ダンジョン・ザ・チョイス
145.氣
……凄い。
気をぶつけたら、人が変わったように動きが良くなった。
呼吸を乱さず、私の剣を躱し続けるリアルハーレムの人。
でも、剣先にのみ意識を集中させていては他への対応が遅れるもの。
「ぐ!?」
私の裏拳を頬に受けるも、剣先への注意を逸らさない。
軽く肩を斬りつけようとしたけれど、躱された。
剣に注意が向いていたのでは無く、剣だけは躱そうという選択をしたということ。
素敵。
痛みや恐怖に思考を、心を囚われれば、その先にあるのは死。
侍がいた時代なら、それは剣士として当たり前。
でも、父も、兄達も、業しか持っていない。
剣で、素手で殺し合うことが無くなった現代、人は心を研ぎ澄ますことが出来ない。
だから、その一点だけは、この世界に来て良かったと思える。
剣気を磨くことが許される、この世界は。
気を磨く事で、始めて真の氣が見える。
死があるから、生を感じられる。
悲劇なんて、無い方が良い。
死は、悲しむべきもの。
――どれもクソっ食らえだ!!
なぜ悲劇は起きる!
なぜ死を悲しまなければならない!
そういう物だからと思考を止め、心を閉ざし、「これだから大人は!」と言ったその口で、自分の子に「子供になにが分かる!」と平気でほざく。
私は――カオリお姉ちゃん以外の家族を、家族と思ったことはない。
カオリお姉ちゃんだけが、本物だったから。
父には内縁の妻が居る。
私は、そのうちの一人の娘。
家族関係は悪くない……上辺だけは。
でも、実際には穢れで溢れていた。
目には見えない穢れた気が、しょっちゅう漂っていた。
だからこそ――本物のハーレムの在り方がなにか知りたかった。
アニメのハーレム物は、基本的に女同士で憎み合ったりしない。
男の主人公がなぜあんなにモテるのか理解できない作品も多いけれど、私の家族より、ずっと綺麗な関係を築いていた。
こんなハーレムを、現実に築く人達に会ってみたい。
そんな願望を抱き初めてから数年後……私はリアルハーレムの人と出会った。
実際に複数の女性を侍らせている人は、この世界で何度か見たことがある。
でも、とっても邪な気が漏れてて、気持ち悪くて……そういう男達についていこうとする女も気持ち悪くて……私は英知の街で、彼女達と別れることを選んだ。
でも、リアルハーレムの人は違った。
寝起きだったのもあるかもしれないけれど、リアルハーレムの人の気は……かなり澄んでいた。
でも、今は違う。
一昨日の夜くらいから、気の質が変わった。
気から、氣に変わった気がする。
外からの気を内から排除し、己が内からの氣を発する……私達とは異なる存在。
人の気を、浄化する存在。
文字を使っているときとか、そういう氣をリアルハーレムの人から感じる事は今までもあったけれど、目の前に居るリアルハーレムの人から、こんなにも強く感じるのは初めて。
「俺も、剣を使わせてもらう」
短剣を構えるリアルハー……コセさん。
――――意識が、研ぎ澄まされていく!!
私の剣を、短剣を使って去なし続けるコセさん!
もっと――もっと速く!!
刹那に消える剣戟の音が、私を更なる高みに押し上げてくれる!!
私達の気と、私達の発する音だけが、世界を構築していく――。
握る手。捻る手首。堪える足、追う視線、互いの高まっていく身体の熱、乱すことも許されぬ呼吸!
世界が、昇っていく!!
――――歓喜によって身体が意図せぬ震えに襲われ、晒してしまった隙を的確に突かれた。
コセさんに、剣を叩き落とされてしまったのだ。
――正真正銘の、敗北。
「…………お見事」
単純に、声の発っし方を思い出せず、賞賛の言葉を口にするのが遅れてしまう。
自分の声が自分の耳に届いた瞬間、コセさんと私が生み出した心地の良い氣が、壊れてしまった。
「コセさん?」
「…………」
瞳が、虚ろだった。
私以上に、己を剣と同化させていたというのを理解する。
……数秒経っても、コセさんは微動だにしない。
きっと、私が剣を失ったことで、自分がどうしたら良いのか分からないんだ。
勝者には、相応しい報償を。
そっと頬に触れ――私は唇を重ねた。
「ん♡!」
本能なのか、コセさんがすぐに唇を貪ってくる!
