ダンジョン・ザ・チョイス
9.炎の魔法使いユリカ
手を合わせ、骸骨の冥福を祈る。
「あの骸骨さん、獣人って言ってたよな」
本当にファンタジーゲームのような世界設定。
死ねば元の世界に戻れたりするのだろうか?
――これまで感じてきた痛みが、仮想かなにかだとでも?
「そもそも、戻りたいとも思わない」
○戦士.Lv8になりました。
○武器への属性付与スキルを一つ修得出来ます。
★火属性付与 ★氷属性付与 ★雷属性付与
★水属性付与 ★風属性付与
うん、分からん!
「ここまでで属性攻撃に弱そうなのには遭っていない。見た目で分からなかっただけかもしれないけれど」
もうちょっと詳細とか無いの? 毎度の事だけれどさ!
「……保留だな」
保留出来るんだから、保留したって良いじゃない!
○”獣人の伝統ブーメラン”を手に入れました。
「ブーメランは手に入れても装備出来ないし……」
ブーメランの専用スキルってなんだろう?
○“転剣使いのスキルカード”を手に入れました。
「来たーッ!!」
これ、絶対ブーメランを使えるようになるためのスキルカードでしょ!!
「……なんでこんなに喜んでるんだろ?」
手に入らない物ほど欲しくなるってやつかな?
思いがけず手に入ったから、こんなに喜んでいるのか?
「……こっちは使用するか」
“転剣術のスキルカード”を使う。
○”転剣術”を修得しました。
○”遠目”を修得しました。
「やっぱり”大剣使いのスキルカード”と同じ、上位のスキルだったか」
予想通り二つ取得出来た。
○”彷徨う者のマント”を手に入れました。
「ん?」
こっちはアイテムか。
「マントは衣服じゃなくて、その他の所になるんだな」
その他も指輪同様、二つまでしか装備出来ない。
「装備の能力とか、どうにかして分かんない物かな」
ゲームにしては不親切過ぎやしないか?
取り敢えず、“彷徨う者のマント”を装備してみた。
「格好いい! ……のか?」
イメージとしては格好いいと思うんだけれど、鏡が無いことにはなんとも。
「見た目よりも安全だ!」
少しでもステータス的な物が上がるなら、見た目を気にしている場合じゃない!
先へと進むと、すぐに行き止まりに突き当たった。
「なんだアレ?」
地面に置かれた奇妙な物を見付ける。
それは円柱状の平べったい物で、緑色に発光していた。
○目の前の物体は”ポータル”。転移装置となります。
「転送装置……ここは安全エリアみたいだし、今夜はここで寝るか」
この先、絶対に厄介な何かがありそう。
まだ十七時前だけれど早めに休もう。
チケットで手に入れたコンロと鍋を出し、水筒から水を移してコンロの火に掛ける。
コンロの正式名称は”魔力コンロ”。
俺のMPをコンロに補充することで、火が点けられる仕様だ。
これまでに手に入れた草と加工していないグレイウルフの肉を切って、一緒に茹でていく。
「もう少し料理の知識があれば、まだマシな味になるんだろうけれど」
アルミラージの肉は一度も食べた事が無いから、今日は茹でない。
焼くより茹でる方が身体には良いけれど、茹でると臭みがより強く出るから、アルミラージの肉の風味を知ってからじゃないと茹でて食べるのは怖い。
鍋に塩と生姜を入れて暫く待ち、木製の器に盛り付けて食べる。
「おほ! やっぱり、グレイウルフの肉は茹でた方が美味い」
生姜で臭みは飛んでるし、低音で茹でた方が肉が柔らかい!
一日歩きっぱなしだからこんな料理でも美味しいと思えるんだろうけれど、暫くすると慣れちゃうんだろうなー。
「誰かが作ったご飯……食べたいな」
母のとは思わない当たり、本当に家族への愛想は尽きているみたいだ。
★
早く寝たためか、四時過ぎに目が覚める。
軽い朝食を終え、ブーメランの使い心地を確認してからポータルの上へ。
視界が緑の光に包まれ、数秒後には収まっていく。
ポータルの先に広がっていたのは、とても暗い空間。
「こっちにポータルが無いって事は、一方通行か」
脱出しようとする事が唯一のルールって言っていたよな。
明らかに、戻れないように細工されている。
「まあ、こんな所に留まる気なんて無いけれど」
それにしても、やたら暗いな。最初にゴブリンと戦闘した場所くらい先が見えない。
遠くに、微かに青暗い場所が見える。
暗い岩肌の中を暫く歩くと、巨大な空間が広がっていた。
空間の中央左側に、青白く輝くなにかが居る。
「妖精?」
小さな細身の子供が、青白く輝く羽根を生やして宙に浮いていたのだ。
髪は炎のように揺らめき、身体には植物の蔦のような紋様があって、裸と言って差し支えない格好。
いや、あれは裸だな。
「あの……」
妖精に話し掛けようとしたとき、妙な違和感を感じた。
俺が来たのとは逆方向に……なにか居る。
「……誰か居るのか?」
「ッ!! ――フレイムランス!!」
悲痛な女の子の声と共に、炎の槍が飛んできた!
