ダンジョン・ザ・チョイス

魔神スピリット

43.魔神・転剣狼

「ジュリー」
「ジュリー様」

 泣き続けるジュリー。
 タマが背中をさすってあげる。

 ……正直、ついて行けない。

 とはいえ、ここまで危なげなく来られたのはジュリーの適切な判断のおかげ。

 ――ジュリーはこのゲームについて、私達が知らない何かを知っている。

「それにしても、コセが……槍の男を」

 私の恐怖を取り除いていてくれてたなんて……やっぱり、コセは私の運命の……♡

 こうなったら、ジュリーの秘密を曝いて、コセの役に立ってやるわ!


●●●


「大丈夫ですか、ご主人様?」
「ごめん、ボスの情報をなにも……」

 感情に任せて、ボス部屋の中に入ってしまった事を謝罪する。

「あの状況では仕方ないですよ。それよりも戦えますか? ヒール」
「ちょっとキツい……かな。ヒール」

 ジュリーの視線が消えると、一気に痛みが込み上げてきた。

「あれ?」

 足がフラつき、尻餅を着いてしまう。

「ご主人様!?」
「た、立てない……」

 身体に力が入らない。

 それどころか、どんどん力が抜けていく。

「まずい……」

 暗い部屋の奥に、橙色の光が灯る。

「来るぞ、トゥスカ」
「アレですか」

 橙色の光の中に、人型の鎧が浮かび上がる。

 魔神・四本腕に似た意匠だが、どこか獣っぽさを思わせる造形をしていた。

 ボスが刻々と戦闘準備をしている間も、回復魔法を使用し続ける。

「ご主人様。私が時間を稼ぎますので、その間に回復を」
「トゥスカ……無理はするなよ」

 止めたかったが、今の状況では最良の判断だろう。

「では、行ってきます。ご主人様」

 トゥスカが離れていく。

 その時ボスが、緑色の巨大エックス型ブーメランを手にした。


●●●


 アレが、ボスという奴ですか。

 高さ十メートル以上。

「ガルガンチュアに比べれば、大分マシですね」

 それにしても、まるで獣人を模ったような鎧。

 生物でない以上、弱点を突けば倒せるというわけではない。

「貴方は、私が倒します」

 ご主人様は血を流し過ぎている。

 時間を稼ぐとは言いましたが、このボスは私一人で倒すつもりでいた方が良い。

『がオオオォォォーーーーーーーー!!!』

 狼のような遠吠えが、私の肌を震わせる!

 ――ボスが前傾姿勢となり、地を駆ける!!

 獣人みたいな動きを!

 身の丈ほどもある、緑色のY字ブーメランを投げ付けてくるボス!

「そんな物! ……風!?」

 明後日の方向に投げられたと思いきや、ブーメランの上下に風が、竜巻のごとく発生した!

「そんな物!」

 ”瞬足!を用いて、素早く大きく回り込み――ボスが私の進路を塞いだ!!

 巨体から繰り出される、左脚による足払いが迫る!

「負けるか、爆裂脚!!」

 ”漆黒のグリーブ”により強化された爆裂脚で迎え撃ち――――ボスの左脚を……砕いた?

「あれ?」

 強敵だって聞いていたのに、簡単に脚を破壊出来ちゃった……うん?

 私が思わず呆然としていると、背後からブーメランが戻ってきたため、急いで避ける!

「”魔力砲”!!」

 総MPの半分を強制消費して放たれる閃光により、ブーメランを掴もうとしていた腕を消し飛ばした!?

 武器を掴むのを妨害するつもりで、咄嗟に放った魔力砲だったのに……。

「あれ? なんか…………弱い?」

 ゆ、油断は禁物よ! 

「パワーブーメラン!!」

 “荒野の黄昏は色褪せない”を、”転剣術”を使用して投げる!

 左脚が無く、武器も無いボスの身体に、“荒野の黄昏は色褪せない”が命中し! …………胸部分を抉り壊した!?

