ダンジョン・ザ・チョイス
257.深海の青き劍と可憐なる花剣
「クマム! 俺が隙を作るから、攻撃を頼む!」
「分かりました!」
コセさんが駆け付けてくれただけで、心が少し軽くなっている自分が居る。
「“深海の渦動”!」
襲い来る水の鞭を青い大剣で受けるコセさ――水の鞭が、大剣の中に吸い込まれた?
「二種属性は無理らしいけれど、水属性だけの攻撃なら吸収出来るらしい!」
水属性特化の相手には、なかなか強力な手札になりそうですね。
「だから、私を攻撃に専念させようと――コセさん、大きいのが来ます!」
粘性モンスターが、今までで一番大きな水球を作り出している!
「問題ない!」
青の大剣の腹で受け、あっという間に吸収してくれる!
「がッ!?」
水の鞭で脚を払われ、転倒させられるコセさん!
こっちの動きを止めるための大技だったんですね!
「――“伸縮”!」
細剣の切っ先を伸ばして核を貫かせようとするも、掠っただけで破壊できなかった!
「隙を狙ったのに!」
水の流れを操作して、軌道を咄嗟に外されてしまった様子!
――鞭の勢いが激しくなった!!
「“拒絶領域”!!」
円柱状の障壁が、私に届く前に水の鞭を全て吹き飛ばしてくれる!
「“飛王剣”!! “飛王剣”!!」
コセさんが斬撃を繰り出すも、水の身体を切り裂くだけで終わってしまう。
もしかしてコセさん、斬っても無駄だって気付いていないの?
「今なら!」
コセさんが、水の大剣を大きく振りかぶった!?
「――”激情の一撃”!!」
大剣から強大な衝撃波が放たれ、粘性モンスターを呑みんだ!!
戦士がLv30で修得でき、TPが十分の一以下の時に一日一度だけ使える強力なスキル。
そのために、TPを効率的に減らせる“飛王剣”を連続で放ったんだ!
やっぱり私には、コセさんがドジとは思えません!
「今だ、クマム!」
「へ?」
――衝撃の中に、核を必死に守っている粘性モンスターの姿が!
「“天使の翼”!」
白き翼で舞い上がり、剣を引いて狙いをつけます!
「水の妨害を退けるだけの、邪魔な全てを――貫き抜く力を!!」
――――青い奔流が、私の強い想いに合流するように流れ込んでくる!!
「“伸縮”!!」
神代文字が六文字刻まれた“一輪の華花への誓い”の切っ先は、水に邪魔されることなく――アッサリと青い核を貫き壊した。
「初めて……文字を刻めた」
“一輪の華花への誓い”を手に入れてから指導は受けていましたが、今日初めて刻むことが出来ました!
「あッ!!!」
意識が……奔流の中に流し込まれて……私の全部が呑まれそうに!
「大丈夫か、クマム!」
飛んでいるのも難しくて半ば落ちていった所を、コセさんが抱き止めてくれた。
「あ、ありがとうございます……」
あの奔流……私の支点を曖昧にして……私という人間を破壊しようとするような……コセさん達は、いつもあの衝動に抗いながら力を行使していたの?
あんな……自分が自分じゃなくなっていくような感覚に……恐怖に襲われながら…………信じられない。
「クマムのおかげで、なんとかなったな」
「へ……ああ」
粘性モンスターの光の残滓に、かろうじて気付く。
奔流に意識を流されそうになって……抗うのに必死ですっかり忘れてしまっていた。
神代文字を扱うと言うことが、こんなにも危険な事だったなんて。
――突然、ボォォォォォォォッ!! という異音が響き渡る。
「もしかして、汽笛の音?」
また、長い音が鳴り始めた。
「船が動き始める合図だ。急いで脱出ボートに乗り込もう!」
「キャ!! ……すみません」
船が少し揺れただけで、転びそうになってしまう。
「……うそ」
上手く身体を動かせくて、立ち上がる事も……!!
「ごめん、クマム!」
コセさんに――お姫様抱っこされたッ!!?
「あ、あの……♡」
「深海モンスターが凄い勢いで集まって来てる。たぶん、船の動力が戻ったからだ!」
コセさんが私をお姫様抱っこしたまま、ナオさんの傍へ!
