ダンジョン・ザ・チョイス

魔神スピリット

49.宝石の大蛇・悪徳の凶狼・古代の爬虫人類

 金貨の砂漠の名の通り、見渡す限りの金貨が広がっている。

「お、あったあった」

 金貨の山に埋もれた、手の平サイズの小さな宝箱を見付けた。

 学園で修得した“飛行魔法”のフライで、金貨に触れないように宝箱に接近し、掴み取る。

「“炎耐性の指輪”かー」

 あって困るような物じゃないけれど、パッとしないアイテムだなー。

「まあ、ここで手に入る指輪なんてたかが知れてるけれど。それにしても、目的の指輪がなかなか見付からない」

 金貨の山の中には小さな宝箱が幾つも落ちていて、その中には指輪などの宝飾品が入っている。

「うーん、宝飾品の類いも良いけれど、お金も稼いであげようかな」

 第四ステージで、アレを購入して貰わないと困るからね。

「さすがに、アレを毎晩見るのは身体に悪そうだし」

 金貨の中に降り立つ。

「キシャー!!」

 金貨の中から、金貨で出来た蛇が襲ってくる。

「”紅蓮魔法”、クリムゾンフレア」

 コインスネークを溶かし消す。

「コイツ一体で、2000Gゲットー♪」

 弱点の火属性で攻撃すれば、さほど面倒な敵じゃないけれど、物理防御が高いから戦士職が倒すのはかなり厳しい。

 更に言えば、コイツらは金貨の奏でる音に吊られてやってくる。

 だから、一度戦闘が起こると次々と襲われることになってしまう。

「1000000Gは稼ごっかなー♪」

 
●●●


「はああああああッ!!」

 “強者のグレートソード”を振るい、リザードマンを切り裂く。

 第二ステージのリザードマンよりも強い。

 第三ステージだからっていうのもあるだろうけれど、いきなり能力が跳ね上がった気がする。

 昨日トゥスカが戦っているのを見ていたけれど、ここまでじゃなかった気がするんだが。

 大剣の腹で、三体まとめて廻廊から落とす。

「ふっ!」

 後ろ回し蹴りで別のリザードマンを蹴り、他のリザードマンを巻き込んで倒れた。

「インフェルノ! ……サブ職業でもダメか」

 発動を封じるのが修得スキルだけじゃないとは、やっぱりメルシュから聞いていたのと違う!

「でも、制限が重いほど良い武器が手に入るんだったよな!」

 大剣を“振り抜き”、リザードマンをまとめて五体切り裂く!

 魔法、武術以外の補助系スキルは使えているのが救い。

「キュルルルルルルッ!!」
「来たか」
 
 奥の方でこちらを観察するように見ていた、緑色のリザードマン。

「体力切れになる前に、さっさと先に進む!」

 グレートソードを振るい降ろす!

「キュルルルッ!!」

 斧で止められた!?

 別のリザードマンが回り込み、手にしていた湾刀が光り輝く!

「武術スキル!?」

 無理矢理躱し、体勢が崩れたところにさっきのリザードマンの尾が腹を打った!!

「ま……ず……」

 廻廊の外に落ち――――ない!

 廻廊の側面に“壁歩き”で足裏をくっつかせることで、なんとか落ちずに済んだ。

「そうか、最初から“壁歩き”を使っていれば良かったんだ」

 廻廊へと戻り、大地の盾を出現させる。

 俺に気付いた緑のリザードマンの密集地帯に、”瞬足”で無理矢理入り込む。

 “壁歩き”でどちらかの足を床に貼り付け、大地の盾とグレートソードでリザードマンの攻撃を捌き続ける。

「”拒絶領域”!」

 集まってきたリザードマンを、廻廊の外へと一気に弾き飛ばした。

「今のうちに!」

 階段を駆け上がり、素早く奥へ。

「リザードマンの……巨大な彫像?」

 階段を登った先にモンスターはおらず、奥に巨大なリザードマンと思われる像が置かれていた。

 どうやら、リザードマン達は階段を登ってはこないようだ。

「主はどこだ?」

 ここの主を倒して、“魔宝玉”を手に入れないと帰れない。

 ――パラパラという音が聞こえた。

「彫像が……崩れだした?」

 まさか……この巨大な彫像が…………ここの主!?

 武術スキル無しで、コイツと戦わないといけないのか!

『キュルルルルルルルルーーーー!!』

 白い皮膚に石の鎧を纏った、七メートルはある古代の爬虫人類、エンシェントリザードマンが動き出した。


●●●


「パワースラッシュ!」

 一際大きいワーウルフを、“荒野の黄昏は色褪せない”で切り裂く。

「……早くご主人様に会いたい」

 一人で戦っていたら、だんだん寂しくなってきてしまった。

「私、思っていた以上にご主人様に依存してるな」

 ご主人様と出会って、ずっと抱いていた孤独感が消えた。

 私はきっと、あの人に出会うために生まれてきた。
 そんなお伽話みたいな事を、今の私は本気で信じられる。

「あれが、主の住処」

 円形の闘技場が、道の先に見えてきた。

「果物が手に入ると聞いていたのに、どこにも見当たらない」

 ワーウルフが多すぎて、採取している暇なんて無いけれど。

 ソーマを一口飲み、TP・MPの回復を待つ。

「スキルをあれだけ使っていたのに、半分以下になっていないんだ」

 “最高級の婚姻の指輪”の効果、思っていた以上に凄まじい。

 闘技場に登る。

『グルルルルルルルルルルル』

 闘技場が揺れた――黒き巨狼が降り立った衝撃によって。

「コイツが悪徳の凶狼、ヴァナルガンド……の子供という設定でしたね」

 それでも、この威圧感。

『グルアアアアアアアアアアアアアア!!』

 咆哮による威圧。

「唾液を撒き散らすな。汚いだろう」

 私に、ご主人様以外の体液などいらない!


●●●


「ようやく目当ての物が手に入った。“魔武の指輪”」

 この探索場では一つしか手に入れることが出来ない、レアアイテム。

「地味に役に立つんだよね。私みたいな一芸特化には特に」

 MPが半分を切るたびに宝箱探しに戻り、回復したらコインスネーク狩りに戻るを繰り返し続けていた。

「それにしても、1200000Gも稼いでしまったよ」

 昨日の夜の景色、思っていた以上に嫌だったのかも。

 チョイスプレートを操作し、“火魔の指輪”を四つ装備する。

 無駄に手に入っちゃった。

「どう考えても、ここの主には過剰火力」

 でも、備えは万全にしておくべき。

「見えてきた」

 金貨の山に囲まれた、ダイヤが密集した沼のような場所。その上空に辿り着く。

「さあ、おいで。宝石の大蛇――グローツラング」


『ギシャアアアアーーーーーーーーーーーーーーッ!!』


 ダイヤの沼が盛り上がり、ダイヤの目と色とりどりの宝石の鱗を持つ白き大蛇が姿を現す。

「……おかしい。データよりも一回り大きい」

 観測者が手を加えた?

「面倒な奴等」

 どうやら私達は、ここを管理する観測者に目を着けられたよう。

 神代文字を、コセが操った事に危機感でも抱いたのかな?

 元々素質がある人間を選んで、ゲームに参加させていたはず。

 参加者の一、二割が素質ある者で、

 それに、神代文字を刻める武器をゲーム内に用意していた事から、たった三文字引き出した所で、排除しようとするとは考えにくい。

「ただの気まぐれか?」

 神の支族を語る偽善者どもめ。

 その力を、神の意を無視して人間ごときが操る事こそ、神罰を受けるべき大罪。



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