ダンジョン・ザ・チョイス
162.結成 龍意のケンシ
「では、《龍意のケンシ》に所属するメンバーは、ご自分で名前を入力してください」
レギオン名が決まったあと、俺と俺の奴隷であるメルシュとトゥスカ、隠れNPC以外が名前を入力していく。
どうやら、所属した人間の奴隷は、強制的にレギオンに加入扱いになるらしい。
名前の入力が終わると、完了を選択。
「メンバーは全員で、二十三人で宜しいですか?」
OKを選択すると、幹部設定というのが出て来た。
「幹部を二人以上選択してください。奴隷は選択出来ません。幹部と軍団長同士は、軍団内のパーティーが二以下になる場合は組めなくなりますので、ご注意ください」
これに関しては聞いていた。
俺はジュリーとルイーサ、ユリカとユイと、隠れNPCを持つ者を幹部に選択。
これなら、元々パーティーを組めない面子であるため、なんのデメリットも生じない。
「幹部には、レギオンへの加入手続きを行えるなどの大きな権限が与えられます。こちらの四人を幹部に設定しても、本当に宜しいですか?」
四人とも、問題なく信頼できる相手だ。
……ユリカとユイは、ある意味微妙かも。
「幹部の設定が終わりました。では、幹部の持ち家がレギオンに登録されます」
俺とジュリー、ルイーサの家が立体映像風のミニチュアとして表示される。
「同じレギオンの家同士は、異空間内で繋げることが出来ます」
「そんなことが出来るんだ」
「最後に、レギオンエンブレムを選択してください」
もの凄い種類がチョイスプレートに表示される。
黒くなってるのは、既に選択されてしまった奴か。
「ちょっとゴメン」
ジュリーがリストを操作し、一つのエンブレムを指す。
「これでお願い……出来ないかな?」
首の無い八翼の天使? を模った銅像のようなデザイン。
「これは?」
「私がオリジナルで使ってた物なんだ」
このゲームは、ジュリーにとって大切な宝物。
「良いよ、これにしよう」
デザイン、俺も気に入ったし。
「ありがとう、コセ」
こうして、俺達のレギオン《龍意のケンシ》は結成された。
★
「じゃあ、繋げるぞ」
「うん」
「良いよ」
神秘の館のコンソールを操作し、同じレギオン同士の家を隣接させる。
○家の転送操作、完了しました。
コンソール上には、半球状の土地に俺達の三つの家が建っている立体映像が表示されている。
外に出て確認してみると、昨日見たジュリーの”砦城”が右側に見えた。
反対側には、和風のお屋敷が建っている。
ルイーサ達が購入した、”忍者屋敷”だ。
隠し通路や罠が、複数あるらしい。
普段は罠が発動しないようにするらしいが、レギオン戦では猛威を振るうことになる……はず。
「レギオン戦か……どういう感じになるんだろうな」
ルイーサが、自分の家を見ながら呟く。
「オリジナルだったら、ちょっとした運動会気分でやれたんだけれどね」
ジュリーは楽しいって意味で言ってるんだろうけれど、運動会にこれといって良い想い出が無い俺にとっては「ちょっとした地獄が見られるぜ!」と言われたようなもの。
炎天下で一日陽射しを浴びなきゃいけない催しに、いったいなんの意味があるんだか。
アレに何十時間も費やして練習させるより、少しは実のある面白い授業をやれよと思うんだが。
近代史の授業で、教師が日本人に自虐観念植え付ける、嘘の教育を当たり前のようにやっててビックリしたは!