肉体に刺激を与えることで、彼方へと旅立った魂を、この世に呼び覚まそうとするかのように。
そのまま押し倒されて、着物の襟を大きくはだけさせられた私は――自分から股を開いた。
●●●
「つまり、盛り上がった勢いに任せてユイを襲ったと」
シレイアに指摘される。
「そう……なのかな?」
そうと言えなくもないけれど……なんか違う気がする。
病院で治療中の患者が亡くなったからって、遺族が医師を人殺し呼ばわりするくらい違う気がするんだけれど……。
「まあ、今のは冗談さね。アタシは、アンタとマスターをくっ付けたかったからね」
モモカをジュリーとサキ、タマがお風呂に連れて行ったあと、リビングで公開処刑されている俺とユイ。
正式な妻であるトゥスカとユリカ、ナオとジュリーの前でならともかく、なんでサトミさんとかも居る前で……自分からまいた種だけれど。
「そういや、コセはユイと結婚してねーよな? あれ? ナオもか」
ザッカルの指摘に、自分が英知の街で七重婚していたことを思い出す。
「結婚すると、婚姻の指輪ってアイテムが手に入るんだろう?」
「うん、そうだよ」
ザッカルの問いに、メルシュが答える。
「俺達も結婚しといた方が戦力アップになるよな?」
指輪装備欄を無視して、強制装備される唯一のEXランクのアイテム。
愛が無くても結婚したもん勝ちになるという、個人的に気に入らないシステム。
「結婚は基本的に、教会がある街でしか出来ないから、村である第八ステージでは無理だね」
「そう言えば、ここまでで街ってついてたのは英知の街だけだな」
他は、村か町か港だった。
つまり、栄光の魔女による指輪出現イベントは、英知の街で結婚していないと発生させられないんだ。
「そんなアンタラに朗報だよ。次の第九ステージは水上都市。つまり、街に分類される場所だ!」
シレイア!! どの辺が朗報!!?
「「「おし!!」」」
今、何人かがガッツポーズしたように見えた気が……。
「それと、以前結婚した人は指輪のランクアップを試せるよ。勿論、互いへの想いが強くなってないと意味が無いけれどね」
「ウフフ、そうなんだ~♡」
――今、サトミさんに目で「お前、分かってんだろうな?」って訴えられた気がする!!?
「というわけだから、新入りのフェルナンダとも仲良くね、マスター」
メルシュが、フェルナンダと呼ばれた少女を前に突き出す。
「……キモ」
「スミマセン」
さっそくゴミを見るような目で見られた挙げ句、悪口言われたんですけれど!!
「そうと決まれば、明日一日は準備に費やして、明後日の朝に出発しましょう!!」
「「「「おおおおおおおおッ!!」」」」
サトミさんの言葉に、ナオ、ノーザン、リンピョン、ザッカルがもの凄く乗り気な返事を返す。
チラリと、トゥスカの様子を覗う…………全然目を合わせようとしてくれない!!?
気をぶつけたら、人が変わったように動きが良くなった。
呼吸を乱さず、私の剣を躱し続けるリアルハーレムの人。
でも、剣先にのみ意識を集中させていては他への対応が遅れるもの。
「ぐ!?」
私の裏拳を頬に受けるも、剣先への注意を逸らさない。
軽く肩を斬りつけようとしたけれど、躱された。
剣に注意が向いていたのでは無く、剣だけは躱そうという選択をしたということ。
素敵。
痛みや恐怖に思考を、心を囚われれば、その先にあるのは死。
侍がいた時代なら、それは剣士として当たり前。
でも、父も、兄達も、業しか持っていない。
剣で、素手で殺し合うことが無くなった現代、人は心を研ぎ澄ますことが出来ない。
だから、その一点だけは、この世界に来て良かったと思える。
剣気を磨くことが許される、この世界は。
気を磨く事で、始めて真の氣が見える。
死があるから、生を感じられる。
悲劇なんて、無い方が良い。
死は、悲しむべきもの。
――どれもクソっ食らえだ!!
なぜ悲劇は起きる!
なぜ死を悲しまなければならない!
そういう物だからと思考を止め、心を閉ざし、「これだから大人は!」と言ったその口で、自分の子に「子供になにが分かる!」と平気でほざく。
私は――カオリお姉ちゃん以外の家族を、家族と思ったことはない。
カオリお姉ちゃんだけが、本物だったから。
父には内縁の妻が居る。
私は、そのうちの一人の娘。
家族関係は悪くない……上辺だけは。
でも、実際には穢れで溢れていた。
目には見えない穢れた気が、しょっちゅう漂っていた。
だからこそ――本物のハーレムの在り方がなにか知りたかった。
アニメのハーレム物は、基本的に女同士で憎み合ったりしない。
男の主人公がなぜあんなにモテるのか理解できない作品も多いけれど、私の家族より、ずっと綺麗な関係を築いていた。
こんなハーレムを、現実に築く人達に会ってみたい。
そんな願望を抱き初めてから数年後……私はリアルハーレムの人と出会った。
実際に複数の女性を侍らせている人は、この世界で何度か見たことがある。
でも、とっても邪な気が漏れてて、気持ち悪くて……そういう男達についていこうとする女も気持ち悪くて……私は英知の街で、彼女達と別れることを選んだ。
でも、リアルハーレムの人は違った。
寝起きだったのもあるかもしれないけれど、リアルハーレムの人の気は……かなり澄んでいた。
でも、今は違う。
一昨日の夜くらいから、気の質が変わった。
気から、氣に変わった気がする。
外からの気を内から排除し、己が内からの氣を発する……私達とは異なる存在。
人の気を、浄化する存在。
文字を使っているときとか、そういう氣をリアルハーレムの人から感じる事は今までもあったけれど、目の前に居るリアルハーレムの人から、こんなにも強く感じるのは初めて。
「俺も、剣を使わせてもらう」
短剣を構えるリアルハー……コセさん。
――――意識が、研ぎ澄まされていく!!
