ダンジョン・ザ・チョイス

魔神スピリット

216.彩藍色の覚醒

 ――ドラコニアンとかいう、変貌したいけ好かない蜥蜴が、一瞬で距離を詰めてきた!!

 ――――死を想起させるほどの危機感がそうさせたのか、訓練では一度も成功しなかった九文字を刻んで――紙一重で回避!

「離れて、トゥスカ!!」
《《ガオオオオオオオッ!!》》

「――キャアアああああああああああああッッッ!!!」

 魔法で援護しようとしたメルシュが、見えない力によって村の端まで吹き飛ばされていく!!?

「よくも!! ――”ホロケウカムイ”!!」

 サブ職業で身体能力を底上げし、理不尽な速度に対抗する!

《《グアアアアアア!!》》

 ――回避に専念して、なんとか躱せている状態に陥ってしまうッ!!

「トゥスカ!!」

 ご主人様が愛剣で斬り掛かるも、凄まじい剣速により切り払われてしまった!?

 でも、ご主人様の想いが届いたおかげで、文字が共振してくれる!

「――”爆速”」

 脚に負担が掛かるのも厭わず、制御が困難な”爆速”を使用しながら連続で急転換し、撹乱!!

 ”転剣倉庫の指輪”から”古代王の転剣”を出現させる!

「”二重武術”――オールドコントロール!!」

 ”荒野の黄昏の目覚め”と”古代王の転剣”を同時に繰り出し、二振りのブーメランで囲い、削っていく!!

 私のTPが尽きる前に、なんとか!!

《《――ガアアアアアアアアアアアッッ!!!》》

 見えない力にブーメランが弾き止められ、コントロールを失った一瞬のうちに接近されて横薙ぎを――――

「――装備セット2ッ!!」

 ”古生代の戦斧”で剣を防ぐも――派手に吹き飛ばされ……斧に罅が。

「ああ……」

 身体中が……痛い。

「トゥスカッ!!」

 モモカが……駆け寄ってきた?

 しまった……モモカの居る方に吹き飛ばされてしまったんだ!!

「逃げなさい、モモカ!!」
「嫌だッ!! あんな奴、モモカが倒すもん!!」

 モモカが、”ドラゴンキラー”を手に駆け出してしまう!!?

《《コ……ドモ……――ジュルルルルルルルリィィィィィィィィッッッッ!!》》

 イカレた歓喜の念が蜥蜴男から放出され――嫌な未来を想起してしまう!!

『姫!!』
『グエエエエエエ!!』
「モモカのバカ!!」
「止めるぞ、ローゼ!!」


《《――――グワァアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッ!!!!》》


 マリアとローゼがモモカを止めようとした瞬間、衝撃波が駆け巡って――サタちゃんと黒ピカの巨体が吹き飛んでいく!!

「ローゼ!! マリア!!」

 衝撃波が止むと同時に、二体のバトルパペットが竜人によって切り払われてしまった!!

《《クサッテナイ……ニッックゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッッッッッッ!!!》》

「……いや」

 ――――急いでモモカを抱き寄せた瞬間、右肩の肉を大きく切り裂かれたッッ!!

「ああああああッッッ!!!」
「――トゥスカぁぁぁぁッッ!!」

 ベロベロと……私の血肉が付いた爪を舐め取り、顔を醜悪に滲ませる蜥蜴野郎ッ!!

「逃げなさい……モモカ」
「嫌だよ……嫌だよ、トゥスカぁぁ!!」

 ご主人様との子供……欲しかったな。

「大丈夫……モモカの事は、ご主人様がきっと守ってくれるから」
「トゥスカもッ……トゥスカも一緒が良い!!」

 体力も……精神力も限界だけれど……モモカを逃がすために、一秒でも長く足止めを――――

《《ギャアアアアアアアアアアアアッッッ!!》》

 ――ごめんなさい、ご主人様。


       《トゥスカッ!!》


 蜥蜴野郎と同じように、ご主人様の声が頭に響いた?

《《ギャアアアアアアアアアアアアッッッッ!!?》》

 ――ドラコニアンの左腕が……宙を舞っている?

