ダンジョン・ザ・チョイス

魔神スピリット

67.トライアングルシステム

「ジュリー達はまだか」

 別れ道が終わり、最初の安全地帯と同じ建物に到着したが、ジュリー達の姿は見当たらない。

「サトミ達も居ませんし、ホームに戻っているという事は無さそうですね」
「ボス部屋の前まで来たけれど、今日はここまでだな」

 夜にはまだ早いけれど、無理しない方が良いだろう。

「ホームって……マイホームの事ですよね? コセさん達六人は、そこで寝泊まりするんですか?」

 ユイが食い付いてきた。
 ……嫌な予感が。

「私も泊めてください!」
「いや、それは……」

 館でしか話せない会話を、迂闊に出来なくなってしまう。

「二十七期生に追い付かれたのを考えると、ここで寝泊まりするのは危険だしね」

 シレイアの指摘は理解できる。

 寝静まった頃に誰かが現れれば、なにをされるか分からない。

 俺個人としては、この海に囲まれた開放的な空間でトゥスカと熱い一夜を過ごしてみたいという気持ちもあるけれど。

 ……ちょっとシレイアに毒されてるな。

「二十七期生ってなんです?」
「異世界から召喚された人達の事だよ。大体半年に一回のペースで人をこの世界に呼び込むんだよ。その一回も最初の人達と最後の人達じゃ一ヶ月くらい違ったりするけどね」

 トゥスカの問いに、メルシュが答える。

「ユイは二十六期生なのか?」
「らしいです……よく分からないけれど……」

 半年に一回って事は、このゲームはもう十三、四年も続いているって事か。

 もしかして、サトミさん達もそうなのか?

 俺が始まりの村に辿り着いた時、プレーヤーらしき人間は居なかった。

 黒鬼に捕まって奴隷になっていたのを考えると、俺よりも大分前に辿り着いて居たはず。

「それで……どうでしょうか!」

 どうでしょうかと言われても。

「賭けはアタシの負けだったし、一晩私を好きにして良いからさ♡」

「この話は無しで」

 一気に悩むのが馬鹿らしくなった。

「なっ! も、もしかして……アンタ童貞なのかい?」
「それはありません! ほぼ毎晩可愛がって貰っていますから!」

 トゥスカさん、取り敢えず黙ろうか。

「その話し、詳しく!」

 ユイさん、そこに食い付かないで!

「……ああ、そういうことね!」

 シレイアが合点がいったという顔をする。
 なんかムカつくな!

「あれだろう、そっちのテクに自信が無いんだろう?」

 どうしてそうなった!

「それは無いよ」

 なんでそこでメルシュが否定すんの! なに、そっちの知識もあるの!?

「アンタが断言するなら、中々の床上手ってことかい。ヤルね~、いったい何人の女とヤッて磨いたんだい?」

 トゥスカだけだよ!

 そもそも、童貞捨ててから二週間くらいしか経ってねえよ!

「もしかして、そっちの師匠でもいんのかい?」


「お前、いい加減にしないと殺すぞ」


「おっと。結構マジで言ってるね、コレは。でも、嫌いじゃないよ♡」

「メルシュ、俺この女と一つ屋根の下は嫌だぞ?」
「我が分身ながら、恥ずかしいよ」

「「「分身?」」」
 
 メルシュの言葉に、俺とトゥスカとユイが驚く。

「言ってなかったね。私達隠れNPCは、トライアングルシステムから作り出された特殊な人格プログラム。言わば姉妹であり、分身のような存在」
「アタシらはトライアングルシステムと直結してるからね。元は一つであり、同一存在と言っても良い」

 何気に凄い話しが出て来たような。

 つまり、シレイアが有しているエロ知識をメルシュが持っていても全然不思議じゃ無いって事か。

「でもさ、アンタうちのマスターからアイテム受け取ったよね? 誠意を見せる必要はあるんじゃないかね? 人として」

 確かに、反骨戦士とギルマンのスキルカードを大量に受け取っている!

「ほ、他のメンバーと合流してから……決めさせてください」
「ダメだったら?」
「……こ、今晩だけなら」

 さすがに、招待しなかった事でユイになにかあったら申し訳ないし。
 今日一日だけは、シレイアによって確約されてしまった。

「あ、渦から出て来ましたよ。皆さん無事のようです」

 トゥスカの視線の先、遠くから手を振っているジュリー達七人の姿が見えた。


            ★


「というわけで、ユイ達を今晩だけ館に泊めることになりました」

 神秘の館にて、ジュリー達に伝える。

 まだ二人は招いていない。

「もう、ユイさんをうちのレギオンに誘っても良いのでは?」
「メルシュは気に入ったんだ?」
「うん、とてもね」

 ジュリーとメルシュが、二人だけで賛成の方向に話しを進めてしまう。

「ちゃんと全員の意見を聞こうな」
「私は良いですよ。彼女は良いメスです」
「私も、コセ様とジュリー様が賛成なら」
「私はよく分かんないから、問題が起きたら追い出すって約束してくれるなら良いわよ」