学校が不要とは言わないけれど、一部の人間にとって都合の良い洗脳場所として使われている部分は確かにある。
「ねー、これってレギオン戦で家が荒らされたりした場合どうなるの?」
「レギオン戦の家はあくまでここのコピーだから、気にしなくても良いけれど、下着とかその辺に置いてると見られちゃうから、気を付けてね」
メルシュがアヤナの疑問に答える。
「……アオイにちゃんと言っておこう」
俺の前で言うなよ。ちょっと想像してしまったぞ。
○○○
「あんたさ、ノリ悪いわよ」
精霊の村まで、私は同じグループの人達と組んでゲームの攻略を進めていた。
同年代の、男のアイドルグループの人達とも協力して。
私達のリーダーは私よりも三つ年上で、いつも私達を引っ張ってくれる頼もしい人だった……けれど。
「ナノカちゃん、一回だけ。一回だけだから頼むよ! このとーり」
村についた途端、男のアイドルグループの一人に軽いノリでそう頼まれた。
「昨日さ、危ないとこ助けてあげたじゃん。あんま言いたくは無いんだけれどさ、お礼してくれたって良いんじゃね?」
意味が分からない。
この世界に来るまでは、リーダーも目の前の人も、こんなこと言うような人だなんて思わなかった。
いつ死んでもおかしくないこの世界に連れて来られて、皆おかしくなってきてる。
……ううん、違う。化けの皮が剥がれてきてるだけなんだ。
カメラの前で、ファンの前で、私達は笑顔を絶やすことは許されない。
感情のままに無愛想に振る舞えば、容赦なく叩かれる。
昔は、それでも良いと思っていた。
私が踊って、歌って、嘘でも笑顔を振り撒くことで、喜んでくれる人がいる。
私がアイドルとして頑張ることで、私に夢を託したお母さんが喜んでくれるって。
でも、ふと疑問に思えてしまった。
「いつも笑顔を絶やさず、心から笑ってくれるナノカちゃん。マジ天使!」
そう言ってくれたファンの、無邪気な笑顔を見て。
その時の私は、心から笑ってはいなかった。
成績の悪化で母親と喧嘩し、かなり無理矢理笑顔を作っていた。
嘘を振り撒いているのは私だけれど、ファンの人達はそれに気付いていない。
嘘で誰かに喜んで貰うことに……いったいなんの意味があるのだろう。
母もファンも、アイドルとしての嘘の私しか求めていない。
本当の私なんて、誰も求めていない。
そんな風に思い始めたとき、バスでの移動中に……それは現れた。
『私はエリカ。貴方たち倭人のアイドルを、地獄のゲームにぶち込むためにやってきたの』
『自分一人で苦しむのと、皆で一緒に苦しむの、どっちが良い?』
一人を選んだのは、私だけだった。
暫くして再会し、第八ステージまで協力して攻略を進めていたら、恩着せがましく身体を求められてる。
「タツヤ君がこう言ってるんだからさ、さっさと脱ぎなさいよ」
私以外の皆は、森の中で抱き合い、衣服を脱いでいく。
「俺、ナノカちゃんとヤりたくて仕方ないんだよ、だって……」
タツヤさんが、ゆっくりと近付いてくる。
「ナノカちゃん以外のメンバーとは、全員ヤッたからさ」
――そこでようやく、私は覚悟が決まった。
タツヤさんの頬を咄嗟にレイピアで切り付けて動きを止め、派手な魔法を放って視界を妨げると、一目散に逃げた!
距離を稼いで息を整えている間にパーティーを抜け、一人でボスとも戦って……水上都市に辿り着く。
所持金は皆のためという名目でリーダーが持っていたため、私はお金を稼ぐのが間に合わず……奴隷にされた。
一度だけ、男のアイドルグループが揃って奴隷商館に来た事がある。
下卑た言葉を並べ、牢を物色。
偶然にも私が居た奥までは入ってこず、入口傍の女性を買って出ていった。
その時の会話で、リーダーは私達が稼いだお金をタツヤさん達に貢いで居たのが分かった。
彼等は、リーダーを体の良いATMくらいにしか思っていないとも。
結局、それが人間なんだ。
アイドルなんて、決して特別な存在じゃない。
