魔力ゼロの天才、魔法学園に通う下級貴族に転生し無双する
第十一話【サーミリア・ノワール】
俺の魔法のせいで崩壊した壁により、実技の授業は中断。
まぶしさのせいで俺が放った魔法を誰もまともに見ていなかったようだが、当然疑いは直前まで魔法を唱えていた俺に向けられた。
メルビンは険しい顔つきで俺の腕を握りしめ、急かすように学園内の一室へと俺を連れていく。
振り切ることは不可能ではないが、ここは大人しく従っていた方が今後のためになりそうなので、引っ張られる腕が痛くならない程度に急ぎ足のメルビンの歩調に合わせた。
メルビンは扉を乱暴に開くと甲高い声で部屋の主であろう名前を叫んだ。
「サーミリア先生! サーミリア先生 」
「わ なんだ、メルビンか。びっくりさせないでよ。そんな大声出さなくたって、この部屋小さいんだから、十分聞こえるし。大体扉開けたらすぐ見える場所にいるでしょ?」
サーミリアと呼ばれ答えたのは、真っ白な服を着た長い黒髪の女性だった。
そういえば学園についてから初めて見る大人の女性だが、いったい彼女はどういった人物なのだろう。
というのも、身に着けている白のドレスは、身体の曲線を十二分に見せつけるほどぴったりとしていて、腰下の布の長さも短く、放漫な胸元を隠す気がないくらい開いていたからだ。
お世辞にもとても貴族の子息子女を指導する立場にいる者とは思えないいでたちだ。
「サーミリア先生。至急この者の魔力量を測定願いたい! 単式ではなく複式で頼む!」
「何よ。さっきから、藪から棒に。しかも複式魔力量検定だなんて。そんなめんどくさいもの」
「事情は後で話す! 今はひとまず、緊急なのだ! 頼む!」
「わかった、わかった。わかったわよ。じゃあ、君。えーっと……名前は?」
「フィリオ。フィリオ・ペイルだ」
「ふーん。聞いたことないわねぇ。ま、いいや。えーっと、あったこれね。じゃあペイル君。そこに座って、力を抜いてね? これから君の魔力量を測るから。目を瞑って、抵抗せずに身を委ねて……」
言われた通りにサーミリアの前に置いてある椅子に腰かけ、目を瞑る。
途端に、顔面を柔らかく温かい何かが包み込む。
びっくりして後ろにのけ反ろうとしたところを、サーミリアの両手と思われるもので押さえられ、身動きが取れなくなってしまった。
「大丈夫……そのまま、抵抗せずに……」
なるほど。
相手の魔力量を測る際、相手が抵抗すれば、本来の魔力量とは異なる量の測定値になってしまうことがある。
サーミリアは自身の自慢の胸を対象者の顔に押し付け、抵抗心を殺した状態で魔力量を測ろうというわけか。
厳密には魔力測定は魔法ではないが、魔法を効率よく使うために魔力以外のものを使う方法があるというのは興味深い。
今後の何かの参考にしようと考えていたところ、顔面から圧が消え、サーミリアの声が聞こえた。
その声に、俺はゆっくりと目を開ける。
開かれた視界の中ではメルビンが飛び出そうな目をさらに開けて、サーミリアに叫んでいた。
「間違いありませんか サーミリア先生!」
「うるさいなぁ。だから今言ったでしょ? この子の魔力量は入学当時に提出された記録と全く変わらないわよ」
「それでは、こやつに第三競技場の壁を壊すような真似は到底不可能ですな?」
「第三競技場ってあれでしょ? 学園長が第一競技場に施された、英雄ジークベリエの魔法陣を模して作ったやつ。そんなの壊せるのなんて、それこそこんな魔力量じゃ到底無理よ、無理」
それを聞いたメルビンは俺の方を向き、不敵に笑った。
「と、いうことだ。タネがバレて焦っているか? あんな大仰な幻覚を見せる魔法などどこで身に付けたか知らないが、残念だったな。大方壁の外にいる誰かに物理的に破壊させ、あたかも自分が大魔法を使ったように錯覚させるつもりだったのだろう。しかし、私は騙されんぞ。来い! 偉大なるマグナレア学園の校舎を破損させた罪を償わせてやる!」
「あらー? メルビン。あなた、本当にこの子がそんなことやったと思っているの?」
