ダンジョン・ザ・チョイス

魔神スピリット

140.女神と猫と侍の憂い

「ザッカル達七人全員、無事Sランクスキルを手に入れてきたよ! それと、新しく手に入った素材で面白い武具を作れそうだったから、幾つか注文してきたの!」

 夕食の席で、メルシュが報告してくれる。

「じゃあ、明日はいよいよマクスウェルだな」

 ルイーサと契約させる方針だったため、今日は断念したのだ。

 さすがに、昨日の今日で誰かに奪われたりはしないだろう……しないはず。

「頑張ったご褒美に、たくさんお料理作ったわよ~♡」

 サトミさんが腕を振るい、和食っぽい料理がズラリと並んでいた。

「じゃあ、食べようか」

 サッとモモカが手を合わせると、他の皆もそれぞれのスタイルで手を合わせる。

 心の中で、食材となった物へ、作ってくれた人へ、皆とご飯を食べられる事への感謝を込めて。

「「「「「戴きます」」」」」

 最近、この瞬間をとても幸せに感じる。

「モモカちゃん、今日はサキお姉さんが食べさせてあげる!」

 最近、誰かがモモカに食事させるのが流行っていた。

 以前俺が食べさせたのは、特別に一回だけのつもりだったのに。

「やだ!」

 モモカは良い子なので、基本的には自分でご飯を食べる。

 ただ、サキほどじゃないがジュリーもよく誘っていた。

「……今日はジュリーに食べさせて貰う!」
「そんな!?」

 大袈裟に頽れるサキ。

「私で……良いのか?」
「今日のジュリーは嫌じゃないから」

「……そっか。じゃあ、一緒に食べよう」

 ジュリーの膝に乗り、食事を始めるモモカ。

 村から帰ってきてからのジュリー……見ててドキドキする。

「ご主人様……さっきから野菜しか食べてませんけれど、大丈夫ですか? 昨夜も今朝も、あまりお肉を食べていませんでしたが」
「へ?」

 心配そうなトゥスカの問いに、初めて自分が肉を避けていた事に気付く。

「別に体調が悪いわけじゃないよ」

 小皿に肉団子を取り分け食べようとするも……あまり食べる気にならない。

 それでもと口に入れてみるも、美味しいと思えない自分が居る。

 サトミさんの料理は美味しいし、この肉団子だってしっかり肉の臭みを消して、おダシたっぷりの味付けがされていて美味しいはずなのに……身体が拒絶しているかのようだ。

 結局俺は、皿に取った二つの肉団子以外、お肉を食べなかった。


             ★


「コセ……」

 薄ピンクのバスローブ姿で、寝室に入ってきたジュリー。

 彼女のお願いで、急遽ジュリーとの初めてを迎えることになった。

「いつもより綺麗だよ、ジュリー」
「いつもは綺麗じゃないの?」
「いつも、女神みたいに綺麗だとは思ってる」
「意外と口が上手いね」

 話しを盛ったみたいになってるけれど、只の本音なんだよな。

 心にもないこと言うと、胃が爛れる気がするし。

 ジュリーが隣に来て、腰掛ける。

「コセは……世界が怖くないの?」

 突拍子もない発言に驚く。

「……世界よりも、人間の方が怖いかな」

 人が言葉を重ね、なにかを成すほどに、なにかが歪んでいく。

 昨日くらいから、その感覚が強くなってきている。

「コセって、ゲームは好き?」
「へ? うん、好きだよ」
「私は急に……分からなくなっちゃった」

 弱々しいジュリーの眼差し。

「コセ……私は、なにに執着して生きていけば良い?」

 縋るように、身を寄せてくる。

 よく分からないけれど、ジュリーは生き方を見失ってしまったのかな?

「執着することそのものが要らないんじゃないかな?」

「じゃあ、コセにも執着しなくて良いんだ」

 唇が、すぐ傍まで近付いていた。

「俺に執着してジュリーが不幸になるくらいなら……良いよ」

 ジュリーの動きが止まる。

「……なら、貴方を愛しちゃダメ?」

 声を発して返すのが無粋に思えたから、鼻先をジュリーの鼻に擦らせ、一瞬目を合わせて――唇を重ねた。


●●●


「ハアハア、ハアハア」
「ハアハア、ハアハア♡」

 行為を終え、彼の身体に身を預ける。

 互いの鼓動の揺れに、彼が他人ではなく、自分にとって掛け替えのない存在なのだと強く認識する。

 髪を、指で梳かすように撫でられた。

 彼は……嘘が少ない。

 初めて会った頃から、彼を信頼出来ていた理由が分かった気がする。

 あの時、槍の男に殺され掛けたコセ。

 ボス戦に協力し、槍の男を始まりの村へと招いてしまった事への罪悪感から、死にかけたコセを魔法で助けた。

 その時のお腹の傷がうっすら残っていて、申し訳なく思ってしまう。

 にも関わらず、両親の大切なゲームに執着していた私は、メルシュを手に入れるためにコセを殺そうとした。

 彼はそんな私を受け入れ、女として幸せにしてくれようとしている。

 我が儘な私を、こんなにも強く受け止めてくれるコセ。

 今日、突然込み上げた、これまでの全てを否定してしまいたくなるような強い不安が……消えていく。


●●●


「ジュリー様……とっても綺麗です♡」

 今朝、食堂に現れたジュリー様が、見違えるほどに綺麗で驚きました!

 これまでも女神様のようお美しかったけれど、今日は本当に、神々しさすら感じてしまいます♡

「ありがとう、タマ」

 昨夜は……コセ様とそういう事をしていたはず。

 ……私は、コセ様とそういう関係になっても良いのかな?

 昨日、突然泣き出してしまった自分が情けなくて……忘れていた自分の弱さを、思い知らされた気分だった。

 もう一度……シレイアさんに訓練をお願いしてみようかな?


●●●


「ついに……行かないでしまった」

 ジュリーさんとリアルハーレムの人の、あられもない様子を堪能できるチャンスだったのに。

 ……カオリお姉ちゃんが神代文字を使った事で、その日のうちにシレイアさんは私に“波紋龍の太刀”を返してくれていた。

 朝の素振りをしながら、考える。

 カオリお姉ちゃんと戦うなら、今のままじゃダメだ。

 でも、あの文字を使うのは怖い。

 シレイアさんは当初、私がリアルハーレムの人と本気で愛し合うまで返さない方針だった。

 私がまたあの文字を使えば、廃人になるかもしれない。

 それを防ぐために、シレイアさんは剣を取り上げ、リアルハーレムの人と私をくっ付けようとした。

「……頑張ってみようかな」

 自分から夜這いに行くこと以外、なにも思いつかないけれど。

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