ダンジョン・ザ・チョイス

魔神スピリット

271.嵐と輝きの交閃


「”抜剣”、”光輝剣術”――シャイニングスラッシュ!」

 
 第一ステージで見たグレイウルフの大型版、ビッグレイウルフを両断して光に変える。

「”二刀流剣術”――クロススラッシャー!!」

 リリルが十字の斬撃を飛ばし、別のビッグレイウルフを倒す。

 途中からアシェリー達と交代し、私とリリルが前に出ていた。

「……」

 固い空気を、やんわりと押し付けるように放ってくるリリル。

 黒昼村で再会したとき、私達のことを恨んでいないと言っていたけれど……そうでもないようだ。

「リリル、その……」

 アヤナがリリルに声を掛ける。

「……あの時のこと、謝るわ……ごめんなさい」

 あのアヤナが……頭を下げた?

 ……切っ掛けは、第二ステージのダンジョン攻略の際に、アヤナが他パーティーと一緒に攻略できるルートを強引に勧めた事だった。

 その結果、私達は男達のパーティーに卑しい目的で襲われ……リリルは行方不明に。

 パーティーメンバーから消えていたため、私達はリリルが魔法に巻き込まれて死んだ物だとばかり思っていたけれど……そうじゃなかった。

 あの頃のリリルは私達、異世界人に酷く怯えていて、打ち解けようと三人で必死にコミュニケーションを取っていたっけ。

 だから……再会した際の変わりように、とても驚いた。

 しかも、嫌っていると思っていた異世界人の男を、様付けするようにまでなっているなんて。

 あれから、彼女はどのような経験をしてきたのだろう……。

「……そんなもの、求めてないのよ」

 序盤より明るくなった遺跡のダンジョンを、先へと進んでいくリリル。

 リリルの言葉がどこまで本音なのかは、私には分からない。

 けれど、私達に対してまったく思うところが無いわけではないはず。

「”死霊術”――ゾンビクリエイト」

 ネクロマンサーの隠れNPCであるメフィーがゾンビを四体生み出し、背後から迫ってくる大量のゴブリンを始末していく。

 どうやら、ここのステージは序盤のモンスターやその強化体が出て来るらしい。

 というか、ゾンビってそんなに強く無さそうなのに、ゴブリンを圧倒しているよ。

「このダンジョン、モンスターとの遭遇率が高いな」

 古生代モンスター以外は、大したことないけれど。

「コッチは任せな! リリルを頼む!」

 マリサの言葉に前方に意識を向け――リリルの姿が見えない!!

 一人でかなり進んでしまっているんだ!

「ッ!! すまない!」

 すぐに追い掛ける!

 後ろの大量のゴブリンを気にして、リリルへの注意を怠るなんて!

 これじゃあ、あの頃と大して変わっていないじゃないか!


「きゃあああああああああああッッ!!」


 リリルの声が響いた瞬間、なにかが奥から飛んでくるのが見え――――

「リリル!!」

 派手に転がっていったのは――リリル!!

『グォォォォォォォォォォォッッ!!』

 ビッグレイウルフよりも大型の灰色狼モンスターが、リリルに向かって駆けていく!!

「”瞬足”跳躍”!」

 間合いを一気に詰めて、振り下ろされた爪を盾で受け止める!

「グッ!! シールドバッシュ!」

 ”盾術”で、巨大狼を後退させた!

「上位の盾術を用意しておくべきだったな」

 剣メインで考えていたから、盾は防ぐための防具という認識が強かったのかもしれない。

「”抜剣”」

 ”ヴリルの聖剣”を一度”聖遺物の鞘盾”に収め、”聖剣光輝”を纏わせる!

「”闘気剣”」

 更にエネルギー光を纏わせ、剣威を強化!

「ソイツはディケイウルフよ! 最強クラスの伝説のモンスター!」

 教えてくれるリリル。

 まだ十九ステージだって言うのに、最強クラスのモンスターの登場……オリジナルには無い演出っぽいな。知らんけど。

『ガアアアアアアアアアアアアア!!』

「速い!」

 半分洞窟みたいな狭い遺跡内だって言うのに、瞬時の方向転換で縦横無尽に駆け回るディケイウルフ。

「”精霊魔法”――シルフ!!」

 風の少女が出現し、緑の風を叩き付けてディケイウルフの動きを鈍らせた!

「”瞬足”跳躍”!! ”光輝剣術”――シャイニングストライク!!」

 剣と身体を一体とするように構え、輝きを纏って突っ込む!

「クソ!」

 すんでで身体を反らされ、体毛の一部を引き裂いて多少出血させた程度に!

『ガアアアアアアアアッッッ!!!』

「グゥッッ!!」

 ”凝血のマント”で尻尾の強打を受けるも、地面に叩き付けられて転がされる!

「ガハッ!! ゴホッ!!」

 ……嫌なぶつけ方をしてしまった。

「ルイーサ!! ――この!!」

 短剣に三文字ずつ神代文字を刻み、ディケイウルフに突っ込んでいくリリル!

「”跳躍”跳弾”!」

 私のように二つのスキルを連続発動し、ディケイウルフ以上に縦横無尽に跳び回るリス獣人!

「”二刀流剣術”――クロススラッシュ!!」

 ディケイウルフの左眼を潰した!

 狙ったのは首だったのだろうが、上出来だリリル!

「”大鬼の手”!」

 アオイのスキル、巨大な灰色の手がディケイウルフの首を下から持ち上げるように拘束!

「”光線魔法”――アトミックレイ!!」

 アヤナの青白い光線がディケイウルフに直撃――コウモリタイプの古生代モンスターが割り込んで、代わりに受けた!?

 古生代モンスターの”古代の力”により、ダメージが五分の一に!

「少しでもダメージを! ”白骨火葬”!!」

 炎のような白い煙をぶつけ、ディケイウルフの毛や肌を焼く!

 神代文字を……温存しているわけにはいかないか。

「はあッ!!」

 気合いを込め、意識を鋭く――青い奔流を、剣の中心で受け止める!

 ”ヴリルの聖剣”に九文字刻み、腰から”ストームブリンガー”を抜いて神代の力を流し込んでいく!


「――――”嵐の穿風”」


 高速で駆け回るディケイウルフの胴体に――風穴を開けた。

『ォォォオオオオオオオオオンンン!!!』

 すまないな――出来るだけ苦しまないように終わらせてやる。


「”二重武術”、”光輝剣術”――シャイニングスラッシュ!!」


 正面から突っ込み、下から切り上げるように聖剣と風の剣でバツ字に切り裂き――光に変えた。

「ルイーサ!!」
「ぐぅ――あああああああッッッ!!!」

 リリルの声に気付くも、古生代モンスターのコウモリの翼が私を横から打ち付け、派手に吹き飛ばされるッ!!

「「止めろ!!」」
「ノーム!」

 アヤナの”重銀のビッグクラブ”とアオイの”法喰いの金棒”が上から直撃する形でコウモリの古生代モンスターを叩き落とし、ノームの力で石を纏わせて拘束に掛かった。

「うっ!」

 今のうちに、神代文字を使える私が攻撃しなければ!

「よくもルイーサを――許さない」

 そんな声が聞こえてきた瞬間――リリルの両手の短剣それぞれに、神代文字が六つ刻まれた。

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