ダンジョン・ザ・チョイス
92.魔神・瞬馬
玄関を締めた後、俺は動けずにいた。
……このままで良いのだろうか。
あの時のナオの顔……気になる。
「……もう一度話そう」
また、傷付けてしまうだけかもしれない……けれど。
もう一度外に出て、ナオが向かった方向に向かう。
「居ない?」
神秘の屋敷の庭は外壁で囲まれており、その外側にはなにもなく、出ることは出来ない。
庭は広くないし、見落とすはずがないのに、見付からないまま館を一周してしまった。
「……屋敷の中かな?」
俺が一週している間に、中に入ったのだろうか?
「コセ様、ナオさんを知りませんか?」
ノーザンが、玄関の木製ドアを開けて聞いてきた。
「いや、俺も探してた所だ」
「部屋にも居ないようで……どこに行ったのでしょうか?」
足早にお風呂の方へと向かうノーザン。
――急に、嫌な予感がしてきた!
「まさか!」
急いで門扉を潜り、メルシュと合流した安全エリアへ!
「居ない……まさか、もうポータルの向こうに……」
ポータルの先はボス部屋。
「万が一勘違いでも、ボスさえ倒してしまえば”神秘の館”には戻れる」
”滅剣ハルマゲドン”を使えば、一発で終わり。
俺はポータルへと急いだ。
●●●
「魔神・瞬馬に弱点属性は無いよ」
「お金払ったのに……ただの詐欺じゃない」
この灰色に光っている妖精、頭に来るわね。
「ハー……さっさと行こう」
扉に触れると、少しずつ開いていく。
「……独りでボスに挑むのは、これが初めてだっけ」
メルシュから今回のボスの事、なんにも聞いてないんだよな~。
「勝てるかなー」
ここで、死んじゃうかもしれないわね。
「別にいっか。もう……私に家族なんて居ないし」
この世界で死んでも、お父さんに会えるのかな?
「ナオ!!」
怒気を孕んだ、叱るような声。
コセの声に驚きながらも、すぐにボス部屋の中に入り、振り返る。
これでもう、コセ達とは本当にお別れ。
「このバカ女!」
なんだか、お父さんに怒られている気分。
「この数日間、結構楽しかったわよ。じゃあね! ノーザンの事、任せたわよ!」
出来るだけ明るく、別れを告げた。
「ふざけるな!」
コセが駆けてくる……無駄なのに。
ボス部屋に入ってしまった以上、もう手遅れ。
扉がどんどん閉まっていく。
「ノーザンって結構人見知りだから、ちゃんと見てあげんのよ!」
「うるさい!」
無駄なのに、跳躍して私の頭上から門の内側に入ろうとするコセ。
「……へ?」
「いってー」
コセが……ボス部屋に飛び込んで来た!!?
「なんで……入ってこれたわけ?」
「パーティー組んだままなんだから、当たり前だろう」
「あ」
しまった、抜けるの忘れてた!
「時間が無いから、すぐに答えろ!」
「へ!?」
正面から、コセに両肩を掴まれた!
男の人に、ガッチリ肩を掴まれた♡
――同時に、部屋の奥の方で暗い光が灯る。ボスが動き出す前触れ!
「ちょ、なにしてんの!? こんな事してる場合じゃ!」
「俺のこと、好きか?」
――なんで、こんなタイミングで!!
こんな不意打ちで!
「……言わせないでよ」
「俺には最愛の人が居る」
心臓が締め付けられる。
破裂しそうなくらい、鼓動がうるさい。
「トゥスカの事……よね?」
「ああ、そうだ。それを理解した上でハッキリ言ってくれなきゃ、俺だって……覚悟を決められない」
こういう所。考えが硬すぎるって思えるような……不器用な感じ。
そういう所が……お父さんに似ている。
「好き……コセが好き」
淡かった想いが、言葉にしたことで形を成していく。
思いの在り方が、一瞬で強固になる!
「ナオだけの男には、なれないんだぞ?」
コセの、男らしい真剣な眼差し。
「それでも……私は!」
『ブルルルルルルッ!!』
馬の頭持つ灰色の巨大人馬が、ランス片手に動き出す。
「……今良いところなんだから、邪魔しないでよ! ”氷炎魔法”、アイスフレイムカノン!!」
脚を凍らせて、動きを止める!
