ダンジョン・ザ・チョイス

魔神スピリット

65.反骨戦士

 右側は、左側と違ってひたすら歩くだけ。

 暫くはモンスターすら出ないため、チョイスプレートを確認しながら進んでいた。

「まさか、今日の午前だけでLvが2も上がるとは思わなかったな」

 Lv23でサブ職業分解。Lv24でサブ職業作成が出来るようになっていた。

「十人も居たおかげで、出現数が多かったからね。ジャイアントフィッシュってHP高いから、弱点ついても本当は倒せない事が多いんだよ。マスター達の場合は、Lvも装備もちょっと規格外だからね」

 確かに、黒鬼や突発クエスト報酬で手に入った報酬は強力だし、未だに“強者のグレートソード”を超える武器は手に入っていないな。

「メルシュ、サブ職業分解というのは?」
「そのまんまだよ。例えば“大剣使い”のサブ職業を分解すると、”大剣使いのスキルカード”になるよ」
「サブ職業作成は、その逆か」
「その通り♪ ただし、分解の時は3000G手に入って、作成の時は5000G払わないといけないから」

 サブ職業作成よりは、サブ職業分解の方が使用頻度が高そうだ。

「随分変わってますね」

 トゥスカが指摘したのは、橋のデザイン。
 橋の途中から道幅が広くなり、デザインも港質素な物から西洋の絢爛な都市の物のように変わっていた。

「そろそろですね」

 デザインが変わっている場所に足を踏み入れ、暫く進むと――黒い靄が幾つも地面に現れる。

「気を付けなよ、マスター!」
 
 シレイアが大刀を構えた時、靄の中から鎧を着た骸骨の兵士達が現れた。

「魔法攻撃がほとんど効かない上、水属性に耐性があります! 気を付けてください!」

 錆び付いたサーベルを振り回す骸骨、”反骨戦士”。

「ご主人様!」

 “武器隠しのマント”から、“転剣狼の竜巻ブーメラン”を取り出す。

「「ハイパワーブーメラン」」

 トゥスカと共に”大転剣術”を発動し、反骨戦士達を切り刻んでいく。

 うち漏らした奴は近接武器で応戦。戻ってきた俺のブーメランをトゥスカが、トゥスカのブーメランを俺が手にし、再びハイパワーブーメランを発動する!

 “連携装備”のスキルにより、主とその奴隷である俺とトゥスカだからこそ可能な戦術!

 コイツらから手に入るスキルカードを、俺達は最低でも六枚は手に入れないといけない。

 手に入るまで、倒して、倒して、倒しまくる!


●●●


 “魔武の指輪”の宝石周りの円を、右に回す。

「”暴風魔法”、サイクロンカノン!」

 橋の上の反骨戦士を消滅、あるいは海へと吹き飛ばす。

「魔法……あんまり効かないんじゃ?」
「“魔武の指輪”の効果だね。魔法を武術攻撃扱いにしたのさ」

 シレイアがユイに解説してくれる。

 円を逆に回せば、武術スキルを魔法攻撃扱いにすることも可能な指輪。

 魔法特化の私には、必須のアイテム。

「シレイア、働きなよ」
「しゃーないね! “鞭剣術”、パワーウィップブレイド!」

 “アマゾネスの大刀”が輝き、シレイアの腕の振り下ろしに合わせて鞭のようにしなり伸び、反骨戦士達を切り刻んでいく。

「どうして先に進まないんだい、メルシュ?」
「分かりきったことを。ここに居れば、反骨戦士が延々と湧き続けるからだよ!」
「やっぱりかい!」

 “反骨戦士のスキルカード”によって得られるスキルは“反骨”。精神系の効果を受け付けなくなるスキル。

 暫くは必要の無いスキルだけれど、いざという時持っていないと、精神系のデバフは致命的な結果をもたらしかねない。

 後で手に入れる事も可能だけれど、いつなにが起きるか分からない以上、正式な協力関係にある六人分は手に入れておきたい!

 “無名のスキルカード”を使う手もあるけれど、コイツら相手には勿体ないしね。

「スキルカード……欲しいんですか?」

 シレイアのマスター、ユイが聞いてくる。

「ええ、まあ」
「……任せて」
「やっちゃいな、マスター」

 なに、どういう事?

「――はい」

 ユイが脇の剣に手を添え、腰を落とした瞬間――消えた?

