ダンジョン・ザ・チョイス
30.互いの誇りと愛おしさを胸に
眼鏡女に連れられ、今朝まで利用していた宿の裏手まで来た。
「用件は?」
大丈夫だとは思うけれど、念の為不意打ちを警戒する。
「……あの、私…………アンタが好きみたい」
……へ?
「なんで?」
「なんでって言われても……分かんないわよ……」
頬を赤くし、モジモジし出す眼鏡……女。
「あのトゥスカって女と、付き合ってるの?」
なんか、急に心臓が重くなった。
「……うん」
式は挙げていないけれど、俺としては生涯のパートナーだと認識している。
「そっか…………でも、諦めないから」
「へ?」
なんか、今朝までと随分雰囲気が違うな。
今の彼女は、あまり関わり合いになりたくない人間とは感じない。
「改めて、私とパーティー組まない?」
「それは嫌だ」
「なんでよ!」
俺とトゥスカの間に、誰も入れたくない。
だから俺は、出来るならこれからもトゥスカ以外の人間とパーティーを組みたくはないんだ。
Lv11でパーティーを組める数が増えた所を見るに、いずれそんな事は言っていられなくなるかもしれないけれど。
「分かったわよ! ……でも、いつか必ず、アンタを振り向かせて見せるんだから」
悲しそうに微笑み、俺の横を通って去って行こうとする…………。
「名前、なんて言うんだっけ?」
「……ちょ、一度はパーティーだって組んだんだし、ちゃんと覚えておきなさいよ!! ……ユリカよ……もう、忘れんじゃないわよ!」
ユリカ……か。
「じゃあな、ユリカ」
「……うん、バイバイ」
ユリカが、宿の表側へと去って行った。
「なんでこんなに、切ない気持ちにならなきゃいけないんだよ……」
妙な想いをどうにかしたくて、俺はトゥスカを探しに歩き出した。
●●●
「フフフフフフフフフ♡」
アイツが……コセが、私の名前を呼んでくれたーー♡
じゃあな、ユリカ……だって♡!
「見てたよ、ユリカ」
「うわっ!!?」
宿に入って、自分の部屋を目指して階段を登り切った所で、ジュリーが声を掛けてきた!
「み、見てたって?」
「勿論、告白の事だよ。タマと一緒にね」
「ご、ごめんなさい。窓を開けてたから、聞こえちゃって!」
き、聞かれてたのか~。しかもフラれたのを。
返事は……聞いてないけどさ。
それにしても、タマの耳と尻尾、ちゃんと繋がって良かった。
「まあ、そんなことより」
そんなこと言うな! 私にとってはなによりも大事じゃい!!
「私達とパーティーを組まない?」
「へ?」
この二人と……パーティーを?
「ユリカなら信用できそうだし、Lv的にも申し分ない。私は早くこのゲームをクリアしたいから、積極的に攻略を進めるつもりなんだ。どうかな?」
コセ達はきっと、さっさと先に進んでしまう。
だったら、上を目指すジュリー達と一緒の方がアイツに置いていかれずに済むかも。
ジュリーには、両腕を治療して貰った恩もあるし!
「良いわ。よろしく、ジュリー」
「こちらこそ、ユリカ」
ジュリーと握手をする。
「タマもよろしくね」
「はい、よろしくです!」
私に、新しいパーティーメンバーが出来た。
●●●
「奴隷に堕とされた時はどうなるかと思ったけれど、これで私らも先に進めるな!」
メグミちゃんが、居酒屋で果実水を飲みながらそう言った。
「もう我が儘言わないから、またよろしく!」
私達が奴隷堕ちする原因を作ったアヤちゃんが、一応殊勝な事を口にする。
まあ、この子が我が儘言わないなんてあり得ないんだけれどね~♪
「お金もLvも上がったし、明日一日準備に費やして、四人で攻略開始よ!」
「「四人?」」
この二人、すっかり忘れてしまっているみたいね。
「忘れたの? 第二ステージには、奴隷が居ないと進めない仕掛けがあるでしょう?」
「「そうだった!」」
全員が奴隷から解放されちゃったから、私達も奴隷を購入しないといけないの。
「あのまま、彼の奴隷のままでも良かったかもね~♪」
やっぱり私、彼に本気になっちゃったかも♡
●●●
「トゥスカ」
「ご主人様♡」
人目を避ける場所にトゥスカを連れ込んで、口付けをした。
「こんな所でシたいなんて、ご主人様のエッチ♡」
「いや、俺はそんなこと一言も言っていない」
無性にトゥスカとキスしたくなって、建物の影に連れて来ただけです。
「おい、ギルマスは見付かったか?」
「主賓が居ないんじゃ、いつまで経っても始められないぞ!」
「私、向こうを探してきます!」
「私はアッチを見てくる!」
男達に混じり、小柄な女の子や獣人まで俺を探しているようだ。
「ご主人様、行かないんですか?」
俺は騒がしいのが嫌いなのに、勝手に祝勝会を開くことになって……。
この村に居る限り、ゆっくり休めそうにないな。
「トゥスカ、悪いんだけれど……」
「今すぐダンジョンですね。良いですよ」
完全に読まれた!