「ナオ、“飛行魔法”は使えるか?」
「私は良いから、クマムちゃんと二人で脱出して!」
ナオさん?
「だけど!」
「誰かがモンスターを足止めしないと!」
「だったら俺が!」
「三つのサブ職業を持ってるのはコセでしょう! 早く行って!」
船を動かすための”機関士”と”操舵手”、進路を知るための”航海士”のサブ職業は、全てコセさんに預けてある。
「海域を抜けるまでなら……なんとかなるか」
船が動き出し、暗雲の無い方へと向かい始めた。
もう、時間が無い。
「絶対に生き残れよ、ナオ!!」
「……当たり前でしょうが!」
ナオさんのその時の後ろ姿には、どこか哀愁が宿っているように見えました。
「夜鷹!」
黒い鷹を呼び出し、コセさんの背中を掴んで船を降りていく私達。
「すぐに降ろすぞ、クマム」
船が動き始めた事で大きく揺れるボートに乗り込むと、すぐにソファーに座らされてコセさんから離されてしまう……。
●●●
急いで錨を上げ、鍵を回してエンジンを掛けて舵を切る!
”機関士”と“操舵手”のサブ職業は既に付けていたから、動かすだけなら問題ない!
豪華客船から離れるほどに、船の揺れが治まっていく。
「当たり前だけれど、向こうの方が速いか」
豪華客船のスピードがどんどん増していき、ナオ達の方が先に魔の海域を抜けそうだ。
「海域を抜けるまでは安心出来ないけれど……」
クマムや船の周りに注意を払うも、特にはなにも起きない。
暫くすると、順当に豪華客船の方が先に海域を抜け、ボートを引き離してそのまま進んでいく。
「皆は無事だろうか……」
大丈夫だろうとは思いつつも、ナオ達の安否が気になってしまう。
『……突発クエスト・魔の海域を脱出せよ……見事にクリアだ』
最高速、35ノットで走らせて一時間程経ったのち、ようやくクエスト終了の知らせが来た。
このボートも、なんとか海域を抜けるのに成功したらしい。
「……まだ夜か」
時間を確認すると、深夜の一時前。
クエスト開始から、およそ六時間近くが経っていた。
豪華客船は既に遠く、海は暗闇に染まっている。
「今、無理に進むのは危険みたいだな」
“航海士”のサブ職業をセットして流れ込んできた情報を加味し、夜明けまでここに停泊することにした。
船を止め、錨を降ろし、いつの間にか眠ってしまっていたクマムを、船内部の寝室に運ぶことに。
「思っていた以上に豪華だな」
スタンデッキから数段階段を降りてドアを開けると、予想以上に広い空間が。
定員は六人と言って居たけれど、奥の暗がりにダブルベッド? が一つ、その手前にソファーベッドが四つか。確かに、六人は寝られそうだ。
クマムを一番奥のベッドに寝かせてベッドルームのドアを閉め、俺は入り口側のソファーベッドで眠ることにする。
気休めだけれど、一応は気を遣わないとな。
「なにかあれば、夜鷹が知らせてくれるはず」
戦闘能力がない代わりに、夜鷹は見張りなんかもしてくれるらしい。
Sランクは伊達じゃないってことか……さっさと寝よう。
ソファーベッドの座席下に付いている窪みを引き、真ん中割れしていないベッドにする。
装備を外し、波の揺れやさざ波の音を聞きながら……俺は眠りについた。
●●●
「いや、本当に助かったわ!」
一人で深海モンスターを相手に奮戦してたけれど、MPが尽きて広範囲攻撃手段が無くなった所で、メグミとクリスが助けに来てくれた。
「今頃、コセとクマムは二人で海上か」
「二人っきりでボートですかぁ……」
メグミとクリスが羨ましそう。
「コセと二人っきりになって、エッチな事したかったとか?」
「ちょ!?」
「オウ、ナオはエッチでーす」
「いやー、デートスポットとかあるわけじゃないから、二人でって考えるとツイね」
まあ、二人っきりで普通に散歩とかもしてみたいけれどさ。
大好きなクマムちゃんが居なかったら、毎日のようにそういう衝動に襲われて……トゥスカ達に変な事してたかもね。
「分かりました!」
コセさんが駆け付けてくれただけで、心が少し軽くなっている自分が居る。
「“深海の渦動”!」
襲い来る水の鞭を青い大剣で受けるコセさ――水の鞭が、大剣の中に吸い込まれた?
