しないユニークスキルが用意されている。そこの扉を開くまで突発クエストは終わらず、扉を開けるには鍵が必要よ』

「なんか……古城遺跡での特殊レギオン戦に似てる」
「パク……参考にはしてんのかもね。低周波の人間て、基本的にオリジナリティーが無いから」

『おい、聞こえてんぞ、カスがぁ!! ……オホン! 説明を続けます!』

 癇癪……怖い。

『クエスト開始と同時に、このフィールド全域に宝箱を配置する。その中には鍵のパーツが全三種類、三組分用意されています』

 つまり、最大三つのパーティーが鍵を完成させられる。

『宝箱には鍵以外の様々なアイテムも用意されており、レア度の高い物も少なくない。更に、プレーヤーを殺すと一人につき”A級武具ランダム袋”、もしくは”A級装飾ランダム袋”が手に入る』

「やっぱり、人殺しを増長させる要素を入れてきたか」

 シレイアさんの口振り……他のプレーヤーが居る場合は、血生臭いルールにされるって事なのね。

『誰か一人が最上階の扉を開けるまで、このクエストは終わらない。開始は三分後。それまでは、今居る場所から一定範囲までしか動けない。ちなみに、三分後のクエスト開始と共に強力なモンスターを多数配置する! それでは、幸運を祈ります』

 一気に静かになる空間。

「なにが幸運なのやら」
「うん……薄っぺら過ぎ」

 シレイアさんもユイちゃんも、この状況でも冷静に……。

「ここ、魔女の避暑地の上空なんですね」 

 ノーザンちゃんの言葉に下を見ると、薄らと見覚えのある島の姿が。

「ザッカルの様子は?」
「傷は塞がったはずだけれど……」

 仰向けにするも、目覚める気配のないザッカル。

「どうして……あんな子供が」

 このステージに来るまで、モモカちゃん以外にあんな小さい子……見た事ない。

「ザッカルは暫く動かせない。とはいえ、ユニークスキルが他の人間に渡るのは防ぎたいね」
「でも、私達……目を付けられてるみたい」
「夕方の奴等か」

 シレイアさんとユイちゃんが見ている方向に居たのは、夕方のチャラ男。

 その周りには他の男達と……子供が多数。

「基本的に、このダンジョン・ザ・チョイスに転移させられるのは十五歳以上だから、多分このゲーム内でプレーヤーが産んだ子供なんだろうね。数からして、捨て子を掻き集めたのかね。事情は分からないけれど」
「忍びないけれど、仕方ないね」

 シレイアさんもユイちゃんも……る気なのね。

「助けてあげること……出来ないのかな」
「甘い考えは止めるべきです、カナさん」

 ノーザンちゃんから、抑揚のない声が突き付けられる。

「ユイさんとシレイアさんは鍵を探しに行ってください。ザッカルさんは僕とカナさんで守りますので」
「出来るだけ早く鍵を完成させれば、安全を確保できるか」
「でも、私達を襲ってきた一団はここで潰しておかないと……逆に危険」

 元の場所に戻ると同時に、また襲ってくる可能性もあるから……か。

 目を覚まさないザッカルを見る。

 私が躊躇わなければ……私がすぐに回復魔法を掛けていれば。


「だったら――――私が潰すわ」


 今、ちゃんと向き合った上でこの手で決着を着けないと……前に進めない気がするから。

 そうこうしているうちに、フィールド内のアチコチに赤い光が立ち昇り始める!

「開始の合図だ。そんじゃ、私とマスターは鍵探しに行かせてもらうよ」
「……がんば」
「二人共……気を付けて」
「ザッカルさんはお任せを」

 赤い光がモンスターとなり、宝箱が出現するのと同時に、シレイアさんとユイちゃんが駆け出した。

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