私の剣を、短剣を使って去なし続けるコセさん!
もっと――もっと速く!!
刹那に消える剣戟の音が、私を更なる高みに押し上げてくれる!!
私達の気と、私達の発する音だけが、世界を構築していく――。
握る手。捻る手首。堪える足、追う視線、互いの高まっていく身体の熱、乱すことも許されぬ呼吸!
世界が、昇っていく!!
――――歓喜によって身体が意図せぬ震えに襲われ、晒してしまった隙を的確に突かれた。
コセさんに、剣を叩き落とされてしまったのだ。
――正真正銘の、敗北。
「…………お見事」
単純に、声の発っし方を思い出せず、賞賛の言葉を口にするのが遅れてしまう。
自分の声が自分の耳に届いた瞬間、コセさんと私が生み出した心地の良い氣が、壊れてしまった。
「コセさん?」
「…………」
瞳が、虚ろだった。
私以上に、己を剣と同化させていたというのを理解する。
……数秒経っても、コセさんは微動だにしない。
きっと、私が剣を失ったことで、自分がどうしたら良いのか分からないんだ。
勝者には、相応しい報償を。
そっと頬に触れ――私は唇を重ねた。
「ん♡!」
本能なのか、コセさんがすぐに唇を貪ってくる!
肉体に刺激を与えることで、彼方へと旅立った魂を、この世に呼び覚まそうとするかのように。
そのまま押し倒されて、着物の襟を大きくはだけさせられた私は――自分から股を開いた。
●●●
「つまり、盛り上がった勢いに任せてユイを襲ったと」
シレイアに指摘される。
「そう……なのかな?」
そうと言えなくもないけれど……なんか違う気がする。
病院で治療中の患者が亡くなったからって、遺族が医師を人殺し呼ばわりするくらい違う気がするんだけれど……。
「まあ、今のは冗談さね。アタシは、アンタとマスターをくっ付けたかったからね」
モモカをジュリーとサキ、タマがお風呂に連れて行ったあと、リビングで公開処刑されている俺とユイ。
正式な妻であるトゥスカとユリカ、ナオとジュリーの前でならともかく、なんでサトミさんとかも居る前で……自分からまいた種だけれど。
「そういや、コセはユイと結婚してねーよな? あれ? ナオもか」
ザッカルの指摘に、自分が英知の街で七重婚していたことを思い出す。
「結婚すると、婚姻の指輪ってアイテムが手に入るんだろう?」
「うん、そうだよ」
ザッカルの問いに、メルシュが答える。
「俺達も結婚しといた方が戦力アップになるよな?」
指輪装備欄を無視して、強制装備される唯一のEXランクのアイテム。
愛が無くても結婚したもん勝ちになるという、個人的に気に入らないシステム。
「結婚は基本的に、教会がある街でしか出来ないから、村である第八ステージでは無理だね」
「そう言えば、ここまでで街ってついてたのは英知の街だけだな」
他は、村か町か港だった。
つまり、栄光の魔女による指輪出現イベントは、英知の街で結婚していないと発生させられないんだ。
「そんなアンタラに朗報だよ。次の第九ステージは水上都市。つまり、街に分類される場所だ!」
シレイア!! どの辺が朗報!!?
「「「おし!!」」」
今、何人かがガッツポーズしたように見えた気が……。
「それと、以前結婚した人は指輪のランクアップを試せるよ。勿論、互いへの想いが強くなってないと意味が無いけれどね」
「ウフフ、そうなんだ~♡」
――今、サトミさんに目で「お前、分かってんだろうな?」って訴えられた気がする!!?
「というわけだから、新入りのフェルナンダとも仲良くね、マスター」
メルシュが、フェルナンダと呼ばれた少女を前に突き出す。
「……キモ」
「スミマセン」
さっそくゴミを見るような目で見られた挙げ句、悪口言われたんですけれど!!
「そうと決まれば、明日一日は準備に費やして、明後日の朝に出発しましょう!!」
「「「「おおおおおおおおッ!!」」」」
サトミさんの言葉に、ナオ、ノーザン、リンピョン、ザッカルがもの凄く乗り気な返事を返す。
チラリと、トゥスカの様子を覗う…………全然目を合わせようとしてくれない!!?
「ファンタジー」の人気作品
書籍化作品
-
-
35
-
-
159
-
-
93
-
-
1978
-
-
4405
-
-
26950
-
-
55
-
-
381
-
-
2
コメント