「二種属性は無理らしいけれど、水属性だけの攻撃なら吸収出来るらしい!」
水属性特化の相手には、なかなか強力な手札になりそうですね。
「だから、私を攻撃に専念させようと――コセさん、大きいのが来ます!」
粘性モンスターが、今までで一番大きな水球を作り出している!
「問題ない!」
青の大剣の腹で受け、あっという間に吸収してくれる!
「がッ!?」
水の鞭で脚を払われ、転倒させられるコセさん!
こっちの動きを止めるための大技だったんですね!
「――“伸縮”!」
細剣の切っ先を伸ばして核を貫かせようとするも、掠っただけで破壊できなかった!
「隙を狙ったのに!」
水の流れを操作して、軌道を咄嗟に外されてしまった様子!
――鞭の勢いが激しくなった!!
「“拒絶領域”!!」
円柱状の障壁が、私に届く前に水の鞭を全て吹き飛ばしてくれる!
「“飛王剣”!! “飛王剣”!!」
コセさんが斬撃を繰り出すも、水の身体を切り裂くだけで終わってしまう。
もしかしてコセさん、斬っても無駄だって気付いていないの?
「今なら!」
コセさんが、水の大剣を大きく振りかぶった!?
「――”激情の一撃”!!」
大剣から強大な衝撃波が放たれ、粘性モンスターを呑みんだ!!
戦士がLv30で修得でき、TPが十分の一以下の時に一日一度だけ使える強力なスキル。
そのために、TPを効率的に減らせる“飛王剣”を連続で放ったんだ!
やっぱり私には、コセさんがドジとは思えません!
「今だ、クマム!」
「へ?」
――衝撃の中に、核を必死に守っている粘性モンスターの姿が!
「“天使の翼”!」
白き翼で舞い上がり、剣を引いて狙いをつけます!
「水の妨害を退けるだけの、邪魔な全てを――貫き抜く力を!!」
――――青い奔流が、私の強い想いに合流するように流れ込んでくる!!
「“伸縮”!!」
神代文字が六文字刻まれた“一輪の華花への誓い”の切っ先は、水に邪魔されることなく――アッサリと青い核を貫き壊した。
「初めて……文字を刻めた」
“一輪の華花への誓い”を手に入れてから指導は受けていましたが、今日初めて刻むことが出来ました!
「あッ!!!」
意識が……奔流の中に流し込まれて……私の全部が呑まれそうに!
「大丈夫か、クマム!」
飛んでいるのも難しくて半ば落ちていった所を、コセさんが抱き止めてくれた。
「あ、ありがとうございます……」
あの奔流……私の支点を曖昧にして……私という人間を破壊しようとするような……コセさん達は、いつもあの衝動に抗いながら力を行使していたの?
あんな……自分が自分じゃなくなっていくような感覚に……恐怖に襲われながら…………信じられない。
「クマムのおかげで、なんとかなったな」
「へ……ああ」
粘性モンスターの光の残滓に、かろうじて気付く。
奔流に意識を流されそうになって……抗うのに必死ですっかり忘れてしまっていた。
神代文字を扱うと言うことが、こんなにも危険な事だったなんて。
――突然、ボォォォォォォォッ!! という異音が響き渡る。
「もしかして、汽笛の音?」
また、長い音が鳴り始めた。
「船が動き始める合図だ。急いで脱出ボートに乗り込もう!」
「キャ!! ……すみません」
船が少し揺れただけで、転びそうになってしまう。
「……うそ」
上手く身体を動かせくて、立ち上がる事も……!!
「ごめん、クマム!」
コセさんに――お姫様抱っこされたッ!!?
「あ、あの……♡」
「深海モンスターが凄い勢いで集まって来てる。たぶん、船の動力が戻ったからだ!」
コセさんが私をお姫様抱っこしたまま、ナオさんの傍へ!
「ナオ、“飛行魔法”は使えるか?」
「私は良いから、クマムちゃんと二人で脱出して!」
ナオさん?
