ダンジョン・ザ・チョイス

魔神スピリット

90.拳の在りか

「誰……か3はtz3いjdr3rwc」

 コセが、まるで幽鬼のようにこちらへとフラフラ歩いてくる。

 ゴーレムは全て倒したのか、コセの背後から新しいのが現れる気配は無い。

「ちょ、なんか……様子おかしくない?」
「まずいです! 早くコセ様を正気に戻さないと! ナオさん、僕がなんとかするから、その間ゴーレムを足止めしてください!」

「いや、無理! 今ノーザンが戦っているの、アイスゴーレムだし!」

 白金石のゴーレムの後、氷のゴーレムが次々と湧き出していた。

 アイスゴーレムに氷属性による足止めは効かないと、メルシュから聞いてたからよく覚えてる。

「じゃあ、ナオさんがコセ様を止めてくださいよ!」

「どうやって!?」

 今にも、剣を振り上げて襲い掛かってきそうなのに!!


「オッパイ揉ませるなり、接吻するなりすれば良いんですよ!!」


「ノーザン!? アンタなに言ってんの!!?」

「三大欲求の一つである性欲が、一番突発的に湧き上がりやすいんです!」
「そんな状態異常の回復の仕方、あってたまるかーーッ!!」

 どんなクソゲーよ!!

「ナオさん! 情けない事言ってないで早く!! コセ様が廃人になってしまいます!」

 なにそれ、私が悪いわけ?

「だって……女の子に顔パンしてくるような……それも年下となんて……」

 私は……年上の方が好みなのに!

「ああ、もう!! 湖に落ちたくらいでパニックになって、助けに行ったコセ様まで危険に晒したくせに、年上面するな!!」


 の、ノーザンにキレられた!?


「……良いわよ、分かったわよ!! やってやろうじゃないの!!」

 足早にコセに近付いて、左手を掴む!

「ん3うxhあ?」
「アンタのせいで……この!」

 ――左手で胸を揉ませようとしたら、コイツ……手をグーにしてやがる!!

 わ、私のオッパイを揉めるチャンスなのに、グーパンして来るなんて!

「良いから、早く揉みなさいよ!」

 って!! これじゃあ、私が痴女みたいじゃないの!

「コイツ! 一向に手をパーにしやがらねー!!」

 どれだけ硬く拳を握り締めてるんだよ!!

 そんなに私のオッパイ、揉みたくないってか!!

「年上の女に、恥をかかせるなんて!」

 さっきから、拳で胸をフニョフニョしている状況に!

「ナオさん、キッスです! さっさとキッスしてください!」

 そ、そんな、簡単に言うなーーーッ!!

「わ、私、これがファーストキスになっちゃうから! だ、だから……キスだけは……」

「コセ様とキス出来るなんて、最高の栄誉でしょうが! ナオさんの羞恥なんてどうでも良いから、さっさと舌を口内に捻じ込んで舐め回してくださいよ!」

 唇くっ付けるだけでも嫌なのに、ベロチューしろと!? 更に舐め回せとか、ハードルたっけーなー、オイ!!

「で、でも……」
「命の恩人に対して、恩を返そうとは思わないんですか!」

 確かに助けて貰ったけれど……顔殴られて、鼻血出すはめになったし!!

 まだ痛くて、ちょっとイライラしてるくらいなのに!

「もう……どうにでもなれよ!」

 意を決して、口付けを交わそうと首に手を回し、顔を近付けた時だった。

「ぐ……こ、こいちゅぐぐぐぐぐぐぐぐぐッ!!」

 わざわざ剣を手放して、右手で私の顔を掴んで……拒んでやがる!

「そ、そんりゃに……わ、わたひとキヒュひゅるのら、い、いやだっれ言うのぅぅぅぅっ!?」

 これでも私、高校のミスコン二位なのよぉぅ!?

「いだ! いだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだ!!」

 力強いーーー!! 私とキスするの、どんだけ嫌なのよ!! 泣くよ、私!!

「ふっぅっっっりゃけんっにゃーーーーーーーーッ!!!」

 ”強拳”スキルが発動した状態で――コセの顔を思いっ切りぶん殴ったぁぁぁぁぁッッッ!! オラーーーーーッッッ!!

 派手にぶっ飛ぶコセ。


「…………コセ様ーーーーーーーーーッッッッ!!!?」


 ノーザンの絶叫が、サイッコウに心地良いわ!

