ダンジョン・ザ・チョイス

魔神スピリット

122.分断

「ハアハア、ハアハア、“激情の法則”!!」

 ネズミ狩りを続けたおかげで、私のLvは30を超え、スキル“激情の法則”を修得。

 MPが尽き掛けたのを利用し、“激情の法則”を発動。

 数百匹のネズミを絶命させた。

「凄い……いつの間にかネズミの数が減ってるわよ、ジュリー!」

 追い詰められた私達は、ネズミの数と町の耐久率が分かるという装置の前に集まり、ネズミを撃退していたのだが、装置を見たユリカが私に教えてきた。

 戦闘が始まって、もうすぐ四時間。

 数が数だから、どれだけ減らせたのか。

「五十三兆から、五十兆まで減ってる!」


 ……び、微妙。

 全体から見れば、少な過ぎる。

 後三時間もしないうちに、今残っているネズミは倍に増えてしまう。

 私達が苦労して倒したネズミが、減るどころか大幅に増加してしまうことになる。

「ザッカルというあの女……凄いな」

 こんな景色を何度も見ながら、たった一人で戦い続けてきたのか。

 あの装置に刻まれた、この町の耐久率が減っていくのを目にしながら。

 町の耐久率は、現在二十三パーセント。

 この耐久率がゼロになった瞬間、この町は崩壊し、町にいる人間は皆死ぬという。

「……あれ、耐久率が五パーセントも減ってる?」

 ネズミが現れる前は、二十八パーセントはあったはずなのに。

 魔法で結構破壊してるから、そのせいだったりする?

「ジュリー! 私、暴れたい!」

 モモカが左手に、可愛くない鉤爪、“ドラゴンキラー”を装備してしまう!


「“竜化”!」


 モモカの姿が、以前見た巨大な竜人と同じ姿に!?

 でも、背はほとんど変わらないから……なんか可愛い!

『行くよ、サタちゃん!!』

 Lvが上がったからか、身体が変化してきたサタンドラゴンこと、サタちゃんの背に乗るモモカ。

『“竜爪術”、ドラゴンスラッシャー!!』

 黄金の斬撃を放ちながら、ネズミの群れの中に突っ込む!?

 サタちゃんが尻尾を振るうと、数十匹のネズミが跳ね上げられ、そこにモモカのドラゴンブレスが炸裂。

 “竜化”……レプティリアンなら最初から使えるというスキル。

 メルシュの話しだと、元々持っていた変身能力を、この世界に来てからスキルという扱いにされたのではないか、とのこと。

 ちなみに、クエストで入手した“竜爪”や“竜翼”のスキルは、ある条件を満たすと“竜化”に統合される事になっている。

 本来はとても強力なスキルであるため、今のタイミングで使えるのはゲームバランスの崩壊だ。

 オリジナルだったらの話しだけれど。

「モモカちゃんが頑張ってるのに、負けてられないわね!」

 サトミさんが飛び上がり、ネズミの群れの中に降り立つ!?

「“暴虐の風”!!」

 その腕の装身具から緑の風が吹き荒れ、サトミさんを中心に、広範囲のネズミ達が削り潰れるように圧殺されていった。

「目に見えるネズミくらい、全部始末してやる! “竜光砲”!!」
「私だって! “二重魔法”、インフェルノ!!」

 メグミさんとユリカも、己を奮起させる!

「お姉ちゃん、頑張れ」
「いや、私すごく頑張ってるでしょうが!」

 アオイはサキと同じ方法で柱を投げ、ネズミを圧殺。

 アヤナは、“レッドストーンのテクニカルロッド”の効果で巨大棍棒の重さを無視し、ネズミを次々と撲殺していた。

「まずいです! 町の上のネズミ達が、引き返し始めました!!」

 タマの声に視線を向けると、石階段を通って降り始めているネズミが数え切れない量!

「タマ! 私と一緒に来て!! 階段前で迎え撃つ!」
「はい、ジュリー様!」

 MPは残って無いから、TPを中心に戦わないと!


●●●


 ユイ達と別れ、走りながら迎撃して進んでいると、また広い空間に出た。

 道は左右に別れている。

「メルシュ」
「んんー、こっち!」

 メルシュが道を指し示した瞬間、奥の壁が弾け――そこからネズミ共が流れ込んできた!?

 俺が左に向かって跳ぶと、ネズミ達は部屋を横断して俺達が通ってきた道へと雪崩れ込む!

「まずい、このままじゃユイ達が!」
「おい! トゥスカとノーザン、ルイーサが居ねーぞ!」
「なに!?」

 俺とザッカル、メルシュしか居ない!

「分断されたか!」

 天井は低く、ネズミの奔流によって塞がれている。

「マスター、最深部はまだまだ先だし、力は温存しないと! トゥスカ達と合流しようにも、時間が無い!」

 零時までに雄を始末出来なければ、スタンピードラットの数は百兆を超えてしまう!

「クソ!」

 三人で、先へと進むことにした。


●●●


「すみません、トゥスカお姉様」

 僕が部屋の右側に居たばかりに、お姉様はトロい僕と一緒に右側に跳んだ。

 そのせいで、コセ様達と分断されてしまった。

 ……ルイーサも居るから、一概に僕のせいとは言えないのか。

「むしろ、好都合かも」
「へ?」

 どういう事?

「スタンピードラットの雄が最深部に居るって言うのは、メルシュの予想に過ぎない。もしかしたら、意外な場所に潜んでるかもしれない」

「別れて探した方が、見付けられるかもという事ですか」
「一理あるな」

 さすがお姉様。

「離れて行動するの、ご主人様は許さなかったでしょうし、私達はご主人様達とは別の方向へ行きましょう」

 やはり、龍の民であらせられるコセ様に深く愛されているお方。柔軟な逞しさをお持ちだ!

「そうと決まれば、行くわよ、ノーザン! ルイーサ!」
「どこまでも付いていきます、トゥスカお姉様!!」
「時間も無い。行こう!」

 こうして、僕達は右側の通路へと進む事になった。

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