 ただの転剣術でもこのダメージ……やっぱり弱い?

『ガオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!!』

 青白い光を纏い始めるボス。

「もしかして、危険攻撃!?」

 ご主人様から、追い詰められたボスは危険攻撃をしてくると教えて貰っていた!

「なら、使われる前に畳み掛ける!!」

 “跳躍”で高く舞い、身を翻し、天井を”瞬足”発動状態で蹴る!

 避けようとするボスですが、片脚が無いため動きは読みやすい!

「爆裂脚!!」

 犬のような頭を砕き、そのまま蹴り抜く!

「くっ!」

 膝を曲げて着地の衝撃を逃がすも、脚に痛みが走った。

「まだまだーーッ!! へ?」

 気合いを入れ、再びボスに仕掛けようとすると……青白い光に変わっていく獣人のような石鎧。

「……終わり?」

 ほ、本当に呆気ない!

「と、取り敢えず、ご主人様の元に戻ろう!」


●●●


「凄いな」

 トゥスカ一人で、あっという間に倒してしまった。

「……考えてみれば、そこまで不思議じゃないのか」

 トゥスカのスキルである”魔力砲”や、サブ職業の”爆裂使い”を手に入れた経緯を考えると、第二ステージでは威力過剰なんだろうな。

 Lvだって、第二ステージの基準を大きく上回っていそうだし。

 有効武器がブーメランっていう可能性もあるしな。

 俺も、四本腕との戦いでは一撃で大ダメージを与えられていたようだし。

「……ジュリーの方が、よっぽど強敵だったな」

 第三ステージでは、こうはいかないだろう。

「ご主人様」

 トゥスカが急いで戻ってきた。

「やったな、トゥスカ」
「ちょっと、自分でも信じられません。それより、動けますか?」
「フラフラするけれど、歩くくらいならなんとか」

 立ち上がってみると、予想以上にフラつく。

○ボス撃破特典。以下から一つをお選びください。

★転剣狼の竜巻ブーメラン ★サブ職業:ホルケウカムイ
★転剣狼の甲脚 ★大転剣使いのスキルカード

 どれも、俺よりトゥスカ向けな気がする。

「迷いますね……どうしましょう?」

 トゥスカからすると、どれも捨てがたいよな。

「俺の分もトゥスカが選んで良いぞ」
「い、良いんですか!? ……この中から二つ……悩む」

 時間……掛かりそうだな。

 まあ、この先の街にどんな人間が居るか分からないんだ。少し休めた方が良い。

 トゥスカが選び終わるまでは、街に転移しないだろうしな。

 ……ジュリーは、どうしてあんなに必死だったのだろうか?

「“ワイズマンの歯車”。あのアイテムに、いったいどんな意味が……」

「単純な攻撃能力アップを狙うなら、“大転剣使いのスキルカード”だろうけれど、あの竜巻を起こすブーメランも捨てがたい……うーん」

 悩んでるなー。

「ご主人様の意見を聞かせてください」
「俺? 武器の性能とかが分かればな」
「甲脚の方は、正直分からないですね。サブ職業のホルケウカムイというのに至っては、まったく分かりません」
「多分、さっきの危険攻撃と関係していると思うけれど」

 四本腕の危険攻撃は、二刀流剣術のクロススラッシャーだった。

 でも、全身に光を纏うのが大転剣術による攻撃とは考えにくい。

「ただ、”大転剣使いのスキルカード”はどっかで手に入りそうだよな」

 俺は、グレートオーガを倒した時に“大剣使いのスキルカード”を入手しているし。

「では、ご主人様はホルケウカムイのサブ職業を選択してください。私は、”転剣狼の竜巻ブーメラン”を選択します」
「了解」
 
 ボス撃破特典の選択を終える。
 
○これより、第三ステージの英知の街に転移します。

 あの時のように、視界を光が満たした。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品