「本当に良いの?」
「ご主人様が言っていたじゃありませんか。初めて似ている人に会えたって」
そんなこと言ったっけ?
「私も騒がしいのは嫌いです。それに……早くご主人様と静かな所で、二人っきりになりたいですから♡」
やっぱり、トゥスカを選んで良かった。
「行くか」
「はい!」
クエスト終了と同時に消えたという神像があった場所に、俺はクエスト中に手に入れた余分なアイテムを捨てた。
「良いんですか?」
「たくさんあっても仕方ない」
今回活躍出来なかった人間は、クエストで手に入った金はあっても、クエスト中にゴブリンが使用していた以上の武器は手に入らない。
アイテムに所持限界数はないそうだけれど、たくさんあってもな。
「お優しいですね」
「ただの自己満足だよ」
俺は手を合わせて、目を閉じ、感謝を込める。
一緒に戦ってくれた人達に、武器に、倒したモンスターに。
そして、あの憐れな一つ目女の冥福も。
気付けば、トゥスカも獣人流で感謝を捧げていた。
今回、俺の作戦通りに動いてくれた結果、死者は出ていない。
でも、一歩間違えれば……俺は今、謝罪をせねばならなかっただろう。
「どうしました?」
「人の上に立つって……重いなって」
ギルマスなんて、二度とごめんだ。
「そうですね。でも、重いと思う人こそが、人の上に居るべきだと私は思います」
「悪いけれど、俺は多くは背負えないよ」
そんな覚悟も、力もない。
「だから、俺にとって本当に大切なのは……トゥスカだけで良い」
日は落ち、月光が俺達を柔らかく照らす。
あの日、俺とトゥスカが結ばれた時に似た、神秘的な美しさを放つトゥスカ。
「貴方にそう言って貰える事が、私のなによりの誇りです」
「トゥスカにそう言って貰えると、俺も自分を誇りに思える――ありがとう」
感謝と愛おしさを込めて、俺達は再び唇を重ねた。
「用件は?」
大丈夫だとは思うけれど、念の為不意打ちを警戒する。
「……あの、私…………アンタが好きみたい」
……へ?
「なんで?」
「なんでって言われても……分かんないわよ……」
頬を赤くし、モジモジし出す眼鏡……女。
「あのトゥスカって女と、付き合ってるの?」
なんか、急に心臓が重くなった。
「……うん」
式は挙げていないけれど、俺としては生涯のパートナーだと認識している。
「そっか…………でも、諦めないから」
「へ?」
なんか、今朝までと随分雰囲気が違うな。
今の彼女は、あまり関わり合いになりたくない人間とは感じない。
「改めて、私とパーティー組まない?」
「それは嫌だ」
「なんでよ!」
俺とトゥスカの間に、誰も入れたくない。
だから俺は、出来るならこれからもトゥスカ以外の人間とパーティーを組みたくはないんだ。
Lv11でパーティーを組める数が増えた所を見るに、いずれそんな事は言っていられなくなるかもしれないけれど。
「分かったわよ! ……でも、いつか必ず、アンタを振り向かせて見せるんだから」
悲しそうに微笑み、俺の横を通って去って行こうとする…………。
「名前、なんて言うんだっけ?」
「……ちょ、一度はパーティーだって組んだんだし、ちゃんと覚えておきなさいよ!! ……ユリカよ……もう、忘れんじゃないわよ!」
ユリカ……か。
「じゃあな、ユリカ」
「……うん、バイバイ」
ユリカが、宿の表側へと去って行った。
「なんでこんなに、切ない気持ちにならなきゃいけないんだよ……」
妙な想いをどうにかしたくて、俺はトゥスカを探しに歩き出した。
●●●
「フフフフフフフフフ♡」
アイツが……コセが、私の名前を呼んでくれたーー♡
じゃあな、ユリカ……だって♡!
「見てたよ、ユリカ」
「うわっ!!?」
宿に入って、自分の部屋を目指して階段を登り切った所で、ジュリーが声を掛けてきた!
