ダンジョン・ザ・チョイス

魔神スピリット

267.覆われし太陽の双剣使いマリサ

「知ってるかもしれないけれど、遺跡には稀に古生代モンスターが居て、遺跡村周辺の奴等と違って積極的に襲ってくるから、気をつけな」

 島に来た次の日の早朝、マリサ達”日高見のケンシ”の五人と共に、遺跡島のダンジョン入り口にやって来ていた。

 ……なんというか、十六から十九ステージの中で、この第十九ステージが一番旅行要素が無いんじゃないのか?

「入り口がやけに暗いな」

「おい、デボラ。前行けよ」
「く、仕方ありませんね。”閃光魔法”、フラッシュ」

 デボラに指示を出すアムシェル。

 アムシェルはどうやら、同族であるはずのユダヤ人を嫌っているようだ。

 そう言えば、世界最大の宗教と呼ばれているキリスト教は、元はユダヤ教だったな。

 ユダヤ教がユダヤ教を信じるユダヤ人しか救われないと説くのに対し、キリスト教はユダヤ人かどうかに関係なく信じる者は救われると説いているんだったか?

 他にも差異はあるんだろうが、そこが一番明確な違いなのだろう。

 まあ、キリスト教だけでもカトリックやらプロテスタントとか色々違いがあるからな。

 仏教なんかも、膨大な宗派が存在しているはず。

 そう言えば、仏教を作った釈迦という人の預言の中に、仏教はいずれ腐敗していくって言う物があったとか。

 実際、戦国時代の寺は僧兵を多く抱え、戦争を起こしたり、盗賊まがいの行為に手を染めることも珍しくなかったそうな。

 日本人が無宗教という認識を持っているのは、世界的にも異質な事だと父親が言っていたっけ。

「それじゃあ、そろそろ行こうか」

 そう言うマリサがアムシェルと共にデボラの両脇に並び、遺跡内部へと進んでいく。

「後ろからモンスターが来ることもあるから、せいぜい気を付けなさい」
「……ありがとう、リリル」

 結局、昨日打ち合わせしたあとはすぐに解散してしまったため、リリル達とはろくに話せていない。

「”精霊魔法”、ノーム」

 石の小人を呼び出すフェルナンダ。

「どうしたの、フェルナンダ?」
「敵はまだいないよ?」

 アヤナとアオイが尋ねる。

「ノームに後ろを守らせようと思っただけだ。というわけで、背後は私達に任せておけ」
「助かります、フェルナンダさん」

 素直に礼を述べるスゥーシャ。

 その素直さが……ちょっと羨ましい。

「さっそく来たか」

 ゴリラタイプの古生代モンスターが現れた上、ゲーム序盤で見たコウモリのモンスターも複数現れる。

「古生代は任せた、マリサ」
「あいよ」

 アムシェルが前に出て、腰の鞘に収まっている黒い剣に手を伸ばす。

「”抜剣”」

「へ?」

 あの鞘、私の”聖遺物の鞘盾”と同じ効果を!

「あれは”ゴイムの魔剣”だね。鞘の方は”奈落の黒鞘”。”聖剣光輝”とは対照的な、”魔剣闇昏あんこう”の効果があるよ」

 アムシェル……彼女は、私とはどこまでも対照的な存在なのかもしれない。


「”追放”――”暗黒剣術”、ダークネスブレイク!!」


 魔剣の剣先から闇の暴威が放たれ、一体のコウモリに直撃と同時に――暴威が辺りに拡散炸裂し、まとめて消し飛ばした!!

「マリサ!」
「おうよ!!」

 マリサが両腰の、刀身が斧のような、炎のような短剣を掴み――神代文字を九文字ずつ刻んだ!?


「――――フッ!!」


 古生代モンスターの懐に飛び込んだ瞬間、短剣を交差させて胴を抜くように――三つに切り裂いた!!

「スキルを使ってないから、”古代の力”が発動しないのか」
「それでも、神代文字の力だけで両断するなんて……装備を切れ味に特化させてるようだな。レベルも、我々より高いかもしれない」

 フェルナンダの言葉に、少し不安が強くなる。

 マリサ達が敵に回ることではない。

 これ程強いマリサ達が、私達を当てにしたくなる程のなにかがこの先にあると言うことに。

「”連結”」

 マリサが同じ形の短剣の柄がしらを合わせ、双剣に変えた?

「さいなら」

 一瞬、双剣に十八文字が刻まれ、文字が自然に九文字になるまでの数瞬の間に――古生代モンスターを上下に一刀両断した。

「今のは……」
「”連結”の効果で合体させられる武器なのを良いことに、世界に神代文字の数を誤認させたみたいだな。すぐに修正されるようだが、約二秒間は爆発的な強化を得られる……地味にチートだ」

 フェルナンダが説明してくれるが……二秒間だけは十八文字なみなんて……本当に私達の協力って要るのか?

「フー……いきなり使ってしまったか。前を頼むわ、リリル」
「ええ」

 マリサが下がり、代わりにリリルが前へ。

「大丈夫なのか、あんなに神代文字を引き出して?」
「一瞬とはいえ、本来以上の神代文字を扱うわけだからね。アレの直後はちょっとキツい」

 やはり、代償はあるのか。

「手の内を晒しちゃったから尋ねるけれど、そっちは神代文字を使えるのは誰々? このパーティーでは私とアムシェル。リリルも三文字までなら刻めるよ」
「マリサ、勝手にバラさないでよ!」

 リリルが抗議してくる。

「私とスゥーシャの二人だ。ちなみに、私は九文字が限界だ」
「私が安定して出せるのは六文字です」

 手の内を見てしまったためか、文字の数まで言ってしまう私。

「キジナから、勢いで九文字まで引き出したって聞いているよ」

 女子にもてそうな、爽やかな笑顔を振り撒くマリサ。

「ぁぁ……ハイ。あの時だけですけど」

 タマと二人で先行していた時のことだろうから、私達はその姿を見ていない。

「……キジナ姉さんは、そちらで上手くやれているのでしょうか?」
「へ? ……結構馴染んでるよ? そこのデボラはしょっちゅう輪を乱すような真似をするけれど、キジナは協力的だし、意外と面倒見が良いから、レギオン内でも頼りにされているよ」
「そう……なんですか…………良かった」

 マリサの言葉に、安心した様子のスゥーシャ。

 私は一人っ子だったから、姉妹がどうのとかはよく分からないな。

「ん?」

 リリルが、なにか言いたげに睨んでいる?

「ちゃんと前見て進みなよ、リリル。武器だって持ってるんだから、転んだら危ないだろう?」
「それくらい、ちゃんと分かって――わっ!!?」

 マリサのフリを回収するがごとく、盛大にずっこけるリリル。

「…………――ぎゃあああああああああッッッ!!!?」

 リリルの石の剣で腕が切れたようで、激しく取り乱すデボラ。

「あちゃー。メフィー、治療をお願い」
「畏まりました」

 黒髪の綺麗な子が、オドロオドロシイ格好でデボラに近付いていく。

 このステージで手に入る予定だった隠れNPC、ネクロマンサーのメフィー。

 格上だと思ってはいたが、《日高見のケンシ》の実力は、私の想像の遥か上なのかもしれない。

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