「だけど!」
「誰かがモンスターを足止めしないと!」
「だったら俺が!」
「三つのサブ職業を持ってるのはコセでしょう! 早く行って!」
船を動かすための”機関士”と”操舵手”、進路を知るための”航海士”のサブ職業は、全てコセさんに預けてある。
「海域を抜けるまでなら……なんとかなるか」
船が動き出し、暗雲の無い方へと向かい始めた。
もう、時間が無い。
「絶対に生き残れよ、ナオ!!」
「……当たり前でしょうが!」
ナオさんのその時の後ろ姿には、どこか哀愁が宿っているように見えました。
「夜鷹!」
黒い鷹を呼び出し、コセさんの背中を掴んで船を降りていく私達。
「すぐに降ろすぞ、クマム」
船が動き始めた事で大きく揺れるボートに乗り込むと、すぐにソファーに座らされてコセさんから離されてしまう……。
●●●
急いで錨を上げ、鍵を回してエンジンを掛けて舵を切る!
”機関士”と“操舵手”のサブ職業は既に付けていたから、動かすだけなら問題ない!
豪華客船から離れるほどに、船の揺れが治まっていく。
「当たり前だけれど、向こうの方が速いか」
豪華客船のスピードがどんどん増していき、ナオ達の方が先に魔の海域を抜けそうだ。
「海域を抜けるまでは安心出来ないけれど……」
クマムや船の周りに注意を払うも、特にはなにも起きない。
暫くすると、順当に豪華客船の方が先に海域を抜け、ボートを引き離してそのまま進んでいく。
「皆は無事だろうか……」
大丈夫だろうとは思いつつも、ナオ達の安否が気になってしまう。
『……突発クエスト・魔の海域を脱出せよ……見事にクリアだ』
最高速、35ノットで走らせて一時間程経ったのち、ようやくクエスト終了の知らせが来た。
このボートも、なんとか海域を抜けるのに成功したらしい。
「……まだ夜か」
時間を確認すると、深夜の一時前。
クエスト開始から、およそ六時間近くが経っていた。
豪華客船は既に遠く、海は暗闇に染まっている。
「今、無理に進むのは危険みたいだな」
“航海士”のサブ職業をセットして流れ込んできた情報を加味し、夜明けまでここに停泊することにした。
船を止め、錨を降ろし、いつの間にか眠ってしまっていたクマムを、船内部の寝室に運ぶことに。
「思っていた以上に豪華だな」
スタンデッキから数段階段を降りてドアを開けると、予想以上に広い空間が。
定員は六人と言って居たけれど、奥の暗がりにダブルベッド? が一つ、その手前にソファーベッドが四つか。確かに、六人は寝られそうだ。
クマムを一番奥のベッドに寝かせてベッドルームのドアを閉め、俺は入り口側のソファーベッドで眠ることにする。
気休めだけれど、一応は気を遣わないとな。
「なにかあれば、夜鷹が知らせてくれるはず」
戦闘能力がない代わりに、夜鷹は見張りなんかもしてくれるらしい。
Sランクは伊達じゃないってことか……さっさと寝よう。
ソファーベッドの座席下に付いている窪みを引き、真ん中割れしていないベッドにする。
装備を外し、波の揺れやさざ波の音を聞きながら……俺は眠りについた。
●●●
「いや、本当に助かったわ!」
一人で深海モンスターを相手に奮戦してたけれど、MPが尽きて広範囲攻撃手段が無くなった所で、メグミとクリスが助けに来てくれた。
「今頃、コセとクマムは二人で海上か」
「二人っきりでボートですかぁ……」
メグミとクリスが羨ましそう。
「コセと二人っきりになって、エッチな事したかったとか?」
「ちょ!?」
「オウ、ナオはエッチでーす」
「いやー、デートスポットとかあるわけじゃないから、二人でって考えるとツイね」
まあ、二人っきりで普通に散歩とかもしてみたいけれどさ。
大好きなクマムちゃんが居なかったら、毎日のようにそういう衝動に襲われて……トゥスカ達に変な事してたかもね。
「ファンタジー」の人気作品
書籍化作品
-
-
1
-
-
29
-
-
439
-
-
1168
-
-
58
-
-
20
-
-
314
-
-
140
-
-
37
コメント