「む? なんだね。サーミリア先生。要は済んだんだ。余計な口は挟まないでいただきたい」
ツバでも飛ばす勢いで喚くメルビンに向かって、サーミリアはくすくすと声を出して笑う。
同じ笑みでもこうまで違うのかと、俺は感心してしまった。
「だって、あなたの話が随分と荒唐無稽でおかしいんですもの。ペイル君の魔法に合わせて外から誰かが競技場の壁を破壊した? いったい誰が? どうやって? メルビン、この学園の教師以外でいったい何人の生徒がそんな力を持っていると思っているの?」
「ぬ……それは……しかし! ゼロではあるまい!」
「そうね。私が知っている限りでも数人いるわ。でも、みんな模範生。学園の建物を破壊して喜ぶような子は誰一人としていないわ。それともメルビン、そんな実力を持ちつつ素行不良な子に心当たりでも?」
「そ、そんなものは知らんよ 」
「だから、誰かが意図的に壊したんじゃなく、たまたま壊れた、ってのがしっくりくるんじゃないかしら? 第三競技場とはいっても結構古いし、ペイル君の前にもう壊れる寸前だったんじゃない? 例えば、その前に誰か強い魔法を使ったとか」
サーミリアの言葉に、まるで真理を得たかのように目を見開きながら、メルビンは嬉しそうに声を上げた。
「そうか! こいつの前はフレア君だったな! あれは見事な炎熱魔法だった。きっと彼の魔法ですでに魔法陣の効果は切れてしまっていたのだろう 」
「ということで、そろそろいいかしら? こう見えて私も忙しいのよ。あ、そうそう。学園長があなたを探してるって聞いたわよ。何かいい知らせでもあるんじゃない?」
「む それは本当か? 学園長が! こうしてはおられん。それではな 」
メルビンは顔を紅潮させながら、足早に部屋を出て行ってしまった。
残された俺は、サーミリアに浅く礼をしてから、同じように部屋を出ようと扉へと身体を向けた。
しかし、俺の動きはサーミリアに腕をしっかりと掴まれ阻まれる。
「あら、あなたは帰さないわよ?」
艶やかな唇の端を上に引き、サーミリアは訝しがる俺にそう言い放った。
まぶしさのせいで俺が放った魔法を誰もまともに見ていなかったようだが、当然疑いは直前まで魔法を唱えていた俺に向けられた。
メルビンは険しい顔つきで俺の腕を握りしめ、急かすように学園内の一室へと俺を連れていく。
振り切ることは不可能ではないが、ここは大人しく従っていた方が今後のためになりそうなので、引っ張られる腕が痛くならない程度に急ぎ足のメルビンの歩調に合わせた。
メルビンは扉を乱暴に開くと甲高い声で部屋の主であろう名前を叫んだ。
「サーミリア先生! サーミリア先生 」
「わ なんだ、メルビンか。びっくりさせないでよ。そんな大声出さなくたって、この部屋小さいんだから、十分聞こえるし。大体扉開けたらすぐ見える場所にいるでしょ?」
サーミリアと呼ばれ答えたのは、真っ白な服を着た長い黒髪の女性だった。
そういえば学園についてから初めて見る大人の女性だが、いったい彼女はどういった人物なのだろう。
というのも、身に着けている白のドレスは、身体の曲線を十二分に見せつけるほどぴったりとしていて、腰下の布の長さも短く、放漫な胸元を隠す気がないくらい開いていたからだ。
お世辞にもとても貴族の子息子女を指導する立場にいる者とは思えないいでたちだ。
「サーミリア先生。至急この者の魔力量を測定願いたい! 単式ではなく複式で頼む!」
「何よ。さっきから、藪から棒に。しかも複式魔力量検定だなんて。そんなめんどくさいもの」
「事情は後で話す! 今はひとまず、緊急なのだ! 頼む!」
「わかった、わかった。わかったわよ。じゃあ、君。えーっと……名前は?」
「フィリオ。フィリオ・ペイルだ」
「ふーん。聞いたことないわねぇ。ま、いいや。えーっと、あったこれね。じゃあペイル君。そこに座って、力を抜いてね? これから君の魔力量を測るから。目を瞑って、抵抗せずに身を委ねて……」
言われた通りにサーミリアの前に置いてある椅子に腰かけ、目を瞑る。
途端に、顔面を柔らかく温かい何かが包み込む。