アイドルだって、所詮は人間。
そう悟って絶望してから数ヶ月後……彼は現れた。
私と、同じ考えを持っていた男の人。
私を、一人の人間として見てくれる……残酷なくらい、本当に優しい人が。
自室の窓から、夜景を見ながら考えていた。
自分の左人差し指に嵌められた、指輪の事を。
きっと、彼は私なんかに女として興味は無いだろう。
「でも……私は……」
複数の女性と幸せになろうとするコセさんを否定しつつ、その輪の中に加わりたいという衝動に苛まれる自分が居る。
この想いは、いずれ後者に傾くだろう。
彼が、私の人間への希望になってしまっているから。
「明日のレギオン戦……頑張ろう」
レギオン名が決まったあと、俺と俺の奴隷であるメルシュとトゥスカ、隠れNPC以外が名前を入力していく。
どうやら、所属した人間の奴隷は、強制的にレギオンに加入扱いになるらしい。
名前の入力が終わると、完了を選択。
「メンバーは全員で、二十三人で宜しいですか?」
OKを選択すると、幹部設定というのが出て来た。
「幹部を二人以上選択してください。奴隷は選択出来ません。幹部と軍団長同士は、軍団内のパーティーが二以下になる場合は組めなくなりますので、ご注意ください」
これに関しては聞いていた。
俺はジュリーとルイーサ、ユリカとユイと、隠れNPCを持つ者を幹部に選択。
これなら、元々パーティーを組めない面子であるため、なんのデメリットも生じない。
「幹部には、レギオンへの加入手続きを行えるなどの大きな権限が与えられます。こちらの四人を幹部に設定しても、本当に宜しいですか?」
四人とも、問題なく信頼できる相手だ。
……ユリカとユイは、ある意味微妙かも。
「幹部の設定が終わりました。では、幹部の持ち家がレギオンに登録されます」
俺とジュリー、ルイーサの家が立体映像風のミニチュアとして表示される。
「同じレギオンの家同士は、異空間内で繋げることが出来ます」
「そんなことが出来るんだ」
「最後に、レギオンエンブレムを選択してください」
もの凄い種類がチョイスプレートに表示される。
黒くなってるのは、既に選択されてしまった奴か。
「ちょっとゴメン」
ジュリーがリストを操作し、一つのエンブレムを指す。
「これでお願い……出来ないかな?」
首の無い八翼の天使? を模った銅像のようなデザイン。
「これは?」
「私がオリジナルで使ってた物なんだ」
このゲームは、ジュリーにとって大切な宝物。
「良いよ、これにしよう」
デザイン、俺も気に入ったし。
「ありがとう、コセ」
こうして、俺達のレギオン《龍意のケンシ》は結成された。
★
「じゃあ、繋げるぞ」
「うん」
「良いよ」
神秘の館のコンソールを操作し、同じレギオン同士の家を隣接させる。
○家の転送操作、完了しました。
コンソール上には、半球状の土地に俺達の三つの家が建っている立体映像が表示されている。
外に出て確認してみると、昨日見たジュリーの”砦城”が右側に見えた。
反対側には、和風のお屋敷が建っている。
ルイーサ達が購入した、”忍者屋敷”だ。
隠し通路や罠が、複数あるらしい。
普段は罠が発動しないようにするらしいが、レギオン戦では猛威を振るうことになる……はず。
「レギオン戦か……どういう感じになるんだろうな」
ルイーサが、自分の家を見ながら呟く。
「オリジナルだったら、ちょっとした運動会気分でやれたんだけれどね」
ジュリーは楽しいって意味で言ってるんだろうけれど、運動会にこれといって良い想い出が無い俺にとっては「ちょっとした地獄が見られるぜ!」と言われたようなもの。
炎天下で一日陽射しを浴びなきゃいけない催しに、いったいなんの意味があるんだか。
アレに何十時間も費やして練習させるより、少しは実のある面白い授業をやれよと思うんだが。
近代史の授業で、教師が日本人に自虐観念植え付ける、嘘の教育を当たり前のようにやっててビックリしたは!