「ハイパワーブレイド!」
”大剣術”を発動し、グレートソードによる力任せで炎を切り裂く。
「ウソ……」
声音にやたら悲壮感が強いなと思いながらも、警戒したまま近付く。
「いきなり殺す気か?」
「それはお前が!! ……ダレ?」
こっちのセリフだよ。
「……コセ、とでも呼んでくれ」
「コセ? 変な名前ね」
あ。俺、コイツ嫌いだわ。
「私は……ユリカ。ごめんなさい。暗がりなうえマントを着ていたから、アイツと間違えたの」
「アイツ?」
「青い槍を使う……人殺しの男よ」
話に応じてくれた所を見るに、もう少し近付いても大丈夫だと判断する。
少しずつ、彼女に近付いていく。
「アンタ……反対側から来たわよね? もしかして、一人の方を選んだ人?」
「そういう君は、皆の方か」
「ええ、すぐ横の道を通ってね」
暗くて分かりづらいけれど、彼女が親指を向けた先には、確かにより暗い場所があった。
「パーティーメンバーを二人殺されたの……あっという間だった」
硬そうな長い黒髪を左右で三つ編みにした、黒縁眼鏡の勝ち気そうな女の子。
かなりボロボロで、壁に上半身を預け、左脚を伸ばした状態で座り込んでいる。
殺された……か。
彼女が身体を、妙に傾けていることに気付く。
「怪我をしているのか?」
「……右脚をね」
声音に警戒が滲む。
「ヒール」
「へ?」
「まだ痛むか?」
「……ええ、痛むわ」
更に二度、ヒールを掛けた。
「もう大丈夫……ありがとう」
「助けた代わりに情報をくれ、なんでも良い」
「……その前に先へ進みましょう。奴がいつ現れるか分からないわ」
「一緒に進むつもりはないぞ?」
誰かに命を預けるなんてごめんだ。
「アレを見ても、まだそんな事が言える?」
彼女の指差す方向は、妖精の背後。
「巨大な……扉?」
高さ十メートルはありそうな石扉が存在している……ただの壁だと思っていた。
「あの妖精と話してみれば、私がここに留まっていた理由が分かるわ。私は奴が来ないか警戒しているから、話を聞いてきて」
立ち上がった彼女が、さっさと行けとでも言いたげに手振りで促してくる。
やっぱりコイツ、嫌いだわ。
「やあ、冒険者」
妖精に近付くと、冒険者と呼ばれた。
「地上へと脱出しようとする異世界の冒険者よ、この扉の先には第一ステージのボスが待ち受けている」
あ、ここ異世界なんだ。
「ボス攻略に挑むなら、三人パーティーを推奨する。平均Lv4以上で、魔法使いが二人以上居るのが好ましい」
俺、魔法使えないんだけれど。
「分かったでしょう。ちなみに私は、魔法使い.Lv5よ」
彼女が近付いてきた。
だから自分と組めとでも言いたげだな。
この状況、一人で行動した上、戦士を選んだ俺に不利すぎないか?
「第一ステージから、そこまで偏った仕様にするものかな?」
考え込んでいた俺の前に、チョイスプレートが表示される。
○1000G払うとボスの攻略情報を聞けます。払いますか?
「君は聞いたの?」
「ええ、弱点は火属性らしいわ」
戦士.Lv8は”火属性付与”で決まりかな。
「攻略情報も選択制で、私は弱点属性を選んだの。ちなみに、私は魔法使い.Lv3の時に”火属性強化”を選んだわ」
ヒールでそんなに信用してくれたのか? どれだけ自分を売り込んでくるんだよ。
遠回しに、お前も1000G払えと言っているし。
まあ、払うつもりだったけれどさ。
――1000Gって、最初の手持ち資金と一緒だ。
ここまでお金を使う機会なんて無かったし、このための所持金だったのか?
「君の今の所持金は?」
「……200と少しよ」
イベントで手に入れた分を除いても、俺はもっと稼いでたけれどなー。
パーティーを組んでいたせいで、稼ぎが分散されたのか?
「それがどうかしたの?」
「いや」
どうやら、ここまでで1000G稼ぐのは難しいらしい。
なら、最初から攻略情報を知るための所持金と見て良いだろう。
つまり、攻略情報が無いと倒すのが難しい難易度設定の可能性が高い。
俺はYESボタンを押して、1000G支払った。
「あの骸骨さん、獣人って言ってたよな」
本当にファンタジーゲームのような世界設定。
死ねば元の世界に戻れたりするのだろうか?
