魔力ゼロの天才、魔法学園に通う下級貴族に転生し無双する

黄舞@ある化学者転生3/25発売

第二話【自死を選んだ貴族の少年】

「ああ! フィリオ! 目を開けておくれ 」

 ベッドの脇にはフィリオと呼ばれた少年の両親らしき男女が、涙を浮かべながら息子の死を嘆いている。

「神よ! 悪魔でもいい  どうか、フィリオを。私の大切な息子を蘇らせてくれ!」

 父親がそう叫んだ瞬間、先ほどよりもさらに俺の体が強く引き寄せられる感じがした。

「無駄だな。今まで数多くの死をこの目で見てきたが、神だろうが悪魔だろうが、死んだ人間を生き返らせる魔法など見たことがない」

 その時、再び俺の頭に直接響いてくる声が聞こえた。

『ごめんなさい……僕は間違った選択をしてしまった。それに気づいた時にはもう遅かった。だけど……こんな身勝手な僕をどうか許してください。父さんと母さんをどうか大切にしてあげてください。それだけが僕の……望みです』
「なるほど。自ら死を選んだか? 見る限り生まれは裕福。家族の涙も嘘ではなさそうだ。そんな恵まれた人生の何が不満だったんだ?」

 俺は答えがないとわかっていながらも、フィリオに問いかける。
 しかし、気になるのは間違いなくこの少年が俺をここへ呼んだということ。
 それにまるで俺に望みを託しているような言い方だ。

「ん? 待てよ? まさか!」

 俺は引き寄せられる気配に誘われるようにフィリオの身体へと近づいていく。
 どうやら死後、そんなに時間が経っていないようで、まだ温もりも感じられそうな顔色をしている。
 その身体に自分の魂をぴったりと重ねた。
 瞬間、まるで雷にでも打たれたような衝撃に意識を失った。

『ああ……ありがとうございます。あなたなら……きっと僕の身体を使いこなせるはず。僕には無理だった。知識が足りなかった。でも、きっとあなたなら……』

 次に目を開けた時の視界に映ったのは、歓喜と驚愕の表情にあふれた、フィリオの両親の顔だった。

「ああ  神様! 良かった! フィリオ! お前の辛さに気づくことのできなかった私たちをどうか許しておくれ! そして、二度とあんなことはしないと。どうか!」

 俺は一瞬状況を理解するために固まっていた。
 しかし、すぐに死んだフィリオの身体に俺の魂が入ったのだと理解し、両親に向かって笑顔を作り、答える。

「父さん、母さん。ごめん。もうしないよ」

 その言葉に二人はうんうんと何度もうなずき、母親が涙を拭い笑みを作って優しい言葉で語りかけてきた。

「いいのよ。あなたがこうして息を吹き返してくれたんですもの。今日はもう疲れたでしょう? ゆっくり休みなさい」

 俺がうなずくと、母親は俺の頬を優しく撫で、そして二人とも部屋を出て行った。
 どうやら俺の身体となった元の持ち主は、両親に深く愛されてはいたようだ。
 戦争孤児だった俺は、初めて親の愛というものを肌で感じた気がした。
 俺はフィリオ本人の願いを間違いなく聞き入れようと心に誓った。

 両親が部屋を出てからしばらくして、俺はいてもたってもいられなかった身体をついに動かし、ベッドから飛び起きる。

「まさか、こんな方法があったなんてな。フィリオという少年には申し訳ないが、感謝する! 両親への孝行、そしてこの身体を誰よりもうまく使いこなすことを誓おう。とにかく、なにはともあれ、試してみるぞ!」

 身体の持ち主であるフィリオの生前の知識や記憶は全く引き継がなかったが、幸いなことに俺が持っていた記憶や知識は全て忘れていない。
 俺はすでに魔法を練るために必要な魔力を感じ取る方法を、自身のものとなったフィリオの身体に横になったままで試していた。
 生前の俺の身体では一切感じることができなかったが、間違いない。
 決して最上とはいえないが、フィリオの身体には常人よりも多くの魔力が備わっているようだ。
 一度大きく深呼吸をしてから、姿勢を正し、右手の手のひらを上にして目の前に掲げた。
 緊張しながら、何度も頭の中でこれから唱える魔法のやり方を反芻し、ゆっくりと声に出す。

「火よ」

 俺の右手から小さな白い炎が現れた。
 術者である俺自身はなんともないが、超高温に熱せられた空気が周囲の視界を歪ませる。

「ははは  やった! やったぞ  俺は今! 自ら魔法を使ったんだ 」
「坊ちゃま! どうされました 」

 嬉しさのあまり我を忘れ大声で叫んだせいで、部屋の外に待機していたであろう侍女が慌てた様子で扉を開け、様子を聞いてきた。
 俺は急いで手の中の炎を消し、声を落ち着かせて返事をする。

「なんでもない。大丈夫。それと、少し気分が優れないから、俺がいいと言うまで、誰も部屋に入れないように。わかったね?」
「はい。かしこまりました」

 侍女が扉を閉めるのを確認し、俺は再び自分の構築した魔法の中で、室内でも試すことが可能な魔法を次々と唱えていった。

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