「頼りたくなかったけれど、”滅剣ハルマゲドン”ですぐに…………あ」
「どうしたの?」
間抜けな表情で固まるコセ。
「……トゥスカに貸したままだった」
「……よく分からないけれど、アンタがドジだって言うのは分かったわ」
「ナオには言われたくない」
「なんですって!」
コイツ! ……フフフ。悪くないわね、こういうやりとりも。
などと話している間に、魔神・瞬馬が氷から抜け出してきた。
「能力が分からないボスとの戦闘か……久し振りだな! 装備セット1に変更!」
コセが微かに笑いながら、二刀流で前へと駆ける。
私の彼氏の後ろ姿……格好いい♡
●●●
これまで、二度のボス戦を”滅剣ハルマゲドン”で勝利してきたため、純粋にボスと戦うのは久しぶりだ。
ハルマゲドンの”終末の一撃”は強力だが、すぐにぶつけて倒せていたのには、メルシュからボスの行動パターンの情報があった事や彼女自身が隙を作ってくれたりしていたため。
なんだかんだで、結構頼ってるよな。
「ッ!! 早い!」
魔神が、一瞬で距離を詰めてきた!
どうやらコイツは、”瞬足”かそれに類似した能力が使えるようだ。
「クロスブレイク!!」
鈍色のランスによる薙ぎ払いに、”二刀流剣術”をぶつける!
「ぐう!」
槍を弾くも、後退させられた。
「アイスフレイムカノン!」
ナオの援護。
だけれど、素早く気付いた魔神は、また高速移動をして躱してしまう。
「あの高速移動が厄介だな」
四本脚というのも、地味に戦いづらい。
「”黒精霊”。”煉獄魔法”、インフェルノ」
黒銀の剣に、紫炎を纏わせる。
「頼むから、暴走するなよ」
意識を研ぎ澄ませ、自個を全に浸透させる。
自然とTPが剣に流れ込み、”強者のグレートソード”に神代文字を三つ刻む!
「”古代竜魔法”、エンシェントフィジカル」
身体能力を底上げする、古代属性の強化魔法。
ある程度ダメージを負うと、ボスは危険攻撃を使ってくる。
だから、一気に倒す!
「”瞬足”!」
魔神が攻撃してきたため、カウンターを狙う!
「”二刀流剣術”、クロススラッシャー!!」
紫炎と青い光が交じり合い、強力なX字の斬撃を発生させ、魔神にぶつける!
『ブルルルルルルルルルルルッ!!』
――石のような鎧の身体が、もの凄い勢いでバラバラに崩れていった。
「……結構、呆気なかったな」
●●●
「ご主人様がどこにも居ません!」
「ナオさんもです!」
「こっちにも居ない!」
探しても呼んでも見付からないなんて、おかしい!
「まさか……二人でボス戦に挑んでる?」
屋敷のメインコンソールの前に八人全員が集まる中、メルシュがそう口にする。
「なんのためにです?」
「さあ? 思いつきで言っただけだし……」
タマはメルシュの今の発言に懐疑的なようだけれど、私はなんとなく「あり得そうだな」と思えた。
「だとしたら、ちょっとまずいかもしれない」
「どういう事ですか、ジュリー?」
私の問いに、困った顔を浮かべる金髪美女。
「第五ステージのボスである魔神・瞬馬は、下手をすると第六ステージや第七ステージのボスよりも厄介なんだ」
――そう言えば、ご主人様に”滅剣ハルマゲドン”を返していない!!
あれ? 本当にボスに挑んでいるとしたら、かなり危なくないですか?
「あの能力についての情報が無い場合、どちらかは死んでしまうかもしれない」
メルシュの言葉に、不吉な予感が強くなる!!
「すぐに追い掛けましょう!」
「無駄だよ。もしボスに挑んでいた場合、追い付けても援護は出来ない」
ノーザンの提案を、一蹴するメルシュ。
「それよりも、行き違いにならないようにここで待っていよう。ボスを倒して第六ステージの村に入れば、ここに帰ってくるはずだから。
「コセが……家出したって事は無いわよね?」
シレイアさんの言葉に、一気に空気が冷えた!
「あの、やっぱり追い掛けた方が良いのでは?」
タマも不安そうだ。
「追い掛けるにしても、私達はボス戦の情報交換をしていない。まずは、昼食を食べながらメルシュとジュリーから話しを聞きましょう。その間に、ご主人様が戻ってくる可能性もあるのですし」
「そうですね、お姉様」
早く戻ってきてくださいね、ご主人様。
●●●
「思ったよりも楽に倒せたな」
コセが、剣を逆さに持って悠々と戻ってくる。
「お疲れ、コセ――」
――バラバラになった魔神・瞬馬の残骸が、一瞬にして二足歩行の姿で再生した!!