――これまで感じてきた痛みが、仮想かなにかだとでも?
「そもそも、戻りたいとも思わない」
○戦士.Lv8になりました。
○武器への属性付与スキルを一つ修得出来ます。
★火属性付与 ★氷属性付与 ★雷属性付与
★水属性付与 ★風属性付与
うん、分からん!
「ここまでで属性攻撃に弱そうなのには遭っていない。見た目で分からなかっただけかもしれないけれど」
もうちょっと詳細とか無いの? 毎度の事だけれどさ!
「……保留だな」
保留出来るんだから、保留したって良いじゃない!
○”獣人の伝統ブーメラン”を手に入れました。
「ブーメランは手に入れても装備出来ないし……」
ブーメランの専用スキルってなんだろう?
○“転剣使いのスキルカード”を手に入れました。
「来たーッ!!」
これ、絶対ブーメランを使えるようになるためのスキルカードでしょ!!
「……なんでこんなに喜んでるんだろ?」
手に入らない物ほど欲しくなるってやつかな?
思いがけず手に入ったから、こんなに喜んでいるのか?
「……こっちは使用するか」
“転剣術のスキルカード”を使う。
○”転剣術”を修得しました。
○”遠目”を修得しました。
「やっぱり”大剣使いのスキルカード”と同じ、上位のスキルだったか」
予想通り二つ取得出来た。
○”彷徨う者のマント”を手に入れました。
「ん?」
こっちはアイテムか。
「マントは衣服じゃなくて、その他の所になるんだな」
その他も指輪同様、二つまでしか装備出来ない。
「装備の能力とか、どうにかして分かんない物かな」
ゲームにしては不親切過ぎやしないか?
取り敢えず、“彷徨う者のマント”を装備してみた。
「格好いい! ……のか?」
イメージとしては格好いいと思うんだけれど、鏡が無いことにはなんとも。
「見た目よりも安全だ!」
少しでもステータス的な物が上がるなら、見た目を気にしている場合じゃない!
先へと進むと、すぐに行き止まりに突き当たった。
「なんだアレ?」
地面に置かれた奇妙な物を見付ける。
それは円柱状の平べったい物で、緑色に発光していた。
○目の前の物体は”ポータル”。転移装置となります。
「転送装置……ここは安全エリアみたいだし、今夜はここで寝るか」
この先、絶対に厄介な何かがありそう。
まだ十七時前だけれど早めに休もう。
チケットで手に入れたコンロと鍋を出し、水筒から水を移してコンロの火に掛ける。
コンロの正式名称は”魔力コンロ”。
俺のMPをコンロに補充することで、火が点けられる仕様だ。
これまでに手に入れた草と加工していないグレイウルフの肉を切って、一緒に茹でていく。
「もう少し料理の知識があれば、まだマシな味になるんだろうけれど」
アルミラージの肉は一度も食べた事が無いから、今日は茹でない。
焼くより茹でる方が身体には良いけれど、茹でると臭みがより強く出るから、アルミラージの肉の風味を知ってからじゃないと茹でて食べるのは怖い。
鍋に塩と生姜を入れて暫く待ち、木製の器に盛り付けて食べる。
「おほ! やっぱり、グレイウルフの肉は茹でた方が美味い」
生姜で臭みは飛んでるし、低音で茹でた方が肉が柔らかい!
一日歩きっぱなしだからこんな料理でも美味しいと思えるんだろうけれど、暫くすると慣れちゃうんだろうなー。
「誰かが作ったご飯……食べたいな」
母のとは思わない当たり、本当に家族への愛想は尽きているみたいだ。
★
早く寝たためか、四時過ぎに目が覚める。
軽い朝食を終え、ブーメランの使い心地を確認してからポータルの上へ。
視界が緑の光に包まれ、数秒後には収まっていく。
ポータルの先に広がっていたのは、とても暗い空間。
「こっちにポータルが無いって事は、一方通行か」
脱出しようとする事が唯一のルールって言っていたよな。
明らかに、戻れないように細工されている。
「まあ、こんな所に留まる気なんて無いけれど」
それにしても、やたら暗いな。最初にゴブリンと戦闘した場所くらい先が見えない。
遠くに、微かに青暗い場所が見える。
暗い岩肌の中を暫く歩くと、巨大な空間が広がっていた。
空間の中央左側に、青白く輝くなにかが居る。
「妖精?」
小さな細身の子供が、青白く輝く羽根を生やして宙に浮いていたのだ。
髪は炎のように揺らめき、身体には植物の蔦のような紋様があって、裸と言って差し支えない格好。
いや、あれは裸だな。
「あの……」
妖精に話し掛けようとしたとき、妙な違和感を感じた。
俺が来たのとは逆方向に……なにか居る。
「……誰か居るのか?」
「ッ!! ――フレイムランス!!」
悲痛な女の子の声と共に、炎の槍が飛んできた!