 トゥスカ賛成、タマ事実上の賛成、ユリカ条件付きで賛成。

 反対……俺だけじゃん。

 それに、俺もそこまで強く反対というわけでは無い。

 今後の事を考えれば、むしろ引き入れた方が良いとすら思っている。

「二人を受け入れるとなると、今度はサトミさん達も受け入れないわけにはいかないよな」
「だね」

 ハァー。

「明日、サトミさん達と分かれてから二人には話そう」

「それで、“青銀の鱗”は手に入った?」
「いや、出なかった」

 俺の言葉に、ジュリーが目を瞑る。

「次の隠れNPC、ギルマンも既に誰かが手に入れた後か」

 ギルマンのモンスターを、右の橋で百体倒すと手に入るはずだった“青銀の鱗”は、隠れNPC入手のためだけにあるアイテムだった。

 それが手に入らなかったのは、既に誰かがギルマンをパーティーに加えてしまっているからだろう。

「隠れNPCはまだまだ居ますし、気にしても仕方ないよ♪」

「だな」

 隠れNPCは強力な分制約も多いようだし、今回がダメだったからと言って落ち込む必要は無い。


●●●


「良いわね、マイホーム暮らしって♪」
 
 サトミが皿に盛り付けしながら、ニコやかに呟いた。

「トゥスカちゃんが羨ましいわ♪ こんな素敵な家で、旦那様と新婚生活が出来るだなんて」

 本当に羨ましがっているのか、よく分からない態度。

「ジュリー達から色々教えて貰ったけれど、出来れば今後とも情報交換はしていきたいわね」

 なんだか、この人と居るの気まずい。

「料理、お上手なんですね」

 私じゃ作れなさそうな上品な料理がズラリ。

「私、こう見えて良い奥さんになることが夢だから♪ それに、今は意中の相手も居るしね♪」

「ご主人様に、本気なんですか?」
「前に、本気云々言われた事があるのだけれど、よく分からないのよね~。でも、今までより熱を上げているのは間違いないわ♪」

 蠱惑的な笑みを浮かべ、サトミさんが料理を運んでいく。

 少なくとも、あの人を敵に回すのは止めた方が良いかもしれない。

 かと言って、仲間に引き入れるのも……。


●●●


 夜のエントランスで、ユイとシレイアの三人で話し合っていた。

 ユイの人柄を知るために。

「最初は、一人で苦しむを選んだのか」

 それだけで信頼感が多少は湧く。

「始まりの村で購入した奴隷は?」

 彼女はシレイア以外の奴隷を連れていないが、第二ステージは奴隷が居ないと進めない仕様になっていた。

 死んだのか、見捨てたのか。

「パーティーメンバー探している人達が居たから、入れて貰ったの。本当は一人で進みたかったけれど、自分で人を買うのは……なんか嫌で……」

 なるほど。確かに、パーティーメンバーに一人奴隷が居れば問題は無かったか。

「英知の街で解散して、迷子になって……三ヶ月くらいどうしたら良いか分かんなくて……」
「ああ……英知の街はちょっと特殊だったからな」

 街は広い上、冒険者ギルドから探索場に行ってクリアしないとボス部屋に入れないし。

「その後は?」
「伝統の山村で……突発クエスト? 鬼武者って言うのと戦った」

 突発クエスト。ユイも経験していたのか。

「その後シレイアさんに会って、身請けして、長く居ない方が良いからってすぐに橋を渡って……コセさん達に出会った」

「というわけで、実は私とマスターは昨日初めて会ったんだ」

 じゃあ、この二人もお互いのことをほとんど知らないんだ。

 ユイ。彼女自身の強さに、レギオンに貢献できる有用なスキルと隠れNPCの所持。

 人格的にも、善人と言える。

「私達、今後とも一緒に行動させて貰えますか? ハーレム王」

「誰がハーレム王だ! ……明日中に返事は出すから」
「はい、よろしくお願いします!」

 このハーレムに対する異常な興味がなー。

 まあ、ちょっとくらい変なところがある方が、まともぶっている奴等より人格的に信用出来るか。

 自分がハーレムに加わりたいわけじゃないようだし、サトミさん達より遥かにマシ!


●●●


「ふあ~あ……なにしてるんですか?」
「「「シー!!」」」

 深夜、トイレに行きたくなって部屋を出ると、ハーレム王であるコセさんの部屋の前で、四人の女性が扉に耳を当てていた。

 確か、サトミさんがリーダーの四人組。

「ユイも聞いてみなさいよ」
「ん?」

 ショートボブの人に、言われた通りにしてみる。

「ああ♡ ご主人様♡♡ 今日激しい♡♡♡! いつもより乱暴です♡♡♡!」

 こ、ここここここ、これって!

「よく分からないけれど、凄い声♡」
「え、エロいな♡」
「コセさん、ああ見えて攻めなのね♡」
「もう戻りましょうよ、サトミ様……」

 それから三十分ほど、私達は聞き耳を立て続けた。

 さすがはリアルハーレムの男!

 明日は誰に手を出すんだろう♪

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