ダンジョン・ザ・チョイス

魔神スピリット

269.同盟

 石畳の大通りの脇、オープンレストランで俺とトゥスカとメルシュ、アテルとクフェリアとタイタンのNPC、計六人が席に着く。

 他の面子は、半数がモモカに集まり、半数が各々のリーダーの背後に距離を取って佇んでいる。

「話は大きく分けて二つ。一つ目は、不要なアイテムを融通し合いたいということ」

 ……この時点で、俺達を殺して奪う気は無いと分かる。

 だけれど、だとしたらなぜそんなまねをするのか……。

「二つ目は、レギオン同士で同盟を組みたいというものだ」

「同盟?」
「別のレギオン同士が対等な条件で組む事だよ。もし《日高見のケンシ》がレギオン戦に巻き込まれたら、同じステージに居る《龍意のケンシ》が助っ人として参加出来る。その逆もしかりだね」

 そんな話、初めて聞いたんですけれど?

「ちなみに、オリジナルのゲームには無かった要素らしい。おそらく、レギオン戦に巻き込まれる確率を少しでも上げるための物なんだと思う」
「観測者が考えそうな話だな」

 つまり、同盟システムに関して、ジュリーはなにも知らないと。

「……悪いけれど、他のレギオンメンバーが居ない状態じゃ決められない」
「いや、今すぐ組んだ方が良い。互いのためにもね」
「……メルシュ」

 不穏な事を口にしたアテルにではなく、メルシュに尋ねる。

「同盟は軍団長同士だけで手続きを済ませられるけれど……同盟を組めば、同盟のレギオンメンバー間では相手を殺せない事になっている」
「同盟を破棄するには、軍団長同士が直接会い、破棄する際になんらかの対価を払わねばならない」

 メルシュを補足するように、タイタンの隠れNPCがしゃべった。

「へと……アシュリーでしたっけ?」

 出会った状況が状況だっただけに、名前が合っている自信が無い。

「ああ、そうだ。別にもっとフランクで良いよ。メルシュが認めた男だからな」
「は、はぁ……」

 彼女も、メルシュ達と同一人物って事になるのか。

「話を戻す。他には、軍団長が死亡した場合だな」
「軍団長が死んだら、レギオンは解散だったか」

「幹部に軍団長の座を渡すことも可能だけれどね。事前に登録しておかないといけないけれど」

 メルシュさん、その話も初めて聞いたんですけれど。

 まあ、俺を死なせるつもりなんて無かったからこそなんだろうけれど。

「つまり、一度同盟を結べば、どちらかが破棄するまでは安全だと……いずれ戦う相手なのに、良いのか?」

 アテル達は、自分の目的を達成するために、ワイズマンの隠れNPCであるメルシュを狙っていたはず。

「最後の最後に決着を着ければ良いだけさ。なにより、君が率いるレギオンならそれだけで信用できるし……第六十三ステージに居座っているという三大レギオンが、同盟を結んでいるらしくてね。色々考えた結果、《龍意のケンシ》と組むのが一番良いと判断したのさ。僕のレギオンは、同士を集めるのが大変だからね」

 なにせ、世界の滅亡を願っているような奴等だからな。

「だけれど、今すぐって言うのは?」
「戦力が分散している今、いつ突発クエストを仕掛けられるか分からない状況。今同盟を結べば、仲間を死なせずに合流できる確率が少しは上がる。それどころか、僕のレギオンメンバーが君の仲間を襲っている可能性だってあるからさ」

 ……ジュリー達に相談してから決めたかったけれど、そう言うわけにもいかないか。

 まあ、アテル達から不意打ちを食らう心配が無くなるだけ得だな。

「アテルの言うことは本当だよ。私としても、悪くないと思う」

 メルシュが肯定する。

「分かった。早めに同盟を結ぼう」
「なら、この街の冒険者ギルドに行こう。フフ、この島で再会出来て良かったよ」
「冒険者ギルドがある場所でしか、同盟を結べないからか?」
「それもあるけれど、君に会いたかったのさ」

 ……アテルが、なんか気持ち悪い。

「アテル様……もしかしてそちらの気が……」
「だ、ダメですよ! ご主人様は、私が守ります!」

 クフェリアとトゥスカが変な妄想を……頼むから、その手の話を意識させないでくれ。

「そう言えば、仲間を助けてくれたらしいな」

 アテルの隣に立って、共に歩く。

「デボラさんによると、この第十六ステージに留まろうとするパーティーは多いらしい。魔女の避暑地は、男が留まる事が多いらしいけれど。向こうは、夜間に女性プレーヤーを襲う男のプレーヤーが少なくないそうだ」

「観測者側から得た情報か」

「十六から十九まではデボラさんの担当だったらしくてね、おかげで隠れNPCの入手条件を憶えてくれていたから、無理をしてでもここで手に入れようとしたんだ」

 十一人のうち三人が隠れNPCって事は、最低でも三パーティー、平均人数が四、三って事だからな。

「あれから、仲間が増えたみたいだな」
「そっちは二十五人だっけ? 僕のレギオンは、隠れNPCを除くと二十人。順当に隠れNPCが仲間になっていれば、二十五人になる。まあ、魔女の避暑地では隠れNPCのサキュバスを仲間に出来なかったみたいだから、二十四人かな」
「なぜ分かるんだ?」
「レギオンメンバーの安否くらいなら、軍団長が見られるレギオン表を見れば分かるからね」
「あ……本当だ」

 レギオン戦で見た奴、普段も見られたのか。表示が若干違うけれど。

「実はさ、同盟を申しこむ気は昨日まで無かったんだ」
「へ?」

 急に不穏な事を言うなよ。

「君がアルファ・ドラコニアンを倒したって聞いて、その時の状況も聞かせてもらったから……方針を変える事にしたんだよ」

 それが切っ掛けだったってわけか。

「今は出来ないそうだけれど、君が成功させたっていう簡易アセンション、是非この目で見てみたい」

 そんな爽やかな笑顔を向けられても困るのだが。

「簡易アセンション……ね」

 あれを、アセンションなんて呼んで良いのだろうか。

 アセンションの意味なんて分からないけれど、漠然と……なにか違う気がした。

 アルファ・ドラコニアンを圧倒したあの時のよりも、むしろ”グレイトドラゴンキャリバー”の形を変えたあの現象こそが……アセンションという言葉に相応しい気さえしている。

 多分だけれど……アセンションていうのは、戦う力を得ることじゃない。

 そんなことを考えているうちに、俺達は冒険者ギルドに到着するのだった。
 

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