「“抜刀術”――紫電」

 来た道を一直線に駆け抜け、道の周りに居た骸骨二十四体を、紫の剣線を幾重にも描き……あっという間に切り倒した。

「……今のは、なんのスキルですか?」
「使ったのは“抜刀術”のみさ。後は、言わばプレーヤースキルって奴だね」

 アレが、人間の動きだって言うの?
 Lv上昇による身体強化だけでは説明がつかない。

「どうだい、アタシのマスターは凄ーだろ?」
「凄すぎる……」

 是非とも、私のマスターのレギオンに欲しい!


●●●


「アビスと名のつくモンスターは、高確率で“深淵魔法”のスキルカード”を落とします」

「“深淵魔法”って、イマイチ想像出来ないのよね?」

 岩場の安全地帯で、サトミさんにスキルの説明をしてあげていた。

「”深淵魔法”は、二種属性の便利な魔法なんです」
「二種属性?」
「深淵は闇と水の属性を持っていて、どちらかが弱点の敵には弱点を突いたという扱いになり、ダメージが跳ね上がります」

 当初の予定では私は右に行くつもりだったため、英知の学院ではユリカにだけ”深淵魔法”を修得させていた。

「”深淵魔法”は上級魔法ですが、もしサトミさんが“闇属性強化”と“水属性強化”を持っていれば、単一属性魔法よりも威力が上がりますよ」

 ちなみに、”氷炎魔法”、”煉獄魔法”も二種属性魔法だ。

 ユリカは何故か闇と火属性のスキルに偏っており、闇と火の二種属性である”煉獄魔法”を修得していたのもあって、闇と火に特化させる事にした。
 私は元々雷と光に特化させるつもりであったため、ユリカは非常に相性の良い存在でもあったのだ。

 実を言うと、このダンジョン・ザ・チョイスは魔法使いに有利な点が多い。

「二種属性魔法ね。私は“風属性強化”を持っているから、一つは風ね。もう一つはどうしようかしら?」

 風であれば、私とユリカとは被らない。

「サトミ、ジュリー、時間よ。そろそろ進みましょうよ」

 アヤが声を掛けてきた。

 彼女は火属性特化。出来ればユリカと完全には被らないで欲しい。

「ん?」


●●●


 反骨戦士と戦ったのち、安全エリアまで進んで一息ついていた。

「随分早く集まったな。でも、貰って良かったのか?」
「たくさんあっても……意味ないから」
「アタシらの分はちゃんと確保したから、遠慮なく持っていきなよ」

 ユイから提供された十四枚とコッチの八枚合わせて、計二十四枚の“反骨戦士のスキルカード”。

「一時間以上は覚悟していたのに、三十分程で済むとは。もしかして、“技能取得”のスキル持ってる?」

 メルシュがなにかを尋ねた。

 倒した数は俺達のパーティーの方が多いはずなのに、手に入れたスキルカードの数に違いがあり過ぎる。

「そう……関係あるの?」

 メルシュの問いに対するユイの反応が薄い。

 この子、ハーレム絡んでないと随分大人しいんだな。

「スキルカードが出やすくなるスキルなのか?」
「魔法以外になるけれどね。レア度で言えば、最高のSランクスキルだよ」

「どうだい、うちのマスターは凄いだろう!」

「シレイアさんも……凄いよ」

「そういえば、アマゾネスの特徴とか聞いてなかったな」

 ワイズマンであるメルシュは武術スキルを修得出来ない代わりに、魔法スキルを無制限に修得出来る。
 他に武具装備も出来ないというデメリットもある代わりに、複数の専用スキルを有していた。

「私は”生活魔法”以外の魔法スキルを修得出来ない代わりに、スキル“大戦士”のお陰で基本武術と、大と名のつく武術スキルを全部使えるんだ」
「使えるのは現状、無属性の武術スキルだけだけれどね」
「その分、アマゾネス専用のA級装備が使いたい放題さね!」

 なんか張り合ってるな。

 メルシュの次に手に入れられる隠れNPCだからか、ワイズマンの対極に居るような性能なんだな。

「マスターはどっちの方が良い?」
「こんなチンケなガキより、アタシの方が良いだろう!」

 競ってくんな。

「さっさと行くぞ」

 そんな問い、真面目に相手にしていられるか!

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