「ハイパワーブレイド!」
”大剣術”を発動し、グレートソードによる力任せで炎を切り裂く。
「ウソ……」
声音にやたら悲壮感が強いなと思いながらも、警戒したまま近付く。
「いきなり殺す気か?」
「それはお前が!! ……ダレ?」
こっちのセリフだよ。
「……コセ、とでも呼んでくれ」
「コセ? 変な名前ね」
あ。俺、コイツ嫌いだわ。
「私は……ユリカ。ごめんなさい。暗がりなうえマントを着ていたから、アイツと間違えたの」
「アイツ?」
「青い槍を使う……人殺しの男よ」
話に応じてくれた所を見るに、もう少し近付いても大丈夫だと判断する。
少しずつ、彼女に近付いていく。
「アンタ……反対側から来たわよね? もしかして、一人の方を選んだ人?」
「そういう君は、皆の方か」
「ええ、すぐ横の道を通ってね」
暗くて分かりづらいけれど、彼女が親指を向けた先には、確かにより暗い場所があった。
「パーティーメンバーを二人殺されたの……あっという間だった」
硬そうな長い黒髪を左右で三つ編みにした、黒縁眼鏡の勝ち気そうな女の子。
かなりボロボロで、壁に上半身を預け、左脚を伸ばした状態で座り込んでいる。
殺された……か。
彼女が身体を、妙に傾けていることに気付く。
「怪我をしているのか?」
「……右脚をね」
声音に警戒が滲む。
「ヒール」
「へ?」
「まだ痛むか?」
「……ええ、痛むわ」
更に二度、ヒールを掛けた。
「もう大丈夫……ありがとう」
「助けた代わりに情報をくれ、なんでも良い」
「……その前に先へ進みましょう。奴がいつ現れるか分からないわ」
「一緒に進むつもりはないぞ?」
誰かに命を預けるなんてごめんだ。
「アレを見ても、まだそんな事が言える?」
彼女の指差す方向は、妖精の背後。
「巨大な……扉?」
高さ十メートルはありそうな石扉が存在している……ただの壁だと思っていた。
「あの妖精と話してみれば、私がここに留まっていた理由が分かるわ。私は奴が来ないか警戒しているから、話を聞いてきて」
立ち上がった彼女が、さっさと行けとでも言いたげに手振りで促してくる。
やっぱりコイツ、嫌いだわ。
「やあ、冒険者」
妖精に近付くと、冒険者と呼ばれた。
「地上へと脱出しようとする異世界の冒険者よ、この扉の先には第一ステージのボスが待ち受けている」
あ、ここ異世界なんだ。
「ボス攻略に挑むなら、三人パーティーを推奨する。平均Lv4以上で、魔法使いが二人以上居るのが好ましい」
俺、魔法使えないんだけれど。
「分かったでしょう。ちなみに私は、魔法使い.Lv5よ」
彼女が近付いてきた。
だから自分と組めとでも言いたげだな。
この状況、一人で行動した上、戦士を選んだ俺に不利すぎないか?
「第一ステージから、そこまで偏った仕様にするものかな?」
考え込んでいた俺の前に、チョイスプレートが表示される。
○1000G払うとボスの攻略情報を聞けます。払いますか?
「君は聞いたの?」
「ええ、弱点は火属性らしいわ」
戦士.Lv8は”火属性付与”で決まりかな。
「攻略情報も選択制で、私は弱点属性を選んだの。ちなみに、私は魔法使い.Lv3の時に”火属性強化”を選んだわ」
ヒールでそんなに信用してくれたのか? どれだけ自分を売り込んでくるんだよ。
遠回しに、お前も1000G払えと言っているし。
まあ、払うつもりだったけれどさ。
――1000Gって、最初の手持ち資金と一緒だ。
ここまでお金を使う機会なんて無かったし、このための所持金だったのか?
「君の今の所持金は?」
「……200と少しよ」
イベントで手に入れた分を除いても、俺はもっと稼いでたけれどなー。
パーティーを組んでいたせいで、稼ぎが分散されたのか?
「それがどうかしたの?」
「いや」
どうやら、ここまでで1000G稼ぐのは難しいらしい。
なら、最初から攻略情報を知るための所持金と見て良いだろう。
つまり、攻略情報が無いと倒すのが難しい難易度設定の可能性が高い。
俺はYESボタンを押して、1000G支払った。
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