《赦……されない。お前は……滅ばなければならない》

「ご主人……様?」

 ”サムシンググレートソード”に刻まれた……


●●●


 慈悲の心を他者に向ける。

 それは人として当たり前で、出来ない奴は最低の屑。

 その思い込みにより、慈悲の心を持っていると思い込んでいる大多数の自称人類に、俺は傷付けられるままにされてきた。

 このルール無用の世界に来て、その感覚をいつの間にか忘れていた。

 慈悲の心は、誰かを大切に思う心は……大切かもしれない。

 でも……全ての人間に慈悲を向けるのは、決して慈悲のある人間のすることじゃない。

 赤い蜥蜴野郎が俺の大事な物を傷つけ、その血肉を悦楽と共に啜った瞬間――――俺の中の偽善が弾け、魂が急速に残酷な現実を受け入れ――抗うための強い魂魄こんぱくへと昇華されていく――!!


 ――――気付いたときには、俺の剣が左腕を切り刎ねていた。

《《ギャアアアアアアアアアアアアッッッッ!!?》》

 下卑た低周波の思念が頭に響くのが――酷く不快だ。

《”神代の剣”》

 思念で武具の効果を発動させ、彩藍さあい色の光の刃を纏わせる。

《《ギャアアアアアアアアアアアアッッッ!!》》

《お前に慈愛は向けない。それが、俺のせめてもの慈悲だ》

 ――超スピードから繰り出される剣撃を逸らし続け、少しずつ後退させていく。

《《ガアアアアアアアアアアアッッッッ!!!》》

《”拒絶領域”》

 彩藍の光を融け合わせた円柱で、赤い蜥蜴を弾き飛ばし――瞬時に肉迫する。

《《がギャ……ギャギャ……ギャッ!!!!》》

 喉を突き刺し、顔面に跳び蹴りを放ってすぐに剣を引き抜く。

《この程度じゃ殺せないか》

 瞬時に喉の傷が塞がり、左腕も生えだしている。

 かつての一つ目女と同じだな。

 ――――只、ただただ、切り裂き続ける。

 目を、指を、胸を、首を、脚を、頭を、股を、再生しなくなるまで、ひたすら斬り続ける。

《《ギャアアアアアアアアアアアアアアアッッッッ!!!?》》

 勝てないと悟ったのか、逃げ出すドラコニアンのなれの果て。

《逃がさない》

 全身に神代の彩藍光を纏わせ――瞬間移動し、ドラコニアンの眼前に現れる。

 肉体を別次元へと押し上げ、わざわざこの低次元に再構築したのだ。

 この力は、

 本来であれば、全ての人類が至れる可能性を持っていた。

 完全に低次元の住人となってしまった、目の前のコイツのような……劣等人類と違って。

《《イギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッ!!!》》

 いっぱしに、恐怖を感じているらしい。

 自分達が地球人に植え付け続けた恐怖を、生意気にも存分に味わっているようだ。

《因果応報だな――ハイパワースラッシュ》

 ”サムシンググレートソード”を振り下ろし――――――赤い石剣ごと両断した。

 二つに別れた身体が塞がっていく間に手脚を切り裂くと、途中で再生が止まる。

《ようやく――――へ?」

 神代の力が消え失せて、全身から力が抜けていく!!

「こんな……時にッ!!」

 全身が小刻みに震えて……思い通りに動かなくなっていくッ!!

「――負けるかッ!!」

 ドラコニアンが動き出す前にグレートソードを胸へと突き刺すも、ほんの少し刺さった程度!!

 威力が……足りない!


「受け取れ――コセ!!」


 耳に届いたザッカルの声と共に、黒い大剣が飛んでくる!!

「装備セット2!!」

 ”奴隷王の腕輪”を装備し、パーティーメンバーであるザッカルを一時的に奴隷とすることで――”連携装備”のスキルが適用され――黒い大剣を俺の装備として使用可能にする!!

「終わりだ、クソ蜥蜴野郎ッッッ!!」

 跳躍し――――”滅剣ハルマゲドン”の剣先を、ドラコニアンの口の中へと突っ込むッ!!


「――”終末の一撃”ッッッ!!」


 体内から黒の暴虐を炸裂させ――――俺の身体は、抵抗することなく派手に吹き飛ばされ……メグミに抱き止められた。

「ありが……メグ……ミ…………」
「おい、コセ! しっかりしろ、コセッ!!」

 感覚が――この世界から遠ざかってい――――

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