「フン! 私の胸と唇を拒んだ罰よ! ……なに言ってるんだ、私?」


●●●


「ハイヒール」

 顔の痛みが、柔らかな温かさにより引いていく。

 頭がボーッとしていて、なにがなんだか分からない。

「……ナオ?」

 ナオが回復魔法を掛けてくれているようだ。

「ふ~ん、呼び捨てなんだ」

 そう言えば、内心ではずっと呼び捨てにしてたな。

 なんか冷たい?

「コセ様、大丈夫ですか?」
「ああ、うん」

 心配そうに尋ねてきたのはノーザン。

「呼び戻してくれてありがとうな、ノーザン」
「いえ、コセ様を助けたのはナオさんです」
「へ?」

 俺、今度はナオともキスしたのか!?

「……」
「なによ」
「……なんでもないです」

 凄い不機嫌そうなんだけれど、気のせい?

 まあ、好きでもない相手とするのは、大抵の人間は嫌だよな。俺もそうだし。

「起きたんならさっさと行くわよ! アンタが最初に言った事なんだからね!」

 元通りになっていた木の橋を、さっさと渡っていくナオ。

「はい……すみません…………ノーザン、俺はナオと――」

「コセ――早くしろ」

 もの凄く冷たい声音。

 くそ。ナオのくせに、怖くて逆らえない!


           ★


「マスター、遅かったね」
「……トゥスカは?」

 合流場所の安全地帯で待っていたのは……なぜかメルシュだけ!?
 まさか!! トゥスカの身になにか!?

「疲れみたいで、一足先に館で休んでるだけだよ……ハー、だからそんな顔しないで」
「ああ……ごめん」

 ……俺は、一体どんな顔をしていたのだろう?
 
「そっか……無事だったか。良かった」

 安堵すると同時に思う。

 トゥスカに対する俺の依存度が、明らかに高いと。

「この先にポータルがあって、その先はボス部屋だよ」

 坑道の奥に、緑色に発光する円が置いてある。

「ようやく、第五ステージのボスか」

 やたらと強敵と戦う事が多かったな、このステージ。

 おかげで、ノーザンとナオに迷惑を掛けてしまったようだ。

「コセ、さっさと館に帰りましょうよ」
「そうだな」

 ナオから機嫌が悪そうな気配が消えたのに安堵しつつ、俺はチョイスプレートから屋敷の鍵を取り出した。


            ★


「”パラディンストーンアーマー”に”テクニカルストーンアーマー”か……まあ、鎧は最初から使う者がいないから良いとして……」

 アーマーは、パラディンゴーレムとテクニカルゴーレムのドロップアイテム。

 色も見た目も、パラディンゴーレムが使っていた物にそっくり。
 テクニカルゴーレムの方は、見ていないからよく分からないけれど。

「こっちも、私達にとっては微妙だね」

 ”パラディンストーンの剣盾”に”レッドストーンのテクニカルロッド”。

 前者は戦士専用で、後者は魔法使い専用のクエストクリア報酬。

 ランダムに出現する、強力なゴーレムに関連した武具が手に入るようになっているらしい。

 どちらも癖のある装備で、俺達の戦闘スタイルに微妙に合わない。

「リジェクトゴーレムとは当たらなかったか。”拒絶の巨腕の指輪”なら、使える面子もいたのだけれど」

 仕方がないことなのに、メルシュに責められている気がする!

「ヘルレイドゴーレムからドロップしたサブ職業、”幽霊”は実質魔法使い専用だから、私が使わせて貰うね」

 魔法メインで戦うの、メルシュとナオくらいだからな。

 正式に仲間に迎えていないナオは、リビングで行われているアイテム分配には参加していない。

「”栄光の杖”はどうする? メルシュは武器を装備出来ないし、装備の質から言ってもナオが一番相応しいと思うんだけれどね?」

 シレイアの言葉はもっとも。

 杖だから魔法使い専用装備だし、ジュリーもユリカも純粋な魔法使いとは呼べない戦闘スタイルを確立しているようだからな。

 ナオも、拳を使った接近戦手段を用意してはいるみたいだけれど。

「じゃ、一時的にナオに貸し出すと言うことで良いかな?」

「構わない」
「良いわよ」

 ジュリーとユリカが受け入れたのち、見詰めてきたメルシュに無言で首肯した。


「じゃあ、女子だけで話し合いたい事があるから、マスターは出ていってね」


「へ?」

 メルシュの言葉に、突然崖から突き落とされたような気分になった。

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