「み、見てたって?」
「勿論、告白の事だよ。タマと一緒にね」
「ご、ごめんなさい。窓を開けてたから、聞こえちゃって!」
き、聞かれてたのか~。しかもフラれたのを。
返事は……聞いてないけどさ。
それにしても、タマの耳と尻尾、ちゃんと繋がって良かった。
「まあ、そんなことより」
そんなこと言うな! 私にとってはなによりも大事じゃい!!
「私達とパーティーを組まない?」
「へ?」
この二人と……パーティーを?
「ユリカなら信用できそうだし、Lv的にも申し分ない。私は早くこのゲームをクリアしたいから、積極的に攻略を進めるつもりなんだ。どうかな?」
コセ達はきっと、さっさと先に進んでしまう。
だったら、上を目指すジュリー達と一緒の方がアイツに置いていかれずに済むかも。
ジュリーには、両腕を治療して貰った恩もあるし!
「良いわ。よろしく、ジュリー」
「こちらこそ、ユリカ」
ジュリーと握手をする。
「タマもよろしくね」
「はい、よろしくです!」
私に、新しいパーティーメンバーが出来た。
●●●
「奴隷に堕とされた時はどうなるかと思ったけれど、これで私らも先に進めるな!」
メグミちゃんが、居酒屋で果実水を飲みながらそう言った。
「もう我が儘言わないから、またよろしく!」
私達が奴隷堕ちする原因を作ったアヤちゃんが、一応殊勝な事を口にする。
まあ、この子が我が儘言わないなんてあり得ないんだけれどね~♪
「お金もLvも上がったし、明日一日準備に費やして、四人で攻略開始よ!」
「「四人?」」
この二人、すっかり忘れてしまっているみたいね。
「忘れたの? 第二ステージには、奴隷が居ないと進めない仕掛けがあるでしょう?」
「「そうだった!」」
全員が奴隷から解放されちゃったから、私達も奴隷を購入しないといけないの。
「あのまま、彼の奴隷のままでも良かったかもね~♪」
やっぱり私、彼に本気になっちゃったかも♡
●●●
「トゥスカ」
「ご主人様♡」
人目を避ける場所にトゥスカを連れ込んで、口付けをした。
「こんな所でシたいなんて、ご主人様のエッチ♡」
「いや、俺はそんなこと一言も言っていない」
無性にトゥスカとキスしたくなって、建物の影に連れて来ただけです。
「おい、ギルマスは見付かったか?」
「主賓が居ないんじゃ、いつまで経っても始められないぞ!」
「私、向こうを探してきます!」
「私はアッチを見てくる!」
男達に混じり、小柄な女の子や獣人まで俺を探しているようだ。
「ご主人様、行かないんですか?」
俺は騒がしいのが嫌いなのに、勝手に祝勝会を開くことになって……。
この村に居る限り、ゆっくり休めそうにないな。
「トゥスカ、悪いんだけれど……」
「今すぐダンジョンですね。良いですよ」
完全に読まれた!
「本当に良いの?」
「ご主人様が言っていたじゃありませんか。初めて似ている人に会えたって」
そんなこと言ったっけ?
「私も騒がしいのは嫌いです。それに……早くご主人様と静かな所で、二人っきりになりたいですから♡」
やっぱり、トゥスカを選んで良かった。
「行くか」
「はい!」
クエスト終了と同時に消えたという神像があった場所に、俺はクエスト中に手に入れた余分なアイテムを捨てた。
「良いんですか?」
「たくさんあっても仕方ない」
今回活躍出来なかった人間は、クエストで手に入った金はあっても、クエスト中にゴブリンが使用していた以上の武器は手に入らない。
アイテムに所持限界数はないそうだけれど、たくさんあってもな。
「お優しいですね」
「ただの自己満足だよ」
俺は手を合わせて、目を閉じ、感謝を込める。
一緒に戦ってくれた人達に、武器に、倒したモンスターに。
そして、あの憐れな一つ目女の冥福も。
気付けば、トゥスカも獣人流で感謝を捧げていた。
今回、俺の作戦通りに動いてくれた結果、死者は出ていない。
でも、一歩間違えれば……俺は今、謝罪をせねばならなかっただろう。
「どうしました?」
「人の上に立つって……重いなって」
ギルマスなんて、二度とごめんだ。
「そうですね。でも、重いと思う人こそが、人の上に居るべきだと私は思います」
「悪いけれど、俺は多くは背負えないよ」
そんな覚悟も、力もない。
「だから、俺にとって本当に大切なのは……トゥスカだけで良い」
日は落ち、月光が俺達を柔らかく照らす。
あの日、俺とトゥスカが結ばれた時に似た、神秘的な美しさを放つトゥスカ。
「貴方にそう言って貰える事が、私のなによりの誇りです」
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