「コセ!!」
私の声にキョトンとした顔をしたコセの背に、魔神のランスが迫る!!
……このままで良いのだろうか。
あの時のナオの顔……気になる。
「……もう一度話そう」
また、傷付けてしまうだけかもしれない……けれど。
もう一度外に出て、ナオが向かった方向に向かう。
「居ない?」
神秘の屋敷の庭は外壁で囲まれており、その外側にはなにもなく、出ることは出来ない。
庭は広くないし、見落とすはずがないのに、見付からないまま館を一周してしまった。
「……屋敷の中かな?」
俺が一週している間に、中に入ったのだろうか?
「コセ様、ナオさんを知りませんか?」
ノーザンが、玄関の木製ドアを開けて聞いてきた。
「いや、俺も探してた所だ」
「部屋にも居ないようで……どこに行ったのでしょうか?」
足早にお風呂の方へと向かうノーザン。
――急に、嫌な予感がしてきた!
「まさか!」
急いで門扉を潜り、メルシュと合流した安全エリアへ!
「居ない……まさか、もうポータルの向こうに……」
ポータルの先はボス部屋。
「万が一勘違いでも、ボスさえ倒してしまえば”神秘の館”には戻れる」
”滅剣ハルマゲドン”を使えば、一発で終わり。
俺はポータルへと急いだ。
●●●
「魔神・瞬馬に弱点属性は無いよ」
「お金払ったのに……ただの詐欺じゃない」
この灰色に光っている妖精、頭に来るわね。
「ハー……さっさと行こう」
扉に触れると、少しずつ開いていく。
「……独りでボスに挑むのは、これが初めてだっけ」
メルシュから今回のボスの事、なんにも聞いてないんだよな~。
「勝てるかなー」
ここで、死んじゃうかもしれないわね。
「別にいっか。もう……私に家族なんて居ないし」
この世界で死んでも、お父さんに会えるのかな?
「ナオ!!」
怒気を孕んだ、叱るような声。
コセの声に驚きながらも、すぐにボス部屋の中に入り、振り返る。
これでもう、コセ達とは本当にお別れ。
「このバカ女!」
なんだか、お父さんに怒られている気分。
「この数日間、結構楽しかったわよ。じゃあね! ノーザンの事、任せたわよ!」
出来るだけ明るく、別れを告げた。
「ふざけるな!」
コセが駆けてくる……無駄なのに。
ボス部屋に入ってしまった以上、もう手遅れ。
扉がどんどん閉まっていく。
「ノーザンって結構人見知りだから、ちゃんと見てあげんのよ!」
「うるさい!」
無駄なのに、跳躍して私の頭上から門の内側に入ろうとするコセ。
「……へ?」
「いってー」
コセが……ボス部屋に飛び込んで来た!!?
「なんで……入ってこれたわけ?」
「パーティー組んだままなんだから、当たり前だろう」
「あ」
しまった、抜けるの忘れてた!
「時間が無いから、すぐに答えろ!」
「へ!?」
正面から、コセに両肩を掴まれた!
男の人に、ガッチリ肩を掴まれた♡
――同時に、部屋の奥の方で暗い光が灯る。ボスが動き出す前触れ!
「ちょ、なにしてんの!? こんな事してる場合じゃ!」
「俺のこと、好きか?」
――なんで、こんなタイミングで!!
こんな不意打ちで!
「……言わせないでよ」
「俺には最愛の人が居る」
心臓が締め付けられる。
破裂しそうなくらい、鼓動がうるさい。
「トゥスカの事……よね?」
「ああ、そうだ。それを理解した上でハッキリ言ってくれなきゃ、俺だって……覚悟を決められない」
こういう所。考えが硬すぎるって思えるような……不器用な感じ。
そういう所が……お父さんに似ている。
「好き……コセが好き」
淡かった想いが、言葉にしたことで形を成していく。
思いの在り方が、一瞬で強固になる!
「ナオだけの男には、なれないんだぞ?」
コセの、男らしい真剣な眼差し。
「それでも……私は!」
『ブルルルルルルッ!!』
馬の頭持つ灰色の巨大人馬が、ランス片手に動き出す。
「……今良いところなんだから、邪魔しないでよ! ”氷炎魔法”、アイスフレイムカノン!!」
脚を凍らせて、動きを止める!
