ダンジョン・ザ・チョイス

魔神スピリット

35.押し寄せるバンディット

「”魔力砲”!」

 轟音と大きな揺れにより、俺は目を覚ました。

 頭がグワングワン回るのを堪え、すぐに起き上がって”グレートオーガの短剣”の柄に手を伸ばす。

「バンディットが押し寄せてきたため、対処しました」

 トゥスカの落ち着いた声のおかげで、冷静に意識が覚醒していく。

「俺は……どれくらい寝てた?」
「見張りを交代してから三時間ですね」

 道理で、眠気が取れないわけだ。

 水筒を実体化。一口飲んだ後、眠気を飛ばすために顔を濡らす。

 メシュは、部屋の隅っこで身体を縮こまらせていた。

「新手のバンディットが迫ってきました」
「三分、頼む」
「お任せを」

 グレイウルフの肉と、パンをよく噛んで軽い朝食を済ませる。

「交代だ、トゥスカ」
「ありがとうございます」

 トゥスカの代わりに、通路に出た。

 途切れることなく迫ってくるな。

 指輪から大地の盾を出現させ、通路を塞ぐ。

 それだけで突破出来なくなるバンディット達。

「ふああ~~~あ」

 大きな欠伸が出た。

「はい、早く食べちゃおうね」
「うん!」

 トゥスカとメシュが、二人だけで食事を始める。

「父は辛いよ……誰が父だ」

 どうやら、まだ寝ぼけて居るらしい。

「トゥスカの”盾使い”、借りるぞ」
「どうぞ」

 トゥスカのサブ職業である”盾使い”を、俺の”針使い”を外して装着する。

「シールドバッシュ」

 盾に攻撃していたバンディットを吹き飛ばすと、背後のバンディット達を巻き込んで転倒した。

「インフェルノカノン」

 紫炎の魔弾により、バンディット達を焼却。

 だが、新手のバンディットが次々と通路に流れ込んで来る。

「いったいなんなんだ?」


◇◇◇


 まずい! まずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずい!

 私が便宜を図れるのは、担当している第二ステージと第三ステージの街だけ。

 一応、他のステージも幾つか担当しているけれど、新参の私がもっとも介入しやすいのが第二ステージ。

「こうなったら、バンディットをぶつけて足止めし、ジュリー達とボス部屋前で接触させる」

 問題は、アルバートのお気に入りであるコセという男が、

『……計画が成功したとしても……本当の目的を達成出来る可能性はとても低いけれど』


●●●


「準備出来ました」
「出来た!」

 二人が軽い食事を終え、戦闘準備を整えた。

 メシュは、ガッツポーズしているだけだけれど。

「トゥスカ、魔力砲を頼む」

 突発クエストで手に入れた、トゥスカの新しいスキル。

「魔力砲!」

 一つ目女が使用していたピンク味の赤い閃光が、通路に入り込んでいたバンディットをまとめて葬り去る。

「MPの残りは?」
「ソーマを飲んだので、三分の一まで回復しています」

 魔力砲は、総MPの半分を消費して放つ強力なスキル。
 第二ステージに入ってすぐに、何度か試していた。

「行くぞ!」

 俺が先頭で、通路を駆ける!

 通路の終わりが近づくと、またバンディットが入り込んできた。

 コイツら倒しても、大して旨味がねーんだよなー。

 数が多いせいでMP・TPを消費しっぱなしだから、正直油断出来ない。

「シールドバッシュ!」

 バンディットを吹き飛ばし、広い場所に出る。

 ここは色んな場所に通じているため、出入り口が十七カ所存在する。

 まだ探索していないのは四カ所。

 バンディットに囲まれる前に、そのうちの一つに向かう。

「魔炎!」

 紫炎の蛇を操り、近づいてきたバンディットを弾き飛ばす。

 ”魔炎”と”拒絶領域”は、一日三度までしか使用出来ない。

 TP・MPを消費せずに使用出来る分、回数制限が設けられているのだろう。

 ”瞬足”や”壁歩き”なんかには、そう言った制限は無いんだけれどな。

○盗賊の力で罠を感知しました。

「罠解除」

 通路に入るなり、罠を発見。

 数メートル先で、炎が上下左右から十秒にもわたって吹き上がった。

「ご主人様! 奴等、まだ追ってきます!」

 狭い通路に、またバンディットが入り込んできた。

「本当になんなんだ!?」

 昨日までは、ほとんど遭遇しなかったくらいなのに!

「こっちはデカいのが来た」

 前から、バンディットとは異なる巨漢の男が金属の塊を手に歩いてくる。

「インフェルノカノン!」

 紫炎の弾を放つ!

「なに!?」

 棍棒の先が裂け、紫炎の弾を呑み込んだ!?

「魔法が通じないのか?」
「爆裂脚!」

 背後から、トゥスカの応戦している気配。

「時間は掛けられない! ハイパワーフリック!!」

 グレートソードの剣先を水平に向け、突撃しての突き技!

「ああああああああああ!!」

 呆気なく倒される巨漢の男。

「進むぞ、トゥスカ!」
「はい!」

 何度か罠を解除すると、行き止まりに出てしまった。

 行き止まりには宝箱。

「罠は無いな」

 盗賊の能力に反応が無い。

「トゥスカ、交代だ!」
「ハアハア、助かります!」

 まだ、バンディットが流れ込んで来ている。

 本当に、いったいどうなってるんだ?

 一人だったら、力尽きて間違いなく死んでたな。

 昨日の探索中に発見した宝箱の中身は、“水魔法のスキルカード”に“鉄の斧”、“低級の交換チケット”×12や、”炎のメイス”とイマイチな物だけだった。

 右を選んだ方が良かったか?

「ご主人様、“鋼鉄のタワーシールド”が手に入りました」

 俺とトゥスカのバトルスタイルには、微妙に合わないな。

「ご主人様、”盾術のスキルカード”を使用してもよろしいでしょうか?」

 盾使いのサブ職業は一つしか無いが、スキルカードならば突発クエスト時に買った物が腐るほど残っている。

「ああ、構わない」

 これで、気兼ねなく盾使いのサブ職業を俺が使っていられる。

「シールドバッシュ!」

 バンディットを弾き飛ばす。

 会話をしながら、バンディットを倒し続けていく。

 これじゃあ、いつかはTPとMP、体力も尽きてしまう!

「メシュ、まだ動けるか?」
「だ、大丈夫です!」
「よし、行くぞ!」

 休んでいる暇が無い以上、進むしかない!


◇◇◇


 どうする! どうするどうするどうするどうするどうするどうする!!

 バンディットをぶつけるの、最初は良いアイディアだと思ったけれど、むしろ危機感を煽って攻略のスピードを上げてしまっているじゃない!

 それに、これだと完全な形での特殊イベントのクリアの可能性が無くなっちゃうかもしれない!

『クソ~ーーーーー!! なんで上手くいかないんだーーーーー!!』

 迷いながらも、バンディットの出現数など各種設定を本来の状態に戻していく。


●●●


 広間まで戻る頃には、バンディットの出現が無くなっていた。

「結局、なんだったんでしょうか?」
「一定以上の時間留まると、決まった数のバンディットを倒さないといけなくなる……とかかな?」

 トゥスカの疑問に、俺も自信のある答えは見いだせない。

「でも助かった」

 メシュを守りながらだから、神経のすり減りが本当に激しかった。

 TP・MPと体力の回復を待ち、俺達は探索を再開する。

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