ダンジョン・ザ・チョイス

魔神スピリット

63.侍のユイとアマゾネスのシレイア

 怪魚が海から飛び出し、橋を渡り始めた俺達の上に口を開けて落ちてきた。

「“雷属性付与”、ハイパワーブーメラン!」

 俺の最愛の妻、犬獣人のトゥスカが黄昏色のブーメランを投げ、怪魚を両断した。

 洞窟の入り口を潜って暫く歩くと、青い巨大な橋が見えたのだが、さっそくこのステージの洗礼を受けたようだ。

「人数が多ければ多い程、出て来るジャイアントフィッシュの数は増えるよ」
「お前、それを早く言えよ」

 隠れNPCのワイズマンであるメルシュが、今になって新情報をもらし始めた!

「まあまあ、コイツらからはたくさん経験値を貰えるから」
「だけれど、そこの四人はLvアップ出来ないんじゃないか?」

 魔性の女、サトミさん率いる四人組の女パーティー。

 彼女達、さっきから全然戦闘に参加出来ていない。

「対抗策授けて無いから、戦力外だよ」

 メルシュ、ハッキリ言っちゃったよ。

 それに引き換え、ジュリー率いる三人組はさすがだ。

「はああああああっ!! パワーハンマー!!」

 猫獣人のタマが、“パチモンのトールハンマー”を振り回してジャイアントフィッシュを撃退する。

 本来はジュリーの装備だが、ジャイアントフィッシュの弱点を突くためにタマに貸し出したのだろう。あの武器は雷属性が附与されているらしいからな。

 そのジュリーはというと、”万雷魔法”で次々とジャイアントフィッシュを消滅させていた。

「”紅蓮魔法”、クリムゾンフレア!」

 最後の一人であるユリカは火に特化した魔法使いだが、火属性攻撃に火耐性を無視する効果を与える“灼熱の指輪”により、一撃でジャイアントフィッシュを倒せていた。

 というわけで、正直俺もすることが無い。

 トゥスカからブーメランを借りて、“雷属性付与”を使う手もあるけれど、現状必要無さそうだ。

 俺はトゥスカとメルシュがジャイアントフィッシュを倒しているのでLvが上がるけれど、サトミさん達はそうではない。

「パーティーを変えますか。サトミさん達、二人ずつに分かれて、マスターかジュリーのパーティーに入りません? 一時的な措置として」

 メルシュが提案する。

 Lv21の人間がパーティーリーダーなら、最大五人までパーティーを組める。

 本当はメルシュの申し出を断りたいが、のちのちレギオンを組むことを考えると、彼女達には力を付けて貰う必要があった。

 その事自体は、まだサトミさん達には言えない。
 そのため、それとなくサポートする必要があるのだ。

「良いわね! なら、私とリンピョンはコセさんのパーティーに入るわ!」

 残りの二人、大盾の戦士と魔法使いがジュリーのパーティーか。

「ジュリー、問題ないか?」
「ええ、大丈夫」

 チョイスプレートが開き、パーティー加入申請が届いたので受領した。


            ★


「凄いわね、どんどんLvが上がっていくわ♪」

 驚いた……サトミさん達のLvの低さに。

 俺のパーティーの平均Lvが22だったのに対し、サトミさん達は平均Lvが16。

 よくこのLvで、第三ステージの探索場をクリア出来たな。

「そういえば、経験値ってパーティーメンバーが増えるほど分散される仕組みなのか?」
「ううん、一人でも二人でも関係ないよ。モンスターを一体倒せば、一体分の経験値がパーティーメンバー全員に与えられるから」