「頼りたくなかったけれど、”滅剣ハルマゲドン”ですぐに…………あ」
「どうしたの?」
間抜けな表情で固まるコセ。
「……トゥスカに貸したままだった」
「……よく分からないけれど、アンタがドジだって言うのは分かったわ」
「ナオには言われたくない」
「なんですって!」
コイツ! ……フフフ。悪くないわね、こういうやりとりも。
などと話している間に、魔神・瞬馬が氷から抜け出してきた。
「能力が分からないボスとの戦闘か……久し振りだな! 装備セット1に変更!」
コセが微かに笑いながら、二刀流で前へと駆ける。
私の彼氏の後ろ姿……格好いい♡
●●●
これまで、二度のボス戦を”滅剣ハルマゲドン”で勝利してきたため、純粋にボスと戦うのは久しぶりだ。
ハルマゲドンの”終末の一撃”は強力だが、すぐにぶつけて倒せていたのには、メルシュからボスの行動パターンの情報があった事や彼女自身が隙を作ってくれたりしていたため。
なんだかんだで、結構頼ってるよな。
「ッ!! 早い!」
魔神が、一瞬で距離を詰めてきた!
どうやらコイツは、”瞬足”かそれに類似した能力が使えるようだ。
「クロスブレイク!!」
鈍色のランスによる薙ぎ払いに、”二刀流剣術”をぶつける!
「ぐう!」
槍を弾くも、後退させられた。
「アイスフレイムカノン!」
ナオの援護。
だけれど、素早く気付いた魔神は、また高速移動をして躱してしまう。
「あの高速移動が厄介だな」
四本脚というのも、地味に戦いづらい。
「”黒精霊”。”煉獄魔法”、インフェルノ」
黒銀の剣に、紫炎を纏わせる。
「頼むから、暴走するなよ」
意識を研ぎ澄ませ、自個を全に浸透させる。
自然とTPが剣に流れ込み、”強者のグレートソード”に神代文字を三つ刻む!
「”古代竜魔法”、エンシェントフィジカル」
身体能力を底上げする、古代属性の強化魔法。
ある程度ダメージを負うと、ボスは危険攻撃を使ってくる。
だから、一気に倒す!
「”瞬足”!」
魔神が攻撃してきたため、カウンターを狙う!
「”二刀流剣術”、クロススラッシャー!!」
紫炎と青い光が交じり合い、強力なX字の斬撃を発生させ、魔神にぶつける!
『ブルルルルルルルルルルルッ!!』
――石のような鎧の身体が、もの凄い勢いでバラバラに崩れていった。
「……結構、呆気なかったな」
●●●
「ご主人様がどこにも居ません!」
「ナオさんもです!」
「こっちにも居ない!」
探しても呼んでも見付からないなんて、おかしい!
「まさか……二人でボス戦に挑んでる?」
屋敷のメインコンソールの前に八人全員が集まる中、メルシュがそう口にする。
「なんのためにです?」
「さあ? 思いつきで言っただけだし……」
タマはメルシュの今の発言に懐疑的なようだけれど、私はなんとなく「あり得そうだな」と思えた。
「だとしたら、ちょっとまずいかもしれない」
「どういう事ですか、ジュリー?」
私の問いに、困った顔を浮かべる金髪美女。
「第五ステージのボスである魔神・瞬馬は、下手をすると第六ステージや第七ステージのボスよりも厄介なんだ」
――そう言えば、ご主人様に”滅剣ハルマゲドン”を返していない!!
あれ? 本当にボスに挑んでいるとしたら、かなり危なくないですか?
「あの能力についての情報が無い場合、どちらかは死んでしまうかもしれない」
メルシュの言葉に、不吉な予感が強くなる!!
「すぐに追い掛けましょう!」
「無駄だよ。もしボスに挑んでいた場合、追い付けても援護は出来ない」
ノーザンの提案を、一蹴するメルシュ。
「それよりも、行き違いにならないようにここで待っていよう。ボスを倒して第六ステージの村に入れば、ここに帰ってくるはずだから。
「コセが……家出したって事は無いわよね?」
シレイアさんの言葉に、一気に空気が冷えた!
「あの、やっぱり追い掛けた方が良いのでは?」
タマも不安そうだ。
「追い掛けるにしても、私達はボス戦の情報交換をしていない。まずは、昼食を食べながらメルシュとジュリーから話しを聞きましょう。その間に、ご主人様が戻ってくる可能性もあるのですし」
「そうですね、お姉様」
早く戻ってきてくださいね、ご主人様。
●●●
「思ったよりも楽に倒せたな」
コセが、剣を逆さに持って悠々と戻ってくる。
「お疲れ、コセ――」
――バラバラになった魔神・瞬馬の残骸が、一瞬にして二足歩行の姿で再生した!!
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