ダンジョン・ザ・チョイス

魔神スピリット

132.滅亡願望のケンシ アテル

「……コセだ。巨勢 雄大」

 日高 アテル……俺より少し年上か。

「コセ!」

 ユリカとジュリーのパーティーも追い付いてきた。

「思っていたより数が多いんだね。驚いたよ」
「仲間になれと言うが、目的はゲームを終わらせる事って解釈で良いのか?」

 口振りからして、このゲームの裏事情をある程度知っているはず。

「……仲間に迎える以上、正直に話そう」

 穏やかな雰囲気。だからこそ恐ろしい。


「我々が望むのは、滅びだ」


「……滅び?」

 なにを言っている?

「その文字を扱えるのなら、僕の気持ちが分かるはずだ、コセ。この世界、いや、ありとあらゆる人間に、存在する価値が無いと」

「この世界の人間を、皆殺しにするつもりなのか?」
「その表現には語弊があるな」

 男は苦笑いを浮かべる。


「全ての世界の人間を、一瞬で、安らかに消滅させる。その対象は、我々自身にも適用される」


 ――破滅願望。

 己、特定の誰かではなく、全てに対してか。

「メルシュ……そんな事が可能なのか?」

 監視者に見られているかもしれない状況で、聞いて良い話しじゃない……でも。

「……最深部に到達し、その資格があると証明されれば」

 可能らしい。

「人類はもうダメだ。救いようが無い。だからこそ、これ以上負のカルマを生み出して世界を破滅させぬように、僕達は最後の救済手段を取る」
「貴方達異世界人の世界は、闇側の勢力が勝利し、既に神々に見放された。力のある神の恩恵が失われてしまった世界。あの世界は、この世界の神々の力を使わなければ存続する事すら危ういのです」

 白人の女とアテルが、この集団の中心らしい

「断る。このゲームを終わらせて、家族と一緒に暮らす。それだけが俺の望みだ」

「そうか……残念だ」


 ――アテルが突如斬り掛かってきたため、“強者のグレートソード”で受け止める!!


「なら仕方ない。君を倒して、ワイズマンと共に連れて行く」

 強い!! いつの間にか、文字を六つ刻んでやがる!!

「波が荒い。六文字維持するのが精一杯のようだね」
「く!」

 言葉の意味が分かってしまう。

 俺と比べて、アテルの黒石の大剣に刻まれた文字は、洗練されている感じがする!

 目の前の男と比べて、俺のはなにかが噛み合っていない。

「もっと世界の声に耳をすませるんだ。この世界の神の意志は、人間に滅びを求めている」

 神代文字を刻んだ時に、こちらを呑み込もうとする奔流。

 あれは、優しくもなければ、冷たくもない。

 ただ……真理故に残酷。

「世界の真にあるべき姿を、一部の人間達が目の前の現実を疎み、捻じ曲げた。そうやって何億年という月日が経ち、世界はくだらぬカルマに汚染され、それが新たな負のカルマを生み出し続ける」

 アテルが言葉を並べるほどに、奴の文字の力が洗練されていく!

「僕の祖父、ケンシが守り続けた教えを、人の在り方を捻じ曲げ、強要したこの世界を、僕は許さない!」

 ――文字の光が弾け、俺に力を与えていた奔流ごと吹き飛ばされる!!

「ご主人様!!」
「動くな!」

 トゥスカ達に、アテルの仲間が武器を突き付けている。

 意識が……遠退いて……――


 ――山を登っていた。

 一年に二回、父親の実家に顔を出し、その度に僕は、お爺ちゃんと一緒に裏山を登った。

 その時間が好きだった。

 ふと足を止めると、草や木が生い茂る中になにかを感じる。

 目に見えている物とは違う、別のなにか。

「なにかを感じているのか、ユウダイ」
「……うん」

 学校や幼稚園で遠足に行った時も、同じ感覚に陥った。

 僕以外の誰も、なにも気付いていないように振る舞う。

 ゲームやアニメの話し、人の悪口や悪戯をしながら時間を潰している。

 周りの子供達も、引率の先生ですら、歪だと思えた。

 今僕の目の前に、本物の人間は居ない。

 人間という分類で、管理されている家畜。

 あの頃は言葉に出来ずとも、漠然と感じ取っていた。

 親も、兄弟も、同級生も、先生も……お爺ちゃんですら……人間じゃない。

「お前のひいお爺ちゃんは、山で暮らしていた。私も、物心ついた頃は山で生活していたが……第二次世界大戦でこの国が負けた後、日本は戸籍制度を取り入れたことで私達ケンシ……奴等はサンカと呼ぶが……定住せず山を渡り歩いていた私達の生き方は、許されない物となった」

 お爺ちゃんから、生まれて初めて憎悪の感情を感じた。

「漠然とだが分かる。お前は、私が失った感覚を、まだ持っている」

 お爺ちゃんが近付いてきて、屈み、見詰めてくる。

「これは勝手で、残酷なお願いだ。ユウダイ……その感覚を、忘れないで欲しい」

 お爺ちゃんの手は震え、瞳は濡れていた。

「お前の父親はダメだった。私が妻に迎えた、女の血のせいかもしれん」

「お婆ちゃんの悪口、言っちゃダメだよ」

 父親はどうでも良かった。お爺ちゃんの言っている意味が、感覚で理解出来たから。

 でも、お婆ちゃんは……とってもあったかい人だ。

 それが、お父さんをダメにした原因だったとしても。

「……そうだな、お前が正しい。だが勘違いするなよ。お爺ちゃんはお婆ちゃんの事、大大大大好きだからな…………誰にも言うなよ」

「分かった。お婆ちゃんにだけ教える」
「わかっとらんじゃないか!」

 僕の感覚を肯定してくれたのは、お爺ちゃんだけだった。

 でも、約束は守れなかった。

 周りと違う物を見続けていたら、このままじゃ僕は死ぬって……中学に入ってすぐに悟ってしまったから。

 それから、普通の感覚っていうのを必死に学んだ。

 人はなぜ、人を傷つけるのか。殺すのか、奪うのか、優しくするのか、幸福だと思うのか、笑うのか、泣くのか、怒るのか、憎むのか。

 答えを見付けたときには、僕はあの感覚を失っていた。

 思い出としては残っていても……ありとあらゆる物がくだらないと思えてしまったから。


 生まれ落ちる前から、世界は明るくて、とても綺麗だって信じていたのに!!


 この世に異常じゃない人間がいないって事を、どいつもこいつもくだらない論理で隠して、騙そうとするからwjg3vsd3ぐぁh3いh3mzg3jvをy3うh3jざwh3うrcじf――――!!!!



「ぐあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」



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