ダンジョン・ザ・チョイス

魔神スピリット

78.氷の魔法使いナオ

「タマ、大丈夫?」
「……クタクタです」

 朝から昼過ぎまで、沖合でジャイアントフィッシュ狩りをさせられるなんて。

 大半はメルシュさんが倒していたけれど、全然疲れてなさそう。

「あれ、誰かがこっちに来ますよ?」

 一人は只人で、もう一人は牛の獣人?

「ハアハア、良かった! 見つかった!」
「ナオとノーザン……どうしたの?」

 メルシュさんの知り合いなんだ。

「お願い、私達を助けて!」


            ★


 ……ヤってしまった。

 何時間トゥスカと一つになっていたのだろう? 今、とても安らかな気分だ。

「マスター、話しがあるんだけれど」

 ノックの音の後、メルシュの声がした。

「なんだろう……嫌な予感がする」
「パーティーに入れて欲しいって子達が居るから、会ってあげて欲しいんだけれど。体調は大丈夫?」

「大分良くなったから大丈夫だけれど……一時間待って」

 取り敢えずシャワーを浴びてからじゃないと、人に会えるような状態じゃない。

 裸でベッドで眠るトゥスカを置いて、俺は風呂場に向かった。


             ★


 港の一角にある宿屋。

「お願い! 私達をパーティーに入れて!」

 部屋でテーブル越しに向かい合うと、ハキハキとした空色のショートカットの女性が、手を合わせて頭を下げた。

 格好はユリカと同じ、“深淵の魔道服“

「俺達は積極的に攻略を進めています。つまり、やる気のない人間には向きませんよ?」
「メルシュから聞いたわ。私は取り敢えず、サトミ達と再会するまでで良いから」

 サトミさんの知り合いか。

「そっちの子は?」

 離れた所で、ただ黙って突っ立っている背の低い少女に目を向ける。

 銀色の鎧を着た、頭の左右から上向きに角の生えている少女。

 失礼だけれど、背の割に出るところは出ている。

「あの子は、取り敢えず私と一緒に行動してるって感じかな。私もなんだけれど、リョウ達のパーティーに居るのが辛くて一緒に抜けたって感じだから」

「辛い?」

「私達以外、パーティーメンバーの女がリョウにぞっこんでさ。五人までしかパーティー組めないのもあって、居づらかったのよ。私らが抜ければ、ちょうど五人になるしさ」

 女同士の……か。よく分からないけれど。

「リョウ達もこの港に?」
「伝統の山村で別れてさっさと二人で進んで来たから、早くてもここに来るのは明日じゃないかしら」

 この二人が居ると、尚更リョウ達に会いたくないな。

「マスター、武器が出来るのは明後日の朝だよ」
「そうか……」

 どうするかなー。

「パーティーを三つに別けたいので、増えるのはむしろ好都合だよ」

 メルシュが、やんわりと賛成だと訴える。

「明日の午前のうちにメルシュの案内で準備を終え、午後に他のメンバーと顔合わせをする方向で良いでしょうか?」

 もう少し、ゆっくりしたかったけれどな。

「分かったわ」
「じゃあ、明日の八時に迎えに来るからね」

 そういって、俺達は二人の前から姿を消した。


           ★


「ナオとノーザンね」

 夜、夕食の時に皆に二人の事を話した。

「二人は始まりの町の突発クエストには参加していないから、正直大したスキルは持っていないよ。ナオの方は氷特化の魔法使い。ノーザンは牛獣人だから、パワー系の戦士って所かな。得物は、槌と斧を使い分けているみたい」

 メルシュから情報がもたらされる。

「二人をパーティーに加えるとして、どういう風に組み込むんだい?」

 ジュリーの疑問に、俺も頭を悩ます。

「第五ステージはルートが三つに分岐し、それぞれに手に入れておきたい物があるんだよね。そこで、マスターとジュリー、ユイをパーティーリーダーにし、全てのルートでアイテムを掻き集めようと思うの」

「となると、一番人数の少ないユイ達とその二人を組ませるの?」

「ううん、それだと危険すぎるんだよ。二人の装備、スキルは私達よりも遥かに劣っていて、Lvにいたってはどっちも21しかないし」

 ハッキリ言って、戦力外。

「だから、バランスを取るためにもかなり変則的なパーティー構成にすることを提案するんだよ」

 変則的なパーティー?

「まず、私とシレイアをトレードしよう!」


            ★


「……凄い」

 神秘の館を見て、呆けているナオ。

「入ってくれ」

 リビングに二人を案内する。

「紹介するよ。パーティーリーダーのジュリーとユイだ」
「ナオよ」
「……ノーザンです」

 他のメンバーも挨拶していく。

「明日、第五ステージの攻略に入るわけだが、俺達は三パーティーに別れる。ナオはユイのパーティー、ノーザンは俺のパーティーに入ってもらう」

 俺のパーティーの構成は、シレイア、ノーザン。

 ジュリーが、タマ、トゥスカと。

 ユイが、メルシュ、ユリカ、ナオとだ。

「へ? 私達別なの?」
「戦力的に、バランスを取っているからね」

 ナオをメルシュが落ち着かせる。

「親睦を深めるためにも、今日は泊まって行ってくれ。どうせ、ダンジョンに潜っている間はこの館を利用することになる」

 親睦を深めるとか、正直嫌だけれど。


●●●


 ……なんか、凄い事になっちゃったな。

 こんな大きな家があって、男一人に複数の女のパーティー。

 リョウ達とあんまり変わらないのに、皆の作り出す空気感が全然違う。

 リョウ達も、別に仲が悪いわけではない。

 ただ、四人全員がリョウ好き好きオーラ全開でキツかっただけ。

 そんなことを考えていたら、中々寝付けないでいた。

「……夜風にでも当たるか」

 そう言えば、一人で寝るの久し振りだったな。

 部屋を出て、エントランスに向かおうとした時だった。

「……なにしてんの?」

 数部屋離れたドアに聞き耳を立てている、寝間着姿のユイが。

「……ハーレム観察を」
「は?」

 リョウ達の恋人ごっこ感と違って、コセ達の関係ってもっと大人ってイメージを漠然と抱いていたけれど……ユイがこんな子だったなんて。

 ……明日の私のパーティーリーダー、コイツなんだけれど。

「あ! ん、ん♡ 今日のご主人様、ネチっこいです♡ あん!! 奥ばっかり♡!」

 今の……声は。

「今日もトゥスカさん……メルシュさんはいつ!」

 ……確かに、リョウ達より大人だったらしい。

 エントランスに出て、夜風に当たる。

「……うん、失敗したかもしれない」

 
●●●


「マスター」

 ダンジョン入り口前で、メルシュが完成した剣を渡してくれる。

「ありがとう、メルシュ」

 受け取った大剣は、銀細工が施された黒い刃を持ち、柄の上部分に拳大の宝玉が埋め込まれていた。

「それには、面白い効果があるんだよ」

 メルシュから使い方の説明を受けていると、全員がダンジョン前に集結。

 ……どことなく、今朝から俺を見るナオさんの目が冷たい気がするのだが。

「行くか」

 十人で、第五ステージの入り口である洞窟へと足を踏み入れる。

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