学校が不要とは言わないけれど、一部の人間にとって都合の良い洗脳場所として使われている部分は確かにある。
「ねー、これってレギオン戦で家が荒らされたりした場合どうなるの?」
「レギオン戦の家はあくまでここのコピーだから、気にしなくても良いけれど、下着とかその辺に置いてると見られちゃうから、気を付けてね」
メルシュがアヤナの疑問に答える。
「……アオイにちゃんと言っておこう」
俺の前で言うなよ。ちょっと想像してしまったぞ。
○○○
「あんたさ、ノリ悪いわよ」
精霊の村まで、私は同じグループの人達と組んでゲームの攻略を進めていた。
同年代の、男のアイドルグループの人達とも協力して。
私達のリーダーは私よりも三つ年上で、いつも私達を引っ張ってくれる頼もしい人だった……けれど。
「ナノカちゃん、一回だけ。一回だけだから頼むよ! このとーり」
村についた途端、男のアイドルグループの一人に軽いノリでそう頼まれた。
「昨日さ、危ないとこ助けてあげたじゃん。あんま言いたくは無いんだけれどさ、お礼してくれたって良いんじゃね?」
意味が分からない。
この世界に来るまでは、リーダーも目の前の人も、こんなこと言うような人だなんて思わなかった。
いつ死んでもおかしくないこの世界に連れて来られて、皆おかしくなってきてる。
……ううん、違う。化けの皮が剥がれてきてるだけなんだ。
カメラの前で、ファンの前で、私達は笑顔を絶やすことは許されない。
感情のままに無愛想に振る舞えば、容赦なく叩かれる。
昔は、それでも良いと思っていた。
私が踊って、歌って、嘘でも笑顔を振り撒くことで、喜んでくれる人がいる。
私がアイドルとして頑張ることで、私に夢を託したお母さんが喜んでくれるって。
でも、ふと疑問に思えてしまった。
「いつも笑顔を絶やさず、心から笑ってくれるナノカちゃん。マジ天使!」
そう言ってくれたファンの、無邪気な笑顔を見て。
その時の私は、心から笑ってはいなかった。
成績の悪化で母親と喧嘩し、かなり無理矢理笑顔を作っていた。
嘘を振り撒いているのは私だけれど、ファンの人達はそれに気付いていない。
嘘で誰かに喜んで貰うことに……いったいなんの意味があるのだろう。
母もファンも、アイドルとしての嘘の私しか求めていない。
本当の私なんて、誰も求めていない。
そんな風に思い始めたとき、バスでの移動中に……それは現れた。
『私はエリカ。貴方たち倭人のアイドルを、地獄のゲームにぶち込むためにやってきたの』
『自分一人で苦しむのと、皆で一緒に苦しむの、どっちが良い?』
一人を選んだのは、私だけだった。
暫くして再会し、第八ステージまで協力して攻略を進めていたら、恩着せがましく身体を求められてる。
「タツヤ君がこう言ってるんだからさ、さっさと脱ぎなさいよ」
私以外の皆は、森の中で抱き合い、衣服を脱いでいく。
「俺、ナノカちゃんとヤりたくて仕方ないんだよ、だって……」
タツヤさんが、ゆっくりと近付いてくる。
「ナノカちゃん以外のメンバーとは、全員ヤッたからさ」
――そこでようやく、私は覚悟が決まった。
タツヤさんの頬を咄嗟にレイピアで切り付けて動きを止め、派手な魔法を放って視界を妨げると、一目散に逃げた!
距離を稼いで息を整えている間にパーティーを抜け、一人でボスとも戦って……水上都市に辿り着く。
所持金は皆のためという名目でリーダーが持っていたため、私はお金を稼ぐのが間に合わず……奴隷にされた。
一度だけ、男のアイドルグループが揃って奴隷商館に来た事がある。
下卑た言葉を並べ、牢を物色。
偶然にも私が居た奥までは入ってこず、入口傍の女性を買って出ていった。
その時の会話で、リーダーは私達が稼いだお金をタツヤさん達に貢いで居たのが分かった。
彼等は、リーダーを体の良いATMくらいにしか思っていないとも。
結局、それが人間なんだ。
アイドルなんて、決して特別な存在じゃない。
アイドルだって、所詮は人間。
そう悟って絶望してから数ヶ月後……彼は現れた。
私と、同じ考えを持っていた男の人。
私を、一人の人間として見てくれる……残酷なくらい、本当に優しい人が。
自室の窓から、夜景を見ながら考えていた。
自分の左人差し指に嵌められた、指輪の事を。
きっと、彼は私なんかに女として興味は無いだろう。
「でも……私は……」
複数の女性と幸せになろうとするコセさんを否定しつつ、その輪の中に加わりたいという衝動に苛まれる自分が居る。
この想いは、いずれ後者に傾くだろう。
彼が、私の人間への希望になってしまっているから。
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