ダンジョン・ザ・チョイス

魔神スピリット

124.ノーザンの焦り

「“二重武術”、ハイパワーブーメラン!!」

 トゥスカお姉様の二つのブーメランが、広い部屋の隅のネズミを左右から切り刻む!

「“魔力砲”!!」

 更に真ん中に居たネズミを、桃色の閃光によって一網打尽。

 部屋に出て十秒程で、ネズミ千匹以上を葬ったお姉様……凄い!

「一本道か。行きましょう」

 入り口の向こう側、少し右側に穴があった。

「待て、来るぞ!」

 ルイーサが叫ぶと、地鳴りが聞こえてくる!

「「「チチチチューーーッッッ!!!」」」

 ネズミ達が向こう側から雪崩れ込んで来た!!

「トゥスカは休んでいろ! シールドバッシュ!!」

 妙に殺気立って突っ込んできたネズミの先方を、ルイーサが白石の盾を翳して弾き飛ばす!

「援護する! “大地槌術”、グランドインパクト!!」

 “大地の大鎚”を握り、広範囲に衝撃波を発生させ、突っ込んできたネズミをぶちのめす!

「やっぱり、鎚の方が合ってる」

 数が多いことから、斬撃武器よりも打撃武器の方が捌くのに有効だと考えていた。
 ネズミ一匹一匹の能力も低いし、Bランクの“大地の大鎚”でも、スキル無しで充分通用している!

「はああああああッ!!」

 力任せに振るい、ネズミ共を撲殺していく。

「回り込んできたぞ!」

 ルイーサは盾と、その盾から抜いた剣で応戦。

 器用に使いこなし、上手く捌いている。

「どんどん数が増えてますね。それに、今まで以上に攻撃して来る!」

 今までなら、半数くらいは僕達を無視してどこかに消えていたのに、どの個体も積極的に仕掛けてくる!

 あっという間に囲まれ、三人で背を預け合う状態に。

「出し惜しみしている場合じゃないな!」

 ルイーサが背負っていた美しい大剣を抜き――青い燐光を迸らせた!?

「うそ……」

 ルイーサも、神代文字を刻めるなんて!

 ぼ、僕は、叔父さんにいくら訓練してもらっても出来なかったのに!

「そうですね!」

 トゥスカお姉様まで、武器に文字を刻んだ!

「「はあああああッッ!!」」

 二人が武器を振るうたび、その一撃の余波だけで数体のネズミを狩っていく!

「だったら……僕も!」

 “極寒の忍耐魂”を装備し、鎚と斧で応戦。

「く!!」

 ダメだ! 文字を刻めないどころか、隙が出来て、むしろ戦いづらくなってる。



「――己は個であり、全である。全は個の集まりであり、全は己である。他と共感せよ、ノーザン。だが、それで尚、己を保つのだ」



 叔父さんに、言われた言葉を思い出す。

「……年が近く、同性の者がいれば、おのずと引っ張ってもらえたのだろうが…………」

 続けられた叔父さんの言葉に導かれるよう、周りを見る。

 ルイーサとトゥスカお姉様はどこか通じ合っているかのように、互いをカバーするように武器を振るっていた。


 二人を結ぶなにか――――コセ様!!


「うっ!!」

 コセ様の姿を幻視した瞬間、青い奔流を感じた!!

 悪意でも、善意でもない。

 虚無にも似た、残酷とも取れる真理の感覚が頭に流れ込んで、己が無意識に虚飾していた世界が押し流されていくよう!!


 ――自分の、僕の世界が壊れていく!!


 なにも信じられない! なににも縋れない!

 ――神は、真の己と向き合わない者に、こうまで残酷なのかッ!!!


「ああああああああああああッッッ!!!」


 戻れ! 戻れ戻れ戻れ戻れ戻れ戻れ戻れ戻れ戻れ戻れ戻れ戻れ戻れ戻れ!!!

 僕が、私を俺で無くしてしまうkふu3hc3ws!!

「ノーザン!!」
「気をしっかり持て、ノーザン!!」

「あぁ……ぁ」

 syf3……二人の叫びに、自分の名前を思い出す。

 これが……龍の民が持っていた、神々と同調する能力…………全能の力の一端。

 それにほんの少し触れただけで、自己が崩壊しそうになった。

「ハアハア、ハアハア」

 ありとあらゆる意思が否定されたような感覚。
 神に同調するというのが、こんなにも虚しい事だなんて。

 僕の斧は……弱々しくも燐光を振り撒いている。
 一文字すら、完全には刻めていない。

 目の前の二人は……どうして自分を保っていられるのだろう?

「ノーザン。ご主人様への想いを、己の柱とするのです!」
「そうだな。アイツの存在を見失うと、私も気がおかしくなりそうだ」

 ルイーサの状態、トゥスカお姉様よりも不安定だ。

 二人が必死に戦っているのに、文字なんかにこだわってる場合じゃない!

「お二人は、僕が守る!!」

 いつの間にか着いていた膝を上げ、両手の武器を強く握り締めた時――力が湧き上がった!!

 あの奔流が押し寄せるも、先程まであった恐ろしさは大分収まっている。

 とても静かで、脆く、強靭な、移ろう神秘の感覚。

 気付けば、“極寒の忍耐魂”に青い燐光の文字が三つ刻まれている。

「ハッ!!」

 片手斧の一振りで、ネズミ六匹を両断。

 まるで、生まれ変わったような気分。

 龍の民だとか、使命だとか、もうどうでも良い。

「僕は、僕が守りたい物のために!!」

 身体が軽く、身体能力も強化されているらしく、斧と鎚、重さに振り回されることなく、両方を無駄なく操る事が出来る!

 生きているって感覚が、希薄になっていく!

 生と死が、限りなく擦り寄っていく!!


「“悽愴苛烈”!!」


 肉体への負担と引き換えに、力を増すスキルを発動!!

 お二人に迷惑を掛けた分を取り戻すため、ネズミ共を切り裂き、圧殺していく!!

 一撃でネズミ五、六匹が塵となり、光
に還る!


「おうぅぅりゃああああああああああああああああああああッッッッ!!!」


 ――自分の声すら、耳障りに思えてくる。

 どれだけそうしていたのか、いつの間にか数は減り、流れ込んでくるネズミの勢いも弱まっていた。

 ――その事に気付いた瞬間、全身の痛みを脳が認識してしまう!!

「ぐうぅッッッ!!!」
「「ノーザン!!」」

 こんなに長く“悽愴苛烈”を使用したのは、初めてだ。

 今までなら、耐えられずにもっと早く解除していたはずなのに!

「ハアハア、ぐッ!!」

 ダメだ。身体全体が軋みを上げて……動けない。

 生と死の希薄が、肉体への負担を鈍感にしていたのか。

「見ろ! 赤い奴だ!!」

 ルイーサの言うとおり、ネズミが入ってくる穴から、他のより二回りは大きい赤いネズミが出て来た。
 
『キキェェェェッッッ!!』

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