びっくりして後ろにのけ反ろうとしたところを、サーミリアの両手と思われるもので押さえられ、身動きが取れなくなってしまった。
「大丈夫……そのまま、抵抗せずに……」
なるほど。
相手の魔力量を測る際、相手が抵抗すれば、本来の魔力量とは異なる量の測定値になってしまうことがある。
サーミリアは自身の自慢の胸を対象者の顔に押し付け、抵抗心を殺した状態で魔力量を測ろうというわけか。
厳密には魔力測定は魔法ではないが、魔法を効率よく使うために魔力以外のものを使う方法があるというのは興味深い。
今後の何かの参考にしようと考えていたところ、顔面から圧が消え、サーミリアの声が聞こえた。
その声に、俺はゆっくりと目を開ける。
開かれた視界の中ではメルビンが飛び出そうな目をさらに開けて、サーミリアに叫んでいた。
「間違いありませんか サーミリア先生!」
「うるさいなぁ。だから今言ったでしょ? この子の魔力量は入学当時に提出された記録と全く変わらないわよ」
「それでは、こやつに第三競技場の壁を壊すような真似は到底不可能ですな?」
「第三競技場ってあれでしょ? 学園長が第一競技場に施された、英雄ジークベリエの魔法陣を模して作ったやつ。そんなの壊せるのなんて、それこそこんな魔力量じゃ到底無理よ、無理」
それを聞いたメルビンは俺の方を向き、不敵に笑った。
「と、いうことだ。タネがバレて焦っているか? あんな大仰な幻覚を見せる魔法などどこで身に付けたか知らないが、残念だったな。大方壁の外にいる誰かに物理的に破壊させ、あたかも自分が大魔法を使ったように錯覚させるつもりだったのだろう。しかし、私は騙されんぞ。来い! 偉大なるマグナレア学園の校舎を破損させた罪を償わせてやる!」
「あらー? メルビン。あなた、本当にこの子がそんなことやったと思っているの?」
「む? なんだね。サーミリア先生。要は済んだんだ。余計な口は挟まないでいただきたい」
ツバでも飛ばす勢いで喚くメルビンに向かって、サーミリアはくすくすと声を出して笑う。
同じ笑みでもこうまで違うのかと、俺は感心してしまった。
「だって、あなたの話が随分と荒唐無稽でおかしいんですもの。ペイル君の魔法に合わせて外から誰かが競技場の壁を破壊した? いったい誰が? どうやって? メルビン、この学園の教師以外でいったい何人の生徒がそんな力を持っていると思っているの?」
「ぬ……それは……しかし! ゼロではあるまい!」
「そうね。私が知っている限りでも数人いるわ。でも、みんな模範生。学園の建物を破壊して喜ぶような子は誰一人としていないわ。それともメルビン、そんな実力を持ちつつ素行不良な子に心当たりでも?」
「そ、そんなものは知らんよ 」
「だから、誰かが意図的に壊したんじゃなく、たまたま壊れた、ってのがしっくりくるんじゃないかしら? 第三競技場とはいっても結構古いし、ペイル君の前にもう壊れる寸前だったんじゃない? 例えば、その前に誰か強い魔法を使ったとか」
サーミリアの言葉に、まるで真理を得たかのように目を見開きながら、メルビンは嬉しそうに声を上げた。
「そうか! こいつの前はフレア君だったな! あれは見事な炎熱魔法だった。きっと彼の魔法ですでに魔法陣の効果は切れてしまっていたのだろう 」
「ということで、そろそろいいかしら? こう見えて私も忙しいのよ。あ、そうそう。学園長があなたを探してるって聞いたわよ。何かいい知らせでもあるんじゃない?」
「む それは本当か? 学園長が! こうしてはおられん。それではな 」
メルビンは顔を紅潮させながら、足早に部屋を出て行ってしまった。
残された俺は、サーミリアに浅く礼をしてから、同じように部屋を出ようと扉へと身体を向けた。
しかし、俺の動きはサーミリアに腕をしっかりと掴まれ阻まれる。
「あら、あなたは帰さないわよ?」
艶やかな唇の端を上に引き、サーミリアは訝しがる俺にそう言い放った。
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