 だとすると、パーティーメンバーを増やして大勢で戦った方が効率的にLvが上げられるのか。

 あんまり好きな仕様じゃないな。

「それだと、隠れNPCのLv同調の恩恵ってそんなに無いよな」

 隠れNPCのメルシュは、契約者である俺と同じLvになる。

「取り敢えず、Lvを上げるアイテム一つで二人分の恩恵を受けられるってだけかな」

 Lvアップの実で俺がLvを1上げれば、メルシュも1上がる。

 単純に考えれば、効果が二倍になるわけだ。

「メルシュ、アレが安全エリアですか?」

 目の良いトゥスカが、橋の一部を覆うように作られている建物を指差して尋ねてきた。

「うん、アレで間違いないよ」
「雨が強くなってきている。早く行こう」

 二時間以上雨の中を歩きっぱなしだ。とっくに全員びしょ濡れ。

 自然と、皆駆け足になる。

 なにかあるかもしれないと身構えて居たが、何事も無く安全エリアまで辿り着いた。

 円柱状の部屋の上にはアーチが掛かっていて、内側の天井には絵が描かれている厳かな空間。

 その空間の真ん中には、女神像のような物が…………。

「あら? アタシら以外にも人が来たのかい」

 褐色長身の黒髪美女が、裸で後ろ姿を晒していた!!?

 ポーズもとっていたから、てっきり銅像かなにかだと!

「おや? 雄が居るんだね」
「ちょ!」

 胸や股を隠そうともせずに、無遠慮に接近してきた!!

「中々良い面構えだ。どうだい、アタシと熱い夜を過ごしてみるかい?」

「け、結構です」

 妖艶な大人の美女が醸し出す迫力に、押されてしまう。

「あら残念」

 さして残念そうには見えないな。

「アマゾネス、なんでここに?」
「あれ、ワイズマンじゃない。もしかして、コイツがアンタのマスター?」
「そうだよ」

 メルシュと親しげに語り出す、雌豹のような褐色美女。

 アマゾネスって事は……伝統の山村で手に入るはずだった隠れNPCか!!

「今はメルシュだよ。そっちは?」
「シレイアだ。出来れば殺し合いたくは無いね」
「それはこちらも同じ。貴方のマスターは?」

 二人だけでどんどん会話が進んでいく。

「ちょ、ちょっと! その前に服を着なさいよ!」

 サトミさんのパーティーの……名前が……へーと……ショートボブの子が叫んだ。

「ああ、悪い悪い。どうせ誰も来ないだろうと思って、解放感に浸ってたわ。いや、服が濡れたから脱いだんだけれど、これが気持ち良くてさ~♪」

 露出癖がありそうだな。

「……シレイアさん、その人達……誰?」

 部屋の隅に置かれていた複数のベッドの上から、一人の女の子が眠そうにこちらを見ていた。

「……ハーレム? これは夢?」

 女の子がなにか言っている。

「マスター、取り敢えず服着たら?」

 お前も裸なんかい!

 布団で覆われてて気付かんかった!

「そう……だね。装備セット1に変更」

 二人が服を着てくれた。

 シレイアのマスターである子は、黒髪を首元までのポニーテールにし、淡い青の着物の上に黒を貴重とした具足のような物を身に付けている。

 アマゾネスのシレイアの方は、扇情的で動きやすそうな格好だった。青いブラとズボンを履いている。

 あのズボン、透けてるからパンツがうっすら見えてるんだけれど。

 シレイアの得物は大刀で、そのマスターは日本刀か。

「ユイ」

 そう言って手を差し出してくる、侍のような格好の少女。

「へと……一応、この集団のリーダーをやっているコセだ」

 握手を躱す。

「生ハーレム、初めて見た!」
「へ?」

 手を握る力が、強くなったんですけれど?

「本命は誰!」
「へと、そこに居るトゥスカです」

 なんで正直に答えてるんだ、俺は!

「へー、結婚してるんだね。しかも、“最高級の婚姻の指輪”じゃないか」

 シレイアが目聡く気付いた。

「婚姻の指輪? 結婚指輪って事?」
「そうだよ、マスター。しかも、そっちの二人以外は結婚しているようだね。相手は全員、そこの男かい?」

「そうだよ」

 メルシュが正直に答えてしまった!!

 これは――軽蔑される!


「マジモンの生ハーレム、キタァァァァァーーーーーーッ!!」
 

 ユイと名乗った少女が……奇声を発した。

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